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#29-2蹂躙する者、掴まれる者
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<カリス>
『そういや竜窟にいる竜たちも、人間のことを示す時は前に“矮小な”がついてたな。その割りに嫌悪感ある感じじゃなかったのはそういう訳か』
『我らが竜名に沿って竜気を得るように、奴らも奴らなりに生きる術があるのだろうよ。他者の食事にけちをつけるのは野暮というもの。が、生理的に受けつけるかといえば話は別である。やはり気に食わんと怒り狂った竜が妖精どもを殺して回った例は数えきれん』
『あ、ああー……竜って沸点低そうだもんね』
『まあ同胞の死をも嘲笑う妖精からすれば、それも奴らの馳走になるのであろうがな。それほどまでに竜にとって妖精というのは虫酸の走る存在である。加えて、奴らの言の葉は聞くに耐えん』
『妖精の言葉?』
光線をすれすれで躱しながらも、デルタはじっと第二傀儡の周りに浮かぶ光源を見つめた。
しばらくして、集中していたデルタの顔は徐々に引きつっていく。
『ウッ』
カリスを抱える反対の手で口許をおさえるデルタに、すーっと首を傾げる。
一体なにが聞こえたのだろうか。
『カリスは知らないままでいて……』
その声はどこか疲弊している気がする。
とりあえず頭の撫でさすりを再開すると、デルタの喉から「うぐっ」という声が漏れた。
強くさすりすぎたのかもしれないが、幾分色の引いた顔がまた赤黒くなったので気のせいかもしれない。
不意に飛び回るデルタの眉が、ぴくりと動いた。
『あの子、腕が』
デルタの視線を追うと、確かに第二の掲げた腕が肘の辺りまで溶解している。
あれだけの魔力の出量であれば当然だろう。
平均的な魔力を持つ人間に扱えるのは、頑張っても二重魔法まで。
対して身体の大方を魔術具で造られた魔術師団の人形は違う。
魔力量を多く持つ魔術師により注入された魔力を最大限まで溜め込むことが可能である。
とはいえ出力口である身体箇所が大きく損傷するのは課題の一つとされていた。
大規模討伐命令が終わった時も、第二はかろうじて頭と胴が繋がっているのみであったと記憶している。
限られた情報を再確認していると一瞬、狂気に満ちた翡翠の瞳の目線がカリスの目線とかち合った。
「アア"ア"アアァ"アアアア"――ッ」
『まずい。ターゲットにされた』
汗を散らして逃げ回るデルタを、膨大な質量の光線が追いかける。
といっても光線の軌道はコントロールの利くものではない。
不規則なタイミングで速度が落ち、また加速。直線状に動いたかと認識しても瞬時にねじ曲がって回りこむ。
眼前すれすれを過ぎった魔力はデルタの前髪を僅かに焼いた。
同時に、カリスを抱える褐色の手に力が籠る。
『う……』
脂汗を滲ませるデルタが、僅かに呻いた。
断続的に制裁の頭痛が続いているらしい。
『カリス、首飾りを』
カリスは中途半端なところで区切られた言葉を認識し、デルタの首にかかった黄金の首飾りへ視線を落とした。
草花を模した繊細な首飾りは、風に煽られ軽やかな音を立てながらも、黒衣の上で燦然と輝いている。
『友達から譲り受けた、大事なものなんだ。カリス、持っていてくれ……』
命令である。命令は遂行されなければならない。
手にした骨剣を司祭服の帯で腰のあたりに括りつけ、腕を伸ばして金具を外すと、自身の首に装着する。
遂行を終えてデルタの顔を見上げると、幾分デルタが若々しくなったように見えた。
自然と首が、すーっと傾いていく。
『はは。実は俺、こんなに金が好きなのに金が似合わないんだよね。肌の近くにつけると老けて見えるんだ。カリスは、よく、似合ってる』
デルタは自身を見下ろし、汗ばんだ頬でにこりと笑顔を浮かべる。
『綺麗だ』
首飾りではなく、まっすぐカリスに視線を合わせて言ったデルタを見た途端、カリスの胸に雲がかかったような違和感が兆した。
