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木の章07 メッセージカード
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「見回りはよろしいのですか?」
「問題ない。それにお前に話しておかなければならないこともあるからな」
「私に? それは護錠四家にまつわることですか?」
「おそらくはな」
「曖昧なのですね」
「はきっりとせんのだ。だが他に思い当たるものもなくてな」
歯切れの悪い焔さんは、懐から1枚のメッセージカードを取り出して私の前に置きました。そこに記されている一文を目にして、私は首をひねりました。
『神々より賜りし鍵の返納を願います。 ドロシー』
「錠ではなく、鍵ですか」
「私もそこが引っかかっている。これを送り付けてきたやつは、おそらく紅天協会にまつわる者なのだろうが」
紅脈が神々の世界に繋がっていると信じている紅天協会の方々は、それを封じる役目を担う護錠四家のことを敵視していらっしゃいます。
「9年前のことを思えば、紅脈の向こうにあるのが、神々の住まう世界でないのは明白だろうに。いつまでも目を覚まさぬやつらだ」
「あの災厄で身内を亡くされた方々は、彼の地に救いを求めてらっしゃるのかもしれません」
「『全ては紅天の下に』だったか? 目の前で紅妖する人間を目の当たりにすれば、そんなことは言ってられんと思うのだがな」
「犠牲となった過半数の方々は、光の粒子となって向こう側に連れて行かれましたからね。そちらだけを見た方には、別の世界に召されたと考えたくなるのもわからなくはないですよ」
「私には全く理解出来ないが、そんなものかね」
「そんなものですよ。しかし、それを考えるとメッセージカードを送ってきた方は、紅天協会とは別のような気がします」
「そう思う理由はなんだ?」
「さきほど焔さんが口にされた文言がないのが一番の理由かと」
「あぁ、確かにな」
「それと護錠四家が神々から下賜されたのは封印の錠です。メッセージの送り主が求めている鍵ですと、封印を解放するような印象を受けますので、別のなにかを指しているような気がします」
「しかし思い当たるものなどなにもないぞ」
ふと昨夜ココから聞いた魔錠解放実験という言葉が脳裏に浮かびました。もしかしたら人為的に魔錠の封印を解くなにかが、本当に実在しているのかもしれません。覗き見てしまったココの記憶から西楯が鍵となにかしら関連がありそうですが……。そういえば昨晩は、司さんの部屋に誰かが訪問していたような様子でしたが、焔さんがこのメッセージカードの話をするために訪れていたのでしょうか?
「焔さん、このメッセージカードはいつ頃どこに届いたのですか?」
「これは執行部宛に送り付けられていたのを昼時に見つけたからな。いつ送り付けられたかまでははっきりとしない」
「執行部宛に送り付けられていたのですか。わざわざ予告するメリットがあるようには思えませんが、なにか別の目的から目を逸らさせるためでしょうか?」
「別の目的か」
焔さんは腕を組んで深く考え込んでいらっしゃいましたがすぐに「さっぱりわからんな」と思考を巡らせるのを切り上げていらっしゃいました。
「とにかく気をつけるに越したことはない。一応、私から西楯や北壁にも話して置くつもりだが、東端からも話をしておいてくれ」
「わかりました」
「それと申し訳ないが、しばらくは免除されている授業にも顔を出して、なるべくひとりきりになる状況を避けて欲しい。いつどこでどう仕掛けられるかわからないからな」
「不意さえ突かれなければ、私には空間跳躍がありますから逃げるだけならなんとかなりますよ」
「それでもだ。今回のこれはどうにも嫌な予感がしてな」
焔さんはいつになく真剣な表情で告げました。なにか思い当たる節でもあるのかもしれません。
「なにかあったのですか?」
「いや、まだなにかあったわけではないが。最近どうにも得体の知れない視線を感じるのだ。感じるのだが、その正体が一切掴めずにいる。魔導具かなにかで監視されているのかもしれぬと思って部屋を調べてはみたが、そういったものも見つからなくてな」
「部屋って、星鳴舎のですか?」
「あぁ、そうだ」
「それで魔導具が設置されていないかを疑ったのですね」
「そういうことだな。それ以外の方法で星鳴舎内部を覗き見る方法などあるとは思えないからな」
その発言の意味するところを理解しました。なぜ焔さんが異様に警戒なさっているのか、そしてひとりになるような状況を避けろと言いながらも、智世さんを追い払い私とふたりだけで話しをしようとした理由もです。
「……それでですか」
「そういうことだ。よく肝に銘じておいてくれ」
どこかで聞かれている可能性も考慮してか、焔さんは明言することは避けましたが、星鳴舎外部から干渉出来ないのであれば、内部からそれが行われたと考えるのは至極当然のことでした。
