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第79話 市街戦
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「そいつは取った方がいいんじゃないか?」
走りながらファングがパンナに話しかける。
「え?」
「公爵の妻が異能を使っちゃまずいんじゃないか?」
「それもそうね」
パンナは周りを見渡し金髪のウィッグを外す。混乱の中彼女に注目しているようなものはいないだろう。
「お姉ちゃん、それ預かっておく」
追いついて来たファンタムがそう言って手を伸ばす。
「ありがとう。お願いね」
ファンタムにウィッグを渡し、パンナはさらにドレスに手をかけて一気に脱ぎ去る。戦いに備えてノーラン城で下に動きやすい服を着てきたのだ。
「なんて大きさなの」
怪物が間近になるにつれ、その迫力にパンナは圧倒される。腕は丸太のように太く、遠くからは気付かなかったが尻からは太い尾まで生えていた。
「ミラージュ、ファンタム、これ以上近づくな。建物の陰に隠れてろ」
ファングが振り向きながらそう言い、槍を構える。目の前では騎士たちが何とか怪物を足止めしようと槍を足元に向かって突き出していた。
「ゼノーバさん!」
騎士団長の姿を目にしてパンナが叫ぶ。一瞬怪訝そうな顔をしたゼノーバだが、顔を見てそれがパンナだと気づくと目を丸くした。
「お、奥……」
「ボナー様から加勢を頼まれた者よ!こっちもね」
その言葉で瞬時に状況を理解し、7ゼノーバが頷く。
「助かります」
「一度騎士を引かせて」
「分かった」
ゼノーバが一時退却を指示し、騎士たちが怪物の足元から退く。
「異能を発動できるよう準備しておけ」
「ええ」
ファングがパンナにそう言って怪物に向かって飛び上がり、手にしたグングニルを振り下ろす。左腕に槍が突き刺さり、怪物が雄叫びを上げる。
「硬ってえな、おい!」
思ったより槍が深く刺さらず、ファングが舌打ちをする。怪物が暴れ、槍が刺さったままの左腕を振り回す。しかし槍が抜けないと悟った怪物は自分の左手に向けて尾を振り回してきた。
「ちっ!」
尾に叩かれるのを避けるためファングが槍を抜いて左腕を蹴る。着地したと同時に怪物が右手を彼に向かって振り下ろす。
「絶対防御!」
しかしパンナが異能を発動してそれを防ぐ。見えない壁に腕を弾かれた怪物が顔をしかめ、さらに攻撃をしてくるが、それらをパンナの絶対防御がことごとく防いだ。
「どうなってる?全く攻撃が通らんではないか」
教会の屋根からそれを見下ろしていたスターゲイトが眉根を寄せる。
「おかしいね。あれには異能無効化のスキルを付与したはずなんだけど。それにあの槍……普通の武器でアレを傷つけるなんて出来っこないんだけどな」
「まさか神装具ではあるまいな?」
「神装具……グングニルか!?」
ロリエルが驚いて叫ぶ。
「それにあれが異能でないなら原初の力ってことになる。天使の奴ら、まさか原初の力を継承させた人工天使の開発に成功したのか?」
「その通りだ」
いきなり声がしてスターゲイトとロリエルが振り向く。
「ヘルナンデス様!」
そこにはいつの間にか暴風のヘルナンデスの姿があった。
「我は王都であれに不覚を取った。おそらくあの槍遣いは例の組織に雇われた者であろう」
「あ奴らがこの大陸に?」
「何ら不思議はない。皇国の魔女めがこの大陸の侵攻を企てているという話を耳にしたのでな」
「皇国が?しかし連合評議会が動きをけん制しているはずでは?」
「根回しをしたのだろうよ。神装具を奴が手にしているのが証拠だ」
「宝物庫が開かれたと?」
「それしかなかろう」
「いかがなさいます?あれは一応の完成を見ておりますが、神装具と原初の力が相手では少し荷が重いかもしれませんよ?」
「このまま様子を見よ。あれがどの程度奴らに対して使えるか確認しておきたい」
「は」
スターゲイトとロリエルが頭を下げる。その眼下ではファングとパンナが怪物と攻防を続けていた。
「うおっ!」
怪物の尾が家の壁を叩き、飛び散った破片がファングに降り注ぐ。それをパンナの絶対防御が防ぐ。