何故なのかと首を傾げ続けても理解できない。理解できないことを認識して、また別種の違和感が兆す。
最近よく白昼夢を見ることといい、カリスの身体はどこか破損しているのかもしれない。
そんなことを思考していると「うっ」とデルタが呻いた。
見れば、光線が掠めたのかデルタの片翼の先が一部焦げついている。
「デルタ」
『骨士くんたちの所に行く。カリスも結界の中へ。竜体になって覆い被されば少しくらい持つはずだ。その間に竜気を』
「ア"アア"ァアア"ァ――ッ」
デルタの言葉を遮るように第二が絶叫した。
第二の右腕はほぼ肩まで溶けきり、次の左腕を突き出そうとしている。充填は終えていた。
騎士団の人形として、ともに命令を遂行したカリスだからこそ分かる。
右腕を消失させるまでの時間を見せられると、左腕も同程度の出力と対象に思わせるが、それは違う。
溶けきるまでの猶予がある程度残っていると見せかけ、油断を突く。
前回の討伐時と同様ならば、次はあの左腕が一瞬で溶けきるほどの魔力が放出されるはず。
『間に合わないか。多少のダメージは、仕方ない』
デルタが苦笑を顔に乗せ、カリスを壁側にして覆い隠すように抱え込む。
自身を魔力破から庇う気なのだろう。
そのことに関して、カリスの胸にまた違和感が生じた。
仮に第二の攻撃を受けたとしても、デルタは死なないだろうことは予想される。
竜は攻撃を与えても死なない。竜を討伐するためには別の手段があるという。
デルタの言うその手段を知るために、カリスはここにいる。
北のグルド山に棲まう竜の討伐。
それがカリスに課せられた最上位の命令である。命令は遂行されなければならない。
死霊から下された“主を救え”という一時的な命令が遂行済みの現在、第二の乱入と魔力破はむしろ命令遂行のための援護射撃といってもいい。
追い詰められた二体の竜を観測すれば、僅かでも討伐の手段が見えてくるかもしれない。
しかし。
ぐっと近くなったデルタの顔をカリスは凝視する。
自身の全身を包み込むような熟した林檎の香りを鼻腔に掠めながら、目の前にある灰と赤の瞳を視界の許す限り映した。
左の瞳を灰色にしたのは他でもない自身である。
帯に括り付けている骨の剣で、この瞳を刺し貫いた。
何故かは分からない。何故かは分からないが、満天の星空が脳裏を過ぎる。
どこかで同じようなものを見たような気がするのに思い出せない。
そう認識した直後、かちかちと鍵の外れかかったような音が鼓膜に反響した。
――生きて。
止まった時間の中、甲高い少年の声がどこかから聞こえてくる。
――生きて。ちゃんと生きて。蔑まれても、尊厳を奪われても、泥水をすすっても、厭なものを食べてでも、絶対に生き抜いて。少しずつ、一歩ずつでもいいから、死から遠ざかって。
――僕の代わりに生きて。
気づいた時には、目の前に第二がいた。
『駄目だ、危なすぎる。カリス、逃げろ!』
背後で咳き込みながら命令を呼びかけるデルタに、振りむく暇もない。
カリスが片手で掴んだ第二の左腕には瞬く間に魔法陣が重なっていく。
ありったけの筋力を掴んだ手に集中させるが、騎士団の人形の得意分野はあくまで瞬発的な身体能力。
避けることは容易にできても爆発的な魔力を打ち消すことはできない。
ならば、即座に肩ごと腕を折って軌道を変える。
「アア"アァア"ア"アーーッ」
反対の手で第二の肩を掴んだと同時に、至近距離の絶叫。
カリスの鼓膜にビリビリとした振動が走る。
人形ゆえに痛みは感じないが、耳から何かが吹き出した感触は分かった。
体中を揺さぶるような衝撃に、肩を掴む手が外れる。
「カリス!」
念話が消え去り悲鳴にも似た声を上げたデルタが、こちらに駆け寄ってくる気配を察知する。
どうやら翼を失ったらしい。
右腕が溶けきる最後の光線で焼かれたのだろう。
静かにそう認識し、骨の剣を括り付けていた帯に手をかける。
「あ」
『あ』
