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第100話 サンクリスト公爵夫人 アンセリーナ
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「本気なのかい?パンナ」
少し困ったような顔でボナーがパンナと、隣に座るアンセリーナを見ながら言う。コットナーのエルモンド家の別邸。その応接室でボナーはパンナ、アンセリーナと向かい合ってソファに座っていた。モースキンからベストレームに戻る途中でパンナを迎えるためにここに寄ったのだ。
「はい。勿論あなたの容認がいただければですけれど」
パンナの返事にふむ、と頷いてボナーは改めてアンセリーナに目を移す。
『本当にパンナと瓜二つだな。これなら身代わりをしても気付かれなかったはずだ』
心の中で呟き、やや緊張しながらアンセリーナに尋ねる。
「アンセリーナ嬢、あなたもそれでよろしいのですか?」
「は、はい。パンナの考えを聞いた時は私も戸惑いましたけれど、今まで家に引き籠っていた私には父から独立したくても行く当てがありません。ボナー様がご迷惑でなければ是非お願いしたいです」
おどおどとした言い方だが、今までの彼女からは考えられないほどしっかりと自分の意見を述べている。パンナは感動して何度も頷いた。パンナの考えとはアンセリーナをサンクリスト家に迎えいれるというものだった。そもそもボナーの妻は表向きアンセリーナなのだ。彼女が行っても何の問題もないはずだった。
「しかしそうなるとパンナはどうするんだ?」
「私は新しいお嬢様付きのメイドとして戻ります。本来の姿に戻るということです。ですがお嬢様」
「何?」
「あくまでもお嬢様は表向きの公爵夫人。7ボナーの妻は私ですからね。ボナーもお嬢様に変な気を起こさないでね」
笑顔でありながら思わず引いてしまう迫力を醸し出してパンナがずいっと顔を近づける。
「わ、分かってるわよ。変わったわねパンナ。好きな人が出来るとこうも人って変わるものなのかしら」
「当たり前だよパンナ。僕が好きなのは君だけだ。いくら見た目がそっくりでもアンセリーナ嬢におかしな真似はしないさ」
二人が少々引きつりながら答える。
「でも子供が出来たらどうするのパンナ?メイドが妊娠して妻がそのままだったら、生まれた子がサンクリスト家の跡取りとして認められないかもしれないわよ?」
「そ、その時はその時で考えましょう。人前に出るときは私がお嬢様に扮してもいいですし」
パンナが顔を赤くしながら慌てて答える。
「照れちゃって可愛いわね~、パンナ」
さっきの仕返しとばかりにアンセリーナがにやにやしながらパンナの顔を覗き込む。
「か、からかわないでください、お嬢様」
「まあこう申しては失礼ですが、アンセリーナ嬢はこれまで貴族としての社交マナーなどはあまり学んでこられなかったご様子。パンナ共々うちのメルキンに世話をさせますので、徐々に覚えて行ってください」
「お心遣い痛み入ります」
「お嬢様、ちゃんとした挨拶も出来るのですね。見直しました」
「バカにしないで。これくらいは爺に躾けられてますのよ。そういえば爺はどうなったの?」
「モースキンで拘留されています。他国の尖兵であったことが明らかになりましたので」
「どうなっちゃうの?まさか死刑に……」
「それは……ボナー、処断の裁決はどなたがなさるのでしょう?」
「う~ん、領内の問題であれば領主、つまりはエルモンド卿の手に委ねられるだろうが、これは他国が絡む問題だしね。うちで裁けば王家に対して不遜と思われかねない。王国裁判になるかもしれないな」
「ハンスはお嬢さんが皇国に利用されるのを良しとせず、わざと連れ去って暴走させたように思えます。何とか温情のある沙汰をお願いしたいです」
「キーレイ大公に話をしてみよう。上手くいけばハッサム殿下に通じるかもしれない」
「お願いします」
アンセリーナが丁寧に頭を下げる。幼いころからうるさいことも言われてきたが、ずっと自分の面倒を見てきてくれた執事だ。処刑されるようなことはしてほしくない。
「ではこれからのことを話し合おう。すでにユーシュから大公殿下に今の状況とこちらの考えは伝わっているだろう。大公殿下ならばおそらくハッサム殿下にそれを伝え、協力を要請していると思われる」