「はあ、はあ……」
「無理すんな!もう限界じゃねえか!」
「ま、まだ少しは持ちます」
「なら今は休んどけ。何が起こるか分からねえからな」
ファングは跳躍して家の壁を蹴り、その反動でさらに上へ跳ぶ。振り下ろそうとした怪物の右腕にグングニルを突き刺すと、そのまま体を回転させて槍を抜き、跳躍しながらグングニルを横なぎに怪物の顔面に払う。
「ぐがっ!」
穂先が目をかすめ、怪物が思わず顔を手で覆う。着地したファングがその隙をついて脛にグングニルを突き刺す。
「がああっ!!」
激痛に怪物が腕を振り回し、近くの家の壁を破壊する。落ちてくる破片を躱しながらファングが怪物の反対側の足を突く。
「がっ!」
両足を傷つけられた怪物がたまらず前のめりに倒れこむ。ファングは力を込め、思い切り倒れた怪物の頭に向けてグングニルを突き刺した。
「あ~、こりゃ終わったね」
ロリエルがため息をついて頭を振る。
「やはり理性が無くなっているのが致命的だな。あれでは魔獣と変わらん」
スターゲイトが冷ややかな目で呟く。
「コスト的に大量生産するにはこれが限界なんだよね~」
「採算度外視なら理性を持たせることも出来るのか?」
ヘルナンデスがロリエルを睨んで尋ねる。
「オンリーワンのオーダーメイドでよければ可能かな?」
「数体あの程度の力を持つ者が出来ればそれなりに戦力となろう」
「それならヘルナンデス様たちが直接動いた方がいいんじゃないですか?」
「六芒星全員が揃えばそうだろうが、一人では限界がある」
「制覇って三大陸同時じゃなきゃいけないんですか?」
「六人が大陸を移動しながらでは効率が悪かろう。それにグランダ大陸には最低でも二人は残しておきたい。皇国に目を光らせるためにもな」
「でもコスイナも処分しちゃったし、もう商業特区のラボも使えないでしょうしね。これ以上研究を進めるのはちょっと難しいかと」
「教団の施設を接収してはどうだ?」
スターゲイトの言葉にロリエルは首を振る。
「教団施設じゃ狭いうえに設備も整ってないよ。さっきの奴ならデータがあるから素体さえあれば量産できるけど」
「あいつらはまあ特別だからな。王国の騎士や帝国軍相手なら戦力して十分使えるだろう。数があれば猶更だ。ロリエル、とりあえず今の奴を何体造れる?」
「素体は十体程度確保していますが」
「完成させろ。皇国が動く前にこの大陸を掌握する。まずはここだ」
「分かりました。数日のご猶予を」
「頼んだぞ。スターゲイト、教団のコピーどもは何人残っている?我はギルバートを始末した」
「ロットンとフェルマーの女は始末いたしました」
「アーノルドはマルノーが殺したね。あとはクリムト卿とロットンの息子かな」
「クリムトはあの槍遣いのせいで殺し損ねた。ロットンの息子は今どこだ?」
「帝国に行っているはずです。教主を連れて」
「教主はこちらに戻っている。王都で会った」
「え?」
「奴らと一緒にいたのだ。裏切ったようだな」
「教主自らですか?」
「そもそもクリムトが用意した傀儡だ。予言の異能を利用するためにな。オーディアルに信仰があったわけでもなかろう」
「ふ~ん、教団が破滅する予知でもしたかな?」
ロリエルが薄笑いを浮かべる。
「破滅の予知?」
「だってヘルナンデス様はもう教団を見限るおつもりなんでしょう?」
「ああ。ギルバートが醜態を晒したせいで我が表に出ることになったからな。お前の人工天使にも期待していたのだが」
「ご期待に沿えるよう頑張りますよ」
「王国貴族で使える者は残っていそうか?」
「エルモンド卿はちょっと面白そうですけどね。僕の見立てでは天使の羽根の宿主はあそこにいると思いますよ」
「本当か?」
「あくまで推測ですがね。僕の予想だとそろそろ覚醒してるんじゃないかな?」
「どうしてそれを教団に教えなかった?」
「僕は僕でアレの研究をコスイナのところでしてましたからね。正直教団の造ったものより僕の成果の方が上だと見せつけたかったので」
「バカ者が!それでやつらに宿主を確保されたらどうする?」
「だから戦わせてみたいんですよ。僕の造ったものと宿主をね」
「お前の頭脳がなければ背信行為として処分しておるところだ。以後は自重せよ」
