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#8-2任務の遂行

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<カリス>



 戻った視界が捉えたのは、骨だった。

 瞬きを意識的に繰り返す。これは、自身の体。カリスは体の主導権を握っていることを確認し、静かに辺りを見回した。知らぬ間に洞窟の奥地まで進んでいる。

 岩場の影で蹲るカリスの周囲一帯には無数の人骨が散乱していた。それは死霊(アンデッド)系の魔物を打ち倒したという証拠だ。魔物の森は中級者ではなければ骨も残らない、というのは死後骨になれば洞窟に引き寄せられ魔物に転じるからだったのかとカリスは認識を改めた。

 命令遂行に集中しすぎて周りが見えなくなることは多々あったが、その間に白昼夢を見るというのはカリスにも初めての経験だ。空っぽの人形であるカリスは睡眠時に夢を見ることなど一度も無かった。或いは、あれは幻覚と呼ばれるものの類だったのか。

 洞窟内部にはやはりあの蜘蛛の巣がそこら中にに張り巡らされている。カリスが見つめても、もう腕が勝手に上がることはなかった。

『人間。そこにいることは分かっているぞ』

 指先の隅々にまで行き渡るような意思が、カリスの体内を駆け巡る。声とは別の、内側に直接語り掛けるような感覚にカリスは周囲を警戒した。

『俺はこの洞窟に棲む竜だ。少し君と話がしたい。誘導するから暴れず俺の居る所まで来てくれないか』

 きぃん、と金属の摩擦音を耳で捉えたと同時に、傍にあった蜘蛛の巣が発光を強めた。
 警戒をそのままに金色の眼球をスライドさせる。洞窟の奥へと続く一定の道だけを蜘蛛の巣が指し示していた。

 ふとカリスの脳裏に白昼夢で見たランプが過ぎる。

『こちらに敵意はない。話がしたいだけだ。安心して来てほしい』

 カリスは無言で地面に散乱している人骨を掴み上げ、全力で岩に叩きつけた。甲高い破裂音が洞窟中に木霊する。人骨の砕けた断面を慎重に岩で研ぎ、尖った切っ先にある程度の殺傷能力があることを確認すると、カリスは音もなく立ち上がった。

 竜を仕留める方法を模索しながら誘導される方向に歩きだす。頭の中でまだ見ぬ竜を二十三回殺したところで、蜘蛛の巣の発光は終わりを告げた。

 洞窟の開けた奥部で、うず高く積み上げられた金貨の山々が、蜘蛛の巣以上の光を燦然と放っていたからだ。

 カリスは金貨の山の一つに身を潜ませ、骨の剣を構えた。まだ竜は視認できない。それは向こうも同じはず。このまま死角で待機していれば自ずと竜の方から此方を覗き込もうとするだろう。頭部が迫ったところで、眼球を串刺しにする。
 
 二十三回殺した中で最も竜に痛手を負わせられる可能性の高いパターンを選びだしたカリスは、金貨の影で息を潜めた。
 長丁場になろうと、その時を待つ。待ちながら、もしこの状況であの白昼夢の体の持ち主が持つ感情に振り回されていれば、正確な判断など下せなかっただろうと予測した。

『何をしている。早くそこから出てこい。さもなければその山ごと吹き飛ばすぞ』

 竜の気配は近くにない。ならば竜は飛び道具が使えるということだ。新たな情報を頭に叩き込みながら、このまま動くべきか動かざるべきかを算出する。しかしやはり、待つべきだ。

 硬直状態のまま時間が経過していく。やがて痺れを切らしたのか、圧力のかかった気配が金貨の向こう側で集中していくのを察知した。宣言通り何かの力で吹き飛ばす気だ。

 奇襲は却下。
 攪乱を起こし、竜の口腔から体内へ侵入後、内蔵を内側から滅多刺し。

 作戦を即座に切り替えたカリスは骨剣を握り直し、金貨の山から躍り出た。


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