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#46-5満ちる饗宴が剣の結末
しおりを挟む<カリス>
「終わった――!」
村の建物には、白い樹木の枝先が伝うように白銀の糸が埋め込まれている。
朝焼けの淡い光を受けて銀糸の部分が十字の煌めきを放つ。
カザ村は白を差し色にした美しい町並みへと変貌していた。
「金継ぎならぬ銀継ぎ……とりあえず、なんとかなった……かな」
言い終えるなり、メインストリートにひっくり返ったデルタを見下ろす。
「デルタ。疲れたか」
「うん。でもカリスがいてくれたから頑張れた」
ありがとう、とデルタが頬を緩めた。朝焼けの光に照らされたデルタの褐色の顔から妙に目を離せない。
デルタも、じっとカリスを見返している。
妙な空気が流れる中「ちょっとアンタ!」と酒場の女将の声がかかった。
「あらまあ、大丈夫かい。徹夜仕事だったからねえ。無事だったワインでも飲むかい」
「いやいや結構。実をいうと飲食を必要としないんですよ、竜ってやつは」
「そいつは便利さねえ!」
腹を揺らして笑いを上げた女将は、起き上がったデルタをよそに村を見回す。
「カザ村をこんなに綺麗にしてくれて、ありがとうねえ。アンタはただ歌って踊ってただけだってのにさ。クサビエの馬鹿がやらかしたせいでてんてこ舞いさね」
「いえ。それより先ほどは助け船をありがとうございました」
「いいんだよ。本当いうとねえ、私も魔力なしに対して同情心なんてないのさ」
「では……どうして?」
「アンタの引き連れてる死霊にずいぶんアプローチされちゃったじゃない? その時、ちょっと懐かしいことを思い出せてね」
「懐かしいこと、ですか?」
「私にも昔は旦那がいたんだけどね。その旦那が子供のころからよくああやって家にやってきては花を差し出してくれたのさ。まあその旦那は冒険者で、私に旨いもん食わせてやるって言って森に稼ぎに行ったっきり帰ってこなくなったんだけど」
「…………」
「あの死霊がもしかしたら旦那かも、ってちょっとだけ思ったけど……魔物なんだからそんな訳ないさね。でもあの花を差し出す仕草に、胸が苦しくなるくらい素敵な思い出が甦ったわ。日々の仕事の忙しさで思い出すことすら忘れていた思い出がね……」
だから少しアンタたちの味方をしたくなった、と女将は溢した。
「アンタたちがここに来てくれて本当に嬉しいわ。ありがとねえ」
にこにこと感謝を告げる女将は、そういって改築された酒場へと去っていった。
カリスがデルタを見ると、苦い笑みを浮かべている。
自然と、そうしなければいけない気がしてデルタの手を握る。
はっと目を見開いたデルタは、カリスの顔と握られた手を交互に見て、そして溢れ落ちそうなほどの笑顔を浮かべた。
雲の隙間から差し込む朝陽を背にしたデルタの笑みに、カリスの胸にふわりとしたものが浮き立つ。
「ありがとうカリス。よし! 次に行くところも決めようか」
「次に行くところは私がご一緒しよう」
第三者の声とともに、デルタの胸から剣が生えた。
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