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第83話 分断された世界 ④
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「『四公』を?」
パンナが怪訝な顔で訊き返す。
「ああ。純血の上位霊種という言葉を聞いて、最初から気になってはいたんだ」
「純血……派?」
「ああ。イシュナルを信仰する者の中で、『純血』という言葉に拘る一派。いかにもだと思わないか?」
「純血派の筆頭は……イグニアス公ですね」
「『四公』筆頭というのは王国で影響力を持つのに絶妙な立場だ。そう思わないか?」
「イグニアス家が最初から上位霊種だったと!?」
「ありえるな。婿さんの言う通り王家ではなく、『四公』筆頭ってところが表に出ずに大陸を支配しようとしてるあいつらにはぴったりな立ち位置だ」
ファングが納得したように頷く。
「だから婿さんと言わないで」
パンナが不満そうにファングを睨む。
「純血、というくらいですからもしかして王国南部の貴族たちも……」
「イグニアス公の奥方はノルデン侯爵家の出だったな。純血派の創始者とも言われている八源家の一つだが……」
「八源家に上位霊種の思惑が入り込んでいるのは間違いなさそうですね」
「しかしクリムト卿は六芒星に協力していた。八源家の中で派閥があることも間違いないな」
「ですが八源家は建国当時からの貴族のはず。その頃にはまだ上位霊種はこの大陸に来ていなかったのでは?」
「どこかの時点で入り込んだんだろうな。イシュナル教の拡大に紛れて」
「そういえば八源家と違って『四公』はいつ頃制定されたのかはっきりしないらしい。祖父が存命だった時、そんなことを漏らしたことがあった」
ボナーが思い出したように言う。
「『四公』自体が上位霊種によって創られた可能性もあると?」
「イグニアス家だけだとあからさまだからか。なるほどな」
「何を信じていいのか分からなくなってきたな。僕は勿論だが、父もそんなことは夢にも思っていなかっただろう」
「『北の英雄』と呼ばれるほど国のために戦った方ですからね。そう考えるとイグニアス家が帝国から一番遠い南部を統治しているのは意味ありげに思えてきます」
「帝国はどうなんでしょう?やはり天使派と上位霊種派がいるんでしょうか?」
「そう考えた方が自然だろうな。王国の八源家に対比してみると、参謀本部あたりか」
「軍を直接動かせると考えると、王国よりも厄介かもしれませんね」
「帝国と言えば例の作戦はどうするのボナー?二日後にはグララさんが帝国の将校に偽の情報を流す手筈になっているの」
「天使や上位霊種のことを知ってしまった以上、両国で争っている場合ではないと思うが、説明しても帝国側が退くとは思えんな」
「帝国とやり合うのか?」
ファングが尋ね、パンナがボボルの発案した作戦を説明する。
「ほお、そりゃいいな。やっちまった方がいいんじゃないか?手ひどいダメージを受ければ、帝国軍も聞く耳を持つかもしれん」
「それで帝国内の天使派や上位霊種派をあぶりだせれば尚良いですね」
「HLOは大喜びだろうな。だが内戦が起こったらちっと面倒だろうな」
「帝国軍内のオーディアル教徒は私が説得してみるわ。信仰を捨てろとは言わないけど、自分たちが利用されているということを分からせれば彼らだけでも武装を解いてくれるかもしれないし」
イリノアが固い表情で言う。
「それはいい。頼まれてくれるか、イリノア?」
ボナーの言葉にイリノアは大きく頷く。
「ボナー様、よろしいでしょうか?」
その時ドアがノックされ、メイドが声を掛ける。
「ああ、どうした?」
「お連れになった女性が目を覚まされました」
「カサンドラが!?」
パンナが思わず立ち上がる。
「教団の異能者狩りか。パンナ、僕たちも話を聞いていいかな?」
「勿論です。行きましょう」
