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第103話 悪い予感
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「そんな……ネムムさんが?」
ゼノーバの報告を聞き、パンナが絶句する。彼はモースキンからカサンドラの転移を使ってべスター城に帰還し、ボナーたちに駐屯所であったことを話した。ボナーたちはオールヴァートを見舞ってアンセリーナを改めて紹介した後だった。
「パンナの推理通りオルトという男がエルモンド卿を唆した張本人だったか。皇国の尖兵に協力していたとはな」
ボナーが難しい顔をして考え込む。
「コウリュウという皇国の尖兵は逃走。ミッドレイ殿と同じ九頭竜国のサムライであるということです」
「ミッドレイさんがサムライ?」
パンナが驚いて息を呑む。
「はい。極東にある島国、九頭竜国の戦士のことだそうです。彼は九頭竜国を出奔し、この大陸に渡って来たとのこと」
「遠く離れた島国から単身でここまで来たとは思えない。彼はどうやって海を渡ってきたのかな?」
「それなのですが……どうやら大陸の西部、キシュナー家の領地あたりと思われますが、それと東部、これは商国の港のようです、この両湾にグランダ大陸からの大型船が何度もやって来ているらしいのです。ミッドレイ殿は商国側から上陸したそうです」
「キシュナー家の領地に?HLOとの繋がりはそこからか」
「恐らくは。商国には他にも別の大陸から獣人族や異郷人が上陸することが多いようです。皇国から逃げてきた者が大半とのことで」
「西側に来る船はHLOの関係者、東側に来るのは皇国からの逃亡者ということか」
「でもそこにコウリュウのように皇国の意図で送り込まれた者も混ざっているということですね」
「サムライもいわば異郷人だからな。見分けるのは困難だろう。まして商国は獣人族中心の国だ。受け入れに抵抗もないだろうしな」
「商国から上陸したとなれば帝国にも入り込むのは難しくなさそうですね」
「うん。僕の見たところ、皇国は帝国に王国を占領させたがっているように思える。帝国軍への技術提供も皇国からされていると見るべきだろうな」
「それから帝国を自分の支配下に置くつもりでしょうか?でもなぜ皇国はわざわざこの大陸への侵攻を考えているのでしょう?こう言ってはなんですが、技術的に劣った国を占領しても大きなメリットは無いようにも思えますが」
「そうでもない。資源の調達や労働力の確保、嫌な言い方をすれば奴隷だね。それらを得るために侵攻することはあるだろう。しかしわざわざ海を越えてくるほどの意味があるかと言われると、少し疑問に思うね」
「そうですね。帝国は不作が続いていると聞きました。ですから食糧確保のための侵攻なら分かります。でもそれも隣国だからであって、例え力が劣った国があったとしても海を越えてまで攻めに行くかと考えたらそうはならないのではないかと」
「何か理由があるのなら話し合いで何とか出来るかもしれない。それでも先日の帝国撃退の時のように一度は戦わないと向こうも話し合いのテーブルには着いてくれないかもしれないな」
「それに関してですが、ミッドレイ殿がサムライが会得している『氣』というもののコントロールに付いて教えるということです。戦力アップにつながるとミリアネル団長はお考えのようです。それで自分もそれに参加したいのですが」
「ふむ、六芒星や皇国の戦士に対抗するために我々も強くならなければならないということだな。僕もその氣の修得に参加したい。一緒に連れていってくれないか」
「ボナー様もですか?しかし公務がおありまのでは?」
「しばらくの間、家のことはパンナに任せたいと思う」
「待ってください。ボナー、強くなるというのであれば私もいっしょに行かせてください」
「ダメだ。言ったろう。君をこれ以上危険な目には……」
「私の絶対防御は戦いにおいて力になります。私はそれだけでなく、新しい力を手に入れてあなたを助けたいのです」
「しかしこの家を守る者も必要だ」
「それならば私がお留守を守りますわ」
リーシェが力強い口調でボナーに言う。
「リーシェ、しかし……」
「私もお兄様とお姉様の、そしてこの国のために働きたいのです。それに私が助力を頼めば、塞ぎこんでおられる父上も少しは元気になられるやもしれません」
「そうか……確かにな」
