人生懺悔

株馬きち

文字の大きさ
上 下
5 / 16

予期せぬ闘い

しおりを挟む
新居での生活が始まった。もちろん家具はなにもない。電気すらなく、空也が前職場の店の二階で寝泊まりしていた頃に買った黄色い灯りがつく電気スタンドで初めての夜を過ごした。隣近所からはなんとムードのあるカップルだなと思われていたらしい。
ムードもクソもない、とりあえず職探しをせねば、空也もこず恵もそれぞれ職を探す日々が始まった。
幸い若かったこともあり簡単に仕事が見つかった。
飲食業。手っ取り早く稼げる仕事だ。とりあえず経済的な生活の基礎はできた。
ところが予期せぬ難題がふたりに降りかかった。
空也の父親が他人の借金の保証人になって、その本人が借金を踏み倒して逃げた。当然空也の父親にその返済が回ってきたのだ。
まだ就学中のふたりの妹がいる中、生活が破綻した。空也はやむを得ず家族をアパートの隣の部屋に呼ぶことになり、すさまじいふた家族の闘いが始まった。こず恵は朝早くから洗濯や妹たちの弁当を作り、夕方からは空也が働くことになった喫茶店のウエイトレスとして働き始めた。
二人の娘と引離され、毎日空也の前で涙を見せながらふたりの娘への思いを話すこず恵に、空也と出会ったがために新たな不幸が襲った。
なにもしなければそのまま裕福なサラリーマンの中流家庭で、そこそこ資産のある実家に頼りながらなんの不自由もない主婦として、母として暮らしていけたものを、空也のせいで今それらを失ってしまった。
だが、こず恵は後悔はしていなかった。我が子との別れは身を切られる思いだったが、いつかわが子と再会できることを信じて今降りかかっている難題をこなしていくしかない。「空也、美和、由美に会いたい。」目を潤ませながら我を想うこず恵の悲しみを受け止めなければ、と空也はこず恵を抱きしめた。空也にはない強い意志と気の強さの反面、子供から離れた母親の弱さが垣間見られてが空也にはそれが一層眩しく映った。
そんな日々の闘いの中で、ふたりの間には当然のことのように新たな命が生まれたのだった。
名前は「しずか」
空也の好きなフォーク歌手のある曲から頂いた名前だ。
「心の片隅に閉ざされてた優しさをあなたが思い出させてくれた♫」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ばあ、情けななってくるわ

株馬きち
現代文学
3歳に両親が離婚して祖父母の家でお兄ちゃんと4人で暮らす2世代家族の日常が面白い

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...