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第67話 真の闇
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「バルゲス様、大変です!」
ノックもそこそこに、ロットン子爵邸の執務室に若い女が血相を変えて入って来る。この屋敷の主にしてミクリードの領主、バルゲス・ダウナー・ロットン子爵は皺だらけの顔をしかめ、女に向き合う。
「何事だリーム?騒々しい」
「き、騎士団が屋敷に押し掛けております。それも聖騎士団です」
「聖騎士団だと?何用だ?」
「そ、それが神聖オーディアル教団のことについて尋問することがあると」
「何じゃと!?」
「王家の出頭命令書も携えております。これは……」
「儂が六芒星であることが露見したか。行方不明のクリムかコスイナ辺りから漏れたか……それとも」
「いかがいたしましょう?」
「天使の捕獲もままならぬ今捕縛されるわけにはいかん。今ここに動かせる者はおるか?」
「カサンドラが先ほど戻ってまいりましたが」
「丁度良い。あ奴の転移でイオットの施設に跳ぶ。すぐに連れてまいれ」
「はっ!」
六芒星の紅一点にしてフェルマー男爵ウォルトの妻、リーム・サンカ・フェルマーは急いで執務室を後にし、カサンドラの元へ向かった。
「出てきませんね」
騎士の一人がロットン子爵邸の門を叩きながら隣に立つ聖騎士団第四騎士団の団長、ノックス・ボルフォードの方を見る。
「王家の出頭命令所があるのだ。構わん、門を破れ」
ノックスの命令で騎士たちが携えてきた大槌で門を叩き始める。ほどなく門がメリメリと音を立てて壊れ始め、騎士たちが屋敷の敷地内になだれ込む。
「ロットン卿を探せ!教団の異能者には注意しろ。三人以上で動け!」
ノックスが号令をかけ、騎士たちが屋敷の中に突入する。広い廊下を進みながら一つ一つ部屋のドアを開けて中を確認していく。
「隠し通路があるかもしれん。慎重に探せ!」
ノックスの言葉で騎士たちは壁まで慎重に叩いて調べ出す。そんな中、廊下の奥にある部屋を開けた騎士が中を見て「うっ!」と声を上げた。
「どうした!?」
同僚の騎士が隣から部屋を覗き込み絶句する。長ソファ一つ以外何もない部屋の中は真っ白だった。壁や天井の色が白いのではなく、いたるところに白い糸が張り巡らされているのだ。そしてその部屋の真ん中のソファに一人の男が座っており、その周りには糸に囚われ宙づりになった三人の女性がいる。服装からしてこの屋敷のメイドだろう。
「ここに客なんて珍しいねえ。ちぇっ、子爵の奴、俺のこと忘れて逃げやがったな」
ソファに座った男が呟く。頬のこけた顔色の悪い男だ。無造作に伸びた髪が目を隠している。
「おい、あれ!」
騎士の一人が天井を指さして叫ぶ。そこには数匹の人間大の蜘蛛が蠢いているのが見えた。
「妖蟲族だ!」
騎士が慌てて背中の弓を取り、矢を番える。が、蜘蛛の糸が襲い掛かりその体に巻き付いてしまう。
「うわっ!」
「この!」
別の騎士が剣を抜いて糸を斬る。が、さらに別の蜘蛛の糸がその騎士にも襲い掛かる。
「あの男を狙え!」
いきなり背後から声がして、騎士の一人が矢を男に向ける。それは部屋に飛び込んできたノックスの叫びだった。
「いい判断だ。俺が『蟲使い』だと瞬時に見抜いたか」
男が不敵に笑う。
「フォーメーションΔ!射手を援護しろ」
ノックスが続けて叫ぶ。と同時に騎士の放った矢が男に向かって飛ぶ。
「いい指揮だ。あれが団長さんかな?」
しかし放たれた矢は男に命中する寸前で空中に静止してしまう。
「何!?」
「見えないだろう?俺の周りにあるこの糸は」
男が笑いながら目の前の空間を指ではじく。すると止まっていた矢がぶるぶると震えた。
「俺の異能、『穿鋼透糸』さ。こいつらを操るのに便利なんだぜ」
「ちっ、なんとか蜘蛛だけでも射殺せ!」
「さすがに多勢に無勢かな。騎士団が押し掛けてくるようじゃここも終わりか。子爵も逃げちまったみたいだし、俺もトンズラさせてもらうとするか」
