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#9-1仰天しまして
しおりを挟むどうしたもんかな。
夥しい金貨の上でぶるぶると犬のように身を震わせ、体中の金貨を払った。
予めダンジョン内部に張り巡らせていた俺の竜気が来訪者を感知し、ダンジョンに棲む者たちが俄にざわついている。来訪者というのは勿論人間だ。つまり事と次第によっては小学生の時分に読んでいた児童書の展開――勇者がドラゴンをぶっ飛ばすストーリーを再現してしまうだろう。
『君達は余り出すぎないように』
「いーっ」
「いー?」
「いーいー」
竜気を伝って洞窟内部の死霊達に告げると、大小様々な骸骨がカタカタと骨を鳴らしながら呼応するのが竜気に伝わってきた。
彼らには随分世話になっている。今世で更なる徳を積むためにも守らねばならない。そもそもこの海のごとく搔き集められた金貨は彼らの助力あってのものなのだから。
川に墜落して高らかに犬神家した後。
上空からいかにもな洞窟を見つけた俺は、懐かしき日本を思い起こすような湿気た場所に舞い降りた。露草の薫りを楽しみながら早速ご近所にお棲まいであろう魔物達にご挨拶すべく
『ごめんくださ~い!』
と念話を出来るかぎり張り上げたのだが――何やらあちこちでバタバタと何かが倒れるような音が聞こえるばかりで応答はなかった。
はてこれ如何に。無駄に長い小首をかしげていると洞窟の暗がりから冷たい湿気をはらみながら姿を現したのが、死霊である彼らだった。
それぞれ長い年月を経て襤褸切れとなった衣服をはためかせ、幽鬼のように揺らめきながらカタカタと上下の歯を鳴らす骸骨達。髑髏の窪んだ眼窩には青白い灯火が宿っている。
こんなに無数の骸骨を見たのはパリの地下納骨堂に観光した時以来だった。フランス観光の主目的はベルサイユ宮殿の見事な黄金尽くしだった訳だが、当時同行していた俺の後継者が無理やり予定にぶち込んだのだ。ご丁寧にネット予約までしてくれやがったので引きずられるように入堂せざるを得なかったのを覚えている。あの野郎。
けどハート型に配置された髑髏は割とお茶目だったなあと思い出に浸っていると、動く骸骨達は俺の足元まで近寄り、その拙い声を発した。
「いー?」
「いーいー」
「いー……」
あらバッタお面ライダーの雑魚敵みたいなお声。という感想はさておき、彼らの談によると今しがた張り上げた俺の念話が大音量すぎて周囲に棲む死霊以外の魔物は軒並み気絶してしまったという。なんということだ。今まで積み上げてきた俺の徳が。
次からは音量を控えるようにするという反省を織り込みながら謝罪すれば、自分達には大した影響は無いので気にしなくていいとのこと。そりゃそうか。もう死んでるものな。
一度死んだ身としては親近感を覚えつつ他の魔物達にも気絶から復活後に謝罪することを誓い、洞窟に来た目的を話した。そしてカルシウムたっぷりな顔を突き合わせた彼らが案内してくれたのがこの大広間のような最奥地だ。
ダンジョン内に散らばる金品は、元は死霊になる前の彼らの持ち物だったそうで、魔物化した今となっては無用の長物と俺に譲って貰える運びとなった。もはや彼らには頭が上がらない。
その代わりと言っては何だが、暫くこの洞窟に居を構えないかと提案された。何でも俺の纏う竜気は周囲にいる魔物の魔力とやらを底上げするらしい。確かに死霊の割には元気溌剌としてるなあとは思っていた。俺という竜の在り方が【愛でるもの】ということにも関係しているかもしれない。
無論、提案は快く承諾した。
となればやることは一つ。
『ようし。金発掘大作戦、開始!』
「いーっ」
「いーいー」
「いー!」
そんなこんなで気のいい骸骨達の協力のもと、ダンジョン内を目まぐるしく駆け回り、金貨や金で彩られた剣等の装備品が洞窟の一角に着々と積みあがったという訳だ。
積み上げられた金貨の海でアハハウフフとこの世の春を謳歌していたところまでは良かったが、その直後の来訪者。諸行無常である。
金貨の上から来訪者の気配を伺いながら金貨の一枚一枚に目をやった。
金貨は両面に違う絵が刻印されている。表面には読めない文字と、権力者であろう人物の横顔。裏面には翼を広げた竜。細かい刻印の模様はたまにズレが見られるものの、どれも正確に打刻されている。
硬さは十分。少なくとも柔らかい純金製ではない。流通を前提とした他金属との合金である。これだけハッキリした黄味の強い金色から鑑みるに自然合金ではなさそうだ。自然合金ならもっと銅に近い色合いになる。
つまりこの世界の人間には竜の存在が認識されていて、かつそれなりの鋳造技術があるということ。こいつは下手すりゃ火炎放射器や大砲が出てくるかもしれない。
川に墜落した時に見かけた人間の服装はまさしく中世のヨーロッパを思わせる装いだったが、何しろ俺のような竜や動く骸骨の魔物がいる世界だ。ファンタジ~ックな魔法やら武器やらを使う勇者が来ても不思議じゃない。
そう警戒を強めていた刹那、暗闇の中で淡く光る蛍のような人間の気配が不意に透明になった。
「ん……!?」
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