ボナーの言葉にパンナが頷き、アンセリーナも戸惑いながらそれに倣う。彼女にはまだ状況が良く理解できていなかった。
「ハッサム殿下はグマイン殿下にそれを伝えると思う。その上で王家がどう動くかだが、正直そこまでは今は読めないな」
「八源家や『四公』を呼び出して、それぞれの真意を問いただすのではありませんか?」
「グマイン殿下ならともかく、ハッサム殿下ならやるかもしれんな。あの方はああ見えて豪胆なところがある」
「天使派、上位霊種派、HLOや六芒星の影響下にある者、それにクアマリン皇国。各家が立場をはっきりさせれば内紛にもなりかねないのでは?」
「それでもこのままでは混乱するばかりだ。僕がハッサム殿下なら王国の立場をはっきりさせる」
「立場というと?」
「どこかの勢力に与するということさ。侵攻を企む皇国と手を組むのはあり得ないとしても、天使派と上位霊種派のどちらかに協力するという選択はありえる」
「それでは選ばれなかった方が戦争を仕掛けます」
「そうだ。一度八源家や『四公』を含めた国の体制を全て壊し、新たな国を創る。そのためには紛争になるだろう。問題は帝国がどう出るかだな」
「戦争はダメです!失われたものはもう元には戻らないのですよ!?」
「だが近いうちに皇国は攻めてくるだろう。その時にこの国が一つになっていなければ蹂躙されることになる。ファングさんの話からしてもおそらく皇国は王国よりはるかに進んだ軍事力を持っているだろう」
「だからといって……」
「無論戦わずに国がまとまればそれに越したことはない。だがいまさら天使と上位霊種が手を結ぶとは思えないし、六芒星も話に応じるような連中ではないだろう」
「それはそうですが」
「ハッサム殿下のお考えもあるだろうし、これは僕の私見と思ってくれていい。だがおそらく誰とも争わず国を創り直すことは不可能だと思うよ」
「そう……なのでしょうね。悲しいですが。私もヘルナンデスやクリムト卿たちを許せない気持ちはあります。でもこの国の民であるならば分かり合えると思いたいです」
「元凶たる天使や上位霊種の影響から皆が抜け出ることが出来ればいいんだがね。そうすれば新たに国をやり直せると思う」
「そのためにはそれらの者をこの国から排除しなければならないと」
「ああ。天使が始まりの大陸に戻りたければ戻ればいいし、上位霊種が皇国とやり合うのも勝手だが、この国に住む人間に危害を加えるのは見過ごせない。理想としては帝国とも協力してこの大陸に新たな秩序を打ち立てることだ」
「分かりました。確かに天使の末裔や六芒星との争いは避けられないでしょうね。でも国を新しくするのは簡単な事ではありませんね」
「ああ。だがやらなければならない。貴族至上主義を改め、獣人族や半端者への差別をなくすのは大きな苦労を伴うだろう。だがこの大陸を他者の侵略から守るためには必要だと信じている」
「大変なことを考えておられるのですね。そんなお方の元に行って私、やっていけるでしょうか。今更ながら不安になってきましたわ」
アンセリーナが不安そうに言う。
「大きな目的を持つ方の傍にいることはお嬢様に取って必ず成長になると思います。私もそうです。でもボナーの妻は私ですからね?」
「分かったってば!パンナがこんなに嫉妬深いとは思わなかったわ」
「すいません。見た目が似ていますし、お嬢様がずっと彼の傍にいると情が移っちゃうんじゃないかってつい」
「あなただって一緒にいるでしょ」
「そうですが、私は外に出ることが増えるかもしれませんから」
「どういう意味だい?パンナ」
ボナーが訝しげに尋ねる。
「あなたの理想を実現するために私も力になりたいのです。そのためにはミリアネル様やミッドレイさんたちと一緒に行動することもあるかと」
「戦うつもりなのか!?ダメだ!これ以上君に危険な真似はさせられない。それは僕が……」
「あなたはこの国を変えるために必要な存在です。私はあなたの理想を守るための盾になりたいのです」
「君が戦う必要はない。お願いだ。僕の傍にいてくれ」
「積極的に戦う気はないですが、私の力が役に立つのであれば、皆の手助けはしたいのです。その時は家を出ることを許してください」
「だが……」