一同は応接間を出てカサンドラが運ばれた客室に向かう。意識を取り戻したカサンドラはまだ少しぼうっとしていて立ち上がることが出来ないようだったが、パンナの顔を見て顔をしかめた。
「なんとまあ。最後の力を振り絞って転移した先がベストレームだったとはね」
カサンドラが自嘲気味に笑う。
「カサンドラ、何があったのか話してもらうわよ」
「まあいいさ。どっちにしろ私にはもう行くあてがないからね」
諦観の表情でカサンドラがイオットの教団施設であったことを話し始める。
「フェルマー卿が六芒星の手先!?」
パンナが信じられないといった顔で叫ぶ。
「そしてその奥方も六芒星のメンバーだったと。混乱しそうだが、フェルマー卿は真の六芒星の手先で、奥方は教団の六芒星の一人だった、ということだね?」
「ええ。そうよ。真の六芒星なんて連中がいるとは知らなかったけど」
「そのスターゲイトとかいう男、異能が通じなかったということは原初の力を持っているということか。オーディアルから力を与えられた信徒ですね」
「ヘルナンデスの配下だ、当然そうだろう。それにしてもそのフェルマーとかいう奴、自分の妻を刺し殺すとはな」
「スターゲイトがその後、ロットン卿と私を襲ったのよ。奴が手を横に薙いだと思ったらロットン卿の体が切り裂かれたように血を噴き出して、私も腹に激痛を覚えて倒れたの。それであいつらは私たちが死んだと思ったらしくて、そこから去っていったわ」
「原初の力を使った特殊能力か。それでロットン卿は?」
「ダメだったわ。完全に死んでいた。私は薄らぐ意識の中で何とか最後の力を振り絞って転移したの。そのまま気を失ってたみたいね」
「スターゲイトがいなくなったことで異能が使えるようになったわけか」
「でもこれで分かったことがあるわ。異能は天使には有効なのよ」
パンナが考え込みながら言う。
「そりゃそうだろう。天使に対するために上位霊種が獣人族に与えたんだから」
「だって原初の力を持ってるスターゲイトには無効だったのよ。原初の力に通じないなら当然天使にも効かないってことになるじゃない」
「あ!」
「純血の上位霊種は原初の力を持っていない。六芒星の一味が持つ原初の力はオーディアルに与えられたものだ。ということは天使の原初の力と闇天使の原初の力は同一のものではないということか」
「上位霊種は異能の開発にあたって天使で実験したんでしょうね。それが有効だったからそのまま獣人族に与えた」
「本来ならオーディアル信徒にも異能は通用するはずだった。だが奴らはどこかでそれが自分たちには無効であることに気付き、それを利用しようと考えた」
「私が天使の羽根の宿主が覚醒することを予言した後もあんたたち異能者狩りが活動していたのはそのせいね?」
「きょ、教主様!?なんでここに?」
カサンドラがイリノアの存在に気付き、目を丸くする。
「カサンドラ、教団は真の六芒星の操り人形だったのよ。私はその教団のお飾り教主。笑っちゃうわね。でも教団が殺されるところだった私を助けてくれたのも事実だわ。だから私は自分の信徒を見捨てはしない。だけど六芒星にはやり返してやらないと気が済まない。ね、私たちに協力してくれない?」
「ちょっと待って。今までこの女がしてきたことを見逃せというの?」
パンナが思わず食って掛かる。
「あなたの気持ちは分かるわ。カサンドラがあなたたち半端者に対してしてきたことを考えれば怒るのは無理ない。でも私たちの本当の敵は別にいる。そうじゃない?」
「それはそうだけど……」
「カサンドラの転移は使えるわ。味方にして損はないと思う」
「あたしも自分のことを許してくれとは言わないよ。でもあいつらに復讐してやりたい気持ちは教主様と同じさ。あいつらを叩きのめすまで、あんたの怒りを収めてくれると嬉しいけどね」
カサンドラが真剣な顔でパンナを見つめる。
「本当に僕たちに協力するんだな?」
ボナーが短剣を抜き、カサンドラの喉元に突き付けなら問う。
「ああ。教主様の名前に誓って約束するよ」
