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第113話 接触
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ボナーがエライン中将に付き添ってノーライアへ出立してから数日後、メキアの森の東端、王国と商国の国境付近にファングの姿があった。馬車に乗り、緊張した面持ちで周囲を警戒している。後ろの荷台には金髪で白いドレスに身を包んだ一人の少女が拘束された状態で横たわっている。目を閉じて動かないところを見ると気を失っているようだ。
ピィィィッ
夜の帳が降りようとしている森の外れに突如甲高い音が響く。それを聞いたファングは手元のランプを掲げてぐるぐると回した。と、茂みの中から二人の人影が姿を現し、ゆっくり馬車に近づく。二人とも黒いローブを身に着け、フードを目深に被っていて顔は見えない。
「首尾よくいったようだな」
荷台を覗き込んだ一人がしわがれた声で言う。年輩の男のようだ。
「見ての通りだ。スパインはどこにいる?」
「慌てるな。鍵が二つ揃ったら教えてやる」
二人、ではなく二つと表現した男の台詞にファングは怒りがこみ上げるが、声を荒げるのを必死に堪え、頷く。
「こいつはどうする?お前らが連れていくのか?」
「いや、運搬役は用意してある」
男がそう言うと茂みからガサガサという音が響き、大きな影が姿を現す。月明かりに照らされたその姿は異様なものだった。
「獣人族……」
ファングがその姿を見て呟く。全身を毛で覆われたその姿は普通の人間よりも優に一回り以上大きい。顔は人間に近いが、鼻が低く広がっており、口には鋭い牙が生えている。目は戦兎ほどではないが暗い赤色をしている。
「暴君猿人だ。気性は荒いが知能は高い。我々と契約が出来るほどにはな」
なるほど、とファングは心の中で呟く。この大陸に入り込んでいるHLOの数はそれほど多くないだろうというのがボボルの見立てだ。ファング自身もそう感じていた。その彼らが天使の末裔や純血の上位霊種と対等に渡り合うには、いかに神装具を与えたとはいえファングたちだけではいかにも心許ない。キシュナー家だけでなく、商国の獣人族も戦力として取り込んでいるのだろう。
『しかし獣人族とは厄介だな。こいつらは鼻が利く奴が多いからな』
心の中で舌打ちしながら、表面上は何食わぬ顔でファングは男に尋ねる。
「連れてくのは近くなのか?」
「場所は教えられん。まあこの国ではないとだけ言っておこう」
「こいつに背負わせて国境を越えるつもりか?こんなのが貴族の令嬢を負ぶって行ったら、検問を通してくれるわけねえだろう」
このすぐ先に王国と商国の国境の検問所がある。当然通行には正式な手形が必要だ。
「心配はいらん。話はついておる」
そういうことか、とファングはまた心の中で呟く。検問所のある森の最東端周辺は王家直轄の土地となっている。だが事実上の管理は担当する省庁が行っており、そのトップは代々八源家が独占していた。
『HLOと繋がっている八源家が商国との国境を自由にしているわけか。いよいよ商国に奴らの拠点がある可能性が高くなったな』
ファングがそう考えている間に暴君猿人は馬車に近づき、荷台の少女を背中に担ぐ。ローブを着た年輩の男ではない方が後ろに回り、獣人と少女を太い紐で繋ぐ。
『まずい。このままいかせてもいいものか……』
内心焦りながらファングは無意識に御者台に手を伸ばす。そこに置いてあった皮袋に手が触れ、おっ、とファングは思い出す。そういえばここに発つ前、ボボルが念のためにとここに置いていったものだ。急いで紐を緩め中身を確かめたファングは思わず唸った。
『あいつ、どこまで読んでやがるんだ』
感心している場合ではないとファングは即座に行動を起こす。
「おい、乱暴に扱うなよ。ご令嬢なんだからよ」
そう言いながら馬車を飛び降りる際、さりげなく皮袋に手を当てて地面に落とし、それを踏みつける。グシャッろいう音がして、同時に鼻を刺すような強烈な匂いが辺りに広がる。