「そういうことであればアンセリーナ様には当家の奥方として振舞っていただかねばなりませんな。しっかりと教育させていただきますので覚悟してくださいませ」
メルキンが慇懃に頭を下げる。
「お、お手柔らかに頼むわね」
アンセリーナが引きつった笑みを浮かべ、リーシェが「ご安心くださいアンセリーナお姉さま。私がサポートいたしますわ」と屈託のない笑みを向ける。
「そうと決まればまずユーシュに状況を伝えておきたい。カサンドラに頼んでノーラン城に跳んでもらおう」
ボナーはメルキンとリーシェに留守中に注意することを伝え、ゼノーバとパンナ共に出かける準備に向かう。
「お気をつけて」
リーシェの不安を隠すような強いまなざしに頷き、ボナーたちは改めて気を引き締めた。
「腑に落ちない点があってね」
モースキンの騎士団駐屯所にある拘留室。椅子に縄で拘束されたオルトを見つめながらボボルがいつもののんびりした口調で言う。
「君があのコウリュウとかいう皇国の尖兵に接触したのはもう大分前だろう?おそらくエルモンド卿がミレーヌさんを保護した前後だと思うけど?」
「それがどうした」
「そう怖い顔しないでよ。君を八つ裂きにするって騒ぐフルルを宥めるのに苦労したんだから」
「恩に着せるつもりか?」
「いやいや。反対側の検問所とはいえ同じエルモンド卿に雇われた仲間だ。腹を割って話がしたいだけさ。君が皇国に協力してるのを見抜けなかったのは反省すべき点だけどね」
「叡智樹懶がいるって噂は聞いてたからな。出来るだけ接触しないよう気を付けてはいた」
「成程。それで話の続きだけど、僕の見たところ皇国は帝国に技術供与をしてるね?帝国に王国を占領させて、それから帝国を屈服させることで労力を削減してこの大陸を手中にしようとしてる。そうだろ?」
「皇国の目論見までは知らん。俺はコウリュウの指示で動いていただけだ」
「そこなんだよねえ。君は先日の帝国撃退作戦において重大な役目を果たした。コウリュウが皇国の尖兵なら君があんな帝国に不利な役目をすることを黙って見過ごすとは思えないんだよ。彼はずっと君の影の中にいたのかい?」
「いや、普段は独自に動いていて、この間のようにどこかに潜入するときなどに俺の異能を利用していた」
「じゃあ外で誰かと接触していても君は知る由がないわけだ」
「何が言いたい?」
「コウリュウはミッドレイ殿と同じ九頭竜国のサムライ。ミッドレイ殿は自分の意志で出奔したそうだけど、コウリュウは追放されたようだ。腕を買われて筆頭百人隊長になったようだけど、元々皇国の人間じゃないからね。国にそこまでの忠義心を持ってるとは思えない」
「皇国の思惑は知らんと言った。それはコウリュウ個人についても同じだ」
「ミッドレイ殿に九頭竜国の宗教観について訊いてみたんだけどね。彼の国ではイシュナル教徒もオーディアル教徒もほとんどいないそうだ。古くから万物に神が宿っているという神道という考え方が定着しているようでね。万物に氣が宿っているというサムライの考え方に通じるものがある。一方で六芒星はオーディアル信徒ということで教団を操っていたが、その実原初の闇を崇拝している。全ての始まりである原初の闇と万物に宿る神。考え方が似ているとは思わないかい?」
「コウリュウが皇国を裏切り六芒星と組んでいると?」
「最初からそうではなかったろうけど、この大陸で活動しているうちに彼らと接触し、近づいていった可能性は否定できないと思うね」
「考えられんな。コウリュウに何の得がある?」
「そもそも皇国がなぜこの大陸に侵攻しようとしているのか。僕は疑問でね。海を越えてまで攻めてくる価値があるのか大いに疑いを持たざるを得ない」
「だから皇国が何を考えているかなど知らんよ」
「では六芒星はどうか?ファング殿の話だと彼らは宝物庫を開く鍵となる人間を篭絡して自分たちの手中に収めることを企んでいるようだ。彼らを手に入れれば神装具を自由に取り出せる。今鍵を抑えているHLOの人間は神装具を使うことが出来ない。だから表向きは協力関係を結んで皇国に対抗できているわけだ。でもね、手間をかけてこの大陸を支配したとして、それから鍵となる人間をグランダ大陸からここに連れてくるのは大変だと思うよ。HLOだって簡単に引き渡すとは思えないし、内輪もめをしてはそれこそ皇国の思う壺だ。だけど」
ボボルはそこでいったん言葉を切り、愉快そうに笑う。
