成金竜と金色青年の黄金ライフ ～ドラゴンに転生したので惚れた人形をミュージカルで救います～

#48-2王都に向かいまして

　とりあえず直近の最重要課題は、額の剣だな。

　こいつのあるなしで自由度が格段に変わってくる。
　脳の損傷のせいで視界も聴覚も念話も使えない訳だし。
　この額の剣さえ抜いてしまえば首の剣に阻まれ話せずとも、生物なら誰でも念話でコミュニケーションがとれる。

　魔物、動物、鳥……いや羽虫でもいい。念話で話せれば少なくとも【賭しきもの】に死霊アンデッドのことを言伝てできる。
　竜やつが動く確実性はないが、それでも可能性を増やせるに越したことはない。

　後できることといえばーー金を探すことか。
　たとえぼやけた視界でも俺の金キチセンサーならば黄金の輝きはキャッチできるはず。
　愛でる時間を十分とれるかは不明だが、たとえ一瞬の僅かでも竜気の充填にまわす。
　竜気さえ使えるようになれば額の剣なんぞスポンのポンだ。

　首の皮膚を引っ張られながら口角を引き上げる。

　カリスと合流する重要性がまた上がったな。
　黄金の瞳と金の首飾りを一定時間見られれば僅かでも竜気の充填に役立つはず。
　金の首飾りを早めに返してもらっておけばーーと一コンマ考えたがそんなアホな考えは速攻で打ち消す。

　いやいや。ストイックな白衣のカリスに、繊細な金花の首飾りだぞ。そして美麗な黄金の瞳。
　流麗、優美、美麗、おまけにカリス自体が既にかわいい。クアドラプル・コンボ。パーフェクトだ。
　俺の首にぶら下がってるより、よほど在るべき場所じゃないか。金はふさわしい場に飾られるべきだ、うん。

　通常であればカリスばりにうんうんと頷きたいところをグッと堪える。
　できないからね、物理的に。

　ともかく真っ先にやるべきは、どうにかして念話を使えるようになること、黄金を見逃さないことだな。

　腹の中だけで気合いを入れ直し、そこでふと思い出す。

　そういえば、骨士くんはまだ女将のことについて知らないんだよな。
　念話が使えるようになったら【賭しきもの】伝いに言ってもらうか。
　死に際の賭けに勝った骨士くんは、その時に記憶を司る脳を抜き取られて生前のことをまるっと忘れている。いや、消失しているのか。

　互いの姿形が変わってもまた一目惚れするなんてロマンチックだなあ。
　女将がかつての奥さんだと知ってどう行動するかは骨士くん次第だが、たぶん滅茶苦茶喜びそうな気がする。

　そばで彼のリアクションを見られないのが残念だ、と思ったところで、馬車が揺れた。
　なにかデカい石でも踏んだのか、大きい横揺れで剣が食い込み「ぐっ」と声が漏れる。
　バランスを崩した拍子に、体の重心が前に倒れた。視界に迫る茶色。額を貫通した剣が床面に当たり、頭部に熱い電撃のような衝撃が走る。

　一瞬、目の前が真っ白になった。
　わあすごい。よく漫画で登場人物がびっくりした時、目のなかに星を描かれることあるけど、今のはマジで星が飛んだ気がしたわ。

　床面に刺さった額の剣を支柱に、なんとか体を起こす。
　剣の刺し傷から、びちゃびちゃと余計に血が散った。
　すまない、お片付け係。敷き布の外まで汚してしまったよ。大変だろうけど掃除がんばってくれ。

　くらくらする頭で思考を引き戻す。
　なんだっけ。ええと、そうだ。直近でやるべきは額の剣を抜くことと黄金探しで竜気の充填。
　そんで念話で動物や虫に頼んで死霊アンデッドのことと骨士くんと女将のことを【賭しきもの】に伝え……

　そこで思考が止まる。

　骨士くん。女将。

　…………なんだ？

　こんな重要な時に、なんでこの二人の名前が出て来たんだろう。

　この二人の関係性が結び付かず、ぼんやりとした意識のなかで考える。

　剣の刺さった脳味噌が、ズクリと疼いた。