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第104話 鍵の行方
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「ハッサム殿下が八源家と個別に会談を?」
情報共有のためノーラン城に来たボナーはユーシュから話を聞き、少なからず驚いた。パンナの予想がずばり当たっていたせいもあるが、その行動の早さも予想以上だった。
「アスモデウス家、べへモス家、ラハブ家に天使の末裔がいることが分かり、その一人であるサラの口から各家がどこの勢力に属しているかも大体分かった。その後の面談でその予想が当たっていることが確かめられたそうだ。エンバブ家とムシュアナ家はどこの手も伸びていない。べアリス家はキシュナー家と関係が深く、それで問い詰めたらあっさりHLOとの繋がりを認めたそうだ。といってもキシュナー家ほど深い付き合いはないらしい」
「残るパイモン家は?」
「サラの予想ではクリムト家と同じく六芒星の協力者だろうということだが、パイモン卿は殿下の呼び出しに応じず、屋敷から出てこないらしい。近く強制捜査に入るという話だが、抵抗も予想されるので王都は今緊迫した状態にある」
「ヘルナンデスたちが現れる可能性もあると?」
「最悪の場合はな。王都での内戦などしたくはないのだが」
「そうだな。ところでそのサラは人間を滅ぼして女神に復讐するつもりだと認めたのか?」
「ああ。それでハッサム殿下が脅しをかけたようだ。女神への復讐を諦めるようにな」
「流石だな。で、他には何か言ってたのか?」
ユーシュはハッサムから聞いた話を詳しくボナーに伝え、ボナーもゼノーバから聞いた報告をそのままユーシュに話す。情報を交換したボナーは神妙な顔で考え込んだ。
「天使が生きるのに必要なプラーナ……ミッドレイ殿が言っていた『氣』と同じものではないだろうか?」
「考えられるな。サムライが超人的な力を持っているとするなら氣、つまりはプラーナを感じ取りコントロールすることでそれをなしている可能性は高いと思う」
「それがそのまま原初の力にも通じているとしたら、やはり氣の修得は強化に必要不可欠だな」
「皇国の尖兵がそのサムライだというなら、そいつがすでに皇国の人間に『氣』を教えている可能性もあるんじゃないか?」
「うむ。皇国に出奔したサムライがそいつ一人とは限らんからな。数は少なくても皇国の兵士が原初の力を使えるとなったら脅威だろう」
「……考えたんだが、もし海を渡れる船があるのならその九頭竜国に協力を頼めはしないだろうか?」
「九頭竜国に?」
「ああ。九頭竜国は鎖国をしていると言っていたろう?皇国と繋がっているとは思えない。サムライの力が借りられれば皇国と戦うのに助けとなる」
「鎖国してるんだぞ?こちらの要請に応えてくれるとは……」
「話をするだけの価値はあるだろう。ミッドレイ殿やその皇国の尖兵が海を渡ってこれたということは、船の往来まで不可能なわけではないはずだ」
「だが海を渡れるような船がこの国にあるのか?王都は内陸で海がない。そのような話は聞いたことがないが」
「王家にはない。だがキシュナーー家の領地や商国にはグランダ大陸からの船が来ているんだろう?」
「それに乗っていくということか。殿下は『四公』の呼び出しはしているのか?俺のところには何も来ていないが」
「お前は呼ぶ必要がないだろう。他の三家には呼び出し状を送っているようだ。だが素直に来るとは思えんな」
「純血の上位霊種であるイグニアス家、HLOと関係の深いキシュナー家、商国と繋がりが深く、一方で略奪もしているらしいゴンドアナ家、のこのこと王都にやって来るとは確かに思えないな」
「各地方の自治を完全に『四公』に任せてきたツケが回ったというところか。もしかすると八源家は各勢力との繋がりに気付いていて『四公』を王都に近づけなかったのかもしれんな」
「どこの勢力も完全に国を掌握するだけの力が無く、下手に国内で衝突するのを避けていた可能性は高いな。帝国との兼ね合いもあったろうし」
