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#46-3満ちる饗宴が剣の結末
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<カリス>
矍鑠とした老人は鋭い目でデルタを見据え、重々しく口を開いた。
「率直に言う。わしは魔力なしのクソガキどもなんぞ、どうでもいい」
村長の断じる言葉に、息を飲む音と息を吐く音が広がる。
リコやカザリを含む子供たちは一様に青ざめてうつむき、その様子を見た大人たちは気の毒げに見やる者と安堵に胸を撫で下ろす者に別れた。
デルタは口角を吊り上げたまま表情を変えない。口を挟まず、真正面から鋭い視線を浴びていた。
音楽はすでに鳴り止み、しんと辺りが静まり返る。
「あたしゃ反対だよ」
「イッ!?」
どすどすと重量の乗った足音に、剣士の装いをした死霊が反応した。
竜の絶叫で卒倒してからずっと死霊に守られていた酒場の女主人が、人の波を分けるように前へ出る。
「やっぱり魔力なしの面倒をみるのは御免だよな」
「なにいってるんだい。あたしゃ村長の意見に反対って言ったのさ」
「えっ」
賛同者と思っていたトイがたじろぐ。
女主人はたじろぐ周囲を見渡し、ふんと鼻息を鳴らした。
「まったく、冒険者が屯する村とは思えないくらい腑抜けた奴らばかりさね」
「だって魔力なしだぞ!? ご丁寧に世話してやる義理ねえよ!」
「そもそも村長の下の息子がいきなりこの男前を殴らなきゃ村はこんな有り様にならなかったんじゃないのかい。あたしゃしっかりこの目で見てたよ。中身の入った酒瓶で後ろから殴るのをね」
「そ、それは……」
弟クサビエの過ちをつつかれ、トイが言い淀む。
腹をつきだして腕を組む女主人に、剣士の装いをした死霊は手を組んでくねくねと身をよじっていた。
デルタはといえば、片眉を上げて苦笑している。
どうやらこの女主人の動向はデルタの計画の内になかったらしい。
「うちの酒場は食うに困った女たちの仕事場でもあるんだ。それがひとつ増えるだけじゃないか。だいたいアンタらが魔力なしを嫌ってるのは生活魔術が使えないからだろ。孤児院に篭ったら多少は村も綺麗になるんじゃないのかい」
女主人の言葉を聞いた周囲が「確かに」と顔を見合わせた。
「ん? どういうこと?」
一人納得のいってないデルタに女主人が補足する。
魔力のない者が忌避される理由の筆頭が生活魔術の有無にある。生活魔術の清拭魔術を使えなければ、いつまでも薄汚れたまま。鼠や害虫と同一視されるのは、その不潔さにあった。
「えっと……体、洗えば?」
「うげっ」
「冗談」
「川とか……」
「体を水で洗うなんて信じらんない」
「裸になるってこと? なんてはしたないの!」
なにげないデルタの疑問に、リコやカザリの子供たちも含めた村中の非難が一斉に浴びせられる。
ぱちぱちと瞬きしたデルタは唖然として頬を掻いた。
「なるほど。そういう魔術が使えるとそういう文化になるのか。いやはや俺はてっきり……」
ちらとこちらを盗み見るデルタに、カリスはすーっと首を傾げた。
なぜか頭上の【賭しきもの】からも見られている気がするが気のせいだろうか。
「それなら、こうすれば解決ですよね?」
にっこり笑みを見せたデルタが指揮棒を振るい、五線譜を凪ぎ払った。
勢いよく宙に流れた五線譜が子供たちの全身を撫でるように通過する。
顔を上げれば、子供たちの全身から汚れが一掃されていた。
「嘘!?」
「あんな一瞬で」
「竜ってすげー!」
爪の間まで磨きあげられた子供たちに歓声が上がる。
デルタはおまけとばかりに竜気の銀糸で刷毛を何本か作り、子供たちに差し出した。
「定期的にこれで体を払って。すぐに身綺麗になるし半永久的に使えるよ」
涙ながら感謝を告げる子供たちに、周りの大人の視線が柔らかなものになっていく。