「はい」
そう言いながらロリエルは悪びれる様子もなく笑った。
走りながらファングがパンナに話しかける。
「え?」
「公爵の妻が異能を使っちゃまずいんじゃないか?」
「それもそうね」
パンナは周りを見渡し金髪のウィッグを外す。混乱の中彼女に注目しているようなものはいないだろう。
「お姉ちゃん、それ預かっておく」
追いついて来たファンタムがそう言って手を伸ばす。
「ありがとう。お願いね」
ファンタムにウィッグを渡し、パンナはさらにドレスに手をかけて一気に脱ぎ去る。戦いに備えてノーラン城で下に動きやすい服を着てきたのだ。
「なんて大きさなの」
怪物が間近になるにつれ、その迫力にパンナは圧倒される。腕は丸太のように太く、遠くからは気付かなかったが尻からは太い尾まで生えていた。
「ミラージュ、ファンタム、これ以上近づくな。建物の陰に隠れてろ」
ファングが振り向きながらそう言い、槍を構える。目の前では騎士たちが何とか怪物を足止めしようと槍を足元に向かって突き出していた。
「ゼノーバさん!」
騎士団長の姿を目にしてパンナが叫ぶ。一瞬怪訝そうな顔をしたゼノーバだが、顔を見てそれがパンナだと気づくと目を丸くした。
「お、奥……」
「ボナー様から加勢を頼まれた者よ!こっちもね」
その言葉で瞬時に状況を理解し、7ゼノーバが頷く。
「助かります」
「一度騎士を引かせて」
「分かった」
ゼノーバが一時退却を指示し、騎士たちが怪物の足元から退く。
「異能を発動できるよう準備しておけ」
「ええ」
ファングがパンナにそう言って怪物に向かって飛び上がり、手にしたグングニルを振り下ろす。左腕に槍が突き刺さり、怪物が雄叫びを上げる。
「硬ってえな、おい!」
思ったより槍が深く刺さらず、ファングが舌打ちをする。怪物が暴れ、槍が刺さったままの左腕を振り回す。しかし槍が抜けないと悟った怪物は自分の左手に向けて尾を振り回してきた。
「ちっ!」
尾に叩かれるのを避けるためファングが槍を抜いて左腕を蹴る。着地したと同時に怪物が右手を彼に向かって振り下ろす。
「絶対防御!」
しかしパンナが異能を発動してそれを防ぐ。見えない壁に腕を弾かれた怪物が顔をしかめ、さらに攻撃をしてくるが、それらをパンナの絶対防御がことごとく防いだ。
「どうなってる?全く攻撃が通らんではないか」
教会の屋根からそれを見下ろしていたスターゲイトが眉根を寄せる。
「おかしいね。あれには異能無効化のスキルを付与したはずなんだけど。それにあの槍……普通の武器でアレを傷つけるなんて出来っこないんだけどな」
「まさか神装具ではあるまいな?」
「神装具……グングニルか!?」
ロリエルが驚いて叫ぶ。
「それにあれが異能でないなら原初の力ってことになる。天使の奴ら、まさか原初の力を継承させた人工天使の開発に成功したのか?」
「その通りだ」
いきなり声がしてスターゲイトとロリエルが振り向く。
「ヘルナンデス様!」
そこにはいつの間にか暴風のヘルナンデスの姿があった。
「我は王都であれに不覚を取った。おそらくあの槍遣いは例の組織に雇われた者であろう」
「あ奴らがこの大陸に?」
「何ら不思議はない。皇国の魔女めがこの大陸の侵攻を企てているという話を耳にしたのでな」
「皇国が?しかし連合評議会が動きをけん制しているはずでは?」
「根回しをしたのだろうよ。神装具を奴が手にしているのが証拠だ」
「宝物庫が開かれたと?」
「それしかなかろう」
「いかがなさいます?あれは一応の完成を見ておりますが、神装具と原初の力が相手では少し荷が重いかもしれませんよ?」
「このまま様子を見よ。あれがどの程度奴らに対して使えるか確認しておきたい」
「は」
スターゲイトとロリエルが頭を下げる。その眼下ではファングとパンナが怪物と攻防を続けていた。
「うおっ!」
怪物の尾が家の壁を叩き、飛び散った破片がファングに降り注ぐ。それをパンナの絶対防御が防ぐ。
「はあ、はあ……」
「無理すんな!もう限界じゃねえか!」
「ま、まだ少しは持ちます」
「なら今は休んどけ。何が起こるか分からねえからな」
