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#18いらっしゃいに小さな竜
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<カリス>
闇色の翼が風を巻き上げ、大きくはためく。
その音を聞きながらカリスは自身の胸の内側で蠢く異物の存在を認識していた。
トットットッ……と助走するようなリズムで主張する異物は、一体何に起因するものなのか。
『起きたばかりだろうけど体調に異常はない?』
カリスの眼前で男の唇が動く。
男の質問には該当する際、声に出して回答しなければならない。
確かに理解している筈なのにどうしてか声が出ず、ただコクリと首肯するのみとなった。
服越しに伝わる男の腕がやけに気になる。
男に口を塞がれ飛び上がった時もそうだったが、人形の表皮による感触など遠くの方でぼんやりと違和感を認識するだけの代物の筈。
しかし現在の自身は、厚みのある弾力すら覚えている。
見下ろしてくる真っ赤な瞳から目が離せない。
視線でカリスを縛りつけるような男の赤い片目は、周りの眩さを吸い込み、きらきらとした光の粒子を放っている。
一瞬、その中に満天の星空が映り込んだような気がした。
それには何か理由があったような気がしたが、もうカリスには思い出せない。
滞空している間ぎりぎりまでカリスに顔を寄せていた男だったが、金貨の舞台に着地した途端、勢いよく顔を伏せた。
『カーッ。やっぱ究極的に美しいわ……最高……金眼、サイコォ~~ッ……!』
カリスを腕一つで横抱きしたままガニ股状態でぶるぶると身を震わせた男は、自らの太腿をバシッと叩いた。
相変わらず奇怪な動作をする男である。
いつの間にか胸の異物が鳴り止んでいることに気づき、すーっと首を傾げていると俄に視界が大きく回転した。
「……?」
『はっはっは。俺は機嫌が良い。とても良い。君に出会えたことは今世一番の僥倖だ。さあこの出会いを祝して共に踊ろうじゃあないか。ハイ、右足出して』
咄嗟に命令を遂行してから遅れて自身が支えられるようにして立っていることに気づく。
横抱きしていた腕はいつの間にかカリスの腰にまわり、もう一方はカリスの片手を掴み胸の高さまで掲げられていた。
男は舞踏を求めているらしいと推測するが、カリスにその素養はない。
カリスは騎士団の人形である。
騎士たちに跨り腰を振ることはあっても手を取り合って踊ることなどない。
男のように流れるようなダンスは至極困難であると推測される。
人形の機構的な足の動きを見止めた男はにっこりと満面の笑顔を浮かべるや、カリスの腰を強く引き寄せた。
急激な変化に重心の軸がブレてよたつくも、男は素早く腰をさらい、あっという間にターンする。
僅かに浮き上がったカリスの片足に男の爪先がさっと添い、回転を終えて足裏が着地した頃には自然なステップとして出来上がっていた。
少し上にある男の顔を無言で見上げると、からっとした笑みで返される。
『いいね! よく出来ました』
「………………」
この男、もはや無理やりにでも躍らせる気である。
『この調子でいこうじゃないか。ハイ、いちにっさん、いちにっさん。俺の足の動きをよく見て真似して』
「……」
『上手い上手い。才能あるよ君。そこもう一拍早くしていけばもっと最高になるはずだ』
「……」
『いいじゃないか。こんなに早く仕上がるなんて素晴らしいね。エクセレント!』
「……」
『そこはちょびっと高く蹴ってみよう。オーケーいいぞ、足の運びは完璧だ!』
「……」
なぜこんなことになったのか。カリスには分からない。
金貨の舞台の上、大勢の魔物に混じって男と慣れぬダンスに臨むという訳の分からないこの状況。
カリスは無言で思考を停止した。
『ようしもう一丁リズムに乗ってみよう。いちにっさん、いちにっさん』
