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#51-1お話は最後まで聞くものでして

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 感情を感じさせない声音で団長は語った。

 たとえ人形であってもカリスに惹かれる騎士は多い。
 カリスはどんな人物にも、どんな言動にも、必ず肯定を返した。

 もともと騎士には貴族であっても自尊心の高くない者が多い。騎士になるのは後継者になれない次男以降の子息が多いためだ。
 中には生家の後継者争いに負けて渋々、騎士になった者も少なくなかった。
 なにもかもを肯定してくれる存在を憎からず思うのは、あまりに当たり前の流れである。

 先達の騎士が止めても、多くの騎士がカリスの境遇に哀れみ、彼を人間に戻そうと必死に足掻いた。

 だが何度繰り返してもカリスは自死を選ぶ。
 記憶を取り戻した途端、発狂し、絶叫し、血が出るまで髪をかきむしり、ありとあらゆる自傷に走った。

「カリスに懸想していた騎士は皆、その余りの惨状に動揺し、己の行いを悔いた。涙を流しながら人形に戻す男たちの姿を、俺は何度も見てきた」

 淡々と言葉を連ねるジルヴァ団長に、ひとつの疑問を投げ掛けてみる。

「そのなかには団長さんもいたの?」

 俺の問いにジルヴァ団長は答えなかった。が、まあそういうことなんだろう。

「ある日、諦めた騎士がカリスを連れて逃げ出したこともあってな。人間になる一歩手前の状態で連れ出されたカリスはある程度の感情を持ちながらも、まだ人形を捨てきれていなかった」
「結果は」
「その日の内にカリスだけ帰ってきたな。数日過ぎてから騎士も戻ってきた。騎士の方は心身疲弊した状態でな」

 直近の重要な命令を遂行すれば騎士団本部に帰還するよう上層部によって命令されているらしい。

 騎士とカリス……というか騎士の一方的な想いの押し付けで一悶着あっただろう出先のことを思うと、ちょっぴり同情してしまう。
 騎士のほうは必死に命令で自分と一緒にいるよう繋ぎ止めようとしたんだろうが、上官に指示を仰ぐべきだと一度でも判断されたらそこで終わりだろうな。

「結局のところ、どうあってもカリスは完全に人間に戻らないと上官の命令から解放されないということだ」

 石床に滴る自分の血を見ながら、ふむと考える。

 正直、騎士団の人形なんてネーミングなもんだから奴隷みたいな扱いされてんのかと予想していたが、そうでもないらしい。
 騎士たちにやたら執着されている感は否めないが、ともかくカリスのことを本気で考えてくれているようだ。

 これは俺が上手く立ち回れば騎士団を味方にできるかもしれない。

 額からぷしゅっと血を出しながら胸の内でガッツポーズを決める。

 騎士団のみなさんはカリスを人間に戻すことを諦めたご様子だが、俺は違う。
 針の穴でも希望があれば掴んでいきたい。ゴールの道程はトライアンドエラー。

 現に今、剣でブスブス刺されている蒲焼きゴアな状態でも、喉から手が出るほど欲しかった情報をこんなに入手できた。
 やっぱり森羅万象、すべての物事にポジティブあり。ドン底な状況にもメリットは必ずある。

 諦めなければカリスを死なせず人間に戻す方法が見つかるかもしれない。

「それほど騎士たちはカリスに心を砕いている。だからこそ起動維持のための魔力供給で大量の精液を注ぐことができる。今さらお前のようなポッと出の竜にできることなど何もない。カリスのことは諦め、静かに去るなら拷問もしないで解放してや」
「待てやゴルァァァーッ!!!」
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