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第42話 それぞれの決着
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「リヒター!」
マルノーに刺され地に伏せたリヒターを横目で見てニケが叫ぶ。フェルムと二人がかりで何とか対応しているが、怪物の攻撃は止むことを知らず、こちらの疲労は溜まっていく一方だ。
「ぐがっ!」
だが突然、怪物の動きが鈍った。咆哮を上げながら頭を抱え、狂ったように体を震わせる。
「な、何だ?どうした?」
コスイナが焦った顔で叫ぶ。
「ふうん、拒絶反応か。覚醒を急がせた影響かな?どうやら活動時間に限界があるようだ」
ロリエルが思案顔で呟く。
「何だと!?話が違うではないかロリエル!」
「仕方ないだろう。初めて水槽の外に出したんだ。おや、体細胞が崩壊しかけてるね。こりゃ長くは持たないな」
ロリエルが淡々と言い、ニケが怒りの目でそちらを見る。
「あなたたち!一体何をしたの?あの怪物は何なのです!?」
「研究成果さ。君は見たところ『半端者』かな?アーノルド男爵と対立していたところを見ると教団を敵視しているようだね」
「その目……異郷人……」
「よく知ってるじゃないか。素人じゃなさそうだ」
ロリエルがあざ笑うように言い、ニケの神経を刺激する。
「コスイナ、あいつらを知ってるのかい~?」
マルノーが間延びした声で尋ねる。
「いや、知らん。教団を敵視しているとなれば儂の敵、ではないか。今や儂も教団の敵だからな」
「なら俺の異能は使えないか~」
マルノーがそう言った時、背後で怪物が倒れ、ほとんど動かなくなった。その体が見る間にぼろぼろと崩れていく。
「体細胞の一部を持ち帰りたいんだけど、あの様子じゃ難しいかな」
ロリエルが残念そうに呟く。
「改善策はあるんだろうな?」
「少し時間をくれれば改善は出来ると思うよ。でもあそこはもう使えないんじゃないかい?」
「データを持ち出せば他でも出来るのか?」
「問題ないよ。全てのデータはここに入ってるからね。素体さえ確保できればそれでいい」
ロリエルは自分の頭をトントンと指で刺して言う。
「グレーキンは没収されるだろうな。他に行く当てはない。さて、どうしたものか」
「あなたたち、詳しい話を聞かせてもらいます」
ニケがコスイナたちに近づく。その隣でフェルムが剣を構えた。
「ふむ、敵の敵は味方、という言葉もあるな。おい、お前たちは何者だ?何のため教団を敵視している?」
「訊いているのはこっちよ!」
「儂はグレーキンの領主、コスイナ・チャーチ・アクアットだ」
「アクアット卿!?まさか!」
「本当だ。ほれ」
コスイナは胸の徽章を見せつける。
「アクアット子爵が何故……」
「儂も教団の一員だったのだ。つい先日までな」
「何ですって!?」
「六芒星に取り入るつもりだったが失敗してな。逆に連中に殺されかけた。で逆に奴らを皆殺しにしてやろうと思ってな」
「そんなことが信じられるとでも?」
「どう思おうが勝手だがな。現にそこに倒れているアーノルド卿は六芒星の一人だ」
「彼には教団のことをしゃべってもらうつもりだったのよ。代わりにあなたにしゃべってもらうわ」
「残念だが儂は見習いのような立場でな。詳しいことは何も知らんのだ。アーノルド卿が六芒星であることを確信したのもついさっきだからな」
「言い逃れする気?」
「そうではない。儂に協力してくれるなら知ってることを教えることもやぶさかではない」
「協力?」
「お前たち単独で動いているわけではなかろう?後ろ盾は誰だ?」
「簡単に教えるとでも?」
「お互いギブアンドテイクで行こうと言っているのだ。そうだな、他の六芒星のメンバーを教えてやる。一人はロットン子爵だ」
「それは知っているわ」
「ならもう一人はどうだ?」
「本当に知っているの?」
「ああ。実際に会ったからな」
「いいでしょう。私たちはイグニアス公の命で動いているわ」
「何と!『四公』の命とは!」
「はあん、噂に聞く異能者狩りを狙ってる連中か。なるほど」
ロリエルが感心したように呟く。