男はため息を吐いて立ち上がり、糸を張り直しながらゆっくりと窓へと歩き出した。
「そういえば屋敷にはクライムが残っていました。忘れてましたわ」
カサンドラの転移でイオットの教団施設へ跳んだリームが言う。彼女とカサンドラ、そしてバルゲスは無人の施設の廊下を歩いていた。クリム・フォン・アーノルド男爵ことリヒターの行方が分からなくなってからここに人の出入りはほとんどなかった。
「あ奴なら放っておいても自分で逃げるじゃろう。しかしカサンドラ、お主今まで何をしておったのだ。しばらくおとなしくしておれと申したであろうが」
「申し訳ありません。ゲルマがいきなり飛び出していこうとしたものですから。どうやら因縁の相手を感知したらしく」
「それで出て行ったのか?バカが!あからさまな罠ではないか」
「はい。それでしばらく敵と睨み合っていたのですが、いつの間にか記憶が飛んでおり、気が付いたら一人で郊外に立っておりました」
「記憶が?貴様、操られておったな。愚か者め」
「申し訳ございません」
「ゲルマはどうした?」
「気が付いた時には姿がなく……死体もありませんでした」
「拘束されたか。貴様が操られたときかゲルマの口から儂のことが漏れたか……いや、そもそもゲルマを誘き出した時点で儂に疑念は持っていたと見るべきか」
顔をしかめながらバルゲスが廊下の奥のドアを開ける。その先は信徒がオーディアルに祈りを捧げる聖堂になっていた。
「やはりここに逃げてきましたね、ロットン卿」
いきなり声が掛けられ、バルガスはぎょっとした。見ると聖堂の奥の祭壇に一人の男が立っている。暗くて良く見えなかったが、近くに行ってその顔を見たリームが息を呑んだ。
「あ、あなた!?」
それはリームの夫にしてブルムの町の領主、ウォルト・リック・フェルマー男爵だった。ウォルトはにやにやとした笑いを浮かべながらゆっくりと三人に近づく。
「フェルマー卿!?貴様なぜここに……」
「いやいや、あなたのことが王都の知るところになったようでしたので、おそらくここに逃げてくるだろうと当たりを付けていたのですよ。アーノルド卿が行方不明になってますからね。格好の隠れ場所かと」
「あ、あなた私が教団の信徒だと知っていたの!?」
「当たり前じゃないか。隠せてると思ってたのか?お前はお茶会だ何だとしょっちゅう家を空けていたが、家に帰って来る時によくそこの女が屋敷の外にいたな。教団の会合に行くのにそいつの転移を使っていたんだろ?」
「それを知っていて何も言わなかったのか。喰えぬ男よな」
「ふ、利用価値がある間は放っておきましたが、天使の捕獲も出来ないあなた方は見限られたのですよ」
「き、貴様!天使のことまでどうして!?」
「滑稽ですね。あの方々の手の上で踊らせていたことも知らず、大陸の覇権を握ろうなどと息巻いていたのですから」
「ど、どういう意味だ!?あ、あの方々とは何のことだ」
「ふふ、真の六芒星ですよ。神聖オーディアル教団は所詮、彼らの傀儡にすぎないのです」
「真の六芒星だと!?バカな。六芒星とは我々の……」
「そう思い込まされていただけですよ。思い出してごらんなさい。あなたはなぜオーディアルを信仰するようになったのです?あなたが他のメンバーと天使を創る計画を立てたのは何故です?そして六芒星を名乗るようになったのは何故です?」
「そ、それは……」
「あの方々のお遊びなのですよ。自分たちのミニチュアを作っておままごとをしていたのです。あなた方は初めから玩具として作られた存在ということです」
「き、貴様は一体……」
「あ、あなたは最初から私を……」
「ああ。僕は最初からお前が教団の信徒と知った上で結婚したのさ。間近で教団のことが知れると思ってね。まああまり役には立っていなかったようだが。あの方もなぜこんな女を六芒星に選んだんだか」
「しゃべりすぎだ、ウォルト」
いきなりウォルトの傍で声が聞こえ、闇の中から一人の男が姿を現した。白いローブに身を包んだ長い白髪の男だ。痩せぎすの顔には特徴的な縦長の金色の瞳が輝いている。