「特に八源家は国の権力を恣にしてきたからな。内戦にでもなって既得権益を失うのは嫌がったろう」
「だが六芒星が表に姿を現した以上、そうも言ってられなくなってるだろうな」
「不測の事態に備えると同時にやはり戦力の増強は喫緊の課題だな」
「僕は氣の修得に参加するつもりだ。パンナもね。僕は止めたんだが」
「大切な者を守るために強くなりたいということか。まったくお前が羨ましいよ」
「愛する人がいるというのがこんなに素晴らしいとは少し前の自分にはとても分からなかったよ。お前も早くいい人を見つけるんだな」
「簡単に言ってくれる。お前みたいに惚れた女を自分の意志で娶るなんてそうそう出来るもんじゃない。貴族やまして王族にはな」
「僕はそれが普通に出来る国を創りたいと思っているんだがな」
「国を変える、か。お前の言葉じゃなければ笑いとばすところだがな」
ユーシュは王家の身でありながら、ボナーがそれを成すことをどこか期待している自分に気が付き、苦笑した。
「確かなのか?それは」
ヘルナンデスが身を乗り出してアイアコスに詰め寄る。アイアコスは首をすくめ、苦笑しながら頷く。
「ああ。前からそうじゃないかって疑いはあったんだが、評議会に潜入してるラダマンティスが確認したってさ」
「宝物庫の鍵がこの大陸に……どうりで向こうでいくら探しても見つからないわけだ」
「とんだ無駄骨だったわけだ。いかにもって厳重な警備を本拠地にしてるくせにやってくれたもんだ、HLOも」
「で、鍵はこの大陸のどこにいるんだ?」
「二人ともグランダ大陸からここに連れてこられた時は西の港から上陸したらしい。もうHLOはキシュナー家と接触していたからね。おそらくそこでかくまうつもりだったんだろう。分かってるのはそこまでだ」
「ならキシュナー家に攻め込んでっ鍵を奪取すればいいだけではないか」
「慌てるなよ。分かってるのはこの大陸に来た時までだ、と言ったろう。確かな情報ではないが、どうやら鍵の二人は西の港から移送されている途中で行方不明になったらしい」
「行方不明だと?HLOの人間が護衛していたのではないのか?」
「付いていたはずだ。だがどうやら鍵を攫ったのは教団の異能者狩りだったうようでね」
「教団の?ならすぐに俺たちに報告が来ていたはずだろう!」
「それが間抜けな話さ。教団は鍵のことなんか知らないし、ましてそれがここに運ばれてくるなんて知る由もない。僕らだって。知らなかったんだからね。だから一緒に移送していた獣人族と一緒に攫っちまったわけだ」
「何故だ?鍵は人間だろう。それに一緒にいたのがグランダ大陸から上陸した獣人族なら上位霊種に異能を与えられてはいないはずだ。異能者狩りが狙うはずがなかろう」
「今となっては詳しいことは分からんけどね。天使の羽根の素体として使うつもりだったのかもしれない。とにかく鍵は攫われ、教団の施設に運ばれたらしい。最悪なのはその直後に例の『シーザーズの反乱』が起きたことだ」
「まさか……」
「そのまさかさ。逃げ出した子供らの中に鍵の二人も含まれていた可能性が高い。ラダマンティスは評議会にかなり深く潜り込んだようで、当時のことをよく調べてくれた。この大陸に運ばれた鍵は二人とも当時まだ子供で、先代から継承を受けたばかりだったそうだ。先代は皇国や我々の目を欺くためにそのまま評議会に残った。そして新たな鍵となった二人の子供はグランダ大陸を出る直前に継承が正しく行われたのかを確かめるために一度だけ宝物庫を開き、神装具を数個取り出したそうだ」
「それでは今は宝物庫は……」
「開けないだろうね。鍵が行方不明なんだ。評議会はこのことを必死に隠してきたみたいだ。当然だよね。神装具が取り出せないと分かったら皇国が一気に攻め込むかもしれないからね」
「他人事ではないぞアイアコス。鍵の行方が分からなければこの大陸を手中にしても意味がなくなる」
