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#23-1騎士団の人形につきまして

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 カジノには前世で行ったことがある。
 が、これは負けることを大前提に楽しむ大人のゲームだと開始五分で早々に察した。

 社長なんて肩書を持っていると、日常業務にすら賭け事めいたものがつきまとう。
 そんな俺からすれば、プライベートでまでそんなスリルは味わいたくない、というのが正直なところだ。

 ただしあの金きらりんの内装や、ルーレットなんかに使われる金は別である。
 特にザ・ベネチアン・マカオは素晴らしかった。
 あれは良い。実に良い。派手さの権化。
 全てにおける成金っぽさが半端じゃなかった。
 金、最高。

『後進として、まずは名乗ろう。俺は【愛でるもの】。今はこんななりだが、一応竜だ。好むカードゲームは特にないし、メリットの少ない賭けには乗らない主義だ。以後よろしく頼む』

 とりあえず言語の勉強は一旦横に置き、念話で言葉を連ねながらも少し尊大に見えるよう意識する。

 竜同士の世界は横並びだ。年上に特別へりくだる必要はない。
 むしろ傲慢な物言いの方が好まれるので、相手への敬意は払いつつも堂々たる態度で接するのが無難だ。

 まああくまで竜同士の話であって、これを人間がやると一瞬で消し炭になるけど。

『ふふん。お主は【慈しむもの】の子か。先の名乗りに免じ、吾輩の竜名を知る栄誉をくれてやろう。吾輩の名は【賭しきもの】。破った卵殻の破片で賭けをするほど、生まれ落ちての博打者よ』

 思ってた以上にそのまんまの竜名だった。
 ふんぞり返って紫の鼻息を吹かす竜に苦笑しながら、引っかかった部分に触れてみる。

『父を知っているのかな』
『何を言うか。竜窟を三百余年、離れた吾輩でも識っておるわ。かつて稀代の竜を成し、そののちに亡くした竜ではないか。また新たに授かるとは、あれもまた稀有なやつよ』

 竜界は常に少子高齢化社会なので、そんな中でも二子を拵えた父竜は中々にレアなのである。

『三百余年……もしかして一度も帰っていないのか』
『当然。竜窟のお綺麗な連中と吾輩を一緒にするでないわ』

 そう言うと【賭しきもの】は、俺を見下ろすなり唸るように笑った。
 頭が揺れる度、遥か頭上にある大口から肉片が撒き散らされる。

 竜窟のお綺麗な連中ときたか。
 確かに竜窟に居ついているのは傲慢に加え、気高く、一際仲間意識の強い竜が多い。

 特に【美しきもの】辺りなんかは、こんなビジュアルの【賭しきもの】とは相性が良くないだろう。
 見た瞬間、泡吹いて失神しそうだ。

 金キチの俺から見ても「こいつ尖ってんなあ」と思う竜は、たまに竜窟に帰ってきても居心地が悪いとばかりに、すぐさま下界へ旅立っていく。
 やたら親戚が屯する実家と思えば、気持ちは分からんでもない。

 竜気のパラソルでボタボタと降ってくる肉片の雨からカリスと骨小僧の頭を守りつつ、俺はうんうんと納得した。

『最初にお主が吾輩の地下迷宮あそび場に居ついた時はぶん殴って放り出してやろうかと思ったが、何やら骨どもを従えるわ妙な宴を催すわで観察している内に面白くなってきてな。おまけに随分と馬が合いそうではないか』
『馬が合いそう?』

 心外な。
 俺はどこに出ても恥ずかしくない立派な金キチ野郎であるが、パチンカスの生肉ダルマでは断じてない。

 いかにも不満ですという顔を向ければ、眼窩の青火が面白げに揺れた。

『思い当たらんか。見よ吾輩の継ぎはぎの肉体を』
『はあ。でも俺は金が好きなんで。別にそこには微塵も惹かれないけども』
『何を言う。お主の愛でておる、その傀儡もだろう』

 一瞬「何言ってんだこいつ」と思ったが、ハッと息を呑んで、背後のカリスを振り返る。
 燦然と輝く金眼が、静かに俺を見返した。

 ――指定受刑者を分割活用する際、魔力と人肉を用いて稼働させる国家認定人形魔道具。

 カリスは確かにそう言っていた。
 この場合、分割活用ということは。




【今回の金キ知識】ザ・ベネチアン・マカオ
マカオに在する世界最大のカジノ。プレイエリアだけで東京ドーム一個分の広さ。
ベネチアを模した館内のショッピングモールではエリアごとに運河が流れており室内でもゴンドラで航行可能。
内装はどこを取ってもちょっとした美術館。
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