しかし振り回されているとばかり認識していたカリスだったが、気づけば動きは固いながらもギリギリの所でデュエットは完成していた。
いつしか大幅に音とずれていた舞踏は駆ける旋律にも何とか追いついている。
ふと赤い線の幾つか走った石壁が脳裏を過ぎった気がしたが、それも一瞬で立ち消えた。
『ねえ』
命令を遂行すべく、ひたすら足元を注視していたカリスは降ってきた男の声に顔を上げた。
『ずっと気になってたんだけど、君。その耳はどうしたの?』
「……?」
『片方の耳たぶがザックリ縦に切れてる。もうかさぶたになってるけどね。心当たりはあるかい?』
「……」
これは命令に関することなので覚えている。
騎士服の返却という命令の遂行時、魔術仕込みのピアスを耳の肉ごと引きちぎった痕だ。
そして心当たりはあるか、という問いには是で応えるべき状況だった。
「ああ」
『ふむ。気をつけなきゃ駄目だぞ。体は大事にしないと。君には長生きして貰わなきゃいけないんだから』
気をつける。体を大事に。
騎士団の命令とは真っ向から対立するような命令である。
そのうち騎士の誰かに上塗りされそうな命令ではあるが、カリスは直近の命令を遂行すべく静かに首肯した。
「分かった」
『ははは。素直だね~君』
「……」
『無口で積極性には欠けるけど明示されたことにはすぐに対応するし、苦手なことにも取り敢えずの第一歩を踏み出す勇気もある。他者の意見は極力よく聞き、行動力のある人物には三歩後ろをついていきそうな謙虚さ』
「……」
『そう、言うなれば男版・大和撫子!』
「………………」
なぜか相当な辱めを受けた気がするのは気のせいか。
『でも自分の行動範囲を狭く見積もっている傾向がありそうだなあ。君は君が思ってるよりも色んなことができるんだから、色んな事に挑戦してみるのも良いんじゃないかな』
「……」
『はっはっは。手始めに会話のキャッチボールから始めてみるのはどうだい? 会話って簡単なようで結構難しいよね』
「……」
『ちょっぴり口ベタ、そんな君には相槌のワンポイントアドバイスだ。相手の話の中でなんとなく重要そうな言葉を選んでそのまま言い返してみると案外会話として成りたったりするぞ。なんとな~く会話を繋げることができる超簡単テクだ』
「……」
『さあやってみよう。なんでもいいから相手の言葉を一つ選んで復唱、とにかく復唱!』
よく分からないが復唱すれば良いらしい。
「復唱」
『いいぞ! 続けてその調子!』
「その調子」
『グーッド! やるじゃないか。これで受け答えはバッチリだ! 慣れるまではしばらくこれを続けていこう』
「……分かった」
珍妙な命令である。
しかしカリスは遂行すべく静かに首肯した。
命令は遂行しなければならない。
『ところで君。もう踊れてるね』
男の目線を追いかけるようにして足元へ視線を落とすと、男の爪先による介添えなしに淀みなく動く自身の足。
認識すると同時に、腹の奥底がふわりと軽くなった気がした。
自身が爪先を蹴り上げるたび舞い散る金貨。
空気を貫くトランペット。
軽やかに響く骨の手拍子。
周囲で飛び交う魔物の歓声。
広間に充満した旋律と自身の身体が溶け合うような錯覚はこの一時、不思議とカリスの意識を囚えて離さなかった。
『――俺は竜窟から出てきたばかりの竜、名を【愛でるもの】という。是非とも君のことを教えてくれ』
するりと頭に入り込んだ男の低音に、カリスは自然と唇を開いていた。
「騎士団の人形、カリス」
視界一杯に極彩色が輝く中、男の眦がわずかに見開く。
だがそれも一瞬のことで男は覆い隠すように笑顔を浮かべた。
『カリス。カリス、カリスか……Charis? Calix? いや、そんな訳ないか。まあ何はともあれよろしくカリス。俺の名前は【愛でるもの】なんだが人間の形態で【愛でるもの】ってのもおかしいし、この際だ。呼びやすい愛称でも考えて互いの距離を縮めようじゃないか』
「愛称」