「鍵となる人間がこの大陸にいるのならその手間は省けるよねえ」
「なんだと!?」
オルトが驚いて息を呑む。
「ファング殿の話を聞いて最初から疑問だったんだよ。鍵となる人間がグランダ大陸の連合評議会とやらにいるのなら、皇国はどうして力ずくで彼らを奪わないんだろうってね。確かに神装具の力は脅威だが、戦力で言えば皇国はHLOを圧倒しているらしいじゃないか。それに秘密裏に工作員を潜入させて六芒星がやろうとしているように彼らを篭絡することも可能だ。皇国ならHLOより魅力的な提案はいくらでも出来ると思うよ。でも未だに鍵はHLOの手にある。ということは、鍵はグランダ大陸には居ないんじゃないか、って僕は考えた。ならばどこに?この大陸には定期的にグランダ大陸からの船が来ているそうじゃないか、ならその中に鍵となる人間を紛れ込ませることも可能だろう。HLOは西のキシュナー家と繋がりが深いようだ。彼らの元に鍵となる人間を預けたという可能性も否定できないんじゃないかってね」
「それじゃ皇国の狙いは……」
「六芒星と同じ鍵の奪取。大陸の制覇はそのおまけというか、同じように自分たちに協力させるための餌にするつもりなんじゃないかな?」
「だが皇国が鍵を手に入れても意味はなかろう。奴らはHLOと同じく神装具は使えんはずだ」
「使える者を手にしていたら?」
「まさか……サムライ?」
「僕はミッドレイ殿の話を聞いて『氣』というのは原初の力に通じる者があると考えている。九頭竜国を追われた者がコウリュウ一人とは限らないし、他にも原初の力を持つ者を配下にしていてもおかしくは無いと思うよ」
「それで鍵を手に入れ神装具を取り出したとしてどうする?HLOや天使の末裔を皆殺しにするのか?」
「皇国は広い領土を確保しているし、喫緊の脅威があるようにも思えないんだよね。それなのにわざわざこの大陸まで来て鍵を手に入れようとしているってのはどうも気になるんだよ。もしかしたら僕たちが思いもよらない危機がこの世界に迫ってて、公国はそれを知ってるんじゃないかってね」
「思いもよらない危機、だと?」
「そう。例えば女神が天使に神装具を与えたそもそもの理由。異世界からの脅威が迫ってるとかね」
おどけているようでどこか真剣な雰囲気を漂わせ、ボボルはそう言って軽く首を振った。
ゼノーバの報告を聞き、パンナが絶句する。彼はモースキンからカサンドラの転移を使ってべスター城に帰還し、ボナーたちに駐屯所であったことを話した。ボナーたちはオールヴァートを見舞ってアンセリーナを改めて紹介した後だった。
「パンナの推理通りオルトという男がエルモンド卿を唆した張本人だったか。皇国の尖兵に協力していたとはな」
ボナーが難しい顔をして考え込む。
「コウリュウという皇国の尖兵は逃走。ミッドレイ殿と同じ九頭竜国のサムライであるということです」
「ミッドレイさんがサムライ?」
パンナが驚いて息を呑む。
「はい。極東にある島国、九頭竜国の戦士のことだそうです。彼は九頭竜国を出奔し、この大陸に渡って来たとのこと」
「遠く離れた島国から単身でここまで来たとは思えない。彼はどうやって海を渡ってきたのかな?」
「それなのですが……どうやら大陸の西部、キシュナー家の領地あたりと思われますが、それと東部、これは商国の港のようです、この両湾にグランダ大陸からの大型船が何度もやって来ているらしいのです。ミッドレイ殿は商国側から上陸したそうです」
「キシュナー家の領地に?HLOとの繋がりはそこからか」
「恐らくは。商国には他にも別の大陸から獣人族や異郷人が上陸することが多いようです。皇国から逃げてきた者が大半とのことで」
「西側に来る船はHLOの関係者、東側に来るのは皇国からの逃亡者ということか」
「でもそこにコウリュウのように皇国の意図で送り込まれた者も混ざっているということですね」
「サムライもいわば異郷人だからな。見分けるのは困難だろう。まして商国は獣人族中心の国だ。受け入れに抵抗もないだろうしな」
「商国から上陸したとなれば帝国にも入り込むのは難しくなさそうですね」
「うん。僕の見たところ、皇国は帝国に王国を占領させたがっているように思える。帝国軍への技術提供も皇国からされていると見るべきだろうな」
「それから帝国を自分の支配下に置くつもりでしょうか?でもなぜ皇国はわざわざこの大陸への侵攻を考えているのでしょう?こう言ってはなんですが、技術的に劣った国を占領しても大きなメリットは無いようにも思えますが」
