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火の章14 決着

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 星の欠片と呼ばれる空を切り取ったかのような結晶体を、私は強く握り込む。すると私の身体の中に溶け込むようにして消失した。
 潜在魔力が高まるのを感じる。私は全身を漲る魔力で対物理障壁を展開し、白熱火球を周囲に従えるように現出させた。灼熱で満ちた屋内を脱出すべく駆ける。屋敷は既に限界を迎えようとしているのか崩壊が始まっていた。
 屋外へと向けて駆けている最中に、なにか細い糸状の魔力反応を感じた私は咄嗟に身を伏せる。直後、屋敷が縦に横にと白熱する魔力の糸によってすっぱり斬り裂かれた。
 屋敷内に転がっていた遺体をバラバラにして炭化させたのも今の白熱する糸によるものだろう。ただ黒い鉤爪と今の糸を同時に使用出来るほどの魔力は、燐紅にはないはずだっただけに違和感があった。
 どうにか屋敷が崩れ去る前に脱出したが、そこを狙って鉤爪が次々と襲いかかってくる。私は白熱火球で燐紅を牽制しながら紙一重で鉤爪を躱していったが、それらの死角に潜んで飛んで来た真っ赤な6個の小型球体までは避け切ることが出来なかった。小型の球体は私の四肢の周囲をぐるりと1周したかと思うと鋭い痛みが私を襲った。
 私の身体は回避時の勢いのままに、地面に転がった。もぞもぞと身体と頭を動かして痛みのした箇所それぞれに目を向ける。右腕上腕部中程・左手首・右脚膝上・左脚大腿部中程辺りから切断され、切断面は炭化していた。傷口が炭化しているので出血こそないが、痛みで意識が飛んでしまいそうだった。
 完全に勝敗が決していたからか、燐紅が追撃してくることはなく、地面に転がる私を見下ろせる位置にまで歩いて来ていた。

「無様ですね。学園最強と言われていた執行部グリンダのお姉ちゃんがこのざまなんて」
「殺さないのか」

 もう私には強がることしか出来ない。この痛みから解放されるのなら、実妹の手にかかってもいいとさえ思えた。しかし、燐紅にその気はないらしく、私を見下したままがっかりと言わんばかりの表情をしていた。

「今すぐにでも殺したいんですけどね。せっかくあの女が有していた星の欠片を手にするお膳立てまでしたのに、まだ能力ちからに目醒めないなんて計算外です」
「なにを言ってるんだ」
「なぜ欠片持ちだった女の遺体だけは炭化されずに残ってたと思ってるんですか。そんなもの欠片の適合者に取り込ませる以外に理由なんてないでしょう。能力ちからが目醒めないんならお姉ちゃんには、これから他の欠片を吸収して体内で大きくして貰いましょう。次は誰がいいですか?」

 その言葉がなにを意味しているのかを理解して絶望する。私でもまるで歯が立たない燐紅相手に、星鳴舎に入居している他のみんなが勝てるとは微塵も思えなかった。

「いつからそんな能力ちからを。お前にはそんな能力ちからはなかったはずだ」
「えぇ、ありませんでした。ですが私は神様から異界の叡智と能力ちからを与えていただいたのです。全てを好天の下に還して、穢れた大地を浄化するために」

 これが花木豆さんの言っていた魔錠とも星の欠片とも違う別種の能力ちからなのだと悟る。これでは仮に私が星の欠片から能力ちからを発現させたところで相手にもならない。

「……東端を殺したのもお前なのか」
「なぜ私がそんなことをしないといけないんですか。それにもし私が栞先輩を殺したのなら、遺体を東端宗家に回収なんてさせませんよ。あのひとは能力ちからを発現させていたんですよ。だったら欠片の有効活用をしないと勿体ないでしょう」

 嫌な考えが脳裏に浮かぶ。燐紅の言う『欠片の有効活用』と花木豆さんがつくった魔導具の『自傷誘発ブリキの樵』、それと東端の有していた欠片が発現していた『空間跳躍銀の靴』が結び付けられる。あの伐採斧は東端の欠片が使われていると花木豆さんは言っていた。そのような技術が存在していたことを、私は花木豆さんから聞くまで知らなかった。それに話をまともに聞き出せるとは思えない精神状態の小野木から情報を引き出し、容疑者Xドロシーの使う能力ちからを推測していたようだったけれど、本当にそうだったのだろうかと改めて思う。もしかしたら実際には、元から容疑者Xドロシー能力ちからを知っていたのではないかと思えて仕方なかった。

「思ったより元気そうですね。四肢を切断されても一向に意識を失う様子もありませんし、もしかして欠片の能力ちからを発現されてます? それならそれで構わないのですが、完全にハズレですね。それとも南境の子種を孕むだけのあの女が有していた欠片が既に能力ちからを発現させていたんでしょうか」

 燐紅のつぶやきで今更のように私自身の身体に関して不思議に思った。今も意識を飛ばしてしまいそうな痛みはあり、額には脂汗が滲んでいる。そんな中で私が無意識の内に身体を保持しようと練り上げていた魔力が、歯止めが利かないほどに膨れ上がり、今にも暴発しそうなほど全身を満たしていた。
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