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第98話 父と娘
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「そいつは難しい相談だな」
ファングとボボル、ピピルの前でミッドレイは困ったような顔で腕を組む。
「君がサムライと呼ばれる戦士であることは確かなんだろ?」
「まあそうだが、確かに俺たちサムライの剣技はこの大陸のそれとは違うし、修行法も異なる。だがそれを口で説明するのは難しい。俺たちは物心がつくと同時に『氣』を感じることを教えられるからな」
「氣?」
「ああ。この世界に充満する、というよりこの世界を構成する根源的なエネルギーとでも言えばいいのかな。この世界にある全てのものは氣を内包している。人も獣も風も水も木も全てな。扶桑国では古くから『万物に神が宿る』という言い方をしてきた。自分の中にある氣を認識し、さらに周囲の氣を感じ取ることからサムライの修行は始まるのさ」
「興味深い話だね。そういえばファング殿。天使は始まりの大陸以外では生きていけないと言ってたそうだけど、もしかしたらそれはその『氣』に関係があるんじゃないのかい?」
「考えられるが、俺も『氣』なんてもんを聞いたのは初めてだからな。天使はおそらくそういう言葉を使ってはいなかったんだろう」
「その氣を感じ取ることは我々には出来ないのか?」
ピピルがミッドレイに尋ねる。
「どうかな。この国の人間に氣の話をしたことはないからな。正直分からん」
「君がどうやって氣を感じ取っているのか説明は出来ないのかい?」
「こればっかりは感覚の問題だし、さっきも言った通り言葉で説明するのは難しいな。文字通り感じるしかないんだ、こいつは」
「試してみる価値はあると思うんだが、どうだい?」
「まあやってみるだけならいいだろう。出来るだけ教えられるよう頑張ってみよう」
ミッドレイはそう言って思案を巡らせた。
「元に……戻ったのだな。アンセリーナ」
ベッドの上に横たわりながらブラベールがか細い声で言う。コットナーの別邸の寝室。思いつめた顔のアンセリーナと心配そうな表情のパンナが傍らに立っており、少し離れたとことにオリアナと同じメイドのミーナが控えていた。彼女もモリーナと同じパンナとは旧知の仲である。
「ええ、おかげさまで。お加減はどうですかお父様?」
「見ての通りだ。しばらくは歩くことも出来ん。自業自得だがな」
包帯の巻かれた腹を摩り、ブラベールが自嘲気味に笑う。
「パンナから話は聞きました。お父様は私が天使の羽根とやらを宿していたから可愛がってくださったのですね」
「否定はせん。儂はお前にミレーヌを、亡きお前の母の面影を見ていた。生涯でただ一人愛した女の面影をな」
「私はお母様の身代わりに過ぎなかったのですか?」
「それは……いや、違うな。確かにお前を産んだことでミレーヌは死んだ。その時は確かにお前を恨みもした。彼女にお前を産ませたのは儂であるにもかかわらずな。勝手なものよ」
ブラベールは寂し気な表情でアンセリーナを見つめる。
「お前に天使の羽根が受け継がれたことを知った時は複雑な気持ちだった。だがそれを利用することでミレーヌを苦しめた教団への復讐が出来ると思った。同時にいつまでも教団をのさばらせておく王家にも不満を持った。天使降臨の伝説を利用してお前を担ぎ上げ、儂がこの国の主導権を握ろうなどと考えるようになった。今冷静になってみると、どうしてそんなことが出来ると思ったのか分からん。この国のイシュナル教徒がすべて従うなどあり得んことであろうにな」
ブラベールの言葉にパンナが反応する。
「旦那様。お嬢様に天使の羽根が宿っていると知った時、誰かがそう唆したのではありませんか?これは天啓だ。お前がこの子を使って国を救うのだと」
「唆しただと?なぜそう思う?」
