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第50話 動き出す事態
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ボナーとの初めての夜を過ごしたパンナは、翌朝目を覚ますと彼の顔が間近にあるのに驚いて飛び起きた。下半身にズキンとした痛みを覚え、昨夜のことを思い出して赤面する。
「えっと……おはようございます、パンナさん。じゃない、おはようパンナ」
ボナーも目を覚まし、顔を赤らめながら起き上がる。
「お、おはようございますボ、あ、あなた」
上半身を起こした二人は互いが全裸なのを改めて認識し、思わず俯いてしまう。
「へ、変ですね。い、今更」
「い、いえ、明るいところで見られるとやはり恥ずかしいものでしょう。何か羽織るものを持ってきます」
ボナーはそう言って立ち上がり、クローゼットを空けてローブを羽織ると、もう一着を取り出してパンナに渡した。
「体の方は大丈夫ですか?」
「は、はい。少し痛みますけれど」
「すいません。初めてで加減が分からなくて」
「い、いえ、お気になさらず」
その言い方が妙におかしく、ボナーは思わず笑ってしまった。パンナもそれを見て顔がほころぶ。
「ボナー様、アンセリーナ様。起きていらっしゃいますか?」
ドアがノックされ、メルキンの声が聞こえた。パンナは反射的に布団をかぶってベッドに丸くなる。
「ああ。しかし開けるのは遠慮してくれ、メルキン」
「はい。朝食の準備が整っておりますが、こちらへお運びしますか?」
「そうだな。うん、10分後に持ってきてくれ」
「かしこまりました」
二人はそれから顔を洗ったり着替えをしたりして支度を整えた。最後にパンナがウィッグを付けアンセリーナになりきる。
「お食事でございます」
ドアが再びノックされ、ワゴンに乗せられた朝食が運び込まれる。持ってきたのはモリーナだった。
「ありがとうモリーナ。早速働いてくれてるのね」
「はい。あまりにもお城が広くて何度も迷いそうになりましたわ」
「本当よね。私もまだボ、主人の案内がないとどこへも行けないわ」
皿をテーブルに並べながら、モリーナは恥ずかし気な顔のパンナを見つめる。彼女が腰をもぞもぞと動かしているのを見て、モリーナが悪戯っ子のように笑みを浮かべ、耳元で囁く。
「昨夜はお楽しみだったようですわね奥様。旦那様に愛された気分はどう?パンナ」
「モ、モリーナ!!」
パンナが炭を熾したように真っ赤な顔になって叫ぶ。
「ごめんなさい。でもこれくらいのやっかみは許してよね。同じところで育ったあなたが今は公爵夫人ですもの。羨ましくもなるわ。でもメイドの仕事はきっちりやるから安心して。あなたとボナー様を必ずお守りするわ」
「頼りにしてますよ。パンナの生活を守るにはあなたの力が不可欠ですからね」
「お任せください。この身に代えてもパンナを、いえ奥様をお守りいたします」
モリーナはボナーに深々と頭を下げ、ワゴンを押して部屋を後にした。
「さて、こうして無事に結婚出来て幸せだが、僕はすぐにも王都へ向かわなければならない。新婚早々寂しい思いをさせてすまないが」
「いえ、事態が一刻の猶予もない事は分かっております。私のことはお気になさらず」
「昨夜も言いましたが、僕の留守中に何かあればあなたが皆を指揮してください。あなたの判断を僕はいついかなる場合でも支持します」
「身に余るお役目ですが、あなたのために全力を尽くします」
それからボナーは王都へ向かうための準備を始め、パンナはクリス宛にオランドを通じてキシュナー公にボナーの考えを支持してもらえるよう頼んでほしいと手紙を書いた。それが書き終わりメルキンに持たせてエルモンド家へ向かわせようとした矢先、そのエルモンド家から使者が訪れたとボナーに報告があった。
「ナイスタイミングだな。あなたも同席してください」
ボナーの言葉に頷き、パンナは彼と連れ立って応接室に向かった。ドアを開け、ソファに座る人物を見た瞬間、パンナは思わず声を上げてしまう。
「ハンス様!」
「お嬢様、いえアンセリーナ様、人前でそのような言葉遣いをなさっては困りますぞ」
ハンスに睨まれ、パンナははっとして気を引き締め、ふてぶてしい表情になる。
「そ、そうね。気を付けるわ、爺」
「そう。それでよろしゅうございます」
「それで今日はどのようなご用件ですか?ハンス殿」
「挙式の翌日に押し掛けるような真似をしてしまい、誠に申し訳ございませんボナー様。実は火急にご相談したき議が持ち上がりまして」
「というと?」
「モースキンに駐留する王国軍守備隊から当家へ申し出がありまして。国境付近に待機している帝国軍を撤退させる作戦を立案したので当家にも協力を願いたいと。さらに当家からサンクリスト家への協力も願い出てもらいたいと」
「帝国軍を?丁度私はこれから王都へ出向き、増派をお願いしようと思っていたのですが」
「兵力の増強は必須でございましょう。ですが彼らはその前に一度帝国軍に打撃を与えておきたいと考えているようです」
「それが出来ればこちらの態勢を整える時間稼ぎにもなりますね」
「はい。それで守備隊の責任者であるミリアネル様より、ボナー様も交えての打ち合わせをしたいとのお申し出がございまして」
「噂に聞く『白銀の剣姫』殿ですか。ふむ、参加したいのは山々ですが、これからモースキンに向かうとなると王都へ行くのが遅れてしまいますね」
「左様ですな。王国軍増派も急がねばなりませんし」
「そうだ。パンナ、君が僕の代わりに出席してくれないか?」
「わ、私が!?」
「パ……お嬢様、いえ奥方様をですか?ですがそれは」
「そ、そうです。私などにはとても」
「いや、僕以外でこの役を務められるのはあなたしかいません。作戦への協力と騎士団の派遣はこの場で僕が承認します。念書を書いてもいい。それを持ってモースキンへ向かってください」
「本当によろしいのですか?私などがボ、あなたの代わりで」
「勿論です。お願いします」
「ボナー様がそうまで言われるのであれば仕方ありませんな。あちらには奥方様がいらっしゃるとお伝えいたしましょう」
ハンスはそう言うとパンナを見て複雑な表情を浮かべた。
「えっと……おはようございます、パンナさん。じゃない、おはようパンナ」
ボナーも目を覚まし、顔を赤らめながら起き上がる。
「お、おはようございますボ、あ、あなた」
上半身を起こした二人は互いが全裸なのを改めて認識し、思わず俯いてしまう。
「へ、変ですね。い、今更」
「い、いえ、明るいところで見られるとやはり恥ずかしいものでしょう。何か羽織るものを持ってきます」
ボナーはそう言って立ち上がり、クローゼットを空けてローブを羽織ると、もう一着を取り出してパンナに渡した。
「体の方は大丈夫ですか?」
「は、はい。少し痛みますけれど」
「すいません。初めてで加減が分からなくて」
「い、いえ、お気になさらず」
その言い方が妙におかしく、ボナーは思わず笑ってしまった。パンナもそれを見て顔がほころぶ。
「ボナー様、アンセリーナ様。起きていらっしゃいますか?」
ドアがノックされ、メルキンの声が聞こえた。パンナは反射的に布団をかぶってベッドに丸くなる。
「ああ。しかし開けるのは遠慮してくれ、メルキン」
「はい。朝食の準備が整っておりますが、こちらへお運びしますか?」
「そうだな。うん、10分後に持ってきてくれ」
「かしこまりました」
二人はそれから顔を洗ったり着替えをしたりして支度を整えた。最後にパンナがウィッグを付けアンセリーナになりきる。
「お食事でございます」
ドアが再びノックされ、ワゴンに乗せられた朝食が運び込まれる。持ってきたのはモリーナだった。
「ありがとうモリーナ。早速働いてくれてるのね」
「はい。あまりにもお城が広くて何度も迷いそうになりましたわ」
「本当よね。私もまだボ、主人の案内がないとどこへも行けないわ」
皿をテーブルに並べながら、モリーナは恥ずかし気な顔のパンナを見つめる。彼女が腰をもぞもぞと動かしているのを見て、モリーナが悪戯っ子のように笑みを浮かべ、耳元で囁く。
「昨夜はお楽しみだったようですわね奥様。旦那様に愛された気分はどう?パンナ」
「モ、モリーナ!!」
パンナが炭を熾したように真っ赤な顔になって叫ぶ。
「ごめんなさい。でもこれくらいのやっかみは許してよね。同じところで育ったあなたが今は公爵夫人ですもの。羨ましくもなるわ。でもメイドの仕事はきっちりやるから安心して。あなたとボナー様を必ずお守りするわ」
「頼りにしてますよ。パンナの生活を守るにはあなたの力が不可欠ですからね」
「お任せください。この身に代えてもパンナを、いえ奥様をお守りいたします」
モリーナはボナーに深々と頭を下げ、ワゴンを押して部屋を後にした。
「さて、こうして無事に結婚出来て幸せだが、僕はすぐにも王都へ向かわなければならない。新婚早々寂しい思いをさせてすまないが」
「いえ、事態が一刻の猶予もない事は分かっております。私のことはお気になさらず」
「昨夜も言いましたが、僕の留守中に何かあればあなたが皆を指揮してください。あなたの判断を僕はいついかなる場合でも支持します」
「身に余るお役目ですが、あなたのために全力を尽くします」
それからボナーは王都へ向かうための準備を始め、パンナはクリス宛にオランドを通じてキシュナー公にボナーの考えを支持してもらえるよう頼んでほしいと手紙を書いた。それが書き終わりメルキンに持たせてエルモンド家へ向かわせようとした矢先、そのエルモンド家から使者が訪れたとボナーに報告があった。
「ナイスタイミングだな。あなたも同席してください」
ボナーの言葉に頷き、パンナは彼と連れ立って応接室に向かった。ドアを開け、ソファに座る人物を見た瞬間、パンナは思わず声を上げてしまう。
「ハンス様!」
「お嬢様、いえアンセリーナ様、人前でそのような言葉遣いをなさっては困りますぞ」
ハンスに睨まれ、パンナははっとして気を引き締め、ふてぶてしい表情になる。
「そ、そうね。気を付けるわ、爺」
「そう。それでよろしゅうございます」
「それで今日はどのようなご用件ですか?ハンス殿」
「挙式の翌日に押し掛けるような真似をしてしまい、誠に申し訳ございませんボナー様。実は火急にご相談したき議が持ち上がりまして」
「というと?」
「モースキンに駐留する王国軍守備隊から当家へ申し出がありまして。国境付近に待機している帝国軍を撤退させる作戦を立案したので当家にも協力を願いたいと。さらに当家からサンクリスト家への協力も願い出てもらいたいと」
「帝国軍を?丁度私はこれから王都へ出向き、増派をお願いしようと思っていたのですが」
「兵力の増強は必須でございましょう。ですが彼らはその前に一度帝国軍に打撃を与えておきたいと考えているようです」
「それが出来ればこちらの態勢を整える時間稼ぎにもなりますね」
「はい。それで守備隊の責任者であるミリアネル様より、ボナー様も交えての打ち合わせをしたいとのお申し出がございまして」
「噂に聞く『白銀の剣姫』殿ですか。ふむ、参加したいのは山々ですが、これからモースキンに向かうとなると王都へ行くのが遅れてしまいますね」
「左様ですな。王国軍増派も急がねばなりませんし」
「そうだ。パンナ、君が僕の代わりに出席してくれないか?」
「わ、私が!?」
「パ……お嬢様、いえ奥方様をですか?ですがそれは」
「そ、そうです。私などにはとても」
「いや、僕以外でこの役を務められるのはあなたしかいません。作戦への協力と騎士団の派遣はこの場で僕が承認します。念書を書いてもいい。それを持ってモースキンへ向かってください」
「本当によろしいのですか?私などがボ、あなたの代わりで」
「勿論です。お願いします」
「ボナー様がそうまで言われるのであれば仕方ありませんな。あちらには奥方様がいらっしゃるとお伝えいたしましょう」
ハンスはそう言うとパンナを見て複雑な表情を浮かべた。
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