貴族令嬢の身代わりでお見合いしたら気に入られて輿入れすることになりました

猫男爵

文字の大きさ
上 下
87 / 119

第87話 作戦準備

しおりを挟む
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。頭が混乱してきた」

 カサンドラがそう言って頭を抱える。モースキンの騎士団駐屯所の中央会議室。そこに集まった面々を相手にファングが馬車の中で語った天使や上位霊種スピリチュアーのことについて再度話をした。今回はクローも解説に加わっている、

「つまりこの国を創ったのはそのグランダ大陸を追われた天使の末裔であり、さらに彼らを追い出した上位霊種スピリチュアーなる種族がその後で王国に入り込み影響力を強めていったと。そういうことですね?」

 ミリアが厳しい表情で尋ねる。ここには彼女の他にボナー、パンナ、ファング、クロー、ミラージュ、ファンタム、ミッドレイ、ザック、オルト、バイアス、ネムム、フルル、ボボル、イリノア、カサンドラ、そしてユーシュが顏を揃えていた。

「まあそういうこったな。その上位霊種スピリチュアーも純血と呼べる連中はグランダ大陸を追われ数を減らしてるがな。多分その大半はこの大陸にいるんじゃねえかな?」

「そして純血の上位霊種スピリチュアーに差別され叛旗を翻した連中が今グランダ大陸を掌握していると」

「ああ。クアマリン皇国だ。こいつらはイシュナル信徒だが、オーディアルを信仰する奴らが人間至上主義を掲げるHLOと手を組んだことで情勢がややこしくなった。オーディアルが自分を信仰する者に原初の力ジ・オリジンを与えてしまった上、HLOが神装具プライマルアームドを保管する宝物庫キャスケットの鍵となる人間を確保したからな」

原初の力ジ・オリジンを持たない者に神装具プライマルアームドは使えない。オーディアル信徒とHLOが一緒にならなければ皇国は恐れる必要がなかったと」

「そうだ。まあオーディアル信徒もHLOも皇国から身を守るために同盟を組んでいるにすぎんから腹の中ではお互いを煙たがってるだろうがな」

「そのオーディアル信徒の中でも中心的な連中が教団を操っていた真の六芒星ヘキサグラムというわけですね?でも分かりませんね。私が皇国ならまず宝物庫キャスケットの鍵である人間を殺しますけど。神装具プライマルアームドが使えなければHLOは皇国の敵じゃないでしょう?」

 ミリアが疑問を呈して首をかしげる。

「俺やクローが手にしていることからもすでに相当数の神装具プライマルアームド宝物庫キャスケットから持ち出されているのは確実だろう。この大陸に運ばれた時点で俺のグングニルやクローのミョルニルは最上級の武器ではないと思われる」

「最上級のものはまだ宝物庫キャスケットにあるか、持ち出されていても連合評議会の手にある、と」

「そうだ。そしてそんなものを扱うのは俺たちのような人工的に原初の力ジ・オリジンを与えられた存在じゃ無理だろう」

「その力で連合評議会は鍵である人間を守っているんですね?」

「でもそうなると別の意味で分かりませんね。それを扱えるのがオーディアル信徒だとするなら、それこそ六芒星ヘキサグラムが最上級の武器を持ったらHLOを駆逐して皇国と戦えるのでは?」

