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金の章04 異形の敵
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南境管轄区域跡地の再調査当日、私と翼は1年生たちを引率して南雲燐紅に案内されて南境宗家のあった場所に向かっていた。
回収人候補者の中でも北壁密と暮石美羽は北壁宗家に戻り、また優花は生徒会の人間として国立魔法学園に残ってもらっていた。星の意思の人形を破壊するには、私と翼だけでも対象が宿している星片の大きさからして戦力的に充分だとは思うが、敵を明確なものにするための目撃者として連れて来た1年生たちが、どの程度やれるのかは未知数だった。
南雲燐紅に案内され、地下深くの南境宗家跡地付近の開けた場所に到達した私は、前を歩いていた彼女の背に言葉を投げかける。
「南雲燐紅、貴女を南境襲撃の犯人として拘束させてもらいます。異論はありませんね」
唐突な私の言葉に、背後にいる1年生の内ふたりが動揺したのを感じたが、それを結城零緒が無言で落ち着くように制する。一方で私に糾弾された南雲燐紅は足を止め、こちらに背を向けたまま反応を見せない。私は彼女から距離を取るように全員に示して、ゆっくりと移動しながら粉末状に加工した念土に魔力を大量に注ぎ込んで付近に散布していった。
すると立ち尽くしていた南雲燐紅の姿に変化が生じた。彼女の下半身が瞬時にずんぐりとしたカボチャのように肥大化したかと思うと、先端が黒い鉤爪になった節足が7本生え、腰から下が蜘蛛のような出で立ちに変貌していた。そんな彼女の周囲には紅い球体が6つ浮遊していた。
融合型の魔導具でもここまで異質なものは表向きには存在していない。眼前の光景に驚愕する1年生たちは、身体を硬直させている。それを見逃すほど相手が生温いはずもなく、彼女の周囲に浮遊していた球体が、軌跡に白熱する糸を残しながら1年生それぞれに飛来する。
私は魔力を込めて粉末念土を散布した地面を蹴り飛ばす。すると周辺の土や瓦礫を取り込んで12体の人型となり、飛来する球体を体内に取り込むように身を呈して止めた。しかし、内部に球体を取り込んだ人型の一部が白熱してどろりと融解する。それでもどうにか球体を体内に封じ込められたので、私は無事な人型を融解したものそれぞれに、取り憑かせてさらなる封じ込めをしてから手を握り込む。すると人型は圧縮され、内部の球体を破壊した。
「いつまで呆けている」
背後に向けて叱咤の声を上げると1年生たちは、はっと気を取り直してそれぞれ魔導具を起動させていた。私が白熱する球体を対処しているうちに、下半身を大蜘蛛化させた南雲燐紅は、音もなく地面を滑るように移動してすぐそばにまで迫っていた。
私は新たに人型を創り出そうとしたが、間に合わないと判断して回避に徹する。しかし、相手の移動速度は想像以上に早い。第1歩脚が振り上げられ、黒い鉤爪の尖った先端が眼前に突き出された瞬間、彼女の上半身に白熱した火球が炸裂する。それと同時に私は翼に身体を抱えられ離脱させられた。そのまま翼は飛翔して安全圏にまで退避した。
眼下では結城零緒が放った白熱火球の直撃を受けた南雲燐紅の左腕部は吹き飛ばされ、一部炭化して嫌な臭いを漂わせる。自分のしたことに結城零緒はたじろぐ、そこに黒い鉤爪のひとつが節足から切り離され射出された。
結城零緒は目を見開き、回避しようとしていたが、直前の動揺による影響からか身体が思うように反応せず、地面に足が張り付いたように動けずにいた。そんな彼女を横合いから突き飛ばすように犬飼都音が体当たりして射線から外す。ふたりは地面をずざりと勢いよく滑る。結城零緒は次の攻撃に備えて身体を起こそうとしたが、上に伸し掛かる犬飼都音に動きを阻害されてしまう。彼女は犬飼都音にすぐ退くよう身体を揺さぶろうとして、手にべっとりとした感触を得て手のひらに目をやった。その手は赤く汚れていた。
犬飼都音の背中は大きく抉られ、彼女は痛みに耐えるように浅い息を繰り返してぐったりとしていた。それを目にした結城零緒は脳裏に大神智世の死に様が蘇ったのか、動悸と過呼吸を起こしてひどい混乱状態に陥った。
そんなふたりを庇うように風巻竜姫が紙人形のような魔導具を前面に大量展開して立ち塞がっていたが、彼女の足はガクガクと震えて今にも膝を屈してしまいそうになっていた。
「翼、犬飼都音の治療を」
「了解しました」
飛翔する翼の腕の中から離れ、自由落下する。私は念土の粉末が入った小瓶を南雲燐紅の足元に投げ、着地と同時に再度人型を呼び出す。それらを彼女の節足に絡みつかせ、黒い鉤爪を射出出来ないように拘束しながら強引に体勢を崩させた。同時に私は身体を7割を構成する星片から星の意思に身体を乗っ取られない程度に魔力を抽出して全身を強化する。あまり使いたくはない手段だが、南雲燐紅が宿している星片の大きさからは考えられない力を発揮され、現状の戦力的にそんなことを言ってはいられなくなっていた。
星の意思から力を借りる以上は、洗脳される危険性が高まってしまうので短時間で決着を付けなければならない。地面を思い切り蹴り付けて一足飛びに相手の懐に入り、私は対象の眼前で思い切り跳躍しながら腕を突き上げる。その掌底で南雲燐紅の顔を模した対象の頭部を粉々に吹き飛ばした。