「本当にこの人を愛しているのねパンナ。でもだからこそボナー様を悲しませてはダメよ。私には戦うことは出来ないけれど、色々と勉強してボナー様の言う新しい国を創るためのお手伝いが出来るよう頑張るわ。だからパンナ、決して危険な真似はしないと約束して。私やボナー様を悲しませるようなことをしたら絶対に許さないからね」
「お嬢様……」
「アンセリーナ嬢の言う通りだ。君が戦う時は僕も一緒だ。決して危険な真似はさせない」
「分かりました。お二人を悲しませるようなことはしないと誓います」
「それじゃとりあえずベスター城へ戻ろう。アンセリーナ嬢がうちに慣れてもらうためにも君も一緒に来てもらうよ。いいね?」
「分かりました。ミリアネル様から何かしらの連絡が来るまで家でお待ちしましょう」
パンナはそう言って応接間を出ると、ミーナにメイドの衣装を用意してもらって着替えた。
「この眼鏡、まだ取ってあったのね」
以前掛けていた眼鏡がこの別邸にあることを教えられ、パンナは感慨深くそれを見つめる。
「ええ。メイドたちの荷物を運んだ時に紛れていたみたいね」
「懐かしいわ。少し前の自分に戻ったみたい」
メイド服を身に着け眼鏡をかけたパンナは文字通りルーディアの屋敷で働いていた時の姿に戻っていた。少し不思議な気持ちになりながらパンナはブラベールの面倒を改めてミーナに頼み、ボナーたちの元へ戻る。
「あら懐かしい。昔のパンナに戻ったわね」
「昔と言ってもまだ二月ほどしか経ってないですけれど」
アンセリーナの言葉にパンナは少し恥ずかしそうに答える。本来なら今もずっとこの姿のままで働いていたはずだ。それが公爵の妻になるとは本当に思ってもみなかった。
「それじゃこれからもよろしくね、パンナ」
「はい。お嬢様」
「表向きは妻のメイドで、その実は妻そのものか。ややこしい立場だね、君も」
「そうですね。でもあなたの妻は私です。表向きがどうであろうと、お嬢様には譲りませんよ」
「私だってパンナに殺されたくないもの。いくらボナー様が魅力的な殿方でもそんなことはしないわ」
「やれやれ、勘弁してくれよ。心配しなくても僕が愛しているのは君だよ、パンナ」
「あら、ご馳走様」
アンセリーナはそう言って久しぶりに屈託のない笑顔を浮かべた。
少し困ったような顔でボナーがパンナと、隣に座るアンセリーナを見ながら言う。コットナーのエルモンド家の別邸。その応接室でボナーはパンナ、アンセリーナと向かい合ってソファに座っていた。モースキンからベストレームに戻る途中でパンナを迎えるためにここに寄ったのだ。
「はい。勿論あなたの容認がいただければですけれど」
パンナの返事にふむ、と頷いてボナーは改めてアンセリーナに目を移す。
『本当にパンナと瓜二つだな。これなら身代わりをしても気付かれなかったはずだ』
心の中で呟き、やや緊張しながらアンセリーナに尋ねる。
「アンセリーナ嬢、あなたもそれでよろしいのですか?」
「は、はい。パンナの考えを聞いた時は私も戸惑いましたけれど、今まで家に引き籠っていた私には父から独立したくても行く当てがありません。ボナー様がご迷惑でなければ是非お願いしたいです」
おどおどとした言い方だが、今までの彼女からは考えられないほどしっかりと自分の意見を述べている。パンナは感動して何度も頷いた。パンナの考えとはアンセリーナをサンクリスト家に迎えいれるというものだった。そもそもボナーの妻は表向きアンセリーナなのだ。彼女が行っても何の問題もないはずだった。
「しかしそうなるとパンナはどうするんだ?」
「私は新しいお嬢様付きのメイドとして戻ります。本来の姿に戻るということです。ですがお嬢様」
「何?」
「あくまでもお嬢様は表向きの公爵夫人。7ボナーの妻は私ですからね。ボナーもお嬢様に変な気を起こさないでね」
笑顔でありながら思わず引いてしまう迫力を醸し出してパンナがずいっと顔を近づける。
「わ、分かってるわよ。変わったわねパンナ。好きな人が出来るとこうも人って変わるものなのかしら」
「当たり前だよパンナ。僕が好きなのは君だけだ。いくら見た目がそっくりでもアンセリーナ嬢におかしな真似はしないさ」
二人が少々引きつりながら答える。
「でも子供が出来たらどうするのパンナ?メイドが妊娠して妻がそのままだったら、生まれた子がサンクリスト家の跡取りとして認められないかもしれないわよ?」
