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第68話 胎動
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「坊ちゃま、調査官の検死が終わったそうでございます」
ソシュートの屋敷で執事のセルバンテスがギルバートに報告する。
「そうか。なら母上の死体を処分しておけ。それからその調査官と共に王都へ出向く」
「王国裁判に出られるのですな?」
「ああ。お爺様から証人として呼ばれてるからな」
「かしこまりました。すぐに準備をいたします」
「ふ、これでサンクリスト家は僕のものだ。ついでに兄上の女もな」
ギルバートはそう言って口元を歪ませた。
「ロットン卿が行方不明?確かなのか?」
商業特別自治区の研究施設でコスイナが素っ頓狂な声を上げる。
「ああ。昨日王都の聖騎士団がロットン卿の屋敷に踏み込んだそうだが、見つからなかったらしい。残ってた異能者と妖蟲族に騎士の半分近くが殺されたって騒ぎになってるようだ」
マルノーが淡々と報告する。それを聞いてロリエルが腕を組んだ。今日もまた白衣を一枚羽織っただけの姿だ。
「そいつは困ったね。ミクリードに行っても空振りってことか。アーノルド卿も殺しちゃってイオットに行っても同じ。さて、どうする?コスイナ」
「残る六芒星で分かっているのはギルバートだけか。奴にも借りは返したいが、エルモンドにも恨みがあるしな」
「それは君の逆恨みじゃないのかい?」
「やかましい!コットナーに行くにはブルムを通った方が近いが、ルーディアならここから森を抜けていくことも出来るな?」
「まあそうだけど、森の東端は商国の獣人族の中継地があるし、あれを連れていたら目立つだろうね」
「ブルーノがそこら辺の折衝をしておるのではないのか?」
「元々はミクリードへ行く予定だったからね。そういう感じで話をしてるだろうし、急に森を通るとなったら行き違いが起きるかもしれないよ」
「ならどうする?ソシュートに向かうならどっちにしろコットナーとミクリードを通らねばならん。予定より時間がかかるぞ」
「そうだねえ。ソシュートに行くならショートカットの方法もあるけど」
「ショートカット?まさか」
「そう。オルタナ湿地を通るのさ」
「正気か?あんな道らしい道もないところを」
「そういうところを踏破する能力もあるって見せつけるいい機会だと思うけどね。それにあそこを通れば目立たない。鎧蜥蜴の集落はあるが、邪魔なら蹴散らしていけばいいし」
「ふん、そのままベストレームまで侵攻するのも面白いかもしれんな」
「君が王国に復讐するつもりならそれもいいだろう」
「けどよ。ブルーノは仮にも『四公』のイグニアス家の家臣だろ?同じ『四公』のサンクリスト家にまで牙をむくとなったら黙ってねえんじゃねえか?」
マルノーが口を挟む。
「そりゃそうだろうね。元々教団を潰す戦力としてこいつを創る約束でここを借り受けたんだから。ついでに帝国に対する戦力にもなりうると思ってるだろう。それなのに同じ『四公』の本拠を襲うと言ったら黙ってないだろうね」
「ふ、最初から騙すつもりだったのだろう?お前は」
「それは君も同じじゃないかコスイナ。教団への復讐は本心だろうが、王国へもその復讐心が向いていると隠してブルーノに接触したんだろ?」
「あのニケとかいう女に話を持ち掛けてのはお前だろう。儂はそれに便乗しただけだ」
「ああ。上手く話が持って行けてよかったよ。おかげでこいつを完成できた。あの女は僕たちを監視下に置いたつもりだろうが、詰めが甘かったね」
「ブルーノに黙ってこいつを動かすつもりか?商国に繋ぎを取ってもらうのではなかったのか?」
コスイナが怪物に目をやりながら言う。