その様子を見ていた村長は重いため息を吐いた。
矍鑠とした老人は鋭い目でデルタを見据え、重々しく口を開いた。
「率直に言う。わしは魔力なしのクソガキどもなんぞ、どうでもいい」
村長の断じる言葉に、息を飲む音と息を吐く音が広がる。
リコやカザリを含む子供たちは一様に青ざめてうつむき、その様子を見た大人たちは気の毒げに見やる者と安堵に胸を撫で下ろす者に別れた。
デルタは口角を吊り上げたまま表情を変えない。口を挟まず、真正面から鋭い視線を浴びていた。
音楽はすでに鳴り止み、しんと辺りが静まり返る。
「あたしゃ反対だよ」
「イッ!?」
どすどすと重量の乗った足音に、剣士の装いをした死霊が反応した。
竜の絶叫で卒倒してからずっと死霊に守られていた酒場の女主人が、人の波を分けるように前へ出る。
「やっぱり魔力なしの面倒をみるのは御免だよな」
「なにいってるんだい。あたしゃ村長の意見に反対って言ったのさ」
「えっ」
賛同者と思っていたトイがたじろぐ。
女主人はたじろぐ周囲を見渡し、ふんと鼻息を鳴らした。
「まったく、冒険者が屯する村とは思えないくらい腑抜けた奴らばかりさね」
「だって魔力なしだぞ!? ご丁寧に世話してやる義理ねえよ!」
「そもそも村長の下の息子がいきなりこの男前を殴らなきゃ村はこんな有り様にならなかったんじゃないのかい。あたしゃしっかりこの目で見てたよ。中身の入った酒瓶で後ろから殴るのをね」
「そ、それは……」
弟クサビエの過ちをつつかれ、トイが言い淀む。
腹をつきだして腕を組む女主人に、剣士の装いをした死霊は手を組んでくねくねと身をよじっていた。
デルタはといえば、片眉を上げて苦笑している。
どうやらこの女主人の動向はデルタの計画の内になかったらしい。
「うちの酒場は食うに困った女たちの仕事場でもあるんだ。それがひとつ増えるだけじゃないか。だいたいアンタらが魔力なしを嫌ってるのは生活魔術が使えないからだろ。孤児院に篭ったら多少は村も綺麗になるんじゃないのかい」
女主人の言葉を聞いた周囲が「確かに」と顔を見合わせた。
「ん? どういうこと?」
一人納得のいってないデルタに女主人が補足する。
魔力のない者が忌避される理由の筆頭が生活魔術の有無にある。生活魔術の清拭魔術を使えなければ、いつまでも薄汚れたまま。鼠や害虫と同一視されるのは、その不潔さにあった。
「えっと……体、洗えば?」
「うげっ」
「冗談」
「川とか……」
「体を水で洗うなんて信じらんない」
「裸になるってこと? なんてはしたないの!」
なにげないデルタの疑問に、リコやカザリの子供たちも含めた村中の非難が一斉に浴びせられる。
ぱちぱちと瞬きしたデルタは唖然として頬を掻いた。
「なるほど。そういう魔術が使えるとそういう文化になるのか。いやはや俺はてっきり……」
ちらとこちらを盗み見るデルタに、カリスはすーっと首を傾げた。
なぜか頭上の【賭しきもの】からも見られている気がするが気のせいだろうか。
「それなら、こうすれば解決ですよね?」
にっこり笑みを見せたデルタが指揮棒を振るい、五線譜を凪ぎ払った。
勢いよく宙に流れた五線譜が子供たちの全身を撫でるように通過する。
顔を上げれば、子供たちの全身から汚れが一掃されていた。
「嘘!?」
「あんな一瞬で」
「竜ってすげー!」
爪の間まで磨きあげられた子供たちに歓声が上がる。
デルタはおまけとばかりに竜気の銀糸で刷毛を何本か作り、子供たちに差し出した。
「定期的にこれで体を払って。すぐに身綺麗になるし半永久的に使えるよ」
涙ながら感謝を告げる子供たちに、周りの大人の視線が柔らかなものになっていく。
その様子を見ていた村長は重いため息を吐いた。
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