ファングは跳躍して家の壁を蹴り、その反動でさらに上へ跳ぶ。振り下ろそうとした怪物の右腕にグングニルを突き刺すと、そのまま体を回転させて槍を抜き、跳躍しながらグングニルを横なぎに怪物の顔面に払う。
「ぐがっ!」
穂先が目をかすめ、怪物が思わず顔を手で覆う。着地したファングがその隙をついて脛にグングニルを突き刺す。
「がああっ!!」
激痛に怪物が腕を振り回し、近くの家の壁を破壊する。落ちてくる破片を躱しながらファングが怪物の反対側の足を突く。
「がっ!」
両足を傷つけられた怪物がたまらず前のめりに倒れこむ。ファングは力を込め、思い切り倒れた怪物の頭に向けてグングニルを突き刺した。
「あ~、こりゃ終わったね」
ロリエルがため息をついて頭を振る。
「やはり理性が無くなっているのが致命的だな。あれでは魔獣と変わらん」
スターゲイトが冷ややかな目で呟く。
「コスト的に大量生産するにはこれが限界なんだよね~」
「採算度外視なら理性を持たせることも出来るのか?」
ヘルナンデスがロリエルを睨んで尋ねる。
「オンリーワンのオーダーメイドでよければ可能かな?」
「数体あの程度の力を持つ者が出来ればそれなりに戦力となろう」
「それならヘルナンデス様たちが直接動いた方がいいんじゃないですか?」
「六芒星全員が揃えばそうだろうが、一人では限界がある」
「制覇って三大陸同時じゃなきゃいけないんですか?」
「六人が大陸を移動しながらでは効率が悪かろう。それにグランダ大陸には最低でも二人は残しておきたい。皇国に目を光らせるためにもな」
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「教団の施設を接収してはどうだ?」
スターゲイトの言葉にロリエルは首を振る。
「教団施設じゃ狭いうえに設備も整ってないよ。さっきの奴ならデータがあるから素体さえあれば量産できるけど」
「あいつらはまあ特別だからな。王国の騎士や帝国軍相手なら戦力して十分使えるだろう。数があれば猶更だ。ロリエル、とりあえず今の奴を何体造れる?」
「素体は十体程度確保していますが」
「完成させろ。皇国が動く前にこの大陸を掌握する。まずはここだ」
「分かりました。数日のご猶予を」
「頼んだぞ。スターゲイト、教団のコピーどもは何人残っている?我はギルバートを始末した」
「ロットンとフェルマーの女は始末いたしました」
「アーノルドはマルノーが殺したね。あとはクリムト卿とロットンの息子かな」
「クリムトはあの槍遣いのせいで殺し損ねた。ロットンの息子は今どこだ?」
「帝国に行っているはずです。教主を連れて」
「教主はこちらに戻っている。王都で会った」
「え?」
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「教主自らですか?」
「そもそもクリムトが用意した傀儡だ。予言の異能を利用するためにな。オーディアルに信仰があったわけでもなかろう」
「ふ~ん、教団が破滅する予知でもしたかな?」
ロリエルが薄笑いを浮かべる。
「破滅の予知?」
「だってヘルナンデス様はもう教団を見限るおつもりなんでしょう?」
「ああ。ギルバートが醜態を晒したせいで我が表に出ることになったからな。お前の人工天使にも期待していたのだが」
「ご期待に沿えるよう頑張りますよ」
「王国貴族で使える者は残っていそうか?」
「エルモンド卿はちょっと面白そうですけどね。僕の見立てでは天使の羽根の宿主はあそこにいると思いますよ」
「本当か?」
「あくまで推測ですがね。僕の予想だとそろそろ覚醒してるんじゃないかな?」
「どうしてそれを教団に教えなかった?」
「僕は僕でアレの研究をコスイナのところでしてましたからね。正直教団の造ったものより僕の成果の方が上だと見せつけたかったので」
「バカ者が!それでやつらに宿主を確保されたらどうする?」
「だから戦わせてみたいんですよ。僕の造ったものと宿主をね」
「お前の頭脳がなければ背信行為として処分しておるところだ。以後は自重せよ」
「はい」
そう言いながらロリエルは悪びれる様子もなく笑った。
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