「パンナ、君の気持はよく分かる。が、」
「皆まで言わなくていいわボナー。この国、いえこの大陸に危機が迫っているんですもの。私個人の恨みなんか気にしている場合じゃないわ」
「ありがとう」
「さて、それでこれからどうする?」
ファングが皆の顔を見渡して言う。
「とりあえずモースキンに向かいましょう。帝国軍への作戦を成功させて、イリノアに教団信徒を説得してもらい、参謀本部に天使や上位霊種の脅威を説明して共闘体制を整えるのが肝要でしょう」
「キーレイ大公にも説明をしておきたいわ。王都での不穏な動きをけん制しておきたい」
「大公がどこかの勢力に取り込まれてる危険はないのか?」
「王家はおそらく大丈夫だろう。もし取り込まれていたらすでにその勢力がこの国を支配しているはずだ」
「まずは帝国撃退作戦ね。カサンドラ、体力が戻ったらモースキンに来て」
「ああ、わかったよ」
「ファングさん、この先も同行してもらえますか?」
「あいつらを倒すにはあんたらと協力した方がよさそうだからな」
「ファング、母様たちにも協力してもらった方がいいと思う」
ファンタムがファングのすそを引っ張って言う。
「あ、ああ、そうだな」
「心配しなくてもさっきのことは黙っていてあげる」
「お、恩に着るぜ」
「それじゃ私は母様のところに行く」
「どこにいるのか分かるのか?」」
ボナーの質問にファンタムはこっくりと頷き、
「このろくでなしと違って母様はちゃんと家を守ってる」
「父親をろくでなしとか言うな!」
「事実……」
ミラージュがポツリと呟き、ファングが頭を抱える。
「ちなみに母親はどこにいるんだ?」
「メキアの森」
「森に?カサンドラ、メキアの森は当然転移出来るわよね?」
「ああ」
「ならまず彼女の母親を連れてきて」
「人遣いが荒いね。分かったよ」
「それじゃ僕たちは馬車でモースキンへ向かいましょう。途中でルーディアに寄った方がいいかな?」
「ええ。お嬢様やオルトさんたちのことも気になるし」
パンナはそう言って北へ目を向けた。
パンナが怪訝な顔で訊き返す。
「ああ。純血の上位霊種という言葉を聞いて、最初から気になってはいたんだ」
「純血……派?」
「ああ。イシュナルを信仰する者の中で、『純血』という言葉に拘る一派。いかにもだと思わないか?」
「純血派の筆頭は……イグニアス公ですね」
「『四公』筆頭というのは王国で影響力を持つのに絶妙な立場だ。そう思わないか?」
「イグニアス家が最初から上位霊種だったと!?」
「ありえるな。婿さんの言う通り王家ではなく、『四公』筆頭ってところが表に出ずに大陸を支配しようとしてるあいつらにはぴったりな立ち位置だ」
ファングが納得したように頷く。
「だから婿さんと言わないで」
パンナが不満そうにファングを睨む。
「純血、というくらいですからもしかして王国南部の貴族たちも……」
「イグニアス公の奥方はノルデン侯爵家の出だったな。純血派の創始者とも言われている八源家の一つだが……」
「八源家に上位霊種の思惑が入り込んでいるのは間違いなさそうですね」
「しかしクリムト卿は六芒星に協力していた。八源家の中で派閥があることも間違いないな」
「ですが八源家は建国当時からの貴族のはず。その頃にはまだ上位霊種はこの大陸に来ていなかったのでは?」
「どこかの時点で入り込んだんだろうな。イシュナル教の拡大に紛れて」
「そういえば八源家と違って『四公』はいつ頃制定されたのかはっきりしないらしい。祖父が存命だった時、そんなことを漏らしたことがあった」
ボナーが思い出したように言う。
「『四公』自体が上位霊種によって創られた可能性もあると?」
「イグニアス家だけだとあからさまだからか。なるほどな」
「何を信じていいのか分からなくなってきたな。僕は勿論だが、父もそんなことは夢にも思っていなかっただろう」