「予定通りミクリードに運ぶならその方が楽だったんだけど、オルタナ湿地を通ってソシュートとベストレームを襲うなら別に商国の助け要らないかな。ああ、でもソシュートにはあの方がいるんだっけ。勝手なことをする怒られるかな」
ロリエルが口をへの字にして考え込む。
「でもギルバートは王国裁判に出るため王都に向かうらしいぜ。町で噂になってた」
マルノーが思い出したように言う。
「ああ、そうか。家督を継いだばかりのサンクリスト公が捕縛されたんだっけ?面白いことになってるよね」
「今なら逆にやりやすいんじゃないか?領主が両方不在となればよ」
「そうだね。ロットン卿がおそらく始末されたところを見ると、あの方々はもう教団を切り捨てるおつもりなんだろうね。そろそろこっちも本来の仕事に戻る頃合いかな」
「何の話だ?あの方々とは誰のことだ?」
ロリエルの言葉にコスイナが顔をしかめる。
「ああ悪いねコスイナ。君には世話になったし、もう少し付き合ってあげたかったんだけど、ここらが潮時みたいだ。君の教団と王国への復讐という願いは少し形は違うかもしれないが、僕たちがやっておいてあげるよ」
「ま、待て!話が見えん!お前は一体何を言っているのだ?」
「まあ君も僕の体を散々堪能したんだし、文句はないだろ?最後に少しサービスしてあげるか」
ロリエルはそう言って笑い、羽織っていた白衣を脱ぎ捨てる。一糸まとわぬ白い肌にコスイナが思わず見惚れる間に、マルノーが怪物の入った水槽の前に行き、下にあるハンドルを回し始める。
「本当に出していいんだな?」
「ああ。スポンサーに対して不義理にはなるけど、もう相手の顔色を気にする必要はない。僕の予想ではもうあの方々も表立って動くはずだからね」
「ま、待て。ここでいきなり動かすつもりか!?」
コスイナが慌ててマルノーを止めようとする。しかしすでに水槽のガラスは徐々に上がっていき、中の薄黄色い水が床に流れ出している。それと同時に身長5mはある異形の怪物がゆっくり動き始めた。
ソシュートの屋敷で執事のセルバンテスがギルバートに報告する。
「そうか。なら母上の死体を処分しておけ。それからその調査官と共に王都へ出向く」
「王国裁判に出られるのですな?」
「ああ。お爺様から証人として呼ばれてるからな」
「かしこまりました。すぐに準備をいたします」
「ふ、これでサンクリスト家は僕のものだ。ついでに兄上の女もな」
ギルバートはそう言って口元を歪ませた。
「ロットン卿が行方不明?確かなのか?」
商業特別自治区の研究施設でコスイナが素っ頓狂な声を上げる。
「ああ。昨日王都の聖騎士団がロットン卿の屋敷に踏み込んだそうだが、見つからなかったらしい。残ってた異能者と妖蟲族に騎士の半分近くが殺されたって騒ぎになってるようだ」
マルノーが淡々と報告する。それを聞いてロリエルが腕を組んだ。今日もまた白衣を一枚羽織っただけの姿だ。
「そいつは困ったね。ミクリードに行っても空振りってことか。アーノルド卿も殺しちゃってイオットに行っても同じ。さて、どうする?コスイナ」
「残る六芒星で分かっているのはギルバートだけか。奴にも借りは返したいが、エルモンドにも恨みがあるしな」
「それは君の逆恨みじゃないのかい?」
「やかましい!コットナーに行くにはブルムを通った方が近いが、ルーディアならここから森を抜けていくことも出来るな?」
「まあそうだけど、森の東端は商国の獣人族の中継地があるし、あれを連れていたら目立つだろうね」
「ブルーノがそこら辺の折衝をしておるのではないのか?」
「元々はミクリードへ行く予定だったからね。そういう感じで話をしてるだろうし、急に森を通るとなったら行き違いが起きるかもしれないよ」
「ならどうする?ソシュートに向かうならどっちにしろコットナーとミクリードを通らねばならん。予定より時間がかかるぞ」
