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火の章02 臨時執行部員
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私の言葉を受けても大神はゆらぐことのない強い意志を宿した瞳で見据えてくる。
「そもそもだ。お前が犯人だと目している相手は本当に間違いないのか」
「もちろんですよ」
大神は躊躇うことなく即答する。しかし、確証を得た経緯を知らない私にとっては疑わしさしかない。
「なぜそう言い切れる。まさかとは思うが、お前が犯人だと思っているのは同日に姿を消した小野木のことか?」
「なんで小野木先輩の名前が出てくるんですか。あのひとは多分もう犯人に殺されてるんじゃないですか。遺体が出てこないのは、犯人として濡れ衣を着せるためだと思いますよ。私はそんな目眩しに引っかかるほどバカじゃないです」
仕方のないことだが護錠四家ではない大神は、魔錠の継承について知らないからこそそう判断したのだろう。東端が殺されてしまって数日経った今現在もエルウ現象が発生していないことについては考慮していないらしい。
「では質問を変えよう。お前はこの部屋に仕掛けられた監視用の魔導具を私に黙って持ち出したか?」
あったかどうかなどわからないが、大神の反応次第ではなんらかの情報を得ることが出来るだろうと思っての質問だった。
「もしかして南境先輩は私が犯人だと思ってるんですか」
「否定はしない。その可能性を除外出来ない以上はな。この部屋の存在を知っていた事実を踏まえてもお前は怪し過ぎる。どうやって魔術的に隠されていたここを知った」
「臭いですよ」
「臭い?」
「魔術で視覚や聴覚を錯覚させる術式は組まれてますけど、嗅覚に関してはなにも警戒されてないんですよ、この部屋」
「ここを知ったのはいつだ」
「入学してすぐですよ。まだ在校生に顔を覚えられてない頃に、他学科の制服を借りて各教室棟の探索をしてたときにたまたま見つけたんです。一緒に回ってた子たちが目の前で引き返して行くから変だと思って、後日ひとりで来たときに空間跳躍の実験をしてたしおちゃん先輩とばったり鉢合わせたんです」
「それで事件当日はなぜここに来た。カドリングのお前が、マンチキンに来る用事などないだろう。まさか別の教室棟にまで東端遺体の臭いが届いていたというわけではあるまい」
「前の日にしおちゃん先輩と約束してたんですよ。お礼をするって。それなのにいろいろあってうやむやになってしまってたので、翌日の昼に改めてお伺いしたんです。その辺りのことは南境先輩も知ってるんじゃないですか。聞き込みしてないとも思えませんし」
確かに大神の証言通りに東端のクラスメイトたちは、カドリングの1年生が2日続けて教室を訪れていたと言っていた。それは間違いない。
「それで東端が休みだと聞いてここに来たのか?」
「もしかしたらここでサボっているのかもしれないと思いましたから」
「そのときお前はここに来るまでに誰かとすれ違いでもしたのか」
「えぇ」
「お前はそれが犯人だと?」
「そういうことになります」
「そう思った根拠は?」
「臭いですよ」
「またそれか」
「それが私の他人を判別する方法なので」
「そいつから血の臭いでもしたのか」
そう尋ねると大神は静かに首を横にふった。
「なんの臭いもしませんでしたよ。かすかな体臭すらもです。妙だと思って相手の顔を見たはずなんですが、ぼんやりとして思い出せないので、おそらく認識阻害の魔導具を使ってたんだと思います」
「その話を聞く限り、お前には犯人が特定出来ているとは思えないが」
「そうですね」
大神は私の疑念をあっさりと認めた。
「なにを隠してる」
「許可をください。これだけ話したんです。犯人特定につながる有益な情報を私が持っていることはわかっていただけたはずです」
「……そういえばまだ監視用の魔導具に関する明確な答えを聞いていなかったな。お前が持っているのか」
「そんなもの元々存在してないですよね。鎌をかけようとしても無駄ですよ、南境先輩」
これ以上問答を続けても大神は情報を出す気はないだろう。大神の言動から犯人に直接手を出すようなことはしないだろうが、ひとりで嗅ぎまわって相手に気付かれないとも限らない。そうなってしまえは彼女が次の犠牲者になりかねない。それならいっそのこと執行部に取り込むかと考える。
「一時的にでも執行部に迎えても構わないが、お前には常に結城に付いてもらうことにする。その条件をのめるのなら加入を了承しよう」
執行部加入の条件を提示すると大神はあからさまに嫌な顔をした。
「それは実質なにもするなということですよね」
「なぜそう思う」
「1年のみんなはしおちゃん先輩が殺されたことを知らない。それなのに私にれおちゃんを付けるってことは、そういうことでしょう」
「結果的にそうなってしまうかもな。それにこれは護錠四家の問題だ。余計な首を突っ込んで、お前が巻き込まれるのは私にとっても本意ではない」
大神は私から一切外すことのなかった視線を外して俯く。感情を押し殺すように押し黙った大神は、しばし間を置いてから顔を俯けたまま口を開いた。