「旦那様が今申された通り、天使の羽根が覚醒したからといって天使降臨と認められるとは思えません。実際にお嬢様は暴走されましたし、そもそも最初に天使の羽根が出来た時も、多くの人間が暴走して犠牲者を出したそうです。それなのに教団も旦那様も天使降臨による人々の扇動が上手くいくと信じていました。これはあまりにも不自然です。そう出来ると思いこませた誰かがいたのではありませんか?」
「儂は……あの洞窟でミレーヌに会って……その美しさに心惹かれた。教団から逃げてきたというあ奴らの話を聞き……あの背中の羽根のことを……」
ブラベールが記憶をたどるように視線を宙に泳がす。
「あれは……そのようなことは言っておらなんだ。そうじゃ。ミレーヌは教団が自分を、というより天使の羽根の宿主を探しているとは言っていたが、その目的までは知らぬようじゃった。それが何故天使降臨の伝説と結びついたのか……そうか!」
ブラベールがハッとしてある人物の名を上げる。
「やはりそうでしたか」
パンナがそれを聞いて頷く。と、オリアナが驚いたような声を上げた。
「そんな!あいつが何故!?」
「旦那様にそれを吹き込んだ理由は分かりません。ですが、どこかの勢力の思惑が働いていたのは確かでしょう。ミレーヌ様の存在を探していた教団ではないでしょうが」
「そう言えばハンスはどうした?」
「モースキンの騎士団駐屯所に捕えています。ハンスさ……ハンスはとある国の送り込んだ尖兵であったようです」
「とある国?帝国ではなくてか?」
「はい。他の大陸の国です。この国は様々な勢力の者が入り込んでいるのです」
「何ということじゃ。儂は……踊らされていたのか」
「お父様、お父様がお母様を本当に愛していたのは分かりました。やはり私はお母様の代わりお母様の復讐をするための道具だったのですね」
「違う!それは違うぞ、アンセリーナ!」
悲しげな顔で俯くアンセリーナに、傷が痛むのも構わずブラベールは上半身を起こして叫ぶ。
「旦那様、無理をなさっては……」
「確かに儂はお前を利用しようとした。ミレーヌを失った悲しみを紛らわすにはそうするしかなかった。唆されたとはいえ、儂自身がそれを望んだのは事実だ。だがそれだけでお前を育てたわけではない。恥ずかしい話だが、お前が覚醒し、ハンスに連れ去られて初めて儂はそれをはっきりと自覚した。羽根の暴走を抑えるため出来るだけストレスを与えないようにとミレーヌから言われ、伸び伸びとお前を育ててきた。そして日に日に美しく、ミレーヌに似てきたお前を儂は本当に愛おしんだ」
ブラベールは傷の痛みに耐えながらアンセリーナに顔を近づけ、涙を溜めながら話す。
「お前を愛していた。それは確かだ。だが儂はどこかで……ミレーヌの無念を晴らさねばならないという思いに憑りつかれていた。お前を愛しく思うことを……儂は恐れていたのやもしれん。ミレーヌへの裏切りのように感じて。教団への復讐を果たすことが儂の使命なのだと言い聞かせ、お前の覚醒を待ち望むことが正しいのだと自分を律してきた」
「お父様……」
「だがお前が攫われた時、儂は……天使の降臨などどうでもよく思えたのだ。ただお前の身を案じていた。今更こんなことを言っても信じてはもらえんだろうが」
「旦那様のお嬢様への愛情は私が見ていても十分に分かりました。なぜそれをご自分でお認めにならなかったのです?ミレーヌ様がお嬢様を使っての復讐などお望みでないことは、旦那様が一番分かってらっしゃったでしょう」
パンナの言葉にブラベールは力なく頷く。
「そうじゃな。儂は愚かであった。だが……いつからか止められなくなっていたのだ」
「お父様。お父様から頂いた愛情が偽りだったとは思いませんし、思いたくもありません。ですが今までのように無邪気にお父様に甘える気持ちには私はなれません」
「そうだな。それが当然であろう。儂は……お前の元を去らねばならぬであろう」
「旦那様……」
「一緒に暮らしてはいけません。でもそれはお父様を嫌いになったからではありません」
「何?」
「私は今回のことでいかに自分が甘やかされて生きてきたか、世界がいかに危険な状態にあるのかを知ることが出来ました。このままお父様の庇護のもとでぬくぬくと暮らしていては、いざという時に何も出来ず路頭に迷うか命を落とすでしょう。私は自分の目で外の世界を見て何をすべきなのかを考えたいと思います」