「そうだねえ。ソシュートに行くならショートカットの方法もあるけど」
「ショートカット?まさか」
「そう。オルタナ湿地を通るのさ」
「正気か?あんな道らしい道もないところを」
「そういうところを踏破する能力もあるって見せつけるいい機会だと思うけどね。それにあそこを通れば目立たない。鎧蜥蜴の集落はあるが、邪魔なら蹴散らしていけばいいし」
「ふん、そのままベストレームまで侵攻するのも面白いかもしれんな」
「君が王国に復讐するつもりならそれもいいだろう」
「けどよ。ブルーノは仮にも『四公』のイグニアス家の家臣だろ?同じ『四公』のサンクリスト家にまで牙をむくとなったら黙ってねえんじゃねえか?」
マルノーが口を挟む。
「そりゃそうだろうね。元々教団を潰す戦力としてこいつを創る約束でここを借り受けたんだから。ついでに帝国に対する戦力にもなりうると思ってるだろう。それなのに同じ『四公』の本拠を襲うと言ったら黙ってないだろうね」
「ふ、最初から騙すつもりだったのだろう?お前は」
「それは君も同じじゃないかコスイナ。教団への復讐は本心だろうが、王国へもその復讐心が向いていると隠してブルーノに接触したんだろ?」
「あのニケとかいう女に話を持ち掛けてのはお前だろう。儂はそれに便乗しただけだ」
「ああ。上手く話が持って行けてよかったよ。おかげでこいつを完成できた。あの女は僕たちを監視下に置いたつもりだろうが、詰めが甘かったね」
「ブルーノに黙ってこいつを動かすつもりか?商国に繋ぎを取ってもらうのではなかったのか?」
コスイナが怪物に目をやりながら言う。
「予定通りミクリードに運ぶならその方が楽だったんだけど、オルタナ湿地を通ってソシュートとベストレームを襲うなら別に商国の助け要らないかな。ああ、でもソシュートにはあの方がいるんだっけ。勝手なことをする怒られるかな」
ロリエルが口をへの字にして考え込む。
「でもギルバートは王国裁判に出るため王都に向かうらしいぜ。町で噂になってた」
マルノーが思い出したように言う。
「ああ、そうか。家督を継いだばかりのサンクリスト公が捕縛されたんだっけ?面白いことになってるよね」
「今なら逆にやりやすいんじゃないか?領主が両方不在となればよ」
「そうだね。ロットン卿がおそらく始末されたところを見ると、あの方々はもう教団を切り捨てるおつもりなんだろうね。そろそろこっちも本来の仕事に戻る頃合いかな」
「何の話だ?あの方々とは誰のことだ?」
ロリエルの言葉にコスイナが顔をしかめる。
「ああ悪いねコスイナ。君には世話になったし、もう少し付き合ってあげたかったんだけど、ここらが潮時みたいだ。君の教団と王国への復讐という願いは少し形は違うかもしれないが、僕たちがやっておいてあげるよ」
「ま、待て!話が見えん!お前は一体何を言っているのだ?」
「まあ君も僕の体を散々堪能したんだし、文句はないだろ?最後に少しサービスしてあげるか」
ロリエルはそう言って笑い、羽織っていた白衣を脱ぎ捨てる。一糸まとわぬ白い肌にコスイナが思わず見惚れる間に、マルノーが怪物の入った水槽の前に行き、下にあるハンドルを回し始める。
「本当に出していいんだな?」
「ああ。スポンサーに対して不義理にはなるけど、もう相手の顔色を気にする必要はない。僕の予想ではもうあの方々も表立って動くはずだからね」
「ま、待て。ここでいきなり動かすつもりか!?」
コスイナが慌ててマルノーを止めようとする。しかしすでに水槽のガラスは徐々に上がっていき、中の薄黄色い水が床に流れ出している。それと同時に身長5mはある異形の怪物がゆっくり動き始めた。
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