デルタと【賭しきもの】の被った声にあわせて、第二の首が飛んだ。
あれだけたかっていた妖精と思しき光源が一斉に散り散りとなって逃げていく。
紅い放物線を描いた頭部は鈍い音を二度、三度、と鳴らし、やがて沈黙した。
『こ、殺しちゃったよ……』
『お主が殺した訳でもあるまい。それより吾輩の肉体とボロボロの遊技場であるぞ。うう、ほとんど残っとらんではないか……』
軽口を交わす竜たちをよそに、カリスは戦闘態勢を維持していた。
まだ左腕の魔法陣が消えていない。
人形自体は停止したが出力機能はまだ稼働したままである。
カリスは骨の剣を握り直し、動力源があるであろう胸の中心に勢いよく突き立てた。
内側にある硬い感触のものがパリン、と音を立てて割れる。
魔法陣の発光が薄くなったことで、カリスは完全にとどめを刺した手応えを認識した。
――直後、視界が揺れる。
小刻みに揺れ動く目の前の視界は、一気に背後へ引っ張られた。
風のように駆け抜ける視界。
カリスたちが落ちてきた穴を通り抜け、洞窟を抜け、森を抜けた。
麓の村を駆け抜け、広がる草原を駆け抜け、聳える大門を駆け抜け、人々の行き交う王都の市場を駆け抜ける。
そして視界は煌びやかな衣服を纏う人々が歩き回る王城の中にまで及んだ。
王城を抜け、更に奥へ。
王宮の廊下を駆け抜けた視界は、ある一室の扉の先でゆるやかに止まった。
広々とした部屋の中。
派手な装飾に彩られた寝台を揺らし、裸体を絡み合わせる二人の男。
向かい合って隙間なく抱き込むように被さった男は、一心に腰を打ちつけ、雄々しい呻き声を上げている。
逞しい腰に足を絡ませて受け入れている男もまた、嬌声を漏らしながら男の頭を掻き抱いていた。
互いに性交に勤しみ、カリスの存在に気づいた様子はない。
しかし受け入れている側の男は、ぐるりと首を回してカリスの方を振り向いた。
覚えのある唇が、ゆるやかに口角を吊り上げる。
「みつけた」
金髪の下で紫水晶の瞳を煌めかせたのは、やはりカリスと全く同じ相貌の男だった。
『そういや竜窟にいる竜たちも、人間のことを示す時は前に“矮小な”がついてたな。その割りに嫌悪感ある感じじゃなかったのはそういう訳か』
『我らが竜名に沿って竜気を得るように、奴らも奴らなりに生きる術があるのだろうよ。他者の食事にけちをつけるのは野暮というもの。が、生理的に受けつけるかといえば話は別である。やはり気に食わんと怒り狂った竜が妖精どもを殺して回った例は数えきれん』
『あ、ああー……竜って沸点低そうだもんね』
『まあ同胞の死をも嘲笑う妖精からすれば、それも奴らの馳走になるのであろうがな。それほどまでに竜にとって妖精というのは虫酸の走る存在である。加えて、奴らの言の葉は聞くに耐えん』
『妖精の言葉?』
光線をすれすれで躱しながらも、デルタはじっと第二傀儡の周りに浮かぶ光源を見つめた。
しばらくして、集中していたデルタの顔は徐々に引きつっていく。
『ウッ』
カリスを抱える反対の手で口許をおさえるデルタに、すーっと首を傾げる。
一体なにが聞こえたのだろうか。
『カリスは知らないままでいて……』
その声はどこか疲弊している気がする。
とりあえず頭の撫でさすりを再開すると、デルタの喉から「うぐっ」という声が漏れた。
強くさすりすぎたのかもしれないが、幾分色の引いた顔がまた赤黒くなったので気のせいかもしれない。
不意に飛び回るデルタの眉が、ぴくりと動いた。
『あの子、腕が』
デルタの視線を追うと、確かに第二の掲げた腕が肘の辺りまで溶解している。
あれだけの魔力の出量であれば当然だろう。
平均的な魔力を持つ人間に扱えるのは、頑張っても二重魔法まで。
対して身体の大方を魔術具で造られた魔術師団の人形は違う。
魔力量を多く持つ魔術師により注入された魔力を最大限まで溜め込むことが可能である。
とはいえ出力口である身体箇所が大きく損傷するのは課題の一つとされていた。
大規模討伐命令が終わった時も、第二はかろうじて頭と胴が繋がっているのみであったと記憶している。