「お嬢様……」
パンナは感動で目が潤んだ。あの我儘し放題のアンセリーナが何という立派なことを言うのか。少し前までの彼女からは考えられないことだ。
「そうか。立派になったな、アンセリーナ。お前は本当に覚醒したのだな」
ブラベールも体を震わせ、零れる涙をぬぐう。
「一緒には居てやれなくても、お前のことは誰よりも案じておる。困ったことがあったら相談してくれ。オリアナ、これからはアンセリーナに仕えてやってくれぬか?儂はクリスがアカデミーを卒業すると同時に隠居して家督をあやつに継がせる」
「かしこまりました。ですが私共とのお約束はどうなさるのです?伯爵様が我らを差別しない国を創るとお約束されたから我々はご協力してきたのです」
「お姉さま、それはボナーが、私の夫が成し遂げます。今この国、いえこの大陸に迫る危機を乗り越えた暁には必ず新しい国が生まれましょう。それまで引き続き私たちに協力してください」
パンナが真剣な顔でオリアナに頭を下げる。
「本当に立派になったわねパンナ。私にそんなに堂々と意見するなんて昔のあなたからは想像できなかったわ」
「ですがアンセリーナ様はどちらに行かれるのです?ここに旦那様が住み、ルーディアのお屋敷にお嬢様が?」
ミーナがおずおずと手を挙げて質問する。茶色の髪を二つ三つ編みにして両肩に垂らしている小柄な少女だ。
「それでは今とほとんど変わりませんわ、私は家の外に出て自分の力で生きてゆかねばなりません」
「そうはいうが、今までほとんど人付き合いをしてこなかったお前にいきなりそれは酷ではないか?」
ブラベールが心配そうに言う。
「ですけど……どうしたの?パンナ」
困ったような顔のアンセリーナが、顎に手を当てて考え込むパンナに声を掛ける。
「いきなりどこかの家に行くというのは確かに難しいでしょう。ですが、お嬢様にはここ以外にも行くあてがございましょう?」
「あてって?」
「お忘れですか?サンクリスト公の妻はエルモンド家の令嬢なのですよ?」
パンナはそう言って悪戯っ子のように笑った。
ファングとボボル、ピピルの前でミッドレイは困ったような顔で腕を組む。
「君がサムライと呼ばれる戦士であることは確かなんだろ?」
「まあそうだが、確かに俺たちサムライの剣技はこの大陸のそれとは違うし、修行法も異なる。だがそれを口で説明するのは難しい。俺たちは物心がつくと同時に『氣』を感じることを教えられるからな」
「氣?」
「ああ。この世界に充満する、というよりこの世界を構成する根源的なエネルギーとでも言えばいいのかな。この世界にある全てのものは氣を内包している。人も獣も風も水も木も全てな。扶桑国では古くから『万物に神が宿る』という言い方をしてきた。自分の中にある氣を認識し、さらに周囲の氣を感じ取ることからサムライの修行は始まるのさ」
「興味深い話だね。そういえばファング殿。天使は始まりの大陸以外では生きていけないと言ってたそうだけど、もしかしたらそれはその『氣』に関係があるんじゃないのかい?」
「考えられるが、俺も『氣』なんてもんを聞いたのは初めてだからな。天使はおそらくそういう言葉を使ってはいなかったんだろう」
「その氣を感じ取ることは我々には出来ないのか?」
ピピルがミッドレイに尋ねる。
「どうかな。この国の人間に氣の話をしたことはないからな。正直分からん」
「君がどうやって氣を感じ取っているのか説明は出来ないのかい?」
「こればっかりは感覚の問題だし、さっきも言った通り言葉で説明するのは難しいな。文字通り感じるしかないんだ、こいつは」
「試してみる価値はあると思うんだが、どうだい?」
「まあやってみるだけならいいだろう。出来るだけ教えられるよう頑張ってみよう」
ミッドレイはそう言って思案を巡らせた。
「元に……戻ったのだな。アンセリーナ」
ベッドの上に横たわりながらブラベールがか細い声で言う。コットナーの別邸の寝室。思いつめた顔のアンセリーナと心配そうな表情のパンナが傍らに立っており、少し離れたとことにオリアナと同じメイドのミーナが控えていた。彼女もモリーナと同じパンナとは旧知の仲である。
