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#24-2煙に巻かれまして
しおりを挟む金色の残像を残しながら、三枚のコインが到達点へと至り、落下する。
くるくると回転して輝きを放つ金貨は、時折互いにぶつかりながら地上へ降りようとしていた。
軽い金属音を断続的に繰り返して着地した一枚目は――人間の顔。
よしっ、表!
俺が先取点を取った次の二枚目は――竜。
目の前の巨躯が僅かに揺らめいた気配を感じた。
まだだ。次の面で、全てが決まる。
最後に遅れてダイブしてきた金貨は、地上で跳ね返った。
キン、キン、と何度も跳ねては落ちるを繰り返す。
俺と【賭しきもの】の視線がじっとり見守る中、金貨はチェス盤に聳える、俺の身長よりも高い騎士の駒に当たった。
騎馬の左目を直撃した金貨は、最後の跳躍とばかりにピンクの海へと真っ逆さまに落ちていく。
その面は――。
今にも着地しそうなコインの絵を認識する直前、重い打撃音が支配した。
視界から、先ほどまであったはずの金貨が消える。
ギョッとして思わず金貨から視線を切ると、にやけ顔を象っている肉の継ぎはぎが目に入った。
遠くの方で金貨の跳ね返る音が反響する。
まさか。
こ、こいつ……!
『金貨に触ったな!?』
落ちきる直前に【賭しきもの】が、最後の金貨を吹っ飛ばしたのだ。
『何を言う。落ちる途中に触れてはいけないルールなんぞ、誰が決めた? そもそもコイン投げは最終的に裏か表が分かれば良いゲーム。落ちる途中に何があろうとルールの許容範囲内よ』
『待てっ。イカサマは無しだろう!』
『イカサマなんぞしておらん。イカサマとは何か知っておるか? いかにも本当に見えるさま。つまるところ、勝つための誤魔化し、ペテン行為である。そして今、吾輩は何の誤魔化もしておらん。堂々と邪魔をしているだけよ。これはイカサマではなく、ただの妨害ぞ!』
『誇らしげに言うんじゃない。なお悪いわ!』
『なんとでも言え。だいたいコイントスはすぐに勝負が決まって、つまらん。このスリル。緊張感。胸の高まり! 一瞬でかたをつけるのは惜しい! 楽しみは長引かせずになんとする!』
『ええ……』
つまりだ。テコ入れで勝ちに持っていくのではなく、ただただ楽しむ目的で勝負を長引かせたいが為の妨害だと。
その証拠に【賭しきもの】はその巨体でズドンズドン地を揺らしながら、サッカーのドリブルよろしく器用にコインを蹴っては追いかけている。
滅茶苦茶いい笑顔で。
確かにイカサマではない。イカサマではないけれども。
疲労を感じないはずの俺の肩に重いものがドッと伸し掛かった。
三百年生きた竜に悪ガキ小学生並の思考回路という、何とも言いがたいギャップに頭がくらりとする。
やっぱ無理にでも契約書、詰めるべきだったかな……。
こんな時、敏腕秘書の近藤くんがいてくれればササッと解決案だしてくれるんだが、それは今考えても詮無いこと。
とはいえこんな馬鹿なことで脱力している暇はない。
やるべきことも決まっている。
目には目を。歯には歯を。妨害には妨害を。
コインを取り返して、さっさと決着をつけなければいけない。
そうだ。
どうせならこの妨害、後々の手札にしてやろうじゃないか。
人間万事塞翁が馬。
どんなデメリットも最終的にはメリットにして覆してみせる。
俺は絶対、絶対、絶ッッッ対、タダでは転ばねえぞ!
溜息を押し殺し「俺、頑張ってくるよ!」と気合いを入れるべく、骨小僧とカリスのいる鳥籠を見上げた途端、見えたものに軽く目を見張った。
鳥籠の上部と、コインのヘディングに夢中なピンクの巨体。
その二つを幾度も見比べ、やがて自然と口角が吊り上がる。
――俺は結構、ツイているのかもしれない。
算段がつけば、即行動。
どピンクのチェス床を蹴って【賭しきもの】の足元へと軽やかに跳躍する。
着地と同時に、頭上から降ってきた金貨を、俺も同じように爪先で弾いた。
『確かに。俺たちは竜。楽しみは必要さ!』
高らかに喉を鳴らしながら。
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