「お前は本当にどこからそういう情報を得ているのだ?」
コスイナが呆れたように言う。
「よく御存じね。その通りよ」
「イグニアス公は『純血派』とかいう亜人だの半端者だのを嫌う宗派の筆頭だろ?それがあんたらのような者を雇うとはね。汚れ仕事を押し付けるにはぴったりってことか」
「さすが『金目』。噂通り頭が切れるのね」
「いやいや、僕たちのことまで知ってるとはそっちも感心だよ。で、確認だけど、教団は君らにとっても敵なんだよね?」
「ええ。不倶戴天の敵よ」
「それなら教団を潰すという目的において僕たちは協力できると思うんだけど」
「本気?」
「勿論。さっきの見たろ?あれは僕が創ったものだ。元々は教団が人工的に天使を創ろうとしてたものだけど、僕は独自に改良を加えた。今は活動時間に限界があるけど、研究を続ければ完全な兵器になる。帝国との戦争に有効な兵器にね。どうだい?イグニアス公に斡旋して研究の場と資金を提供してくれないかな。帝国を追い払う力を王国に与えてあげるよ」
「おいロリエル。帝国に売り込むんじゃなかったのか?」
マルノーが眉をひそめてロリエルの耳元で囁く。
「いいじゃないか。近場で研究が出来るならそれに越した事はない。僕は可愛い子供たちが暴れるところが見れれば満足だ。コスイナもそれでいいだろ?」
思うところはあったが、ロリエルの目配せでその意図を読み取ったコスイナはゆっくりと頷く。
「直接イグニアス公に繋ぎを付けるのは無理よ」
「代理でもいいさ。公爵の言質が取れればね」
「案内はするわ。それじゃもう一人のメンバーを教えて」
「実際にイグニアス公の代理人と会うまでは言えない。な、コスイナ」
「そうじゃな。儂らが研究できる場に実際に落ち着けたら教えよう」
「分かったわ。じゃ付いてきて」
ニケはそう言って敵意をむき出しにするフェルムをなだめ歩き出した。
「ぐはっ!」
狭い小屋の中にサナナの悲鳴が響く。小屋の中は見えないほどに細く、それでいて刃のように研ぎ澄まされた糸が無数に張り巡らされていた。
「ちっ、厄介だよな。てめえの『泳ぐ糸』はよお」
苛ついた目でサナナはフルルを睨む。その肩や足には無数の切り傷が出来ていた。
「貴様こそこの狭い空間で俺の糸を受けて致命傷を負わないとは厄介だ」
そう言いながらフルルはサナナの隣に立つ鎧蜥蜴のザパパに視線をやる。名前の通り鎧のように硬い外皮を持つ鎧蜥蜴の彼はフルルの糸を受けてもかすり傷程度しか負っていない。
『このまま逃げられると厄介だな。だが糸が効かない以上有効な手がない』
フルルは内心焦りながら糸を再度操る。生き物のように糸が蠢き、サナナに襲いかかる。
「ちいっ!」
手にした剣で糸を払いのけるサナナだが全てを躱すことは出来ず、さらに多くの傷をその身に負う。ボタボタと大量の血が床に零れ落ちた。
「その傷ではまともに戦えまい。勝負あったな、サナナ」
フルルはそう言ってじりっとサナナに近づく。
「ふ、俺がお前の異能を知りながらこの狭い小屋に入ったのを不審に思わなかったのか?」
「何?」
フルルが眉根を顰め警戒した瞬間、床に零れたサナナの血がいきなり意志を持ったように動き出し、フルルに向かって飛び掛かってくる。
「これは!?」
とっさに手を体の前で交差させたフルルだったが、その腕や足にすさまじい激痛が走った。
「ぐあっ!」
「ふ、どうだ?強酸に焼かれる気分は」
サナナが口元を歪ませて言う。
「俺の血は体外に出ると強酸性に変わり、敵に襲い掛かる。俺の異能、『噴喰血酸』の味はどうだ?俺は最初から無傷で勝てるとは思ってないのさ」
傷ついた体を引きずりながらサナナがフルルに近づく。糸を操ろうにも糸にも血が付着していたため、あちこちで焼き切れてしまっていた。
「こんなざまでも貴様にとどめを刺すくらいは出来る。勝負あったとは俺の台詞だったな、フルル」
フルルは舌打ちし、裏手のドアへ向かって突進する。そのまま勢いよくドアにぶつかり外へと転がり出た。
「無駄なあがきを」
よろよろとした動きでサナナも外へ向かう。それにザパパも続いた。
「無様だなフルル。これで……」
ふらつきながらサナナが地面に横たわるフルルに向けて剣を振り上げる。と、その瞬間
ザンッ!