「問題ない。それにお前に話しておかなければならないこともあるからな」
「私に? それは護錠四家にまつわることですか?」
「おそらくはな」
「曖昧なのですね」
「はきっりとせんのだ。だが他に思い当たるものもなくてな」
歯切れの悪い焔さんは、懐から1枚のメッセージカードを取り出して私の前に置きました。そこに記されている一文を目にして、私は首をひねりました。
『神々より賜りし鍵の返納を願います。 ドロシー』
「錠ではなく、鍵ですか」
「私もそこが引っかかっている。これを送り付けてきたやつは、おそらく紅天協会にまつわる者なのだろうが」
紅脈が神々の世界に繋がっていると信じている紅天協会の方々は、それを封じる役目を担う護錠四家のことを敵視していらっしゃいます。
「9年前のことを思えば、紅脈の向こうにあるのが、神々の住まう世界でないのは明白だろうに。いつまでも目を覚まさぬやつらだ」
「あの災厄で身内を亡くされた方々は、彼の地に救いを求めてらっしゃるのかもしれません」
「『全ては紅天の下に』だったか? 目の前で紅妖する人間を目の当たりにすれば、そんなことは言ってられんと思うのだがな」
「犠牲となった過半数の方々は、光の粒子となって向こう側に連れて行かれましたからね。そちらだけを見た方には、別の世界に召されたと考えたくなるのもわからなくはないですよ」
「私には全く理解出来ないが、そんなものかね」
「そんなものですよ。しかし、それを考えるとメッセージカードを送ってきた方は、紅天協会とは別のような気がします」
「そう思う理由はなんだ?」
「さきほど焔さんが口にされた文言がないのが一番の理由かと」
「あぁ、確かにな」
「それと護錠四家が神々から下賜されたのは封印の錠です。メッセージの送り主が求めている鍵ですと、封印を解放するような印象を受けますので、別のなにかを指しているような気がします」
「しかし思い当たるものなどなにもないぞ」
ふと昨夜ココから聞いた魔錠解放実験という言葉が脳裏に浮かびました。もしかしたら人為的に魔錠の封印を解くなにかが、本当に実在しているのかもしれません。覗き見てしまったココの記憶から西楯が鍵となにかしら関連がありそうですが……。そういえば昨晩は、司さんの部屋に誰かが訪問していたような様子でしたが、焔さんがこのメッセージカードの話をするために訪れていたのでしょうか?
「焔さん、このメッセージカードはいつ頃どこに届いたのですか?」
「これは執行部宛に送り付けられていたのを昼時に見つけたからな。いつ送り付けられたかまでははっきりとしない」
「執行部宛に送り付けられていたのですか。わざわざ予告するメリットがあるようには思えませんが、なにか別の目的から目を逸らさせるためでしょうか?」
「別の目的か」
焔さんは腕を組んで深く考え込んでいらっしゃいましたがすぐに「さっぱりわからんな」と思考を巡らせるのを切り上げていらっしゃいました。
「とにかく気をつけるに越したことはない。一応、私から西楯や北壁にも話して置くつもりだが、東端からも話をしておいてくれ」
「わかりました」
「それと申し訳ないが、しばらくは免除されている授業にも顔を出して、なるべくひとりきりになる状況を避けて欲しい。いつどこでどう仕掛けられるかわからないからな」
「不意さえ突かれなければ、私には空間跳躍がありますから逃げるだけならなんとかなりますよ」
「それでもだ。今回のこれはどうにも嫌な予感がしてな」
焔さんはいつになく真剣な表情で告げました。なにか思い当たる節でもあるのかもしれません。
「なにかあったのですか?」
「いや、まだなにかあったわけではないが。最近どうにも得体の知れない視線を感じるのだ。感じるのだが、その正体が一切掴めずにいる。魔導具かなにかで監視されているのかもしれぬと思って部屋を調べてはみたが、そういったものも見つからなくてな」
「部屋って、星鳴舎のですか?」
「あぁ、そうだ」
「それで魔導具が設置されていないかを疑ったのですね」
「そういうことだな。それ以外の方法で星鳴舎内部を覗き見る方法などあるとは思えないからな」
その発言の意味するところを理解しました。なぜ焔さんが異様に警戒なさっているのか、そしてひとりになるような状況を避けろと言いながらも、智世さんを追い払い私とふたりだけで話しをしようとした理由もです。
「……それでですか」
「そういうことだ。よく肝に銘じておいてくれ」
どこかで聞かれている可能性も考慮してか、焔さんは明言することは避けましたが、星鳴舎外部から干渉出来ないのであれば、内部からそれが行われたと考えるのは至極当然のことでした。
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