「そうでもない。資源の調達や労働力の確保、嫌な言い方をすれば奴隷だね。それらを得るために侵攻することはあるだろう。しかしわざわざ海を越えてくるほどの意味があるかと言われると、少し疑問に思うね」
「そうですね。帝国は不作が続いていると聞きました。ですから食糧確保のための侵攻なら分かります。でもそれも隣国だからであって、例え力が劣った国があったとしても海を越えてまで攻めに行くかと考えたらそうはならないのではないかと」
「何か理由があるのなら話し合いで何とか出来るかもしれない。それでも先日の帝国撃退の時のように一度は戦わないと向こうも話し合いのテーブルには着いてくれないかもしれないな」
「それに関してですが、ミッドレイ殿がサムライが会得している『氣』というもののコントロールに付いて教えるということです。戦力アップにつながるとミリアネル団長はお考えのようです。それで自分もそれに参加したいのですが」
「ふむ、六芒星や皇国の戦士に対抗するために我々も強くならなければならないということだな。僕もその氣の修得に参加したい。一緒に連れていってくれないか」
「ボナー様もですか?しかし公務がおありまのでは?」
「しばらくの間、家のことはパンナに任せたいと思う」
「待ってください。ボナー、強くなるというのであれば私もいっしょに行かせてください」
「ダメだ。言ったろう。君をこれ以上危険な目には……」
「私の絶対防御は戦いにおいて力になります。私はそれだけでなく、新しい力を手に入れてあなたを助けたいのです」
「しかしこの家を守る者も必要だ」
「それならば私がお留守を守りますわ」
リーシェが力強い口調でボナーに言う。
「リーシェ、しかし……」
「私もお兄様とお姉様の、そしてこの国のために働きたいのです。それに私が助力を頼めば、塞ぎこんでおられる父上も少しは元気になられるやもしれません」
「そうか……確かにな」
「そういうことであればアンセリーナ様には当家の奥方として振舞っていただかねばなりませんな。しっかりと教育させていただきますので覚悟してくださいませ」
メルキンが慇懃に頭を下げる。
「お、お手柔らかに頼むわね」
アンセリーナが引きつった笑みを浮かべ、リーシェが「ご安心くださいアンセリーナお姉さま。私がサポートいたしますわ」と屈託のない笑みを向ける。
「そうと決まればまずユーシュに状況を伝えておきたい。カサンドラに頼んでノーラン城に跳んでもらおう」
ボナーはメルキンとリーシェに留守中に注意することを伝え、ゼノーバとパンナ共に出かける準備に向かう。
「お気をつけて」
リーシェの不安を隠すような強いまなざしに頷き、ボナーたちは改めて気を引き締めた。
「腑に落ちない点があってね」
モースキンの騎士団駐屯所にある拘留室。椅子に縄で拘束されたオルトを見つめながらボボルがいつもののんびりした口調で言う。
「君があのコウリュウとかいう皇国の尖兵に接触したのはもう大分前だろう?おそらくエルモンド卿がミレーヌさんを保護した前後だと思うけど?」
「それがどうした」
「そう怖い顔しないでよ。君を八つ裂きにするって騒ぐフルルを宥めるのに苦労したんだから」
「恩に着せるつもりか?」
「いやいや。反対側の検問所とはいえ同じエルモンド卿に雇われた仲間だ。腹を割って話がしたいだけさ。君が皇国に協力してるのを見抜けなかったのは反省すべき点だけどね」
「叡智樹懶がいるって噂は聞いてたからな。出来るだけ接触しないよう気を付けてはいた」
「成程。それで話の続きだけど、僕の見たところ皇国は帝国に技術供与をしてるね?帝国に王国を占領させて、それから帝国を屈服させることで労力を削減してこの大陸を手中にしようとしてる。そうだろ?」
「皇国の目論見までは知らん。俺はコウリュウの指示で動いていただけだ」
「そこなんだよねえ。君は先日の帝国撃退作戦において重大な役目を果たした。コウリュウが皇国の尖兵なら君があんな帝国に不利な役目をすることを黙って見過ごすとは思えないんだよ。彼はずっと君の影の中にいたのかい?」
「いや、普段は独自に動いていて、この間のようにどこかに潜入するときなどに俺の異能を利用していた」
「じゃあ外で誰かと接触していても君は知る由がないわけだ」
「何が言いたい?」