『うん。一応前世は人間だからその時の名前もあるにはあるんだが、個人的な事情で絶対に使いたくないんだよね。だから今世の名前で気軽に呼べるものを考えよう』
「分かった」
前世というのはよく分からないが男の愛称を決めるらしい。
カリスは静かに首肯した。
『そうだな~。愛でるもの愛でるもの……めでる……でる……竜でめでる……でる………………ふむ。デルタとか、どう?』
「デルタ」
『おっ発音いいね。こっちの言語でも言いやすそうで良かった。そうデルタ。俺の前世ではギリシア語という言語があってね。その文字の一つがデルタというんだ』
「文字」
『うん。大文字だと縦に長い三角の形をしていて、小文字だと尻尾を巻きながら前方を睨む蛇みたいな形をしていてね。この二つを組み合わせると翼を持つ爬虫類って感じで、なんだか竜っぽいだろう?』
男――デルタはカリスの腰から手を離すと、上向けた手の平の上で糸を操り、奇妙な文字を象った。
“Δ”と“δ”――形は歪だが、引き延ばされた三角形と威嚇して立ち上がった蛇に見えなくもない。
デルタが糸で三角形の文字の二つ目を作り、小文字の蛇に付着させてからフッと息を吹きかけると、手乗り疑似竜は三角の翼をはばたかせ、パタパタと音を立てて飛びあがった。
こんなこともできるらしい。
文字で出来た小さな竜はデルタとカリスの周りをひとしきり飛び回った後、やがてカリスの片耳に止まり、耳たぶを翼で挟んだ状態でぶら下がった。
デルタを見ればバチンと音がしそうなほど派手に片目を瞑って返される。
どういう意味なのだろうか。
『絆創膏の代わりにね』
「ばんそうこう……」
『あ、こっちにはないか。包帯的な?』
「包帯」
確か負傷した騎士がよく患部に巻いている布だ。人形に巻かれることは滅多にない。
耳には引きちぎった痕がわずかに残っているだけだというのに、人形にそこまで施す理由があるのだろうか。
カリスには分からない。
『そういえばカリス。君さっき騎士団の人形って言ってたけどさ、騎士団の人形って――なに?』
闇色の翼が風を巻き上げ、大きくはためく。
その音を聞きながらカリスは自身の胸の内側で蠢く異物の存在を認識していた。
トットットッ……と助走するようなリズムで主張する異物は、一体何に起因するものなのか。
『起きたばかりだろうけど体調に異常はない?』
カリスの眼前で男の唇が動く。
男の質問には該当する際、声に出して回答しなければならない。
確かに理解している筈なのにどうしてか声が出ず、ただコクリと首肯するのみとなった。
服越しに伝わる男の腕がやけに気になる。
男に口を塞がれ飛び上がった時もそうだったが、人形の表皮による感触など遠くの方でぼんやりと違和感を認識するだけの代物の筈。
しかし現在の自身は、厚みのある弾力すら覚えている。
見下ろしてくる真っ赤な瞳から目が離せない。
視線でカリスを縛りつけるような男の赤い片目は、周りの眩さを吸い込み、きらきらとした光の粒子を放っている。
一瞬、その中に満天の星空が映り込んだような気がした。
それには何か理由があったような気がしたが、もうカリスには思い出せない。
滞空している間ぎりぎりまでカリスに顔を寄せていた男だったが、金貨の舞台に着地した途端、勢いよく顔を伏せた。
『カーッ。やっぱ究極的に美しいわ……最高……金眼、サイコォ~~ッ……!』
カリスを腕一つで横抱きしたままガニ股状態でぶるぶると身を震わせた男は、自らの太腿をバシッと叩いた。
相変わらず奇怪な動作をする男である。
いつの間にか胸の異物が鳴り止んでいることに気づき、すーっと首を傾げていると俄に視界が大きく回転した。
「……?」
『はっはっは。俺は機嫌が良い。とても良い。君に出会えたことは今世一番の僥倖だ。さあこの出会いを祝して共に踊ろうじゃあないか。ハイ、右足出して』
咄嗟に命令を遂行してから遅れて自身が支えられるようにして立っていることに気づく。