六芒星ヘキサグラムでも扱えないような代物だったら?」

「それこそ意味がないじゃないですか。どんな強力な武器でも使えなければ……」

「それを扱える奴がHLOに協力してたらって話さ」

「へえ。あんた、あたしとおんなじことを考えてたのかい?意外に頭が回るんだね」

 クローが感心したように言う。

「バカにするなよ。これくらいは察しがついてたさ」

 ファングが不貞腐れたように言う。その顔にはクローに殴られた青あざが痛々しく残っていた。

「最上級の武器を使える者って……」

「こいつは俺を創った天使の記憶にも無かったし、俺らを雇ったHLOの連中も黙ってるから俺の予想に過ぎないが、おそらく奴らは闇天使ダークエンジェルを飼ってる」

「そんな!天使はグランダ大陸を追われたんじゃ……」

「全員が出たわけじゃねえだろう。そもそも純粋な天使はグランダ大陸以外では生きられん」

「人間と交配して出来た子供を他の大陸に逃がして、純粋な天使は最後まで上位霊種スピリチュアーと戦ったんでしたね?」

「ああ。その生き残りがいたとしてもおかしくない。まして闇天使ダークエンジェルは天使に比べて目立たないように動いてたらしいからな」

「でも闇天使ダークエンジェルはオーディアルが創ったんでしょう?それならオーディアル信徒に手を貸すのが筋なんじゃ?」

「天使は上位霊種スピリチュアーの反乱の際、自分たちを助けなかった女神を恨んでる。闇天使ダークエンジェルも同じだろうさ。ましてオーディアルは自分の信徒の人間に原初の力ジ・オリジンまで与えてる。面白いはずがない」

「HLOはそれを利用して闇天使ダークエンジェルに最上級の神装具プライマルアームドを与え、六芒星ヘキサグラム、皇国双方ににらみを利かせていると」

「俺の想像だがな。天使が上位霊種スピリチュアーの反乱に屈したのは宝物庫キャスケットの鍵を奪われたからだ。俺が使ってもあれだけの力を発揮するグングニルだ。天使が最上級の神装具プライマルアームドを使ったらどれだけの威力を持つのか想像も出来ん」

「でもそれなら闇天使ダークエンジェル神装具プライマルアームドを使って皇国を攻撃しそうなものですよね?純血ではないとはいえ皇国の人間も上位霊種スピリチュアーでしょう?それもイシュナル教徒ですよ」

「そんなことを言ったら闇天使ダークエンジェルを飼ってる連合評議会だって上位霊種スピリチュアーだ。おそらく数の問題だろうな。いかに強大な力を持つ神装具プライマルアームドでも数が少なくては圧倒的に兵力で勝る皇国を簡単に滅ぼすのは無理だろう。闇天使ダークエンジェルはせいぜい数人しかいないと思うからな」

「全面戦争になれば殲滅戦になる、と」

「ああ。そうなれば天使の末裔や純血上位霊種スピリチュアーの思う壺だ。だからおとなしく評議会の言いなりになってるんだろうさ」

「三すくみ、下手をすれば四すくみの状態で積極的に動くのは避けたいということですね」

「そういうことだ。天使の目的は皇国の中心にいるルシフェルに接触することだが、それは皇国も評議会も阻止したいところだろう。天使と反目している闇天使ダークエンジェルも目的は同じだ。天使を阻止するためなら評議会に協力するだろう。逆に皇国はルシフェルを人質に取っているともいえる」

「でもルシフェルは結界の中にいるんでしょう?」

「天使の記憶によると結界はルシフェルが外に出ないようにするためのもので、人間が中に入ることは出来るらしい。ルシフェル自身は結界の中で眠っているようだが、何らかの形で危害を加えることは可能かもしれん」

「ファングさんやクローさんなら神装具プライマルアームドを持って結界に入ることも出来ますね」

「そこまで考えてHLOが俺たちを雇ったってのは穿ちすぎかもしれんがな。天使たちは墓穴を掘った形だな」

「そうなるとやはりHLO、連合評議会にとって法宝物庫キャスケットの鍵である人間はまさに命綱ですね」

「ああ。だから六芒星ヘキサグラムは鍵を取り込もうとしているんだろう」

「その餌がこの大陸ということですか?」

「多分な。ここはそれなりに豊かな大陸だからな。そこの支配権を与えると言われたらぐらついてもおかしくない」

「ですがそう上手くいきますかね。ここには天使の末裔に純血の上位霊種スピリチュアーが入り込んでるんでしょ?それぞれが王国と帝国で影響力を強めようとしてるんじゃ?」

 ザックが考え込みながら言う。

「そうだね~。今の話を聞く限り、おそらくイグニアス公は純血の上位霊種スピリチュアーの末裔だろうね~。そして八源家オリジンエイトは天使派と上位霊種スピリチュアー派に別れてる。クリムト卿は六芒星ヘキサグラムに取り込まれたみたいだけど」