「『北の英雄』と呼ばれるほど国のために戦った方ですからね。そう考えるとイグニアス家が帝国から一番遠い南部を統治しているのは意味ありげに思えてきます」
「帝国はどうなんでしょう?やはり天使派と上位霊種派がいるんでしょうか?」
「そう考えた方が自然だろうな。王国の八源家に対比してみると、参謀本部あたりか」
「軍を直接動かせると考えると、王国よりも厄介かもしれませんね」
「帝国と言えば例の作戦はどうするのボナー?二日後にはグララさんが帝国の将校に偽の情報を流す手筈になっているの」
「天使や上位霊種のことを知ってしまった以上、両国で争っている場合ではないと思うが、説明しても帝国側が退くとは思えんな」
「帝国とやり合うのか?」
ファングが尋ね、パンナがボボルの発案した作戦を説明する。
「ほお、そりゃいいな。やっちまった方がいいんじゃないか?手ひどいダメージを受ければ、帝国軍も聞く耳を持つかもしれん」
「それで帝国内の天使派や上位霊種派をあぶりだせれば尚良いですね」
「HLOは大喜びだろうな。だが内戦が起こったらちっと面倒だろうな」
「帝国軍内のオーディアル教徒は私が説得してみるわ。信仰を捨てろとは言わないけど、自分たちが利用されているということを分からせれば彼らだけでも武装を解いてくれるかもしれないし」
イリノアが固い表情で言う。
「それはいい。頼まれてくれるか、イリノア?」
ボナーの言葉にイリノアは大きく頷く。
「ボナー様、よろしいでしょうか?」
その時ドアがノックされ、メイドが声を掛ける。
「ああ、どうした?」
「お連れになった女性が目を覚まされました」
「カサンドラが!?」
パンナが思わず立ち上がる。
「教団の異能者狩りか。パンナ、僕たちも話を聞いていいかな?」
「勿論です。行きましょう」
一同は応接間を出てカサンドラが運ばれた客室に向かう。意識を取り戻したカサンドラはまだ少しぼうっとしていて立ち上がることが出来ないようだったが、パンナの顔を見て顔をしかめた。
「なんとまあ。最後の力を振り絞って転移した先がベストレームだったとはね」
カサンドラが自嘲気味に笑う。
「カサンドラ、何があったのか話してもらうわよ」
「まあいいさ。どっちにしろ私にはもう行くあてがないからね」
諦観の表情でカサンドラがイオットの教団施設であったことを話し始める。
「フェルマー卿が六芒星の手先!?」
パンナが信じられないといった顔で叫ぶ。
「そしてその奥方も六芒星のメンバーだったと。混乱しそうだが、フェルマー卿は真の六芒星の手先で、奥方は教団の六芒星の一人だった、ということだね?」
「ええ。そうよ。真の六芒星なんて連中がいるとは知らなかったけど」
「そのスターゲイトとかいう男、異能が通じなかったということは原初の力を持っているということか。オーディアルから力を与えられた信徒ですね」
「ヘルナンデスの配下だ、当然そうだろう。それにしてもそのフェルマーとかいう奴、自分の妻を刺し殺すとはな」
「スターゲイトがその後、ロットン卿と私を襲ったのよ。奴が手を横に薙いだと思ったらロットン卿の体が切り裂かれたように血を噴き出して、私も腹に激痛を覚えて倒れたの。それであいつらは私たちが死んだと思ったらしくて、そこから去っていったわ」
「原初の力を使った特殊能力か。それでロットン卿は?」
「ダメだったわ。完全に死んでいた。私は薄らぐ意識の中で何とか最後の力を振り絞って転移したの。そのまま気を失ってたみたいね」
「スターゲイトがいなくなったことで異能が使えるようになったわけか」
「でもこれで分かったことがあるわ。異能は天使には有効なのよ」
パンナが考え込みながら言う。
「そりゃそうだろう。天使に対するために上位霊種が獣人族に与えたんだから」
「だって原初の力を持ってるスターゲイトには無効だったのよ。原初の力に通じないなら当然天使にも効かないってことになるじゃない」
「あ!」
「純血の上位霊種は原初の力を持っていない。六芒星の一味が持つ原初の力はオーディアルに与えられたものだ。ということは天使の原初の力と闇天使の原初の力は同一のものではないということか」