「ええ、おかげさまで。お加減はどうですかお父様?」
「見ての通りだ。しばらくは歩くことも出来ん。自業自得だがな」
包帯の巻かれた腹を摩り、ブラベールが自嘲気味に笑う。
「パンナから話は聞きました。お父様は私が天使の羽根とやらを宿していたから可愛がってくださったのですね」
「否定はせん。儂はお前にミレーヌを、亡きお前の母の面影を見ていた。生涯でただ一人愛した女の面影をな」
「私はお母様の身代わりに過ぎなかったのですか?」
「それは……いや、違うな。確かにお前を産んだことでミレーヌは死んだ。その時は確かにお前を恨みもした。彼女にお前を産ませたのは儂であるにもかかわらずな。勝手なものよ」
ブラベールは寂し気な表情でアンセリーナを見つめる。
「お前に天使の羽根が受け継がれたことを知った時は複雑な気持ちだった。だがそれを利用することでミレーヌを苦しめた教団への復讐が出来ると思った。同時にいつまでも教団をのさばらせておく王家にも不満を持った。天使降臨の伝説を利用してお前を担ぎ上げ、儂がこの国の主導権を握ろうなどと考えるようになった。今冷静になってみると、どうしてそんなことが出来ると思ったのか分からん。この国のイシュナル教徒がすべて従うなどあり得んことであろうにな」
ブラベールの言葉にパンナが反応する。
「旦那様。お嬢様に天使の羽根が宿っていると知った時、誰かがそう唆したのではありませんか?これは天啓だ。お前がこの子を使って国を救うのだと」
「唆しただと?なぜそう思う?」
「旦那様が今申された通り、天使の羽根が覚醒したからといって天使降臨と認められるとは思えません。実際にお嬢様は暴走されましたし、そもそも最初に天使の羽根が出来た時も、多くの人間が暴走して犠牲者を出したそうです。それなのに教団も旦那様も天使降臨による人々の扇動が上手くいくと信じていました。これはあまりにも不自然です。そう出来ると思いこませた誰かがいたのではありませんか?」
「儂は……あの洞窟でミレーヌに会って……その美しさに心惹かれた。教団から逃げてきたというあ奴らの話を聞き……あの背中の羽根のことを……」
ブラベールが記憶をたどるように視線を宙に泳がす。
「あれは……そのようなことは言っておらなんだ。そうじゃ。ミレーヌは教団が自分を、というより天使の羽根の宿主を探しているとは言っていたが、その目的までは知らぬようじゃった。それが何故天使降臨の伝説と結びついたのか……そうか!」
ブラベールがハッとしてある人物の名を上げる。
「やはりそうでしたか」
パンナがそれを聞いて頷く。と、オリアナが驚いたような声を上げた。
「そんな!あいつが何故!?」
「旦那様にそれを吹き込んだ理由は分かりません。ですが、どこかの勢力の思惑が働いていたのは確かでしょう。ミレーヌ様の存在を探していた教団ではないでしょうが」
「そう言えばハンスはどうした?」
「モースキンの騎士団駐屯所に捕えています。ハンスさ……ハンスはとある国の送り込んだ尖兵であったようです」
「とある国?帝国ではなくてか?」
「はい。他の大陸の国です。この国は様々な勢力の者が入り込んでいるのです」
「何ということじゃ。儂は……踊らされていたのか」
「お父様、お父様がお母様を本当に愛していたのは分かりました。やはり私はお母様の代わりお母様の復讐をするための道具だったのですね」
「違う!それは違うぞ、アンセリーナ!」
悲しげな顔で俯くアンセリーナに、傷が痛むのも構わずブラベールは上半身を起こして叫ぶ。
「旦那様、無理をなさっては……」
「確かに儂はお前を利用しようとした。ミレーヌを失った悲しみを紛らわすにはそうするしかなかった。唆されたとはいえ、儂自身がそれを望んだのは事実だ。だがそれだけでお前を育てたわけではない。恥ずかしい話だが、お前が覚醒し、ハンスに連れ去られて初めて儂はそれをはっきりと自覚した。羽根の暴走を抑えるため出来るだけストレスを与えないようにとミレーヌから言われ、伸び伸びとお前を育ててきた。そして日に日に美しく、ミレーヌに似てきたお前を儂は本当に愛おしんだ」