「そうなんだよ。僕は前から今回の作戦には疑問を持ってたんだ。この大陸を餌にして鍵の二人を篭絡する、というのはまあ分からんでもない。でも鍵をこの大陸に運んでくるのは大陸を支配するのと同じくらい面倒だと思わないか?評議会だってバカじゃないし、鍵の居場所を簡単に明かすわけもない。実際ラダマンティスもまだ先代の二人の居場所は掴めてないようだ。実際はもう鍵の役目を終えている二人でさえ、そこまで徹底的に隠しているんだ。こっちに鍵をスカウトするのは簡単じゃないよ」
「何が言いたい?」
「だけど鍵がこの大陸にいると知っていたなら別だ。王国と帝国を陥落させたらそのまま交渉の材料にして話が出来る」
「知っていた……まさか」
「ああ。おそらくあのお方は知っていたのさ。鍵がこの大陸に運ばれたことをね。だから我々にこの大陸の支配を命じたのさ」
「そのことを何故あの方は黙っていたのだ?我らまで騙していたということか」
「さて、それは神ならぬ我が身には分からんってやつだね。しかしおそらくあの方も鍵が今どこにいるかまでは分かってないだろう。行方不明になったのは想定外だったろうしね」
「作戦の遅延についてお叱りがないと思ったらそういうことか」
「肝心の鍵が見つからなければ作戦自体が無意味だからな。おそらくは鍵の捜索を我々とは別に以前から行っていたんだろう」
「作戦を命じた手前、鍵がどこにいるか分からんでは恰好がつかんか。あの方も案外可愛い所がある」
「それで納得がいったよ。僕の見たところ聞いていた以上の戦力がこの大陸には入り込んでる。護星剣などがね」
「勅命を受けて鍵を探してるわけか。スターゲイトたちとは別に動いているということだな?」
「多分ね。僕らが知らない奴らもいるだろう。帝国にも入り込んでる可能性は高いと思うよ」
「ふん、それはそっちに任せておけばいい。我らは命令通りこの大陸の掌握のために動くだけだ」
「とはいっても帝国の侵攻作戦は失敗したし、王都の協力者もバレたんだろう?どうするつもりだい?」
「こうなれば正面から攻めるまでだ。戦力を集め、まずは王国と帝国の国境一帯を落とす」
「両国ににらみを利かせる前線基地を造るか。いいだろう。協力するよ」
「これまでの借りを返してやる。あの出来そこないの英雄どもにもな」
ヘルナンデスはそう言って壁をドンと叩いた。
情報共有のためノーラン城に来たボナーはユーシュから話を聞き、少なからず驚いた。パンナの予想がずばり当たっていたせいもあるが、その行動の早さも予想以上だった。
「アスモデウス家、べへモス家、ラハブ家に天使の末裔がいることが分かり、その一人であるサラの口から各家がどこの勢力に属しているかも大体分かった。その後の面談でその予想が当たっていることが確かめられたそうだ。エンバブ家とムシュアナ家はどこの手も伸びていない。べアリス家はキシュナー家と関係が深く、それで問い詰めたらあっさりHLOとの繋がりを認めたそうだ。といってもキシュナー家ほど深い付き合いはないらしい」
「残るパイモン家は?」
「サラの予想ではクリムト家と同じく六芒星の協力者だろうということだが、パイモン卿は殿下の呼び出しに応じず、屋敷から出てこないらしい。近く強制捜査に入るという話だが、抵抗も予想されるので王都は今緊迫した状態にある」
「ヘルナンデスたちが現れる可能性もあると?」
「最悪の場合はな。王都での内戦などしたくはないのだが」
「そうだな。ところでそのサラは人間を滅ぼして女神に復讐するつもりだと認めたのか?」
「ああ。それでハッサム殿下が脅しをかけたようだ。女神への復讐を諦めるようにな」
「流石だな。で、他には何か言ってたのか?」
ユーシュはハッサムから聞いた話を詳しくボナーに伝え、ボナーもゼノーバから聞いた報告をそのままユーシュに話す。情報を交換したボナーは神妙な顔で考え込んだ。
「天使が生きるのに必要なプラーナ……ミッドレイ殿が言っていた『氣』と同じものではないだろうか?」
「考えられるな。サムライが超人的な力を持っているとするなら氣、つまりはプラーナを感じ取りコントロールすることでそれをなしている可能性は高いと思う」
「それがそのまま原初の力にも通じているとしたら、やはり氣の修得は強化に必要不可欠だな」