 ボボルが眠そうな顔で応える。

「ボボルさんもそう思いますか。僕も同意見です」

 ボナーが感心したように言う。

「イグニアス公たちの狙いはなんでしょうか?」

 ミリアがボボルとファングの顔を交互に見ながら尋ねる。

「純血の上位霊種スピリチュアーは自分たちを追い出した皇国やHLOに復讐を考えてる。グランダ大陸に帰ること自体は重要な目的ではないと思うが」

「でもグランダ大陸に帰らなければ復讐も出来ないでしょう」

「人工天使のような兵器を積んだ船をグランダ大陸に送り込むという手もある」

「そんなことが出来るんですか?」

「奴らは造船技術や航海技術をわざとこの大陸で発展しないようにしていた節がある。俺ならその技術を使って大型船を造るな」

異能ギフトを与えた獣人族ワービーストなどを戦力として送り込むと?」

「おそらくな。グランダ大陸の人間は原初の力ジ・オリジンを持っていない。異能ギフトは有効なはずだ」

「でもオーディアル信徒には効かないわよ」

「それは奴らにとっても誤算だろうな。だがそれを知っているかどうかは分からんがな」

「イグニアス公はオーディアル信徒を毛嫌いしてますからね。でもそれでイグニアス公は教団を倒すために異能者ギフテッドを雇っています。その者たちから報告は上がってるのでは?」

「ニケたちのことだな?しかしあいつらが追ってるのは教団の異能者狩りポーチャーとかだ。ヘルナンデスのような原初の力ジ・オリジンを与えられたオーディアル信徒のことは知らんのじゃないか?」

 パンナの言葉にオルトが反論する。

「そうだろうね。あたしだって真の六芒星ヘキサグラムなんて連中のことは聞いたこともなかったからね」

 カサンドラが渋い表情で言う。

「純血の連中がグランダ大陸を追われた時にオーディアル信徒はまだ原初の力ジ・オリジンを与えられてなかったかもしれんしな」

「でもその前にこの国にいる天使の末裔やHLOの息のかかったものを排除しようとするでしょうね」

「それはそうだ。だがヘルナンデスが表に出たことで事態は急変するだろう。とにかく誰がどの勢力なのかを見極める必要がある。帝国も含めてな」

「ようやく本題に戻りましたね。明日グララさんが偽情報を与えることでおそらく帝国軍が動きます。その最終確認をしたいと思います」

 ミリアがテーブルの上に地図を広げて言う。

「村を占拠した我々獣人族ワービーストがモースキンの門を内側から開ける、という話になっているんだよな?」

 ネムムの言葉にボボルが頷く。

「そうだよ~。それに合わせて煙でも上げとくと説得力が増すだろうね」

「門が開いたら帝国軍は雪崩を打って入って来るぞ。本当に大丈夫か?」

「怪物の襲来で予定が狂っちゃったけど、元々住民は町の奥へ避難する手筈だったからね。門の周りは罠を造って準備万端だよ」

「ある程度のダメージを与えたところで帝国軍内にいるオーディアル信徒に向けてイリノアが説得をする。いいわね?」

 パンナの問いにイリノアがコックリと頷く。

「ファングさんたち予定外の戦力も加わってくれました。帝国側に聞く耳を持たせるためにもこの作戦は何としても成功させねばなりません」

 ミリアが一同を見渡し、きっぱりとした口調で言った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...