ブラベールは傷の痛みに耐えながらアンセリーナに顔を近づけ、涙を溜めながら話す。
「お前を愛していた。それは確かだ。だが儂はどこかで……ミレーヌの無念を晴らさねばならないという思いに憑りつかれていた。お前を愛しく思うことを……儂は恐れていたのやもしれん。ミレーヌへの裏切りのように感じて。教団への復讐を果たすことが儂の使命なのだと言い聞かせ、お前の覚醒を待ち望むことが正しいのだと自分を律してきた」
「お父様……」
「だがお前が攫われた時、儂は……天使の降臨などどうでもよく思えたのだ。ただお前の身を案じていた。今更こんなことを言っても信じてはもらえんだろうが」
「旦那様のお嬢様への愛情は私が見ていても十分に分かりました。なぜそれをご自分でお認めにならなかったのです?ミレーヌ様がお嬢様を使っての復讐などお望みでないことは、旦那様が一番分かってらっしゃったでしょう」
パンナの言葉にブラベールは力なく頷く。
「そうじゃな。儂は愚かであった。だが……いつからか止められなくなっていたのだ」
「お父様。お父様から頂いた愛情が偽りだったとは思いませんし、思いたくもありません。ですが今までのように無邪気にお父様に甘える気持ちには私はなれません」
「そうだな。それが当然であろう。儂は……お前の元を去らねばならぬであろう」
「旦那様……」
「一緒に暮らしてはいけません。でもそれはお父様を嫌いになったからではありません」
「何?」
「私は今回のことでいかに自分が甘やかされて生きてきたか、世界がいかに危険な状態にあるのかを知ることが出来ました。このままお父様の庇護のもとでぬくぬくと暮らしていては、いざという時に何も出来ず路頭に迷うか命を落とすでしょう。私は自分の目で外の世界を見て何をすべきなのかを考えたいと思います」
「お嬢様……」
パンナは感動で目が潤んだ。あの我儘し放題のアンセリーナが何という立派なことを言うのか。少し前までの彼女からは考えられないことだ。
「そうか。立派になったな、アンセリーナ。お前は本当に覚醒したのだな」
ブラベールも体を震わせ、零れる涙をぬぐう。
「一緒には居てやれなくても、お前のことは誰よりも案じておる。困ったことがあったら相談してくれ。オリアナ、これからはアンセリーナに仕えてやってくれぬか?儂はクリスがアカデミーを卒業すると同時に隠居して家督をあやつに継がせる」
「かしこまりました。ですが私共とのお約束はどうなさるのです?伯爵様が我らを差別しない国を創るとお約束されたから我々はご協力してきたのです」
「お姉さま、それはボナーが、私の夫が成し遂げます。今この国、いえこの大陸に迫る危機を乗り越えた暁には必ず新しい国が生まれましょう。それまで引き続き私たちに協力してください」
パンナが真剣な顔でオリアナに頭を下げる。
「本当に立派になったわねパンナ。私にそんなに堂々と意見するなんて昔のあなたからは想像できなかったわ」
「ですがアンセリーナ様はどちらに行かれるのです?ここに旦那様が住み、ルーディアのお屋敷にお嬢様が?」
ミーナがおずおずと手を挙げて質問する。茶色の髪を二つ三つ編みにして両肩に垂らしている小柄な少女だ。
「それでは今とほとんど変わりませんわ、私は家の外に出て自分の力で生きてゆかねばなりません」
「そうはいうが、今までほとんど人付き合いをしてこなかったお前にいきなりそれは酷ではないか?」
ブラベールが心配そうに言う。
「ですけど……どうしたの?パンナ」
困ったような顔のアンセリーナが、顎に手を当てて考え込むパンナに声を掛ける。
「いきなりどこかの家に行くというのは確かに難しいでしょう。ですが、お嬢様にはここ以外にも行くあてがございましょう?」
「あてって?」
「お忘れですか?サンクリスト公の妻はエルモンド家の令嬢なのですよ?」
パンナはそう言って悪戯っ子のように笑った。
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