「ガッ!?」
暴君猿人が鼻を抑えて地団駄を踏む。よろけそうになるのを慌ててローブの人物が支えた。
「ちょっと!何よ、この臭い!?」
ローブの人物が叫ぶ。声からして女性らしい。
「ああ悪い悪い。来る途中でスパイシーナッツが生ってたんでな、採って来たんだ。酒のつまみにいいんだぜ?」
「生のスパイシーナッツの臭いなんか嗅いだら鼻が曲がっちゃうじゃない!まして獣人族は嗅覚が鋭いんだから。しばらく鼻が利かなくなるわよ!」
「別に検問所に話が付いてるなら問題ないだろ?」
暴君猿人はまだ鼻を押さえて顔をしかめている。狙い通りしばらく鼻は役に立たないだろう。ファングはボボルの先見の明に感心しつつ、しれっと形ばかりの謝罪をする。スパイシーナッツは本来は数時間水に漬けて刺激臭を出す成分を抜いてから天日干しし、それを炒めて食する木の実だ。生のままでは臭いがきつすぎて、宿への持ち込みも断られるくらいの代物だった。
「致し方ない。動くには問題なかろう?鍵に怪我をさせないように気を付けろ」
年輩の男の方が暴君猿人に言う。フードに隠れて見えないが、彼もこの強烈な臭いに顔をしかめているだろう。
「ぐ、うう」
苦しそうな顔をしながらも暴君猿人がゆっくりと歩き出す。その後を年輩の男が付いていく。
「あんたは一緒に行かないのか?」
ファングが女の方に尋ねる。
「別の任務があるのよ。悪いけど町まで馬車に乗っけていってくれない?」
「ああ、構わねえよ」
こいつは思わぬ収穫だ、とファングは喜ぶ。が、簡単にOKしては逆に訝しがられる可能性もあると思い、わざと軽口を効いた。
「しかしいいのか?あんた、俺の噂は聞いてないのか?」
「気に入った女には見境なく手を出す男だと?顔を見せなければその気にもならないでしょう?」
「そう言われると是非見たくなるな」
「お断りよ。あんたは嫌いなタイプじゃないけど、遊んでる暇はないの」
「そりゃ残念だ」
肩をすくめ、ファングは御者台に飛び乗る。女は黙って荷台へ上がった。
「どっちへ行く?」
「とりあえず最寄りの町でいいわ」
「へいへい」
ファングはちらっと後ろを見やって馬車を動かす。
『上手くやれよ、パンナ、ザック』
暴君猿人と年輩の男が歩いていくのを見送りながら、ファングは心の中で呟いた。
「アンセリーナお嬢様が宝物庫の鍵!?」
ファングの話を聞いたパンナが驚きの声を上げる。べスター城のパンナの私室。今はアンセリーナが公爵夫人として振舞っているため、パンナは眼鏡を掛けたメイドスタイルでいる。ボナーは半日ほど前にエラインと共にノーライアに向かって発っていた。
「彼女を産んだミレーヌがグランダ大陸から連れてこられた先代の鍵だったようでね。それがアンセリーナ嬢に受け継がれたようだ」
ボボルが眠そうな目をこすりながら言う。ここ最近は彼にしてはおきている時間が長く、疲れが溜まっている。
「それでHLOがあなたにお嬢様の拉致を命令したと?」
パンナがじろりとファングを睨む。
「そんな怖い顔しないでやってくれよ。彼、君のために自分の命を捨てる覚悟までしたんだから」
「え!?どういうことです?」
ボボルはファングが口止めするより早く、モースキンでの出来事をパンナに話す。それを聞いたパンナは顔を真っ赤にして怒った。
「何を考えてるんです!ミラージュちゃんやファンタムちゃんを置いて死ぬつもりだったんですか!?」
「そう怒るなよ。いきなりそんな指示をされてちょっと焦っちまったのさ」
「そう責めないでやってくれってば。君といいミラージュたちといい素直じゃないねえ。ファングも案外娘たちに慕われてるんだね」
「だ、誰が慕ってなんか」
パンナが目元に溜まった涙を拭ってプイ、と横を向く。その仕草が先日のミラージュとそっくりだったのでボボルは思わず笑みを浮かべた。
「何を気持ち悪い顔してるんです?ボボルさん」
「気持ち悪いはひどいなあ。で、本題なんだけど、これはチャンスだと思ってね。HLOの拠点を突き止めてスパインを救出するのにね」
