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水の章08 来世
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「ちょっと待って、東端先輩から魔錠を継承してるはずの小野木先輩が死亡していたなら時間遡行させられていないのは不自然だよ」
犬飼の発言に対して違和感を覚えた点を指摘する。
「そのことですか。小野木先輩が預けられていた魔錠なのですが、ともに『内なる世界』で生活していた憑依素体に渡されていました。どうやら西楯先輩に自我を相殺されて人格を失った星の意思が宿って操作していたので、同時に憑依素体も人格が消失していたようですね。それを小野木先輩が元に戻そうと足掻いた結果、魔錠を渡されたみたいですね。素材に東端先輩の遺体を使用されていたので、南境先輩の魔錠がエウレカに移っていたのと同じように、問題なく継承されていました。それに自我を失っていても星片から魔力供給だけはされ続けていたようで、憑依素体自体は形状を保持され続けていたみたいですね。人間と似た特別製とはいえ、元が魔導人形ですから餓死した小野木先輩と違って食事も必要としませんからね」
「……そう。そちらの魔錠は既に『外なる世界』に送還済みなの?」
「いえ、エウレカと併せてこちらで保護してあります。下手に送還してエルウ現象を引き起こしては元も子もありません。まだ紅脈が完全修復されるには至ってないですからね。ですから『外なる世界』に持ち出すにあたって、外部への影響を抑えるために北壁先輩にはふたつの魔錠を画霊転生で封じて欲しいんです。どちらも抵抗の意思はありませんから魔錠持ちであっても、今なら抵抗なく封じ込め出来るはずですからね」
「わかった今から作業に当たらせてもらうよ」
そう応じながら私はスケッチブックを開き、まだなにも描かれていないページに、記憶だけを頼りに東端先輩とエウレカを描いていった。
描きながら私はこれで本当に終わるのかと不安を覚えずにはいられなかった。犬飼が淡々と語る内容に嘘があるのかどうかは、私には判別出来ないが、ここまで来れたのも彼女の協力があってこそだった。
この世界は魔錠から呼び寄せられる『外なる世界』からの転生者によって様々な恩恵を得て来たが、エルウ現象の発生によってメリットばかりではないと思い知らされている。今後さらなる被害をもたらすなにかが引き寄せられないとも限らない。だからこそ私は犬飼の提案に賛同して、魔錠と魔鍵をこの世界から持ち出す手伝いを買って出た。その過程で身近な存在が手にかけられる結果になってしまうのも仕方がないと割り切っているつもりだった。だが犬飼によって立て続けに告げられたそれぞれの顛末に少しばかり気鬱になっていた。
「ねぇ、まだ私に伏せていることはあったりする?」
犬飼には目を向けることなく、手を動かしながら尋ねた。
「ここでのことは概ね話したと思いますよ。なにか疑問点があるようでしたらお答え出来ますが」
ここでのとの発言で今更のように私は、『外なる世界』に出た後でのことを聞かされていないと思い至る。ここまでにたどり着くのに必死で、先のことまで考えられていなかったことに苦笑した。
「この世界から抜け出した後、私たちはどうなる」
「それでしたら魔錠と魔鍵を管理者に返還した後に、私が避難所として使わされている別の世界で生まれ直すことになると思いますよ。北壁先輩の場合は前世と言いますか、ここでの記憶を保持して転生する可能性はありますね」
「他のみんなもそうなの?」
「そうですね。確定ではありませんが、おそらくそうなると思います。ただ暮石先輩と継接少女については明言しかねますが」
「そう」
美羽に関してはなんとなくそんな気はしていたので落胆はなかった。別れらしい別れは出来なかったけれど、最後に話をする機会を得られただけでも充分だった。
手を止める。完成した絵を眺めてからひとつ頷くと私は能力を発動した。対象と距離があるからか、すぐに絵の中に封じ込めることは出来なかったが、少しずつだけれど力が流れ込んで来ているのだけは感じ取れていた。
「封じ込めの完了まで今しばらく時間がかかるかもしれない」
「紅脈が塞がりきるまでに封じれるのであれば問題ないです」
「紅脈が完全に塞がってしまったらこの世界はどうなるの?」
「『外なる世界』と隔絶されることになるでしょうね。北壁先輩たちの言う神ですら任意に手出し出来なくなると思います。自我こそありませんが、西楯先輩の遺志や彼女が発現させていた肉体補填などの影響で、星そのものが外から干渉されることを拒絶してますからね。それと内から外に出ることも出来なくなりますから私たちはそれまでに魔錠と魔鍵を持って、この世界を去らなければなりません」
隔絶されるのならわざわざ魔錠と魔鍵を持って出る必要はないのではないかとも思ったが、『外なる世界』から任意に干渉することが出来なくなるだけで、エルウ現象のような事故は起こらないとも限らないのだろう。などと考えていると犬飼が急に顔をしかめた。
「少々厄介なことになりました。今すぐここから外に出ましょう」
