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第9話

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「私ら若い頃はなあ、55歳でだいたい定年退職で60歳から厚生年金貰えるんが普通やったけどな。いつの間にか65歳からになって、もうじき70歳にならんと年金もらえやんようになるっておかしない?」おツボネがいつものように愚痴をこぼし始める。
「そうそう、60になったら働かんでもええんやと思ってた。」カマキリが反応する。
ピピピピッとタイマーがなってるのにそれには反応せずおツボネの話に割って入る。
「年金なんかあれは決まってて変更なんか考えてなかったから、もらえんのちょっとずつ後ろにずらされて騙されたみたいな気するわ」
「法律変えたら変わるんやて。何も信じられんでなあ、お上のやること」とおツボネ。
早くエビの天ぷら出さんと上げすぎて茶色くなるのにカマキリは続ける。
「高度成長期終わった頃から私ら働き出したけどそれまで頑張った親らにええとこみんな持っていかれたなあ。何もかも半分やわ人生の楽しみも」
やっと、揚がった海老の天ぷらを器に盛って一言「出汁場海老天」といつものように省略して言う。
出勤して15分ぐらいで必ずトイレに行く図太さと、この出汁場をまるで見下した言い方は同僚にストレスを与えるカマキリの得意ワザなのだ。
人は繰り返し嫌なことをされると、些細なことでもプレッシャーを感じるようになり、やがて相手を憎むようになるものだ。嫌われるやつは幼少期からの育てられ方でその性格は決まる。
だから昔から「子供を見ればその親がわかる」と言われるのだ。

おツボネは自分から話しかけたものの、話好きなカマキリが作業の手を抜いて話に夢中になるいつものパターンが始まったのを見てそそくさとホールに戻っていった。
高津は横目で、おツボネが、話したかった相手との会話にカマキリが割って入ってきたことを鬱陶しく思ったなと思いながら、作業の合間のちょっとした会話で職場の人間模様が見られるのを知っていた。

先週から新人アルバイトが洗い場にやって来た。昼間は惣菜や弁当を作る地元では有名な会社で勤務し、夜だけこの職場に来るらしい。
先週と同じ作業を教えることになったのだが、全くそれを覚えていなくて、同じことをまた繰り返さなくてはならなくなった。おまけにこちらが教えたことをそのまま素直にすることがなく、いちいちやり方を変えようとする。
最初のうちは「いや、それはこのようにしていかんと次の作業がやりにくくなるよ」とか注意していた高津も、ほとんどすべて自分のやり方でやろうとしているのに気づき、こいつは教えても無駄やなと思うようになった。「郷にいれば郷に従え」が新しい職場でうまくやる手段であるが、どういう仕事人生を経てきたのか従う気がないらしい。
今までどれだけ会社の上位にいたかは知らんが、新たな職場ではそんなものは通用しない。まして、皿洗いのアルバイトを選ぶほど他に能力がないのなら、前の職場での地位などたかがしれたもんということは誰にでもわかる。
グダグダ講釈を垂れるほどの仕事じゃないのだ。ただひたすら言われたようにすればいい。知ったかの講釈をたれればたれるほどまわりとの関係が悪くなるということをわからないらしい。単純な仕事には複雑な思考は邪魔になるのだ。
新人は高津と閉店作業を続けながら最後の最後まで、高津の教えたとおりにすることを拒み続けるかのような作業を続けた。



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