「お前、アンセリーナの嬢ちゃんを渡すって本気なのか?」
「そんなこと出来るわけないじゃないですか!」
パンナがボボルに食って掛かる。
「そう興奮しないでよ。アンセリーナ嬢本人を受け渡すのは危険だけど、向こうにとってアンセリーナ嬢であればいいだろう?」
「何を言って……」
「そうか、そういうことですね?」
ファングが顔をしかめるのとは対照的にパンナが納得したように頷く。
「どういう意味だ?」
「あなた、私がなんでボナーと結婚したか忘れたの?」
「なんでってお前が嬢ちゃんの身代わりで見合いをしたって……おい、まさか!」
「ええ。私がお嬢様に扮して奴らに連行され、拠点を突き止めるってことよ。でしょう?」
「まあそういうことだね。サンクリスト公に妻が攫われたと喧伝してもらえば奴らも信じるだろう。本物は隠れていてもらうことになるけど」
「待て待て。パンナが行っても危険なことに変わりはないだろう。奴らの拠点にどれだけの敵がいるか分からないんだぞ」
「無論、一人で送り込むようなことはしないよ。ザックも帰って来てるし、また尾行してもらうつもりさ。カサンドラも付けてね」
「だかな」
「娘が心配なのは分かるが、これは千載一遇のチャンスだ。無駄にはしたくないね」
「そうよ。敵は多いですもの。一つでも叩けるときに叩いておかないと」
「仕方ねえか。くれぐれも気を付けろよ。……そういえば俺に指示を持ってきた男はどうした?ザックが尾行したんだろ」
「ああ。やつらの拠点の一つは分かったよ。メキアの森の獣人族の集落の中だ。だが連絡係の中継地点くらいの場所のようだ。HLOと思しき人間はほとんどいなかったそうだよ。おそらくその集落の獣人族が奴らに協力してるんだろう」
「そこにスパインはいなかったんだな?」
「ああ。ザックが一回りしたが、見当たらなかったと言ってる。そこまで単純な真似はしないだろうさ」
「ならやるしかねえか」
「こっちも万全の準備をするさ。奴らはアンセリーナ嬢をどこへ連れて来いといってたんだい?」
「メキアの森の東端だ。国境の近くだな」
「やはり商国に連れて行く気か。それじゃ作戦を練ろうか」
ボボルはそう言って、関係者を集めるようパンナに頼んだ。
ピィィィッ
夜の帳が降りようとしている森の外れに突如甲高い音が響く。それを聞いたファングは手元のランプを掲げてぐるぐると回した。と、茂みの中から二人の人影が姿を現し、ゆっくり馬車に近づく。二人とも黒いローブを身に着け、フードを目深に被っていて顔は見えない。
「首尾よくいったようだな」
荷台を覗き込んだ一人がしわがれた声で言う。年輩の男のようだ。
「見ての通りだ。スパインはどこにいる?」
「慌てるな。鍵が二つ揃ったら教えてやる」
二人、ではなく二つと表現した男の台詞にファングは怒りがこみ上げるが、声を荒げるのを必死に堪え、頷く。
「こいつはどうする?お前らが連れていくのか?」
「いや、運搬役は用意してある」
男がそう言うと茂みからガサガサという音が響き、大きな影が姿を現す。月明かりに照らされたその姿は異様なものだった。
「獣人族……」
ファングがその姿を見て呟く。全身を毛で覆われたその姿は普通の人間よりも優に一回り以上大きい。顔は人間に近いが、鼻が低く広がっており、口には鋭い牙が生えている。目は戦兎ほどではないが暗い赤色をしている。
「暴君猿人だ。気性は荒いが知能は高い。我々と契約が出来るほどにはな」
なるほど、とファングは心の中で呟く。この大陸に入り込んでいるHLOの数はそれほど多くないだろうというのがボボルの見立てだ。ファング自身もそう感じていた。その彼らが天使の末裔や純血の上位霊種と対等に渡り合うには、いかに神装具を与えたとはいえファングたちだけではいかにも心許ない。キシュナー家だけでなく、商国の獣人族も戦力として取り込んでいるのだろう。
『しかし獣人族とは厄介だな。こいつらは鼻が利く奴が多いからな』