「金眼じゃと!?」
「知っているか。我らの知識を与えた覚えはないが」
「フェルマー卿!こやつが真の六芒星とやらか!?」
「いや、我は六芒星に仕える護星剣の一人。あの方々とは比較にならぬ」
「僕はその護星剣のそのまた下僕にすぎない。それでも光栄なことだけどね」
ウォルトがおどけたように言う。
「貴様らの目的は一体なんじゃ!?儂らを利用して何をしようとしておる!?」
「君らが知る必要はないよ。あ、僕らがここにいる目的は教えてあげる。簡単な話さ。使えなくなった玩具を処分しに来たんだよ」
「あ、あなた、何を!?」
「いや~、スターゲイト様にお任せしてもよかったんだけど、仮にも夫婦だからね。最後くらいは自分の手で始末をつけてあげないといけないかなって」
「カサンドラ!転移じゃ!どこでも良い!すぐに逃げるのじゃ」
バルゲスがカサンドラの手を取って叫ぶ。リームも慌てて反対側の手を握る。
「は、はい……え?」
カサンドラが異能を発動させようとする。が、転移は起こらなかった。
「何をしておる!急げ!」
「そ、それが……転移が出来ないのです」
「何じゃと!?」
「無駄だ。我の前で異能は使えぬ」
スターゲイトと呼ばれた金眼の男が静かに言う。
「そういうこと。何で君たちの能力がギフトと呼ばれてると思う?文字通り
与えられたんだよ。あの方々にね」
ウォルトが笑いながら剣を抜いてバルゲスたちに近づく。
「こ、来ないで!あなた!」
「心配しなくてもいい。マーシャは立派に育てるから。母親がいない寂しさもそのうち薄れるさ」
「貴様!」
バルゲスが腰に佩いた短剣を抜いてウォルトを睨む。が、その動きがいきなり止まった。
「な、何じゃ!?体が動かん」
「ウォルト、時間をかけるな。妻を殺したら後は我がやる」
「かしこまりました。お願いいたします」
「やめてあなた!私たちは夫婦じゃないの!」
「そうだね。だからせめて苦しまないよう一撃でとどめを刺してあげるよ」
「いやあああああっ!!」
絶叫する妻の胸に、ウォルトは少しのためらいもなく力いっぱい剣を突き刺した。
ノックもそこそこに、ロットン子爵邸の執務室に若い女が血相を変えて入って来る。この屋敷の主にしてミクリードの領主、バルゲス・ダウナー・ロットン子爵は皺だらけの顔をしかめ、女に向き合う。
「何事だリーム?騒々しい」
「き、騎士団が屋敷に押し掛けております。それも聖騎士団です」
「聖騎士団だと?何用だ?」
「そ、それが神聖オーディアル教団のことについて尋問することがあると」
「何じゃと!?」
「王家の出頭命令書も携えております。これは……」
「儂が六芒星であることが露見したか。行方不明のクリムかコスイナ辺りから漏れたか……それとも」
「いかがいたしましょう?」
「天使の捕獲もままならぬ今捕縛されるわけにはいかん。今ここに動かせる者はおるか?」
「カサンドラが先ほど戻ってまいりましたが」
「丁度良い。あ奴の転移でイオットの施設に跳ぶ。すぐに連れてまいれ」
「はっ!」
六芒星の紅一点にしてフェルマー男爵ウォルトの妻、リーム・サンカ・フェルマーは急いで執務室を後にし、カサンドラの元へ向かった。
「出てきませんね」
騎士の一人がロットン子爵邸の門を叩きながら隣に立つ聖騎士団第四騎士団の団長、ノックス・ボルフォードの方を見る。
「王家の出頭命令所があるのだ。構わん、門を破れ」
ノックスの命令で騎士たちが携えてきた大槌で門を叩き始める。ほどなく門がメリメリと音を立てて壊れ始め、騎士たちが屋敷の敷地内になだれ込む。
「ロットン卿を探せ!教団の異能者には注意しろ。三人以上で動け!」
ノックスが号令をかけ、騎士たちが屋敷の中に突入する。広い廊下を進みながら一つ一つ部屋のドアを開けて中を確認していく。
「隠し通路があるかもしれん。慎重に探せ!」
ノックスの言葉で騎士たちは壁まで慎重に叩いて調べ出す。そんな中、廊下の奥にある部屋を開けた騎士が中を見て「うっ!」と声を上げた。