「そ、その時はその時で考えましょう。人前に出るときは私がお嬢様に扮してもいいですし」
パンナが顔を赤くしながら慌てて答える。
「照れちゃって可愛いわね~、パンナ」
さっきの仕返しとばかりにアンセリーナがにやにやしながらパンナの顔を覗き込む。
「か、からかわないでください、お嬢様」
「まあこう申しては失礼ですが、アンセリーナ嬢はこれまで貴族としての社交マナーなどはあまり学んでこられなかったご様子。パンナ共々うちのメルキンに世話をさせますので、徐々に覚えて行ってください」
「お心遣い痛み入ります」
「お嬢様、ちゃんとした挨拶も出来るのですね。見直しました」
「バカにしないで。これくらいは爺に躾けられてますのよ。そういえば爺はどうなったの?」
「モースキンで拘留されています。他国の尖兵であったことが明らかになりましたので」
「どうなっちゃうの?まさか死刑に……」
「それは……ボナー、処断の裁決はどなたがなさるのでしょう?」
「う~ん、領内の問題であれば領主、つまりはエルモンド卿の手に委ねられるだろうが、これは他国が絡む問題だしね。うちで裁けば王家に対して不遜と思われかねない。王国裁判になるかもしれないな」
「ハンスはお嬢さんが皇国に利用されるのを良しとせず、わざと連れ去って暴走させたように思えます。何とか温情のある沙汰をお願いしたいです」
「キーレイ大公に話をしてみよう。上手くいけばハッサム殿下に通じるかもしれない」
「お願いします」
アンセリーナが丁寧に頭を下げる。幼いころからうるさいことも言われてきたが、ずっと自分の面倒を見てきてくれた執事だ。処刑されるようなことはしてほしくない。
「ではこれからのことを話し合おう。すでにユーシュから大公殿下に今の状況とこちらの考えは伝わっているだろう。大公殿下ならばおそらくハッサム殿下にそれを伝え、協力を要請していると思われる」
ボナーの言葉にパンナが頷き、アンセリーナも戸惑いながらそれに倣う。彼女にはまだ状況が良く理解できていなかった。
「ハッサム殿下はグマイン殿下にそれを伝えると思う。その上で王家がどう動くかだが、正直そこまでは今は読めないな」
「八源家や『四公』を呼び出して、それぞれの真意を問いただすのではありませんか?」
「グマイン殿下ならともかく、ハッサム殿下ならやるかもしれんな。あの方はああ見えて豪胆なところがある」
「天使派、上位霊種派、HLOや六芒星の影響下にある者、それにクアマリン皇国。各家が立場をはっきりさせれば内紛にもなりかねないのでは?」
「それでもこのままでは混乱するばかりだ。僕がハッサム殿下なら王国の立場をはっきりさせる」
「立場というと?」
「どこかの勢力に与するということさ。侵攻を企む皇国と手を組むのはあり得ないとしても、天使派と上位霊種派のどちらかに協力するという選択はありえる」
「それでは選ばれなかった方が戦争を仕掛けます」
「そうだ。一度八源家や『四公』を含めた国の体制を全て壊し、新たな国を創る。そのためには紛争になるだろう。問題は帝国がどう出るかだな」
「戦争はダメです!失われたものはもう元には戻らないのですよ!?」
「だが近いうちに皇国は攻めてくるだろう。その時にこの国が一つになっていなければ蹂躙されることになる。ファングさんの話からしてもおそらく皇国は王国よりはるかに進んだ軍事力を持っているだろう」
「だからといって……」
「無論戦わずに国がまとまればそれに越したことはない。だがいまさら天使と上位霊種が手を結ぶとは思えないし、六芒星も話に応じるような連中ではないだろう」
「それはそうですが」
「ハッサム殿下のお考えもあるだろうし、これは僕の私見と思ってくれていい。だがおそらく誰とも争わず国を創り直すことは不可能だと思うよ」
「そう……なのでしょうね。悲しいですが。私もヘルナンデスやクリムト卿たちを許せない気持ちはあります。でもこの国の民であるならば分かり合えると思いたいです」
「元凶たる天使や上位霊種の影響から皆が抜け出ることが出来ればいいんだがね。そうすれば新たに国をやり直せると思う」
「そのためにはそれらの者をこの国から排除しなければならないと」