「皇国の尖兵がそのサムライだというなら、そいつがすでに皇国の人間に『氣』を教えている可能性もあるんじゃないか?」
「うむ。皇国に出奔したサムライがそいつ一人とは限らんからな。数は少なくても皇国の兵士が原初の力を使えるとなったら脅威だろう」
「……考えたんだが、もし海を渡れる船があるのならその九頭竜国に協力を頼めはしないだろうか?」
「九頭竜国に?」
「ああ。九頭竜国は鎖国をしていると言っていたろう?皇国と繋がっているとは思えない。サムライの力が借りられれば皇国と戦うのに助けとなる」
「鎖国してるんだぞ?こちらの要請に応えてくれるとは……」
「話をするだけの価値はあるだろう。ミッドレイ殿やその皇国の尖兵が海を渡ってこれたということは、船の往来まで不可能なわけではないはずだ」
「だが海を渡れるような船がこの国にあるのか?王都は内陸で海がない。そのような話は聞いたことがないが」
「王家にはない。だがキシュナーー家の領地や商国にはグランダ大陸からの船が来ているんだろう?」
「それに乗っていくということか。殿下は『四公』の呼び出しはしているのか?俺のところには何も来ていないが」
「お前は呼ぶ必要がないだろう。他の三家には呼び出し状を送っているようだ。だが素直に来るとは思えんな」
「純血の上位霊種であるイグニアス家、HLOと関係の深いキシュナー家、商国と繋がりが深く、一方で略奪もしているらしいゴンドアナ家、のこのこと王都にやって来るとは確かに思えないな」
「各地方の自治を完全に『四公』に任せてきたツケが回ったというところか。もしかすると八源家は各勢力との繋がりに気付いていて『四公』を王都に近づけなかったのかもしれんな」
「どこの勢力も完全に国を掌握するだけの力が無く、下手に国内で衝突するのを避けていた可能性は高いな。帝国との兼ね合いもあったろうし」
「特に八源家は国の権力を恣にしてきたからな。内戦にでもなって既得権益を失うのは嫌がったろう」
「だが六芒星が表に姿を現した以上、そうも言ってられなくなってるだろうな」
「不測の事態に備えると同時にやはり戦力の増強は喫緊の課題だな」
「僕は氣の修得に参加するつもりだ。パンナもね。僕は止めたんだが」
「大切な者を守るために強くなりたいということか。まったくお前が羨ましいよ」
「愛する人がいるというのがこんなに素晴らしいとは少し前の自分にはとても分からなかったよ。お前も早くいい人を見つけるんだな」
「簡単に言ってくれる。お前みたいに惚れた女を自分の意志で娶るなんてそうそう出来るもんじゃない。貴族やまして王族にはな」
「僕はそれが普通に出来る国を創りたいと思っているんだがな」
「国を変える、か。お前の言葉じゃなければ笑いとばすところだがな」
ユーシュは王家の身でありながら、ボナーがそれを成すことをどこか期待している自分に気が付き、苦笑した。
「確かなのか?それは」
ヘルナンデスが身を乗り出してアイアコスに詰め寄る。アイアコスは首をすくめ、苦笑しながら頷く。
「ああ。前からそうじゃないかって疑いはあったんだが、評議会に潜入してるラダマンティスが確認したってさ」
「宝物庫の鍵がこの大陸に……どうりで向こうでいくら探しても見つからないわけだ」
「とんだ無駄骨だったわけだ。いかにもって厳重な警備を本拠地にしてるくせにやってくれたもんだ、HLOも」
「で、鍵はこの大陸のどこにいるんだ?」
「二人ともグランダ大陸からここに連れてこられた時は西の港から上陸したらしい。もうHLOはキシュナー家と接触していたからね。おそらくそこでかくまうつもりだったんだろう。分かってるのはそこまでだ」
「ならキシュナー家に攻め込んでっ鍵を奪取すればいいだけではないか」
「慌てるなよ。分かってるのはこの大陸に来た時までだ、と言ったろう。確かな情報ではないが、どうやら鍵の二人は西の港から移送されている途中で行方不明になったらしい」
「行方不明だと?HLOの人間が護衛していたのではないのか?」
「付いていたはずだ。だがどうやら鍵を攫ったのは教団の異能者狩りだったうようでね」