心の中で舌打ちしながら、表面上は何食わぬ顔でファングは男に尋ねる。
「連れてくのは近くなのか?」
「場所は教えられん。まあこの国ではないとだけ言っておこう」
「こいつに背負わせて国境を越えるつもりか?こんなのが貴族の令嬢を負ぶって行ったら、検問を通してくれるわけねえだろう」
このすぐ先に王国と商国の国境の検問所がある。当然通行には正式な手形が必要だ。
「心配はいらん。話はついておる」
そういうことか、とファングはまた心の中で呟く。検問所のある森の最東端周辺は王家直轄の土地となっている。だが事実上の管理は担当する省庁が行っており、そのトップは代々八源家が独占していた。
『HLOと繋がっている八源家が商国との国境を自由にしているわけか。いよいよ商国に奴らの拠点がある可能性が高くなったな』
ファングがそう考えている間に暴君猿人は馬車に近づき、荷台の少女を背中に担ぐ。ローブを着た年輩の男ではない方が後ろに回り、獣人と少女を太い紐で繋ぐ。
『まずい。このままいかせてもいいものか……』
内心焦りながらファングは無意識に御者台に手を伸ばす。そこに置いてあった皮袋に手が触れ、おっ、とファングは思い出す。そういえばここに発つ前、ボボルが念のためにとここに置いていったものだ。急いで紐を緩め中身を確かめたファングは思わず唸った。
『あいつ、どこまで読んでやがるんだ』
感心している場合ではないとファングは即座に行動を起こす。
「おい、乱暴に扱うなよ。ご令嬢なんだからよ」
そう言いながら馬車を飛び降りる際、さりげなく皮袋に手を当てて地面に落とし、それを踏みつける。グシャッろいう音がして、同時に鼻を刺すような強烈な匂いが辺りに広がる。
「ガッ!?」
暴君猿人が鼻を抑えて地団駄を踏む。よろけそうになるのを慌ててローブの人物が支えた。
「ちょっと!何よ、この臭い!?」
ローブの人物が叫ぶ。声からして女性らしい。
「ああ悪い悪い。来る途中でスパイシーナッツが生ってたんでな、採って来たんだ。酒のつまみにいいんだぜ?」
「生のスパイシーナッツの臭いなんか嗅いだら鼻が曲がっちゃうじゃない!まして獣人族は嗅覚が鋭いんだから。しばらく鼻が利かなくなるわよ!」
「別に検問所に話が付いてるなら問題ないだろ?」
暴君猿人はまだ鼻を押さえて顔をしかめている。狙い通りしばらく鼻は役に立たないだろう。ファングはボボルの先見の明に感心しつつ、しれっと形ばかりの謝罪をする。スパイシーナッツは本来は数時間水に漬けて刺激臭を出す成分を抜いてから天日干しし、それを炒めて食する木の実だ。生のままでは臭いがきつすぎて、宿への持ち込みも断られるくらいの代物だった。
「致し方ない。動くには問題なかろう?鍵に怪我をさせないように気を付けろ」
年輩の男の方が暴君猿人に言う。フードに隠れて見えないが、彼もこの強烈な臭いに顔をしかめているだろう。
「ぐ、うう」
苦しそうな顔をしながらも暴君猿人がゆっくりと歩き出す。その後を年輩の男が付いていく。
「あんたは一緒に行かないのか?」
ファングが女の方に尋ねる。
「別の任務があるのよ。悪いけど町まで馬車に乗っけていってくれない?」
「ああ、構わねえよ」
こいつは思わぬ収穫だ、とファングは喜ぶ。が、簡単にOKしては逆に訝しがられる可能性もあると思い、わざと軽口を効いた。
「しかしいいのか?あんた、俺の噂は聞いてないのか?」
「気に入った女には見境なく手を出す男だと?顔を見せなければその気にもならないでしょう?」
「そう言われると是非見たくなるな」
「お断りよ。あんたは嫌いなタイプじゃないけど、遊んでる暇はないの」
「そりゃ残念だ」
肩をすくめ、ファングは御者台に飛び乗る。女は黙って荷台へ上がった。
「どっちへ行く?」
「とりあえず最寄りの町でいいわ」
「へいへい」
ファングはちらっと後ろを見やって馬車を動かす。
『上手くやれよ、パンナ、ザック』
暴君猿人と年輩の男が歩いていくのを見送りながら、ファングは心の中で呟いた。
「アンセリーナお嬢様が宝物庫の鍵!?」