「ああ。天使が始まりの大陸に戻りたければ戻ればいいし、上位霊種が皇国とやり合うのも勝手だが、この国に住む人間に危害を加えるのは見過ごせない。理想としては帝国とも協力してこの大陸に新たな秩序を打ち立てることだ」
「分かりました。確かに天使の末裔や六芒星との争いは避けられないでしょうね。でも国を新しくするのは簡単な事ではありませんね」
「ああ。だがやらなければならない。貴族至上主義を改め、獣人族や半端者への差別をなくすのは大きな苦労を伴うだろう。だがこの大陸を他者の侵略から守るためには必要だと信じている」
「大変なことを考えておられるのですね。そんなお方の元に行って私、やっていけるでしょうか。今更ながら不安になってきましたわ」
アンセリーナが不安そうに言う。
「大きな目的を持つ方の傍にいることはお嬢様に取って必ず成長になると思います。私もそうです。でもボナーの妻は私ですからね?」
「分かったってば!パンナがこんなに嫉妬深いとは思わなかったわ」
「すいません。見た目が似ていますし、お嬢様がずっと彼の傍にいると情が移っちゃうんじゃないかってつい」
「あなただって一緒にいるでしょ」
「そうですが、私は外に出ることが増えるかもしれませんから」
「どういう意味だい?パンナ」
ボナーが訝しげに尋ねる。
「あなたの理想を実現するために私も力になりたいのです。そのためにはミリアネル様やミッドレイさんたちと一緒に行動することもあるかと」
「戦うつもりなのか!?ダメだ!これ以上君に危険な真似はさせられない。それは僕が……」
「あなたはこの国を変えるために必要な存在です。私はあなたの理想を守るための盾になりたいのです」
「君が戦う必要はない。お願いだ。僕の傍にいてくれ」
「積極的に戦う気はないですが、私の力が役に立つのであれば、皆の手助けはしたいのです。その時は家を出ることを許してください」
「だが……」
「本当にこの人を愛しているのねパンナ。でもだからこそボナー様を悲しませてはダメよ。私には戦うことは出来ないけれど、色々と勉強してボナー様の言う新しい国を創るためのお手伝いが出来るよう頑張るわ。だからパンナ、決して危険な真似はしないと約束して。私やボナー様を悲しませるようなことをしたら絶対に許さないからね」
「お嬢様……」
「アンセリーナ嬢の言う通りだ。君が戦う時は僕も一緒だ。決して危険な真似はさせない」
「分かりました。お二人を悲しませるようなことはしないと誓います」
「それじゃとりあえずベスター城へ戻ろう。アンセリーナ嬢がうちに慣れてもらうためにも君も一緒に来てもらうよ。いいね?」
「分かりました。ミリアネル様から何かしらの連絡が来るまで家でお待ちしましょう」
パンナはそう言って応接間を出ると、ミーナにメイドの衣装を用意してもらって着替えた。
「この眼鏡、まだ取ってあったのね」
以前掛けていた眼鏡がこの別邸にあることを教えられ、パンナは感慨深くそれを見つめる。
「ええ。メイドたちの荷物を運んだ時に紛れていたみたいね」
「懐かしいわ。少し前の自分に戻ったみたい」
メイド服を身に着け眼鏡をかけたパンナは文字通りルーディアの屋敷で働いていた時の姿に戻っていた。少し不思議な気持ちになりながらパンナはブラベールの面倒を改めてミーナに頼み、ボナーたちの元へ戻る。
「あら懐かしい。昔のパンナに戻ったわね」
「昔と言ってもまだ二月ほどしか経ってないですけれど」
アンセリーナの言葉にパンナは少し恥ずかしそうに答える。本来なら今もずっとこの姿のままで働いていたはずだ。それが公爵の妻になるとは本当に思ってもみなかった。
「それじゃこれからもよろしくね、パンナ」
「はい。お嬢様」
「表向きは妻のメイドで、その実は妻そのものか。ややこしい立場だね、君も」
「そうですね。でもあなたの妻は私です。表向きがどうであろうと、お嬢様には譲りませんよ」
「私だってパンナに殺されたくないもの。いくらボナー様が魅力的な殿方でもそんなことはしないわ」
「やれやれ、勘弁してくれよ。心配しなくても僕が愛しているのは君だよ、パンナ」
「あら、ご馳走様」
アンセリーナはそう言って久しぶりに屈託のない笑顔を浮かべた。
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