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#48-1王都に向かいまして
しおりを挟む馬車に運び込まれる頃には刺さった剣が二本ほど増えていた。
額・胸・右太股&右脛ときて、新たに首と両手に一本ずつ追加されている。
もちろん両手は後ろ手にだ。手錠がわりだろう。首の方は喉を封じる狙いかな。
唯一健在な鼻をひくつかせる。
鼻腔がキャッチしたのは、そうとう使い込まれた木の匂い。
幌馬車の内側は天井が幌のベージュで他は茶色、茶色、茶色。
物資なんかの搬入用なのか木箱が積まれていて、俺は中央の空いたスペースに座り込んでいた。
剣山状態とはいえ竜を運ぶのだ。なるべく四方を囲むのは定石だろう。
馬車を汚さないためか俺の座る場所には何重にも布が敷かれていた。
竜の強靭な再生力と塞がらない裂傷のせめぎあいで、絶え間なく布を染め上げていく。途中で布変えできるといいけど。
ため息を吐こうとして、喉の剣がつっかえた。
なかなかに満身創痍だが幸い、もう痛みは感じていない。ひとつ山を越えて、じんじんする痺れに切り替わった感じだ。
とはいえ馬車の揺れごとに剣が食い込んでアイタタ状態になるんだけどね。
ぼやけたベージュと茶色の世界を見ながら、念話を出そうとするも、やはり成功しない。
瞬時に沸き上がった思考や発想ばかりが先行する。
いや、もう応援を呼ぶ気はない。
この状況で「たしゅけてー」と言ったところで良い結果は生まないだろう。魔物を呼ぶにしても、動物を呼ぶにしても、救援側にも応戦側にも被害が出てしまう。それはいけない。徳的にも。
ただでさえカザ村の破壊で徳を積むどころか大幅マイナスなのだ。これ以上、徳を下げてなるものか。
それに、と血の入り込んだ眼球を前方に向ける。
馬車の御者席は完全に幌が降りていて、俺のいる内部からは完全に見えない。
だが行き先は分かっている。王都だ。
ジルヴァ団長はその場に留めて俺の始末をつけようとせず、国の中心部に向かう決定を下した。
何らかの思惑が臭う。
とはいえ騎士団の人形というカリスの根幹を理解するのに、これほど適した場所はないだろう。より多くの情報が得られるかもしれない。
わざわざ王都にタクシーしてくれるんだ。ご相伴に預かろうじゃないか。
山の近くにある村からじわじわ攻めようと思っていた俺の作戦は残念な結果に終わったが、これはこれで有りだろう。挽肉機とか言ってたのは気になるけども。
俺はともかく、カリスはもともと騎士団の所属だから流石に無下にはされないだろう。
心配なのは死霊たちの方だ。
彼らは竜がそばにいないと三日後、通常の幽鬼みたいな死霊に戻ってしまう。
カザ村の住民に襲いかかったとしても不思議じゃない。
逆に、軒並みカザ村の冒険者に倒されてしまうこともあり得る。
俺が切実に念話を飛ばしたいのは、そちらの方なのだ。
死霊、特に骨士くんはあの村で正気を失わせたくない。
死霊になった時、記憶が失くなってしまったとしても彼の住んでいたカザ村で、そしてかつての奥さんの近くで倒されるのは悲惨だ。万が一にも酒場に襲いかかったりなんかしたら悲惨どころの話じゃない。
【賭しきもの】が傍にいてくれればそれで良いんだが、あの竜が確実にそんな行動をとってくれる保証はない。
たとえカバーしてくれたとしても何かの拍子で賭けごとに触れるようなことがあれば、すぐさま興味が移って放り出してしまうだろうし。
つまり、俺に残された時間は三日。
三日の間に騎士団から逃れ、情報を得、カリスと合流し、死霊たちとコンタクトをとらなきゃいけない。
できるか俺。
いや、できるできないじゃない。ゆーきゃんどぅーいっと。やるしかないんだ。
俺もまた傲慢な竜。
欲しいものは全力で取りに行く。
カリスも情報も骨士くんたちの正気も全部だワーッハッハッハって、あっまた揺れ痛い痛い痛てててて。
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