横抱きしていた腕はいつの間にかカリスの腰にまわり、もう一方はカリスの片手を掴み胸の高さまで掲げられていた。
男は舞踏を求めているらしいと推測するが、カリスにその素養はない。
カリスは騎士団の人形である。
騎士たちに跨り腰を振ることはあっても手を取り合って踊ることなどない。
男のように流れるようなダンスは至極困難であると推測される。
人形の機構的な足の動きを見止めた男はにっこりと満面の笑顔を浮かべるや、カリスの腰を強く引き寄せた。
急激な変化に重心の軸がブレてよたつくも、男は素早く腰をさらい、あっという間にターンする。
僅かに浮き上がったカリスの片足に男の爪先がさっと添い、回転を終えて足裏が着地した頃には自然なステップとして出来上がっていた。
少し上にある男の顔を無言で見上げると、からっとした笑みで返される。
『いいね! よく出来ました』
「………………」
この男、もはや無理やりにでも躍らせる気である。
『この調子でいこうじゃないか。ハイ、いちにっさん、いちにっさん。俺の足の動きをよく見て真似して』
「……」
『上手い上手い。才能あるよ君。そこもう一拍早くしていけばもっと最高になるはずだ』
「……」
『いいじゃないか。こんなに早く仕上がるなんて素晴らしいね。エクセレント!』
「……」
『そこはちょびっと高く蹴ってみよう。オーケーいいぞ、足の運びは完璧だ!』
「……」
なぜこんなことになったのか。カリスには分からない。
金貨の舞台の上、大勢の魔物に混じって男と慣れぬダンスに臨むという訳の分からないこの状況。
カリスは無言で思考を停止した。
『ようしもう一丁リズムに乗ってみよう。いちにっさん、いちにっさん』
しかし振り回されているとばかり認識していたカリスだったが、気づけば動きは固いながらもギリギリの所でデュエットは完成していた。
いつしか大幅に音とずれていた舞踏は駆ける旋律にも何とか追いついている。
ふと赤い線の幾つか走った石壁が脳裏を過ぎった気がしたが、それも一瞬で立ち消えた。
『ねえ』
命令を遂行すべく、ひたすら足元を注視していたカリスは降ってきた男の声に顔を上げた。
『ずっと気になってたんだけど、君。その耳はどうしたの?』
「……?」
『片方の耳たぶがザックリ縦に切れてる。もうかさぶたになってるけどね。心当たりはあるかい?』
「……」
これは命令に関することなので覚えている。
騎士服の返却という命令の遂行時、魔術仕込みのピアスを耳の肉ごと引きちぎった痕だ。
そして心当たりはあるか、という問いには是で応えるべき状況だった。
「ああ」
『ふむ。気をつけなきゃ駄目だぞ。体は大事にしないと。君には長生きして貰わなきゃいけないんだから』
気をつける。体を大事に。
騎士団の命令とは真っ向から対立するような命令である。
そのうち騎士の誰かに上塗りされそうな命令ではあるが、カリスは直近の命令を遂行すべく静かに首肯した。
「分かった」
『ははは。素直だね~君』
「……」
『無口で積極性には欠けるけど明示されたことにはすぐに対応するし、苦手なことにも取り敢えずの第一歩を踏み出す勇気もある。他者の意見は極力よく聞き、行動力のある人物には三歩後ろをついていきそうな謙虚さ』
「……」
『そう、言うなれば男版・大和撫子!』
「………………」
なぜか相当な辱めを受けた気がするのは気のせいか。
『でも自分の行動範囲を狭く見積もっている傾向がありそうだなあ。君は君が思ってるよりも色んなことができるんだから、色んな事に挑戦してみるのも良いんじゃないかな』
「……」
『はっはっは。手始めに会話のキャッチボールから始めてみるのはどうだい? 会話って簡単なようで結構難しいよね』
「……」
『ちょっぴり口ベタ、そんな君には相槌のワンポイントアドバイスだ。相手の話の中でなんとなく重要そうな言葉を選んでそのまま言い返してみると案外会話として成りたったりするぞ。なんとな~く会話を繋げることができる超簡単テクだ』
