11 / 99
#8-2任務の遂行
しおりを挟む<カリス>
戻った視界が捉えたのは、骨だった。
瞬きを意識的に繰り返す。これは、自身の体。カリスは体の主導権を握っていることを確認し、静かに辺りを見回した。知らぬ間に洞窟の奥地まで進んでいる。
岩場の影で蹲るカリスの周囲一帯には無数の人骨が散乱していた。それは死霊(アンデッド)系の魔物を打ち倒したという証拠だ。魔物の森は中級者ではなければ骨も残らない、というのは死後骨になれば洞窟に引き寄せられ魔物に転じるからだったのかとカリスは認識を改めた。
命令遂行に集中しすぎて周りが見えなくなることは多々あったが、その間に白昼夢を見るというのはカリスにも初めての経験だ。空っぽの人形であるカリスは睡眠時に夢を見ることなど一度も無かった。或いは、あれは幻覚と呼ばれるものの類だったのか。
洞窟内部にはやはりあの蜘蛛の巣がそこら中にに張り巡らされている。カリスが見つめても、もう腕が勝手に上がることはなかった。
『人間。そこにいることは分かっているぞ』
指先の隅々にまで行き渡るような意思が、カリスの体内を駆け巡る。声とは別の、内側に直接語り掛けるような感覚にカリスは周囲を警戒した。
『俺はこの洞窟に棲む竜だ。少し君と話がしたい。誘導するから暴れず俺の居る所まで来てくれないか』
きぃん、と金属の摩擦音を耳で捉えたと同時に、傍にあった蜘蛛の巣が発光を強めた。
警戒をそのままに金色の眼球をスライドさせる。洞窟の奥へと続く一定の道だけを蜘蛛の巣が指し示していた。
ふとカリスの脳裏に白昼夢で見たランプが過ぎる。
『こちらに敵意はない。話がしたいだけだ。安心して来てほしい』
カリスは無言で地面に散乱している人骨を掴み上げ、全力で岩に叩きつけた。甲高い破裂音が洞窟中に木霊する。人骨の砕けた断面を慎重に岩で研ぎ、尖った切っ先にある程度の殺傷能力があることを確認すると、カリスは音もなく立ち上がった。
竜を仕留める方法を模索しながら誘導される方向に歩きだす。頭の中でまだ見ぬ竜を二十三回殺したところで、蜘蛛の巣の発光は終わりを告げた。
洞窟の開けた奥部で、うず高く積み上げられた金貨の山々が、蜘蛛の巣以上の光を燦然と放っていたからだ。
カリスは金貨の山の一つに身を潜ませ、骨の剣を構えた。まだ竜は視認できない。それは向こうも同じはず。このまま死角で待機していれば自ずと竜の方から此方を覗き込もうとするだろう。頭部が迫ったところで、眼球を串刺しにする。
二十三回殺した中で最も竜に痛手を負わせられる可能性の高いパターンを選びだしたカリスは、金貨の影で息を潜めた。
長丁場になろうと、その時を待つ。待ちながら、もしこの状況であの白昼夢の体の持ち主が持つ感情に振り回されていれば、正確な判断など下せなかっただろうと予測した。
『何をしている。早くそこから出てこい。さもなければその山ごと吹き飛ばすぞ』
竜の気配は近くにない。ならば竜は飛び道具が使えるということだ。新たな情報を頭に叩き込みながら、このまま動くべきか動かざるべきかを算出する。しかしやはり、待つべきだ。
硬直状態のまま時間が経過していく。やがて痺れを切らしたのか、圧力のかかった気配が金貨の向こう側で集中していくのを察知した。宣言通り何かの力で吹き飛ばす気だ。
奇襲は却下。
攪乱を起こし、竜の口腔から体内へ侵入後、内蔵を内側から滅多刺し。
作戦を即座に切り替えたカリスは骨剣を握り直し、金貨の山から躍り出た。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
主人公に「消えろ」と言われたので
えの
BL
10歳になったある日、前世の記憶というものを思い出した。そして俺が悪役令息である事もだ。この世界は前世でいう小説の中。断罪されるなんてゴメンだ。「消えろ」というなら望み通り消えてやる。そして出会った獣人は…。※地雷あります気をつけて!!タグには入れておりません!何でも大丈夫!!バッチコーイ!!の方のみ閲覧お願いします。
他のサイトで掲載していました。
カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
こんな異世界望んでません!
アオネコさん
BL
突然異世界に飛ばされてしまった高校生の黒石勇人(くろいしゆうと)
ハーレムでキャッキャウフフを目指す勇人だったがこの世界はそんな世界では無かった…(ホラーではありません)
現在不定期更新になっています。(new)
主人公総受けです
色んな攻め要員います
人外いますし人の形してない攻め要員もいます
変態注意報が発令されてます
BLですがファンタジー色強めです
女性は少ないですが出てくると思います
注)性描写などのある話には☆マークを付けます
無理矢理などの描写あり
男性の妊娠表現などあるかも
グロ表記あり
奴隷表記あり
四肢切断表現あり
内容変更有り
作者は文才をどこかに置いてきてしまったのであしからず…現在捜索中です
誤字脱字など見かけましたら作者にお伝えくださいませ…お願いします
2023.色々修正中
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される
希咲さき
BL
「もう、こんなとこ嫌だ…………」
所謂王道学園と呼ばれる学校に通っていた、ごく普通の高校生の仲谷枢(なかたにかなめ)。
巻き込まれ平凡ポジションの彼は、王道やその取り巻きからの嫌がらせに傷つき苦しみ、もうボロボロだった。
いつもと同じく嫌がらせを受けている最中、枢は階段から足を滑らせそのままーーー……。
目が覚めた先は………………異世界だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
自分の生まれた世界で誰にも愛されなかった少年が、異世界でたった1人に愛されて幸せになるお話。
*第9回BL小説大賞 奨励賞受賞
*3/15 書籍発売しました!
現在レンタルに移行中。3話無料です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる