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第54話 作戦会議

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「それでこいつがザパパとかいう奴の代わりか?」

 ネムムがそれまで黙って座っていた鎧蜥蜴アーマーリザードの方を見ながら言う。

「ああ。オルタナ湿地のこいつらの集落で事情を説明し、身代わりになってくれるものを募った」

 フルルが答えて顎で鎧蜥蜴アーマリザードの男を促す。彼はそれに応え頷き、立ち上がった。

「先ほども名乗ったが、グララだ。よろしく頼む」

「グララさんは私たち王国に協力してくださるということでよいのですね?」

 ミリアの言葉にグララは頷く。

「本当に信用していいんだろうな?帝国の将校に会ったらあっさり寝返るなんてのは御免だぜ?」

「ザック、お前はもう少し空気を読むことを覚えろ」

 ネムムが呆れたように言う。

「だってよ」

「すんなり信じられないのも無理はない。同族が帝国に付いているんだからな。だが俺が帝国に協力することは断じてない」

「その根拠は?」

「俺は元々商国に住んでいた。地下坑道で黒竜石を採掘していたが、その鉱山を帝国の貴族が占領してな」

「何ですって!?商国内の土地は一切領有を認めないと王国、帝国双方が商国と取り決めを交わしているはずです!」

 ミリアが思わず立ち上がって叫ぶ。

「そんなものは表向きだ。どこの国にもどんな種族でも悪人はいる。同胞を売るくらい平気でやる連中ってのがな」

「まさか……」

「鉱山を帝国に売ったのは俺の同胞だ。帝国内に住む権利と鉱山の利益の一部を得る代わりにな。知ってるかもしれんが、黒竜石は非常に硬く、それでいて熱を加えると容易に加工が出来るため剣などの武器を造る際に重宝される。だがその鉱石は地下深くの針水晶が点在している場所にある。針水晶は知ってるか?岩壁から文字通り針のようになった水晶が無数に飛び出ているんだ。いちいちそれを取り除いていたら効率が悪くて仕方がない。だから黒竜石の採掘には硬い外皮を持つ俺たちが適任なわけだ」

「確か黒竜石の鉱山は商国内にしかないんでしたね」

「ああ。だから黒竜石は商国の大きな収入源だ。だが通常の採掘では採れる量にも限りがある。いくら適任と言っても目なんかに針水晶が刺さったら大ごとだからな。ある程度は除去しながらの作業となる。しかし軍備を増強し続ける帝国にとっては黒竜石はいくらあっても足りないくらいらしい。それで互いの利益が一致したというわけだ」

「それじゃ……]

「ある日帝国軍がやって来て武力で俺たちの村を制圧した。手引きしたのは俺が昔からよく知る奴だった。帝国軍は女子供を人質にして俺たちを鉱山で馬車馬のように働かせた。過酷なノルマを課し、無茶な強行軍でな。逆らえば誰かの妻子が見せしめに殺される」

「そんな!商国側は何もしなかったのですか!?」

「東部商業連合は王国や帝国のような絶対君主制じゃない。各種族の寄り合い所帯だ。中央会議という代表機関はあるが、誰かがリーダーというわけでもなく、各種族の利害の調整の場に過ぎん。帝国や王国の軍とやり合えるはずもない。大体その中央会議に参加してる各種族の代表が王国や帝国と繋がってる場合もあるしな」

「しかしこれは明らかに条約違反です!王都へ報告してしかるべき警告を帝国側に……」

「無駄だよ。言ったろ?どこにでも悪人はいるってな」

「まさか!?」

「ああ。王国の貴族も似たようなことをしてる。それもかなりの大物という噂を聞いたことがある」

「信じられません、そんな……」

「王国も帝国も大規模な侵攻をすれば相手側の介入を余儀なくさせるからな。俺の村のように小規模な軍を動かしていくつかの拠点を抑えることに終始している。おそらくお互い見て見ぬふりをしてるんだろう。あまり資源の供給に偏りが出ればそれこそ戦争になるだろうが」

「胸糞が悪くなる話だな。お前はそれで村から逃げてきたのか?」

 フルルの言葉にグララは頷く。

「あまりの過酷な労働で俺のダチが何人も大けがをした。死んだ奴も出て、俺はたまらず帝国兵にノルマの軽減を願い出た」

「それで?」

「翌日、俺の妹が俺の目の前で刺し殺された」

「そんな!」

「ひどすぎる……」

 リーシェが思わず顔を覆う。パンナも怒りで拳が震えていた。

「俺は耐えられなくなり、仲間数人とメキアの森へ逃げ込んだ。国境を突破するのに俺ともう一人以外が死んじまったがな。それから何とか放浪の末、オルタナ湿地に辿り着いた。その前に残ったもう一人も死んだ」

 もう誰も言葉を発することが出来なかった。重い沈黙が部屋中を」包み込む。

「俺が帝国に付くわけがねえって分かってもらえたか?」

「グララさん、王国の騎士として、あなたにお詫びを申し上げます」

 ミリアが悲痛な顔で頭を下げる。

「よしてくれ。俺の村を襲ったのは帝国だし、確かに王国の貴族にも同じことをしている奴はいるが、あんたはそんな奴らと違うことくらいは分かってる。さっきの話を聞いてサンクリスト公ってのもそうだろうとな」

「勿論です。夫ボナーは私のような半端者は勿論、あなた方獣人族ワービーストにも公平な権利を認めたいと考えています」

「そりゃ大したもんだ。あんたを妻に迎えてなきゃとても信じられない話だが」

「そうだな。半端者のあなたをそれと知って妻にしているんだ。その言葉は信用に足る」

 オルトとネムムの言葉にパンナは思わず頭を下げる。

「ありがとうございます」

「それじゃ具体的な話に移ろうじゃないか。俺はそのザパパってやつに交渉を持ちかけた帝国将校に接触すればいいんだな?」

「そうだ。奴の話によるとバーガット・ロビンソンという男らしい。そいつとはメキアの森の中の帝国軍の駐屯地で会うようだ」

「それでなんと言えばいいんだっけな?」

「まずは~、僕たち王国の獣人族ワービーストがおおむね帝国側に付くことを承諾したと伝えてもらいたいんだ。国境付近の村を制圧するのに力を貸すってね~」

 ボボルが眠そうな目で答える。

「向こうがあっさり信じるか?」

「少し食料を持参したらどうかな?この村をまずは占拠したと言ってね」

「ふむ、悪くないかもしれんな」

 ネムムが考え込みながら頷く。

「それで~、近隣の村を制圧するにはもう少し仲間を集めなきゃいけないと言って猶予を貰ってほしいんだ」

「どれくらいの時間だ?」

「そうだね~。こちらの準備を整えるのと、サンクリスト家からの応援を待つのを考慮して10日くらいでいいんじゃないかな?どうです?ミリア殿」

「そうですね。王都からの増派が来れば理想的ですが、あまり時間が空くと相手が不審に思うでしょうし」

「それじゃそういうことで。もし相手が疑ってるようなら、そのバーガットって男だけでもこの村に連れてくればいいよ」

「成程。俺たちが村を占拠しているように見せるわけだな?」

 フルルの言葉にボボルが嬉しそうに頷く。

「そう。村の人に協力してもらってね。フルルとネムムが睨みを利かせていれば向こうも信じるでしょ」

「分かった。その時はあらかじめ知らせておいた方がいいだろうな」

「そうだね。森を通ると却って守備兵と揉める恐れがあるから、逆にそいつに身分証を偽造してもらってモースキンから堂々と入国してもらったらどうかな?商国と取引してる商人とかってことにして」

「そうか。それでグララが来たら検問所からこの村へ知らせを送るわけだな?」

「そういうこと。僕らはいつでも芝居が出来るようにっ準備しておけばいい。グララ、だからわざと少し遠回りしてここへバーガットを連れてきてくれ」

「了解した」

「あのよ、ちょっと気になってることがあるんだが」

「どうした?ザック」

「ボボル、お前はオネーバーの辺境伯んとこにいる同族の知識を得られるんだよな?それって逆流の心配とかはないのか?」

「逆流?」

「だから向こうにもお前の知識が漏れてるんじゃないかってこと」

「その心配はないよ~。念のため何度か試してみたけどね。僕の情報があいつに漏れてる恐れはなかったよ」

「それならいいけどよ」

異能ギフトには何らかの副作用があるからな」

「そうだね~。フルル、君の『泳ぐ糸ストリングフィッシュ』のデメリットは多分……」

「人の弱点を晒すんじゃねえよ」

「はは、ごめんごめん。ちなみに僕の副作用はね~、一日中眠くて堪らなくなることなんだ~」

「そりゃお前のいつものことだろ!」

「ひどいなザック。いくらナマケモノだからと言って僕たち叡智樹懶ワイズスロースがみんな一日中寝てると思ったら大間違いだよ」

「まあいい。それより帝国軍を引き込んだ際の罠についてはどうするんだ?」

「うん、それなんだけど、僕なりに考えたものがあるから見てもらえるかな」

 ボボルはそう言って一枚の大きな紙をテーブルの上に広げた。


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