「どうした!?」
同僚の騎士が隣から部屋を覗き込み絶句する。長ソファ一つ以外何もない部屋の中は真っ白だった。壁や天井の色が白いのではなく、いたるところに白い糸が張り巡らされているのだ。そしてその部屋の真ん中のソファに一人の男が座っており、その周りには糸に囚われ宙づりになった三人の女性がいる。服装からしてこの屋敷のメイドだろう。
「ここに客なんて珍しいねえ。ちぇっ、子爵の奴、俺のこと忘れて逃げやがったな」
ソファに座った男が呟く。頬のこけた顔色の悪い男だ。無造作に伸びた髪が目を隠している。
「おい、あれ!」
騎士の一人が天井を指さして叫ぶ。そこには数匹の人間大の蜘蛛が蠢いているのが見えた。
「妖蟲族だ!」
騎士が慌てて背中の弓を取り、矢を番える。が、蜘蛛の糸が襲い掛かりその体に巻き付いてしまう。
「うわっ!」
「この!」
別の騎士が剣を抜いて糸を斬る。が、さらに別の蜘蛛の糸がその騎士にも襲い掛かる。
「あの男を狙え!」
いきなり背後から声がして、騎士の一人が矢を男に向ける。それは部屋に飛び込んできたノックスの叫びだった。
「いい判断だ。俺が『蟲使い』だと瞬時に見抜いたか」
男が不敵に笑う。
「フォーメーションΔ!射手を援護しろ」
ノックスが続けて叫ぶ。と同時に騎士の放った矢が男に向かって飛ぶ。
「いい指揮だ。あれが団長さんかな?」
しかし放たれた矢は男に命中する寸前で空中に静止してしまう。
「何!?」
「見えないだろう?俺の周りにあるこの糸は」
男が笑いながら目の前の空間を指ではじく。すると止まっていた矢がぶるぶると震えた。
「俺の異能、『穿鋼透糸』さ。こいつらを操るのに便利なんだぜ」
「ちっ、なんとか蜘蛛だけでも射殺せ!」
「さすがに多勢に無勢かな。騎士団が押し掛けてくるようじゃここも終わりか。子爵も逃げちまったみたいだし、俺もトンズラさせてもらうとするか」
男はため息を吐いて立ち上がり、糸を張り直しながらゆっくりと窓へと歩き出した。
「そういえば屋敷にはクライムが残っていました。忘れてましたわ」
カサンドラの転移でイオットの教団施設へ跳んだリームが言う。彼女とカサンドラ、そしてバルゲスは無人の施設の廊下を歩いていた。クリム・フォン・アーノルド男爵ことリヒターの行方が分からなくなってからここに人の出入りはほとんどなかった。
「あ奴なら放っておいても自分で逃げるじゃろう。しかしカサンドラ、お主今まで何をしておったのだ。しばらくおとなしくしておれと申したであろうが」
「申し訳ありません。ゲルマがいきなり飛び出していこうとしたものですから。どうやら因縁の相手を感知したらしく」
「それで出て行ったのか?バカが!あからさまな罠ではないか」
「はい。それでしばらく敵と睨み合っていたのですが、いつの間にか記憶が飛んでおり、気が付いたら一人で郊外に立っておりました」
「記憶が?貴様、操られておったな。愚か者め」
「申し訳ございません」
「ゲルマはどうした?」
「気が付いた時には姿がなく……死体もありませんでした」
「拘束されたか。貴様が操られたときかゲルマの口から儂のことが漏れたか……いや、そもそもゲルマを誘き出した時点で儂に疑念は持っていたと見るべきか」
顔をしかめながらバルゲスが廊下の奥のドアを開ける。その先は信徒がオーディアルに祈りを捧げる聖堂になっていた。
「やはりここに逃げてきましたね、ロットン卿」
いきなり声が掛けられ、バルガスはぎょっとした。見ると聖堂の奥の祭壇に一人の男が立っている。暗くて良く見えなかったが、近くに行ってその顔を見たリームが息を呑んだ。
「あ、あなた!?」
それはリームの夫にしてブルムの町の領主、ウォルト・リック・フェルマー男爵だった。ウォルトはにやにやとした笑いを浮かべながらゆっくりと三人に近づく。
「フェルマー卿!?貴様なぜここに……」
「いやいや、あなたのことが王都の知るところになったようでしたので、おそらくここに逃げてくるだろうと当たりを付けていたのですよ。アーノルド卿が行方不明になってますからね。格好の隠れ場所かと」