限られた情報を再確認していると一瞬、狂気に満ちた翡翠の瞳の目線がカリスの目線とかち合った。
「アア"ア"アアァ"アアアア"――ッ」
『まずい。ターゲットにされた』
汗を散らして逃げ回るデルタを、膨大な質量の光線が追いかける。
といっても光線の軌道はコントロールの利くものではない。
不規則なタイミングで速度が落ち、また加速。直線状に動いたかと認識しても瞬時にねじ曲がって回りこむ。
眼前すれすれを過ぎった魔力はデルタの前髪を僅かに焼いた。
同時に、カリスを抱える褐色の手に力が籠る。
『う……』
脂汗を滲ませるデルタが、僅かに呻いた。
断続的に制裁の頭痛が続いているらしい。
『カリス、首飾りを』
カリスは中途半端なところで区切られた言葉を認識し、デルタの首にかかった黄金の首飾りへ視線を落とした。
草花を模した繊細な首飾りは、風に煽られ軽やかな音を立てながらも、黒衣の上で燦然と輝いている。
『友達から譲り受けた、大事なものなんだ。カリス、持っていてくれ……』
命令である。命令は遂行されなければならない。
手にした骨剣を司祭服の帯で腰のあたりに括りつけ、腕を伸ばして金具を外すと、自身の首に装着する。
遂行を終えてデルタの顔を見上げると、幾分デルタが若々しくなったように見えた。
自然と首が、すーっと傾いていく。
『はは。実は俺、こんなに金が好きなのに金が似合わないんだよね。肌の近くにつけると老けて見えるんだ。カリスは、よく、似合ってる』
デルタは自身を見下ろし、汗ばんだ頬でにこりと笑顔を浮かべる。
『綺麗だ』
首飾りではなく、まっすぐカリスに視線を合わせて言ったデルタを見た途端、カリスの胸に雲がかかったような違和感が兆した。
何故なのかと首を傾げ続けても理解できない。理解できないことを認識して、また別種の違和感が兆す。
最近よく白昼夢を見ることといい、カリスの身体はどこか破損しているのかもしれない。
そんなことを思考していると「うっ」とデルタが呻いた。
見れば、光線が掠めたのかデルタの片翼の先が一部焦げついている。
「デルタ」
『骨士くんたちの所に行く。カリスも結界の中へ。竜体になって覆い被されば少しくらい持つはずだ。その間に竜気を』
「ア"アア"ァアア"ァ――ッ」
デルタの言葉を遮るように第二が絶叫した。
第二の右腕はほぼ肩まで溶けきり、次の左腕を突き出そうとしている。充填は終えていた。
騎士団の人形として、ともに命令を遂行したカリスだからこそ分かる。
右腕を消失させるまでの時間を見せられると、左腕も同程度の出力と対象に思わせるが、それは違う。
溶けきるまでの猶予がある程度残っていると見せかけ、油断を突く。
前回の討伐時と同様ならば、次はあの左腕が一瞬で溶けきるほどの魔力が放出されるはず。
『間に合わないか。多少のダメージは、仕方ない』
デルタが苦笑を顔に乗せ、カリスを壁側にして覆い隠すように抱え込む。
自身を魔力破から庇う気なのだろう。
そのことに関して、カリスの胸にまた違和感が生じた。
仮に第二の攻撃を受けたとしても、デルタは死なないだろうことは予想される。
竜は攻撃を与えても死なない。竜を討伐するためには別の手段があるという。
デルタの言うその手段を知るために、カリスはここにいる。
北のグルド山に棲まう竜の討伐。
それがカリスに課せられた最上位の命令である。命令は遂行されなければならない。
死霊から下された“主を救え”という一時的な命令が遂行済みの現在、第二の乱入と魔力破はむしろ命令遂行のための援護射撃といってもいい。
追い詰められた二体の竜を観測すれば、僅かでも討伐の手段が見えてくるかもしれない。
しかし。
ぐっと近くなったデルタの顔をカリスは凝視する。
自身の全身を包み込むような熟した林檎の香りを鼻腔に掠めながら、目の前にある灰と赤の瞳を視界の許す限り映した。
左の瞳を灰色にしたのは他でもない自身である。
