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#31-2出立と南米を決意しまして
しおりを挟む両足を抱え込んで三角座りするカリスはやっぱり不機嫌で、同時に自分の不機嫌さに戸惑っているようにも見える。
殻の中に閉じこもりたくて、でも出来なくて。そんなもどかしさがあの縮こまり具合に表れていた。
すーはーすーはーと深呼吸して自分を強く保つ。
よし。いつまでも初恋のトキメキに振り回されているようでは何の助けにもならない。
意気込んで歩み寄り――対俺必中キラーのぷんぷん顔を見ないよう、背中合わせに三角座りを決めてみる。
相手の気持ちになるには相手と同じ目線、同じ行動をしてみるのもいいだろう。
ドキドキしちゃうのが目に見えているので背中同士でくっつかないよう、すれすれの位置で距離を開ける。
【賭しきもの】の遊技場からスライムの背に乗って――正確には下半身をスライムに漬かる状態で――軟体トロッコよろしくズルズル縦穴を登っている間、俺はさまざまな質問をカリスに投げかけた。
だがやっぱりというか、なんというか。
カリス自身の詳細、騎士団や国のことについての質問となると途端に口を閉ざしてしまう。
人形というからには故国に関する情報漏洩は口に出さないものなのかもしれない。
だから俺が聞けることは結構限られている訳で。
「カリスはどうしたい? これから自分がどうなりたいとか、ある?」
カリスは今、突然降って湧いてきた怒りの感情を持て余している。
よ~し、あとの二体だ! 全部ぶっ壊して人間になってみようぜ~! と言ったところでカリスが嫌がっているなら意味がないのだ。
「分からない」
「そっか~」
ある程度予想していた答えに相槌を打って、ふと笑みを浮かべる。
見えなくてもカリスの眉間に皺が寄っているのが分かった。想像の中でもかわいいとか反則じゃないかね君。
迷子の迷子の子ネコちゃん~、あなたのおうちはどこですか~。
とか歌いたい気分になってくる。いや歌わんけど。
「分からないことが……分からない」
抑揚のない声音ながら、これはカリスががんばってがんばってギリギリの所で絞り出した言葉なのだと察する。
いつだって大真面目で、いつだって頑張り屋さんだ。
「分かるようになるよう、頑張ってみる?」
「……分からない」
布擦れの音が耳につくほど慎重に振り返る。
縮こまった背中はどこか寂しげで、途方に暮れていた。
恋のドキドキとは違ったものが胸を締めつける。
けれどその背中を見て、ようやく俺の中で決心がついた。
やっぱり一度、このダンジョンを出よう。
人間の住む町に赴き、もっとこの世界のことを知るべきだ。
今の俺には圧倒的に情報が不足している。
カリスと関わり続けるなら人間側の情報が必要だ。
とにかくカリス以外の人間による知識や見解が欲しい。
いつまでもここにいたって状況は変わらないし、何も分からないままだ。
俺としてはカリスに感情もりもりの人間になってもらって、さらに欲を言えば両想いになりたいところなのだが、今の時点ではそれも正しい行いなのか判断がつかない。
俺の恋愛成就を横に置いても、カリスの住む国がどういう所かだけでも知っておきたい。
幸い俺は人間の姿になれるので人間の町に行っても竜とバレずに済むだろう。
見ているだけで竜気湧き放題の金貨の山と別れるのはつらいところだが、現在カリスの首にかかっている【美しきもの】から貰ったネックレスさえあれば事足りる。
この行動が吉と出るのか凶と出るのか、まだ分からない。
竜の俺が人前に出ることで何らかの混乱が生まれることもあるかもしれない。
が、もしもの事態を恐れるだけでは前に進まないのも事実。
時にリスクを取らなければチャンスは巡ってこない。残念ながらチャンスというやつは奥手なビビりちゃんで、自ら歩み寄ってきてはくれないのだ。
『という訳でちょっくら人里に降りてみようと思うんだけど』
「いーっ」
「いーいー」
「いー!」
それとなく水を向けてみると、当然ついていきま~す! と主張する骨の挙手が金貨の山からニョキニョキ生える。
知ってた。
それに俺から離れると三日後くらいにはまた元気ないどころか生気もない、ただのスタンダードな死霊に戻っちゃうからね。
近場で金貨浴していた骨ーズ諸君のキラキラした青火の眼差しを裏切るのも気が引ける。
髑髏だけ金貨からヒョッコリ出しているのがなんだかお茶目。
ふむ。しかしこれだけ大勢の死霊を連れていくとなると、インド人じゃなくともビックリ案件だろう。
この場合、死霊と分からないよう変装していくのが王道だが。
「ところでカリス。聞きたいことがあるんだけど」
しかしここは一つ、派手に出まくってみるのも面白いんじゃなかろうか。
「こっちの世界にサンバってある?」
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