ファングの話を聞いたパンナが驚きの声を上げる。べスター城のパンナの私室。今はアンセリーナが公爵夫人として振舞っているため、パンナは眼鏡を掛けたメイドスタイルでいる。ボナーは半日ほど前にエラインと共にノーライアに向かって発っていた。
「彼女を産んだミレーヌがグランダ大陸から連れてこられた先代の鍵だったようでね。それがアンセリーナ嬢に受け継がれたようだ」
ボボルが眠そうな目をこすりながら言う。ここ最近は彼にしてはおきている時間が長く、疲れが溜まっている。
「それでHLOがあなたにお嬢様の拉致を命令したと?」
パンナがじろりとファングを睨む。
「そんな怖い顔しないでやってくれよ。彼、君のために自分の命を捨てる覚悟までしたんだから」
「え!?どういうことです?」
ボボルはファングが口止めするより早く、モースキンでの出来事をパンナに話す。それを聞いたパンナは顔を真っ赤にして怒った。
「何を考えてるんです!ミラージュちゃんやファンタムちゃんを置いて死ぬつもりだったんですか!?」
「そう怒るなよ。いきなりそんな指示をされてちょっと焦っちまったのさ」
「そう責めないでやってくれってば。君といいミラージュたちといい素直じゃないねえ。ファングも案外娘たちに慕われてるんだね」
「だ、誰が慕ってなんか」
パンナが目元に溜まった涙を拭ってプイ、と横を向く。その仕草が先日のミラージュとそっくりだったのでボボルは思わず笑みを浮かべた。
「何を気持ち悪い顔してるんです?ボボルさん」
「気持ち悪いはひどいなあ。で、本題なんだけど、これはチャンスだと思ってね。HLOの拠点を突き止めてスパインを救出するのにね」
「お前、アンセリーナの嬢ちゃんを渡すって本気なのか?」
「そんなこと出来るわけないじゃないですか!」
パンナがボボルに食って掛かる。
「そう興奮しないでよ。アンセリーナ嬢本人を受け渡すのは危険だけど、向こうにとってアンセリーナ嬢であればいいだろう?」
「何を言って……」
「そうか、そういうことですね?」
ファングが顔をしかめるのとは対照的にパンナが納得したように頷く。
「どういう意味だ?」
「あなた、私がなんでボナーと結婚したか忘れたの?」
「なんでってお前が嬢ちゃんの身代わりで見合いをしたって……おい、まさか!」
「ええ。私がお嬢様に扮して奴らに連行され、拠点を突き止めるってことよ。でしょう?」
「まあそういうことだね。サンクリスト公に妻が攫われたと喧伝してもらえば奴らも信じるだろう。本物は隠れていてもらうことになるけど」
「待て待て。パンナが行っても危険なことに変わりはないだろう。奴らの拠点にどれだけの敵がいるか分からないんだぞ」
「無論、一人で送り込むようなことはしないよ。ザックも帰って来てるし、また尾行してもらうつもりさ。カサンドラも付けてね」
「だかな」
「娘が心配なのは分かるが、これは千載一遇のチャンスだ。無駄にはしたくないね」
「そうよ。敵は多いですもの。一つでも叩けるときに叩いておかないと」
「仕方ねえか。くれぐれも気を付けろよ。……そういえば俺に指示を持ってきた男はどうした?ザックが尾行したんだろ」
「ああ。やつらの拠点の一つは分かったよ。メキアの森の獣人族の集落の中だ。だが連絡係の中継地点くらいの場所のようだ。HLOと思しき人間はほとんどいなかったそうだよ。おそらくその集落の獣人族が奴らに協力してるんだろう」
「そこにスパインはいなかったんだな?」
「ああ。ザックが一回りしたが、見当たらなかったと言ってる。そこまで単純な真似はしないだろうさ」
「ならやるしかねえか」
「こっちも万全の準備をするさ。奴らはアンセリーナ嬢をどこへ連れて来いといってたんだい?」
「メキアの森の東端だ。国境の近くだな」
「やはり商国に連れて行く気か。それじゃ作戦を練ろうか」
ボボルはそう言って、関係者を集めるようパンナに頼んだ。
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