「わかりました。その条件で構いません」
「そもそもだ。お前が犯人だと目している相手は本当に間違いないのか」
「もちろんですよ」
大神は躊躇うことなく即答する。しかし、確証を得た経緯を知らない私にとっては疑わしさしかない。
「なぜそう言い切れる。まさかとは思うが、お前が犯人だと思っているのは同日に姿を消した小野木のことか?」
「なんで小野木先輩の名前が出てくるんですか。あのひとは多分もう犯人に殺されてるんじゃないですか。遺体が出てこないのは、犯人として濡れ衣を着せるためだと思いますよ。私はそんな目眩しに引っかかるほどバカじゃないです」
仕方のないことだが護錠四家ではない大神は、魔錠の継承について知らないからこそそう判断したのだろう。東端が殺されてしまって数日経った今現在もエルウ現象が発生していないことについては考慮していないらしい。
「では質問を変えよう。お前はこの部屋に仕掛けられた監視用の魔導具を私に黙って持ち出したか?」
あったかどうかなどわからないが、大神の反応次第ではなんらかの情報を得ることが出来るだろうと思っての質問だった。
「もしかして南境先輩は私が犯人だと思ってるんですか」
「否定はしない。その可能性を除外出来ない以上はな。この部屋の存在を知っていた事実を踏まえてもお前は怪し過ぎる。どうやって魔術的に隠されていたここを知った」
「臭いですよ」
「臭い?」
「魔術で視覚や聴覚を錯覚させる術式は組まれてますけど、嗅覚に関してはなにも警戒されてないんですよ、この部屋」
「ここを知ったのはいつだ」
「入学してすぐですよ。まだ在校生に顔を覚えられてない頃に、他学科の制服を借りて各教室棟の探索をしてたときにたまたま見つけたんです。一緒に回ってた子たちが目の前で引き返して行くから変だと思って、後日ひとりで来たときに空間跳躍の実験をしてたしおちゃん先輩とばったり鉢合わせたんです」
「それで事件当日はなぜここに来た。カドリングのお前が、マンチキンに来る用事などないだろう。まさか別の教室棟にまで東端遺体の臭いが届いていたというわけではあるまい」
「前の日にしおちゃん先輩と約束してたんですよ。お礼をするって。それなのにいろいろあってうやむやになってしまってたので、翌日の昼に改めてお伺いしたんです。その辺りのことは南境先輩も知ってるんじゃないですか。聞き込みしてないとも思えませんし」
確かに大神の証言通りに東端のクラスメイトたちは、カドリングの1年生が2日続けて教室を訪れていたと言っていた。それは間違いない。
「それで東端が休みだと聞いてここに来たのか?」
「もしかしたらここでサボっているのかもしれないと思いましたから」
「そのときお前はここに来るまでに誰かとすれ違いでもしたのか」
「えぇ」
「お前はそれが犯人だと?」
「そういうことになります」
「そう思った根拠は?」
「臭いですよ」
「またそれか」
「それが私の他人を判別する方法なので」
「そいつから血の臭いでもしたのか」
そう尋ねると大神は静かに首を横にふった。
「なんの臭いもしませんでしたよ。かすかな体臭すらもです。妙だと思って相手の顔を見たはずなんですが、ぼんやりとして思い出せないので、おそらく認識阻害の魔導具を使ってたんだと思います」
「その話を聞く限り、お前には犯人が特定出来ているとは思えないが」
「そうですね」
大神は私の疑念をあっさりと認めた。
「なにを隠してる」
「許可をください。これだけ話したんです。犯人特定につながる有益な情報を私が持っていることはわかっていただけたはずです」
「……そういえばまだ監視用の魔導具に関する明確な答えを聞いていなかったな。お前が持っているのか」
「そんなもの元々存在してないですよね。鎌をかけようとしても無駄ですよ、南境先輩」
これ以上問答を続けても大神は情報を出す気はないだろう。大神の言動から犯人に直接手を出すようなことはしないだろうが、ひとりで嗅ぎまわって相手に気付かれないとも限らない。そうなってしまえは彼女が次の犠牲者になりかねない。それならいっそのこと執行部に取り込むかと考える。
「一時的にでも執行部に迎えても構わないが、お前には常に結城に付いてもらうことにする。その条件をのめるのなら加入を了承しよう」
執行部加入の条件を提示すると大神はあからさまに嫌な顔をした。
「それは実質なにもするなということですよね」
「なぜそう思う」
「1年のみんなはしおちゃん先輩が殺されたことを知らない。それなのに私にれおちゃんを付けるってことは、そういうことでしょう」
「結果的にそうなってしまうかもな。それにこれは護錠四家の問題だ。余計な首を突っ込んで、お前が巻き込まれるのは私にとっても本意ではない」
大神は私から一切外すことのなかった視線を外して俯く。感情を押し殺すように押し黙った大神は、しばし間を置いてから顔を俯けたまま口を開いた。
「わかりました。その条件で構いません」
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