回収人候補者の中でも北壁密と暮石美羽は北壁宗家に戻り、また優花は生徒会の人間として国立魔法学園に残ってもらっていた。星の意思の人形を破壊するには、私と翼だけでも対象が宿している星片の大きさからして戦力的に充分だとは思うが、敵を明確なものにするための目撃者として連れて来た1年生たちが、どの程度やれるのかは未知数だった。
南雲燐紅に案内され、地下深くの南境宗家跡地付近の開けた場所に到達した私は、前を歩いていた彼女の背に言葉を投げかける。
「南雲燐紅、貴女を南境襲撃の犯人として拘束させてもらいます。異論はありませんね」
唐突な私の言葉に、背後にいる1年生の内ふたりが動揺したのを感じたが、それを結城零緒が無言で落ち着くように制する。一方で私に糾弾された南雲燐紅は足を止め、こちらに背を向けたまま反応を見せない。私は彼女から距離を取るように全員に示して、ゆっくりと移動しながら粉末状に加工した念土に魔力を大量に注ぎ込んで付近に散布していった。
すると立ち尽くしていた南雲燐紅の姿に変化が生じた。彼女の下半身が瞬時にずんぐりとしたカボチャのように肥大化したかと思うと、先端が黒い鉤爪になった節足が7本生え、腰から下が蜘蛛のような出で立ちに変貌していた。そんな彼女の周囲には紅い球体が6つ浮遊していた。
融合型の魔導具でもここまで異質なものは表向きには存在していない。眼前の光景に驚愕する1年生たちは、身体を硬直させている。それを見逃すほど相手が生温いはずもなく、彼女の周囲に浮遊していた球体が、軌跡に白熱する糸を残しながら1年生それぞれに飛来する。
私は魔力を込めて粉末念土を散布した地面を蹴り飛ばす。すると周辺の土や瓦礫を取り込んで12体の人型となり、飛来する球体を体内に取り込むように身を呈して止めた。しかし、内部に球体を取り込んだ人型の一部が白熱してどろりと融解する。それでもどうにか球体を体内に封じ込められたので、私は無事な人型を融解したものそれぞれに、取り憑かせてさらなる封じ込めをしてから手を握り込む。すると人型は圧縮され、内部の球体を破壊した。
「いつまで呆けている」
背後に向けて叱咤の声を上げると1年生たちは、はっと気を取り直してそれぞれ魔導具を起動させていた。私が白熱する球体を対処しているうちに、下半身を大蜘蛛化させた南雲燐紅は、音もなく地面を滑るように移動してすぐそばにまで迫っていた。
私は新たに人型を創り出そうとしたが、間に合わないと判断して回避に徹する。しかし、相手の移動速度は想像以上に早い。第1歩脚が振り上げられ、黒い鉤爪の尖った先端が眼前に突き出された瞬間、彼女の上半身に白熱した火球が炸裂する。それと同時に私は翼に身体を抱えられ離脱させられた。そのまま翼は飛翔して安全圏にまで退避した。
眼下では結城零緒が放った白熱火球の直撃を受けた南雲燐紅の左腕部は吹き飛ばされ、一部炭化して嫌な臭いを漂わせる。自分のしたことに結城零緒はたじろぐ、そこに黒い鉤爪のひとつが節足から切り離され射出された。
結城零緒は目を見開き、回避しようとしていたが、直前の動揺による影響からか身体が思うように反応せず、地面に足が張り付いたように動けずにいた。そんな彼女を横合いから突き飛ばすように犬飼都音が体当たりして射線から外す。ふたりは地面をずざりと勢いよく滑る。結城零緒は次の攻撃に備えて身体を起こそうとしたが、上に伸し掛かる犬飼都音に動きを阻害されてしまう。彼女は犬飼都音にすぐ退くよう身体を揺さぶろうとして、手にべっとりとした感触を得て手のひらに目をやった。その手は赤く汚れていた。
犬飼都音の背中は大きく抉られ、彼女は痛みに耐えるように浅い息を繰り返してぐったりとしていた。それを目にした結城零緒は脳裏に大神智世の死に様が蘇ったのか、動悸と過呼吸を起こしてひどい混乱状態に陥った。
そんなふたりを庇うように風巻竜姫が紙人形のような魔導具を前面に大量展開して立ち塞がっていたが、彼女の足はガクガクと震えて今にも膝を屈してしまいそうになっていた。
「翼、犬飼都音の治療を」
「了解しました」
飛翔する翼の腕の中から離れ、自由落下する。私は念土の粉末が入った小瓶を南雲燐紅の足元に投げ、着地と同時に再度人型を呼び出す。それらを彼女の節足に絡みつかせ、黒い鉤爪を射出出来ないように拘束しながら強引に体勢を崩させた。同時に私は身体を7割を構成する星片から星の意思に身体を乗っ取られない程度に魔力を抽出して全身を強化する。あまり使いたくはない手段だが、南雲燐紅が宿している星片の大きさからは考えられない力を発揮され、現状の戦力的にそんなことを言ってはいられなくなっていた。
星の意思から力を借りる以上は、洗脳される危険性が高まってしまうので短時間で決着を付けなければならない。地面を思い切り蹴り付けて一足飛びに相手の懐に入り、私は対象の眼前で思い切り跳躍しながら腕を突き上げる。その掌底で南雲燐紅の顔を模した対象の頭部を粉々に吹き飛ばした。
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