貴族令嬢の身代わりでお見合いしたら気に入られて輿入れすることになりました

猫男爵

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第81話 分断された世界 ②

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神装具プライマルアームドの力を引き出せなかったとはいえ、宝物庫キャスケットの鍵となる人間を確保できたことは上位霊種スピリチュアーにとっては僥倖だった。天使に神装具プライマルアームドを使われていたら、歴史は変わっていたかもしれんからな」

 ファングが話を続ける。

「結局上位霊種スピリチュアーは自分たちで開発した技術によって天使を追い詰めた。前も話した通り天使たちは人間と交わることで始まりの大陸から別の地へ逃れた。ここもその一つだ」

「王国と帝国を創ったという天使ですね?」

「ああ。実際は一人や二人じゃなかったのさ。神話として語り継がれるうちに一人の天使にまとめられていったんだ。その後はこれも前に話した通り上位霊種スピリチュアーが進出してきてイシュナル教を広めて天使の影響力を削いでいった」

「その間に上位令種スピリチュアーの中で内紛が起こった、と」

「そういうこった。他の人間種と交わった上位令種スピリチュアーを純血の上位令種スピリチュアーが差別し始めてな。それが長い間続いた結果、差別されてきた上位令種スピリチュアーが純血種に反旗を翻した。自分たちが天使に対してやったことを今度は自分たちがやられたわけだ」

「でも純血種の方が力は上ではないのですか?」

「数が違うからな。元々天使が創った上位令種スピリチュアーは数が少なかった。創るのが難しかったんだろう。他の人種の方が遥かに数が多かった。だから時が経つにつれ、純血の上位令種スピリチュアーはめっきりその数を減らしていた。そいつらが大多数の他の上位令種スピリチュアーを支配してたんだ。どこかで崩壊するのは目に見えていた」

「人間というのはどこでも変わらないのですね」

 パンナがため息を吐く。

「そうして今度は純血種が始まりの大陸から追い出された。残った上位令種スピリチュアーはそこで新たな国を創ろうとしたが、ここでもまた分断が起きた。それまで通りイシュナルを崇拝するグループと、人間至上主義を掲げるグループ、これがつまりはHLOになったわけだ。そして少数だがグループも生まれた」

「え?」

「イシュナルを信仰するグループは数が最も多く、巨大な国を創り上げた。HLOの前身たるグループは数では劣っていたが、ある武器を手に入れた」

「武器?」

宝物庫キャスケットの鍵となる人間だ」

「鍵を!?」

「鍵となる人間を選べるのは天使だけだが、その時はもう天使は大陸を去っていたからな。鍵となる人間の継承は本人しか行えない。他者が強要することは無理なんだ。HLOは彼らに破格の待遇を与え、自分たちに協力するよう要請した。そして鍵の継承を行うという目的のために『連合評議会』という組織を創り上げた。次の鍵の継承者を選定する組織だ。イシュナル派の大国も彼らの独立性を認めざるを得なかった」

「「どうしてです?天使はもういないんでしょう?上位令種スピリチュアーには神装具プライマルアームドは使えない。なら鍵となる人間がいても脅威にはなりえないんじゃ……」

「分断したのがその二つのグループだけだったらな。問題はオーディアルを信仰したグループだ。女神は直接この世界には干渉できない。が、オーディアルは自分たちが創った天使を追い出した上位令種スピリチュアーがイシュナルを信仰していることに少なからず不満を持っていたらしい。オーディアルは自分を信仰する上位令種スピリチュアーに天使と同じ原初の力ジ・オリジンを与えてしまったんだ」

「何ですって!?」

「それを知ったHLOはオーディアル派に接触した。共にイシュナル派の弾圧を受けていた彼らは共闘することで合意した。宝物庫キャスケットの鍵を持つHLOと神装具プライマルアームドの力を使えるオーディアル派が手を組んだことで、イシュナル派も彼らにおいそれと手が出せなくなったわけだ」

「成程。随分と複雑な状況なんですね」

「それはもう複雑さ。これに始まりの大陸を追われた天使の末裔と純血の上位令種スピリチュアーがいるんだからな。この大陸は各勢力の坩堝になっている」

「で、結局あなたはどこの組織に雇われてるんです?」

「大きく言えばHLOだな。HLOも一枚岩ではないから面倒なんだ。六芒星ヘキサグラムもHLOの一部だからな」

「さっきそんなことを言ってましたね」

「手を組んだとはいえ、人間至上主義者とオーディアル信徒だ。完全に意気投合出来るわけもない。六芒星ヘキサグラムは元々のオーディアル派の過激な連中が創った組織だ」

「じゃあヘルナンデスの力は原初の力ジ・オリジンなんですね」

「そういうことになるな。俺たちは天使の元から逃げ出した後、HLOのメンバーに声を掛けられた。六芒星ヘキサグラムの存在はHLOでも頭の痛いところでな。事情を知った奴らは俺たちに神装具プライマルアームドを与え、奴らの始末を要請してきた」

「その代わりあんたが孕ませた女に払う金を用立ててくれたってわけね」

 イリノアが冷たい目でファングを見る。パンナの視線も同様だった。

「だからそう責めるなって」

「話は大体分かりました。でもそうなると奴らに神装具プライマルアームドを奪われたらまずいのでは?」

「まずいな。奴らもこいつを使えるからな。オーディアルに直接原初の力ジ・オリジンを与えられた分、俺たちより力を引き出せるかもしれん」

「それなのにあんな近くでヘルナンデスと戦ったの?」

 イリノアが呆れたように言う。

「奴らに対応するのにはこれが必要なんだよ。俺だってむざむざ奪われるような真似はせんさ」

「神聖オーディアル教団はまさに彼らの思想を反映した組織だったのですね」

「ああ。この地で信徒を増やし、連合評議会から鍵を奪取するつもりだったのかもな」

「でも鍵の継承者は本人しか指名できないんでしょう?」

「今の継承者を抱きこんじまえば済む。鍵の継承者は上位令種スピリチュアーじゃない、あんたらと同じ人間だ。評議会以上の報酬を約束すれば協力するかもしれんだろ」

「評議会以上の報酬……」

「そう。例えば二人に王国と帝国を丸ごとやるとかな」

なっ!?」

 ファングの言葉に一同は絶句した。
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