「コウリュウはミッドレイ殿と同じ九頭竜国のサムライ。ミッドレイ殿は自分の意志で出奔したそうだけど、コウリュウは追放されたようだ。腕を買われて筆頭百人隊長になったようだけど、元々皇国の人間じゃないからね。国にそこまでの忠義心を持ってるとは思えない」
「皇国の思惑は知らんと言った。それはコウリュウ個人についても同じだ」
「ミッドレイ殿に九頭竜国の宗教観について訊いてみたんだけどね。彼の国ではイシュナル教徒もオーディアル教徒もほとんどいないそうだ。古くから万物に神が宿っているという神道という考え方が定着しているようでね。万物に氣が宿っているというサムライの考え方に通じるものがある。一方で六芒星はオーディアル信徒ということで教団を操っていたが、その実原初の闇を崇拝している。全ての始まりである原初の闇と万物に宿る神。考え方が似ているとは思わないかい?」
「コウリュウが皇国を裏切り六芒星と組んでいると?」
「最初からそうではなかったろうけど、この大陸で活動しているうちに彼らと接触し、近づいていった可能性は否定できないと思うね」
「考えられんな。コウリュウに何の得がある?」
「そもそも皇国がなぜこの大陸に侵攻しようとしているのか。僕は疑問でね。海を越えてまで攻めてくる価値があるのか大いに疑いを持たざるを得ない」
「だから皇国が何を考えているかなど知らんよ」
「では六芒星はどうか?ファング殿の話だと彼らは宝物庫を開く鍵となる人間を篭絡して自分たちの手中に収めることを企んでいるようだ。彼らを手に入れれば神装具を自由に取り出せる。今鍵を抑えているHLOの人間は神装具を使うことが出来ない。だから表向きは協力関係を結んで皇国に対抗できているわけだ。でもね、手間をかけてこの大陸を支配したとして、それから鍵となる人間をグランダ大陸からここに連れてくるのは大変だと思うよ。HLOだって簡単に引き渡すとは思えないし、内輪もめをしてはそれこそ皇国の思う壺だ。だけど」
ボボルはそこでいったん言葉を切り、愉快そうに笑う。
「鍵となる人間がこの大陸にいるのならその手間は省けるよねえ」
「なんだと!?」
オルトが驚いて息を呑む。
「ファング殿の話を聞いて最初から疑問だったんだよ。鍵となる人間がグランダ大陸の連合評議会とやらにいるのなら、皇国はどうして力ずくで彼らを奪わないんだろうってね。確かに神装具の力は脅威だが、戦力で言えば皇国はHLOを圧倒しているらしいじゃないか。それに秘密裏に工作員を潜入させて六芒星がやろうとしているように彼らを篭絡することも可能だ。皇国ならHLOより魅力的な提案はいくらでも出来ると思うよ。でも未だに鍵はHLOの手にある。ということは、鍵はグランダ大陸には居ないんじゃないか、って僕は考えた。ならばどこに?この大陸には定期的にグランダ大陸からの船が来ているそうじゃないか、ならその中に鍵となる人間を紛れ込ませることも可能だろう。HLOは西のキシュナー家と繋がりが深いようだ。彼らの元に鍵となる人間を預けたという可能性も否定できないんじゃないかってね」
「それじゃ皇国の狙いは……」
「六芒星と同じ鍵の奪取。大陸の制覇はそのおまけというか、同じように自分たちに協力させるための餌にするつもりなんじゃないかな?」
「だが皇国が鍵を手に入れても意味はなかろう。奴らはHLOと同じく神装具は使えんはずだ」
「使える者を手にしていたら?」
「まさか……サムライ?」
「僕はミッドレイ殿の話を聞いて『氣』というのは原初の力に通じる者があると考えている。九頭竜国を追われた者がコウリュウ一人とは限らないし、他にも原初の力を持つ者を配下にしていてもおかしくは無いと思うよ」
「それで鍵を手に入れ神装具を取り出したとしてどうする?HLOや天使の末裔を皆殺しにするのか?」
「皇国は広い領土を確保しているし、喫緊の脅威があるようにも思えないんだよね。それなのにわざわざこの大陸まで来て鍵を手に入れようとしているってのはどうも気になるんだよ。もしかしたら僕たちが思いもよらない危機がこの世界に迫ってて、公国はそれを知ってるんじゃないかってね」
「思いもよらない危機、だと?」
「そう。例えば女神が天使に神装具を与えたそもそもの理由。異世界からの脅威が迫ってるとかね」
おどけているようでどこか真剣な雰囲気を漂わせ、ボボルはそう言って軽く首を振った。
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