「あ、あなた私が教団の信徒だと知っていたの!?」
「当たり前じゃないか。隠せてると思ってたのか?お前はお茶会だ何だとしょっちゅう家を空けていたが、家に帰って来る時によくそこの女が屋敷の外にいたな。教団の会合に行くのにそいつの転移を使っていたんだろ?」
「それを知っていて何も言わなかったのか。喰えぬ男よな」
「ふ、利用価値がある間は放っておきましたが、天使の捕獲も出来ないあなた方は見限られたのですよ」
「き、貴様!天使のことまでどうして!?」
「滑稽ですね。あの方々の手の上で踊らせていたことも知らず、大陸の覇権を握ろうなどと息巻いていたのですから」
「ど、どういう意味だ!?あ、あの方々とは何のことだ」
「ふふ、真の六芒星ですよ。神聖オーディアル教団は所詮、彼らの傀儡にすぎないのです」
「真の六芒星だと!?バカな。六芒星とは我々の……」
「そう思い込まされていただけですよ。思い出してごらんなさい。あなたはなぜオーディアルを信仰するようになったのです?あなたが他のメンバーと天使を創る計画を立てたのは何故です?そして六芒星を名乗るようになったのは何故です?」
「そ、それは……」
「あの方々のお遊びなのですよ。自分たちのミニチュアを作っておままごとをしていたのです。あなた方は初めから玩具として作られた存在ということです」
「き、貴様は一体……」
「あ、あなたは最初から私を……」
「ああ。僕は最初からお前が教団の信徒と知った上で結婚したのさ。間近で教団のことが知れると思ってね。まああまり役には立っていなかったようだが。あの方もなぜこんな女を六芒星に選んだんだか」
「しゃべりすぎだ、ウォルト」
いきなりウォルトの傍で声が聞こえ、闇の中から一人の男が姿を現した。白いローブに身を包んだ長い白髪の男だ。痩せぎすの顔には特徴的な縦長の金色の瞳が輝いている。
「金眼じゃと!?」
「知っているか。我らの知識を与えた覚えはないが」
「フェルマー卿!こやつが真の六芒星とやらか!?」
「いや、我は六芒星に仕える護星剣の一人。あの方々とは比較にならぬ」
「僕はその護星剣のそのまた下僕にすぎない。それでも光栄なことだけどね」
ウォルトがおどけたように言う。
「貴様らの目的は一体なんじゃ!?儂らを利用して何をしようとしておる!?」
「君らが知る必要はないよ。あ、僕らがここにいる目的は教えてあげる。簡単な話さ。使えなくなった玩具を処分しに来たんだよ」
「あ、あなた、何を!?」
「いや~、スターゲイト様にお任せしてもよかったんだけど、仮にも夫婦だからね。最後くらいは自分の手で始末をつけてあげないといけないかなって」
「カサンドラ!転移じゃ!どこでも良い!すぐに逃げるのじゃ」
バルゲスがカサンドラの手を取って叫ぶ。リームも慌てて反対側の手を握る。
「は、はい……え?」
カサンドラが異能を発動させようとする。が、転移は起こらなかった。
「何をしておる!急げ!」
「そ、それが……転移が出来ないのです」
「何じゃと!?」
「無駄だ。我の前で異能は使えぬ」
スターゲイトと呼ばれた金眼の男が静かに言う。
「そういうこと。何で君たちの能力がギフトと呼ばれてると思う?文字通り
与えられたんだよ。あの方々にね」
ウォルトが笑いながら剣を抜いてバルゲスたちに近づく。
「こ、来ないで!あなた!」
「心配しなくてもいい。マーシャは立派に育てるから。母親がいない寂しさもそのうち薄れるさ」
「貴様!」
バルゲスが腰に佩いた短剣を抜いてウォルトを睨む。が、その動きがいきなり止まった。
「な、何じゃ!?体が動かん」
「ウォルト、時間をかけるな。妻を殺したら後は我がやる」
「かしこまりました。お願いいたします」
「やめてあなた!私たちは夫婦じゃないの!」
「そうだね。だからせめて苦しまないよう一撃でとどめを刺してあげるよ」
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