帯に括り付けている骨の剣で、この瞳を刺し貫いた。
何故かは分からない。何故かは分からないが、満天の星空が脳裏を過ぎる。
どこかで同じようなものを見たような気がするのに思い出せない。
そう認識した直後、かちかちと鍵の外れかかったような音が鼓膜に反響した。
――生きて。
止まった時間の中、甲高い少年の声がどこかから聞こえてくる。
――生きて。ちゃんと生きて。蔑まれても、尊厳を奪われても、泥水をすすっても、厭なものを食べてでも、絶対に生き抜いて。少しずつ、一歩ずつでもいいから、死から遠ざかって。
――僕の代わりに生きて。
気づいた時には、目の前に第二がいた。
『駄目だ、危なすぎる。カリス、逃げろ!』
背後で咳き込みながら命令を呼びかけるデルタに、振りむく暇もない。
カリスが片手で掴んだ第二の左腕には瞬く間に魔法陣が重なっていく。
ありったけの筋力を掴んだ手に集中させるが、騎士団の人形の得意分野はあくまで瞬発的な身体能力。
避けることは容易にできても爆発的な魔力を打ち消すことはできない。
ならば、即座に肩ごと腕を折って軌道を変える。
「アア"アァア"ア"アーーッ」
反対の手で第二の肩を掴んだと同時に、至近距離の絶叫。
カリスの鼓膜にビリビリとした振動が走る。
人形ゆえに痛みは感じないが、耳から何かが吹き出した感触は分かった。
体中を揺さぶるような衝撃に、肩を掴む手が外れる。
「カリス!」
念話が消え去り悲鳴にも似た声を上げたデルタが、こちらに駆け寄ってくる気配を察知する。
どうやら翼を失ったらしい。
右腕が溶けきる最後の光線で焼かれたのだろう。
静かにそう認識し、骨の剣を括り付けていた帯に手をかける。
「あ」
『あ』
デルタと【賭しきもの】の被った声にあわせて、第二の首が飛んだ。
あれだけたかっていた妖精と思しき光源が一斉に散り散りとなって逃げていく。
紅い放物線を描いた頭部は鈍い音を二度、三度、と鳴らし、やがて沈黙した。
『こ、殺しちゃったよ……』
『お主が殺した訳でもあるまい。それより吾輩の肉体とボロボロの遊技場であるぞ。うう、ほとんど残っとらんではないか……』
軽口を交わす竜たちをよそに、カリスは戦闘態勢を維持していた。
まだ左腕の魔法陣が消えていない。
人形自体は停止したが出力機能はまだ稼働したままである。
カリスは骨の剣を握り直し、動力源があるであろう胸の中心に勢いよく突き立てた。
内側にある硬い感触のものがパリン、と音を立てて割れる。
魔法陣の発光が薄くなったことで、カリスは完全にとどめを刺した手応えを認識した。
――直後、視界が揺れる。
小刻みに揺れ動く目の前の視界は、一気に背後へ引っ張られた。
風のように駆け抜ける視界。
カリスたちが落ちてきた穴を通り抜け、洞窟を抜け、森を抜けた。
麓の村を駆け抜け、広がる草原を駆け抜け、聳える大門を駆け抜け、人々の行き交う王都の市場を駆け抜ける。
そして視界は煌びやかな衣服を纏う人々が歩き回る王城の中にまで及んだ。
王城を抜け、更に奥へ。
王宮の廊下を駆け抜けた視界は、ある一室の扉の先でゆるやかに止まった。
広々とした部屋の中。
派手な装飾に彩られた寝台を揺らし、裸体を絡み合わせる二人の男。
向かい合って隙間なく抱き込むように被さった男は、一心に腰を打ちつけ、雄々しい呻き声を上げている。
逞しい腰に足を絡ませて受け入れている男もまた、嬌声を漏らしながら男の頭を掻き抱いていた。
互いに性交に勤しみ、カリスの存在に気づいた様子はない。
しかし受け入れている側の男は、ぐるりと首を回してカリスの方を振り向いた。
覚えのある唇が、ゆるやかに口角を吊り上げる。
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金髪の下で紫水晶の瞳を煌めかせたのは、やはりカリスと全く同じ相貌の男だった。
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