成金竜と金色青年の黄金ライフ ～ドラゴンに転生したので惚れた人形をミュージカルで救います～

#４-1兄につきまして

　そんなこんなで三日が経過。俺が卵から孵って五日である。
　父の鼻先で尻をチョイチョイ突かれつつ、俺は数メートルの距離位は飛べるようになっていた。着地は頭からなのでまだまだ要訓練ではあるが。とっとと大きくなって今世でもマイラブ金たちをかき集めたいところだ。

　そんな事を考えていると誰もいない時を見計らって俺にスリスリ頬ずりしていた父が、ふと顔を上げた。

『お前の母に会いに行くか』

　言うな否や、俺を背中に乗せた父の巨体は洞穴から躍り出た。
　父の赤茶けた岩のような鱗にしっかり鉤爪を引っかけているのでちょっとやそっとじゃ落ちないが、せめて一言くらい声をかけて欲しいもんだと目を白黒させる。普段いかめしく鷹揚とした父だが、こんな所はおちゃっぴい。まあな。他のドラゴンに隠れてナデナデスリスリ可愛がって貰ってるし、この位はな。
　父のおちゃっぴいには目を瞑り、今世初の外出に長めの首を回らせる。
　
　洞穴を出てこれまたびっくり、俺たちは雲の遥か上を飛んでいた。
　前方から流れる冷たい風を払いながら振り返ると、俺たちの居た竜窟がその全容を見せる。厚い雲の層を軽々と突出した竜窟の山はまるで塔のように聳えており、澄み渡る青空を深々と突き刺している。

　標高の高い山だとは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。一体どんな地殻変動が起きてこうなったのやら。

　空と雲の溶け合う境界線を眺めながら、俺は歩み寄ってくる焦燥を感じ取っていた。

　俺は未だに竜名も竜気も得られていない。

　先ず、この世界のドラゴンは食事をしない。口腔からの栄養摂取はドラゴン界隈では趣味の世界になる。
　必要なのは竜気と呼ばれるものらしく、俺もよく分からない。竜気があれば糧になるのは勿論、魔法のような能力を使うことも可能だとか。
　父や他のドラゴンに詳しいところを尋ねるも「竜によって全く違うので教えようがない」との事。何故だ。

　そして竜名とはそのドラゴンの心の在り方を表すものであり、その心の思うままに生きていれば自然と竜気が体に入り込んでくる……らしい。もし竜気を得られなければドラゴンは萎びた茄子のようにポックリ逝ってしまう。その空白期間はドラゴンによってそれぞれだ。

　卵から孵ったばかりの子竜は竜気の詰まった殻を食べることである程度の猶予が設けられるが、それも一週間位までしかもたないようだ。自分で竜気を賄えなければ生まれて一週間で死んでしまうとは、竜の世界も中々に手厳しい。
　
　竜気がなければ死んでしまい、竜気を得るには竜名が必要。
　アドバイスをくれた親切で天邪鬼なドラゴンの言葉を思い出す。

『己の深淵に問い掛けよ』

　自分に正直になれってことだろうか。でも俺の心を丸裸にしたところでピカピカの金キチ魂が顔をみせるだけだ。そこが重要なのかもしれないが、じゃあ金キチ野郎な生き方の何をどうしたら竜気に変換できるのか。全くもってサッパリ分からない。

 卵から孵って五日。猶予は後り二日。俺は生き残れるのだろうか。徳を積む暇もない。死ぬにしても、この世界の金を一目見てから死にたいものだ。