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#50-1角を矯めて牛を殺すお話でして
しおりを挟む幌馬車の歩みは遅い。
竜の翼ならバビュンと一発、一時間もかからないで着く距離が余裕で数日かかってしまう。
おまけに幌馬車は危険物在中扱いなのか日の高いうちは絶対に幌が開かない。
開けられるタイミングは夕暮れと早朝だ。たぶん夜営に使う道具が積み荷の木箱に入ってるんじゃないだろうか。
木箱を取り出すついでに血濡れの敷き布もこの時、取り替えられる。
幌を開けられるたびに毎回、騎士が「うへえ」って声を上げるもんだから俺のキチキチ剛毛ハートもちょっぴり傷ついちゃう。
すみませんねえ。竜気使えないから身綺麗にできないんですよ。
幌内部にこもった強烈な血臭のなかで作業せざるを得ない騎士には本気で同情する。
いや待てよ。身綺麗にできてないってことは血が出てなくても普通に臭いなコレ。
いままで幌が開くたびにカリス来ないかなーなんて思ってたけど激臭な今は会いたくないかも。
嘘です。会いたいです。うわあん、カリスに会いたいよう。すーっと首を傾げるきゃわわなところを愛でたい。でも臭いのはさすがに恥ずい。今まで格好つけてただけに恥ずかしさ割り増しだ。実際に恰好つけられていたのかは別として。
心の中だけでウッウッと涙を流していると「うわあ」と騎士がドン引き声でこっちを見つめてくる。
どうやら額の血が流れまくって血涙状態になっていたらしい。俺の体ってば正直者。
そんなこんなで早朝。幌が開くこと四回目。
つまりは三日目の朝に突入している。この時点ですでに猶予がない。
竜がそばにいないと三日すぎれば普通の魔物になっちゃう死霊たち。つまり今日の終日までに彼らとコンタクトを取らなきゃならない訳だ。うーむ、長い一日になりそうだなあ。
やがて馬車の外側から聞こえてくる大勢のざわめきと気配で、王都に到着したのが分かった。
老若男女の歓声で騎士団が迎え入れられていることを知る。
ふむ。騎士団は庶民からの受けが良いらしい。
そこから幌馬車が止まり、警備の声が聞こえること三回。
その三回を頭に叩き込んでおく。
もし帰りに徒歩で乗り越えなきゃいけなくなるなら重要な情報だからね。
そこから幌馬車は緩やかな坂を下っていく。幌の向こう側は陰るのと同時に温度が下がり、湿っぽくなったことで地下に入ったのだと分かる。
おいおい地下駐車場とか最先端すぎないか。
段差で二度ほど馬車が揺れ、やがて蹄の音が止まると、しんと静まり返った。
なんだ?
急な静寂の後、幌の隙間からなにかを投げ込まれた。
ぼやけた視界で目を凝らす。
木張りの床を転がったのは、深いエメラルドの石のようだ。どうやら中心が淡く発光している。
少し前のめりで観察していたところに、閃光が走った。視界が真っ白に染まる。
うおっまぶしっ。
目を覆いたいところだが串刺しパーティー中の俺は目蓋を閉じることしか許されない。
石の光は目蓋の薄皮をなんなく貫いた。
長い。三十秒ほど経ったかもしれない。
次第に落ち着いていった光に、ほっと胸を撫で下ろす。
光が完全に消えて、おそるおそる目を開ける。
おぼろげな視界には、檻の鉄柵があった。
わあすごい。早業マジックかな?
鉄柵の向こうにはジルヴァ騎士団長と騎士二名と思われるシルエットが俺を見下ろしている。
「待たせたな。楽しい楽しい自由研究の始まりだ」
ちっとも楽しくなさそうなジルヴァ団長の声が地下牢に響き渡った。
それはそうと俺の背後に何か大きいものの存在感を感じる。
鉄の臭いに、ちょびっと漂うお肉屋さんの香り。
この野郎、本気で俺を挽き肉にする気か。
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