険しい顔をして犬飼は部屋の片隅に目を向けている。私もそちらに視線を向けると、空間が人型にぐにゃりと歪んでいるように見えた。
犬飼の発言に対して違和感を覚えた点を指摘する。
「そのことですか。小野木先輩が預けられていた魔錠なのですが、ともに『内なる世界』で生活していた憑依素体に渡されていました。どうやら西楯先輩に自我を相殺されて人格を失った星の意思が宿って操作していたので、同時に憑依素体も人格が消失していたようですね。それを小野木先輩が元に戻そうと足掻いた結果、魔錠を渡されたみたいですね。素材に東端先輩の遺体を使用されていたので、南境先輩の魔錠がエウレカに移っていたのと同じように、問題なく継承されていました。それに自我を失っていても星片から魔力供給だけはされ続けていたようで、憑依素体自体は形状を保持され続けていたみたいですね。人間と似た特別製とはいえ、元が魔導人形ですから餓死した小野木先輩と違って食事も必要としませんからね」
「……そう。そちらの魔錠は既に『外なる世界』に送還済みなの?」
「いえ、エウレカと併せてこちらで保護してあります。下手に送還してエルウ現象を引き起こしては元も子もありません。まだ紅脈が完全修復されるには至ってないですからね。ですから『外なる世界』に持ち出すにあたって、外部への影響を抑えるために北壁先輩にはふたつの魔錠を画霊転生で封じて欲しいんです。どちらも抵抗の意思はありませんから魔錠持ちであっても、今なら抵抗なく封じ込め出来るはずですからね」
「わかった今から作業に当たらせてもらうよ」
そう応じながら私はスケッチブックを開き、まだなにも描かれていないページに、記憶だけを頼りに東端先輩とエウレカを描いていった。
描きながら私はこれで本当に終わるのかと不安を覚えずにはいられなかった。犬飼が淡々と語る内容に嘘があるのかどうかは、私には判別出来ないが、ここまで来れたのも彼女の協力があってこそだった。
この世界は魔錠から呼び寄せられる『外なる世界』からの転生者によって様々な恩恵を得て来たが、エルウ現象の発生によってメリットばかりではないと思い知らされている。今後さらなる被害をもたらすなにかが引き寄せられないとも限らない。だからこそ私は犬飼の提案に賛同して、魔錠と魔鍵をこの世界から持ち出す手伝いを買って出た。その過程で身近な存在が手にかけられる結果になってしまうのも仕方がないと割り切っているつもりだった。だが犬飼によって立て続けに告げられたそれぞれの顛末に少しばかり気鬱になっていた。
「ねぇ、まだ私に伏せていることはあったりする?」
犬飼には目を向けることなく、手を動かしながら尋ねた。
「ここでのことは概ね話したと思いますよ。なにか疑問点があるようでしたらお答え出来ますが」
ここでのとの発言で今更のように私は、『外なる世界』に出た後でのことを聞かされていないと思い至る。ここまでにたどり着くのに必死で、先のことまで考えられていなかったことに苦笑した。
「この世界から抜け出した後、私たちはどうなる」
「それでしたら魔錠と魔鍵を管理者に返還した後に、私が避難所として使わされている別の世界で生まれ直すことになると思いますよ。北壁先輩の場合は前世と言いますか、ここでの記憶を保持して転生する可能性はありますね」
「他のみんなもそうなの?」
「そうですね。確定ではありませんが、おそらくそうなると思います。ただ暮石先輩と継接少女については明言しかねますが」
「そう」
美羽に関してはなんとなくそんな気はしていたので落胆はなかった。別れらしい別れは出来なかったけれど、最後に話をする機会を得られただけでも充分だった。
手を止める。完成した絵を眺めてからひとつ頷くと私は能力を発動した。対象と距離があるからか、すぐに絵の中に封じ込めることは出来なかったが、少しずつだけれど力が流れ込んで来ているのだけは感じ取れていた。
「封じ込めの完了まで今しばらく時間がかかるかもしれない」
「紅脈が塞がりきるまでに封じれるのであれば問題ないです」
「紅脈が完全に塞がってしまったらこの世界はどうなるの?」
「『外なる世界』と隔絶されることになるでしょうね。北壁先輩たちの言う神ですら任意に手出し出来なくなると思います。自我こそありませんが、西楯先輩の遺志や彼女が発現させていた肉体補填などの影響で、星そのものが外から干渉されることを拒絶してますからね。それと内から外に出ることも出来なくなりますから私たちはそれまでに魔錠と魔鍵を持って、この世界を去らなければなりません」
隔絶されるのならわざわざ魔錠と魔鍵を持って出る必要はないのではないかとも思ったが、『外なる世界』から任意に干渉することが出来なくなるだけで、エルウ現象のような事故は起こらないとも限らないのだろう。などと考えていると犬飼が急に顔をしかめた。
「少々厄介なことになりました。今すぐここから外に出ましょう」
険しい顔をして犬飼は部屋の片隅に目を向けている。私もそちらに視線を向けると、空間が人型にぐにゃりと歪んでいるように見えた。
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