「上位霊種は異能の開発にあたって天使で実験したんでしょうね。それが有効だったからそのまま獣人族に与えた」
「本来ならオーディアル信徒にも異能は通用するはずだった。だが奴らはどこかでそれが自分たちには無効であることに気付き、それを利用しようと考えた」
「私が天使の羽根の宿主が覚醒することを予言した後もあんたたち異能者狩りが活動していたのはそのせいね?」
「きょ、教主様!?なんでここに?」
カサンドラがイリノアの存在に気付き、目を丸くする。
「カサンドラ、教団は真の六芒星の操り人形だったのよ。私はその教団のお飾り教主。笑っちゃうわね。でも教団が殺されるところだった私を助けてくれたのも事実だわ。だから私は自分の信徒を見捨てはしない。だけど六芒星にはやり返してやらないと気が済まない。ね、私たちに協力してくれない?」
「ちょっと待って。今までこの女がしてきたことを見逃せというの?」
パンナが思わず食って掛かる。
「あなたの気持ちは分かるわ。カサンドラがあなたたち半端者に対してしてきたことを考えれば怒るのは無理ない。でも私たちの本当の敵は別にいる。そうじゃない?」
「それはそうだけど……」
「カサンドラの転移は使えるわ。味方にして損はないと思う」
「あたしも自分のことを許してくれとは言わないよ。でもあいつらに復讐してやりたい気持ちは教主様と同じさ。あいつらを叩きのめすまで、あんたの怒りを収めてくれると嬉しいけどね」
カサンドラが真剣な顔でパンナを見つめる。
「本当に僕たちに協力するんだな?」
ボナーが短剣を抜き、カサンドラの喉元に突き付けなら問う。
「ああ。教主様の名前に誓って約束するよ」
「パンナ、君の気持はよく分かる。が、」
「皆まで言わなくていいわボナー。この国、いえこの大陸に危機が迫っているんですもの。私個人の恨みなんか気にしている場合じゃないわ」
「ありがとう」
「さて、それでこれからどうする?」
ファングが皆の顔を見渡して言う。
「とりあえずモースキンに向かいましょう。帝国軍への作戦を成功させて、イリノアに教団信徒を説得してもらい、参謀本部に天使や上位霊種の脅威を説明して共闘体制を整えるのが肝要でしょう」
「キーレイ大公にも説明をしておきたいわ。王都での不穏な動きをけん制しておきたい」
「大公がどこかの勢力に取り込まれてる危険はないのか?」
「王家はおそらく大丈夫だろう。もし取り込まれていたらすでにその勢力がこの国を支配しているはずだ」
「まずは帝国撃退作戦ね。カサンドラ、体力が戻ったらモースキンに来て」
「ああ、わかったよ」
「ファングさん、この先も同行してもらえますか?」
「あいつらを倒すにはあんたらと協力した方がよさそうだからな」
「ファング、母様たちにも協力してもらった方がいいと思う」
ファンタムがファングのすそを引っ張って言う。
「あ、ああ、そうだな」
「心配しなくてもさっきのことは黙っていてあげる」
「お、恩に着るぜ」
「それじゃ私は母様のところに行く」
「どこにいるのか分かるのか?」」
ボナーの質問にファンタムはこっくりと頷き、
「このろくでなしと違って母様はちゃんと家を守ってる」
「父親をろくでなしとか言うな!」
「事実……」
ミラージュがポツリと呟き、ファングが頭を抱える。
「ちなみに母親はどこにいるんだ?」
「メキアの森」
「森に?カサンドラ、メキアの森は当然転移出来るわよね?」
「ああ」
「ならまず彼女の母親を連れてきて」
「人遣いが荒いね。分かったよ」
「それじゃ僕たちは馬車でモースキンへ向かいましょう。途中でルーディアに寄った方がいいかな?」
「ええ。お嬢様やオルトさんたちのことも気になるし」
パンナはそう言って北へ目を向けた。
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