「教団の?ならすぐに俺たちに報告が来ていたはずだろう!」
「それが間抜けな話さ。教団は鍵のことなんか知らないし、ましてそれがここに運ばれてくるなんて知る由もない。僕らだって。知らなかったんだからね。だから一緒に移送していた獣人族と一緒に攫っちまったわけだ」
「何故だ?鍵は人間だろう。それに一緒にいたのがグランダ大陸から上陸した獣人族なら上位霊種に異能を与えられてはいないはずだ。異能者狩りが狙うはずがなかろう」
「今となっては詳しいことは分からんけどね。天使の羽根の素体として使うつもりだったのかもしれない。とにかく鍵は攫われ、教団の施設に運ばれたらしい。最悪なのはその直後に例の『シーザーズの反乱』が起きたことだ」
「まさか……」
「そのまさかさ。逃げ出した子供らの中に鍵の二人も含まれていた可能性が高い。ラダマンティスは評議会にかなり深く潜り込んだようで、当時のことをよく調べてくれた。この大陸に運ばれた鍵は二人とも当時まだ子供で、先代から継承を受けたばかりだったそうだ。先代は皇国や我々の目を欺くためにそのまま評議会に残った。そして新たな鍵となった二人の子供はグランダ大陸を出る直前に継承が正しく行われたのかを確かめるために一度だけ宝物庫を開き、神装具を数個取り出したそうだ」
「それでは今は宝物庫は……」
「開けないだろうね。鍵が行方不明なんだ。評議会はこのことを必死に隠してきたみたいだ。当然だよね。神装具が取り出せないと分かったら皇国が一気に攻め込むかもしれないからね」
「他人事ではないぞアイアコス。鍵の行方が分からなければこの大陸を手中にしても意味がなくなる」
「そうなんだよ。僕は前から今回の作戦には疑問を持ってたんだ。この大陸を餌にして鍵の二人を篭絡する、というのはまあ分からんでもない。でも鍵をこの大陸に運んでくるのは大陸を支配するのと同じくらい面倒だと思わないか?評議会だってバカじゃないし、鍵の居場所を簡単に明かすわけもない。実際ラダマンティスもまだ先代の二人の居場所は掴めてないようだ。実際はもう鍵の役目を終えている二人でさえ、そこまで徹底的に隠しているんだ。こっちに鍵をスカウトするのは簡単じゃないよ」
「何が言いたい?」
「だけど鍵がこの大陸にいると知っていたなら別だ。王国と帝国を陥落させたらそのまま交渉の材料にして話が出来る」
「知っていた……まさか」
「ああ。おそらくあのお方は知っていたのさ。鍵がこの大陸に運ばれたことをね。だから我々にこの大陸の支配を命じたのさ」
「そのことを何故あの方は黙っていたのだ?我らまで騙していたということか」
「さて、それは神ならぬ我が身には分からんってやつだね。しかしおそらくあの方も鍵が今どこにいるかまでは分かってないだろう。行方不明になったのは想定外だったろうしね」
「作戦の遅延についてお叱りがないと思ったらそういうことか」
「肝心の鍵が見つからなければ作戦自体が無意味だからな。おそらくは鍵の捜索を我々とは別に以前から行っていたんだろう」
「作戦を命じた手前、鍵がどこにいるか分からんでは恰好がつかんか。あの方も案外可愛い所がある」
「それで納得がいったよ。僕の見たところ聞いていた以上の戦力がこの大陸には入り込んでる。護星剣などがね」
「勅命を受けて鍵を探してるわけか。スターゲイトたちとは別に動いているということだな?」
「多分ね。僕らが知らない奴らもいるだろう。帝国にも入り込んでる可能性は高いと思うよ」
「ふん、それはそっちに任せておけばいい。我らは命令通りこの大陸の掌握のために動くだけだ」
「とはいっても帝国の侵攻作戦は失敗したし、王都の協力者もバレたんだろう?どうするつもりだい?」
「こうなれば正面から攻めるまでだ。戦力を集め、まずは王国と帝国の国境一帯を落とす」
「両国ににらみを利かせる前線基地を造るか。いいだろう。協力するよ」
「これまでの借りを返してやる。あの出来そこないの英雄どもにもな」
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