「……」
『さあやってみよう。なんでもいいから相手の言葉を一つ選んで復唱、とにかく復唱!』
よく分からないが復唱すれば良いらしい。
「復唱」
『いいぞ! 続けてその調子!』
「その調子」
『グーッド! やるじゃないか。これで受け答えはバッチリだ! 慣れるまではしばらくこれを続けていこう』
「……分かった」
珍妙な命令である。
しかしカリスは遂行すべく静かに首肯した。
命令は遂行しなければならない。
『ところで君。もう踊れてるね』
男の目線を追いかけるようにして足元へ視線を落とすと、男の爪先による介添えなしに淀みなく動く自身の足。
認識すると同時に、腹の奥底がふわりと軽くなった気がした。
自身が爪先を蹴り上げるたび舞い散る金貨。
空気を貫くトランペット。
軽やかに響く骨の手拍子。
周囲で飛び交う魔物の歓声。
広間に充満した旋律と自身の身体が溶け合うような錯覚はこの一時、不思議とカリスの意識を囚えて離さなかった。
『――俺は竜窟から出てきたばかりの竜、名を【愛でるもの】という。是非とも君のことを教えてくれ』
するりと頭に入り込んだ男の低音に、カリスは自然と唇を開いていた。
「騎士団の人形、カリス」
視界一杯に極彩色が輝く中、男の眦がわずかに見開く。
だがそれも一瞬のことで男は覆い隠すように笑顔を浮かべた。
『カリス。カリス、カリスか……Charis? Calix? いや、そんな訳ないか。まあ何はともあれよろしくカリス。俺の名前は【愛でるもの】なんだが人間の形態で【愛でるもの】ってのもおかしいし、この際だ。呼びやすい愛称でも考えて互いの距離を縮めようじゃないか』
「愛称」
『うん。一応前世は人間だからその時の名前もあるにはあるんだが、個人的な事情で絶対に使いたくないんだよね。だから今世の名前で気軽に呼べるものを考えよう』
「分かった」
前世というのはよく分からないが男の愛称を決めるらしい。
カリスは静かに首肯した。
『そうだな~。愛でるもの愛でるもの……めでる……でる……竜でめでる……でる………………ふむ。デルタとか、どう?』
「デルタ」
『おっ発音いいね。こっちの言語でも言いやすそうで良かった。そうデルタ。俺の前世ではギリシア語という言語があってね。その文字の一つがデルタというんだ』
「文字」
『うん。大文字だと縦に長い三角の形をしていて、小文字だと尻尾を巻きながら前方を睨む蛇みたいな形をしていてね。この二つを組み合わせると翼を持つ爬虫類って感じで、なんだか竜っぽいだろう?』
男――デルタはカリスの腰から手を離すと、上向けた手の平の上で糸を操り、奇妙な文字を象った。
“Δ”と“δ”――形は歪だが、引き延ばされた三角形と威嚇して立ち上がった蛇に見えなくもない。
デルタが糸で三角形の文字の二つ目を作り、小文字の蛇に付着させてからフッと息を吹きかけると、手乗り疑似竜は三角の翼をはばたかせ、パタパタと音を立てて飛びあがった。
こんなこともできるらしい。
文字で出来た小さな竜はデルタとカリスの周りをひとしきり飛び回った後、やがてカリスの片耳に止まり、耳たぶを翼で挟んだ状態でぶら下がった。
デルタを見ればバチンと音がしそうなほど派手に片目を瞑って返される。
どういう意味なのだろうか。
『絆創膏の代わりにね』
「ばんそうこう……」
『あ、こっちにはないか。包帯的な?』
「包帯」
確か負傷した騎士がよく患部に巻いている布だ。人形に巻かれることは滅多にない。
耳には引きちぎった痕がわずかに残っているだけだというのに、人形にそこまで施す理由があるのだろうか。
カリスには分からない。
『そういえばカリス。君さっき騎士団の人形って言ってたけどさ、騎士団の人形って――なに?』
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