いきなり地面から何本もの植物の蔓のようなものが飛び出し、サナナとザパパの体に絡みつく。負傷していたサナナは勿論、いきなりのことで反応が遅れたザパパもあっという間に太い蔓に絡みつかれ身動きが出来なくなってしまった。
「あ~あ。ボロボロじゃないですか師匠。大丈夫ですか?」
場違いに呑気な声が聞こえ、一人の戦兎が姿を現す。見かけからしてまだ少年と言った年頃のようだ。
「いっちょ前の口を利くようになったな、モンテ」
痛みに耐えながらフルルが薄く笑う。
「くっ、伏兵とは」
サナナが何とか抜け出そうと体を動かすが、食い込んだ蔓はびくともしない。
「で、どうします師匠?見たところ同族の方のようですが」
「サナナ、体外に出た血が酸性化するということは体内にある血は吸っても無害ということだよな?モンテ、構わんから干物にしてやれ」
「了解で~す」
モンテが両手を動かすと、蔓から太い棘が無数に生え、サナナとザパパの体に突き刺さる。が、外皮の硬いザパパの体には中々入っていかない。
「師匠、こちらの人には中々棘が刺さらないです」
「か、構わん。しばらく拘束しておくことは出来るか?」
「ここでじっとしてていいのなら」
「うむ。こいつの処遇については他の者に知恵を借りるとしよう。悪いがそのまま捕まえておけ」
「は~い」
「ぐ、あああっ!」
フルルとモンテが会話をしている間にも棘はサナナの体から容赦なく血を吸い上げていく。次第にサナナはミイラのように干からびていった。
「さて、これからどうしたものかな」
痛む体をよろよろと起こし、フルルは命が尽きていく同胞を冷たい視線で見つめた。
マルノーに刺され地に伏せたリヒターを横目で見てニケが叫ぶ。フェルムと二人がかりで何とか対応しているが、怪物の攻撃は止むことを知らず、こちらの疲労は溜まっていく一方だ。
「ぐがっ!」
だが突然、怪物の動きが鈍った。咆哮を上げながら頭を抱え、狂ったように体を震わせる。
「な、何だ?どうした?」
コスイナが焦った顔で叫ぶ。
「ふうん、拒絶反応か。覚醒を急がせた影響かな?どうやら活動時間に限界があるようだ」
ロリエルが思案顔で呟く。
「何だと!?話が違うではないかロリエル!」
「仕方ないだろう。初めて水槽の外に出したんだ。おや、体細胞が崩壊しかけてるね。こりゃ長くは持たないな」
ロリエルが淡々と言い、ニケが怒りの目でそちらを見る。
「あなたたち!一体何をしたの?あの怪物は何なのです!?」
「研究成果さ。君は見たところ『半端者』かな?アーノルド男爵と対立していたところを見ると教団を敵視しているようだね」
「その目……異郷人……」
「よく知ってるじゃないか。素人じゃなさそうだ」
ロリエルがあざ笑うように言い、ニケの神経を刺激する。
「コスイナ、あいつらを知ってるのかい~?」
マルノーが間延びした声で尋ねる。
「いや、知らん。教団を敵視しているとなれば儂の敵、ではないか。今や儂も教団の敵だからな」
「なら俺の異能は使えないか~」
マルノーがそう言った時、背後で怪物が倒れ、ほとんど動かなくなった。その体が見る間にぼろぼろと崩れていく。
「体細胞の一部を持ち帰りたいんだけど、あの様子じゃ難しいかな」
ロリエルが残念そうに呟く。
「改善策はあるんだろうな?」
「少し時間をくれれば改善は出来ると思うよ。でもあそこはもう使えないんじゃないかい?」
「データを持ち出せば他でも出来るのか?」
「問題ないよ。全てのデータはここに入ってるからね。素体さえ確保できればそれでいい」
ロリエルは自分の頭をトントンと指で刺して言う。
「グレーキンは没収されるだろうな。他に行く当てはない。さて、どうしたものか」
「あなたたち、詳しい話を聞かせてもらいます」
ニケがコスイナたちに近づく。その隣でフェルムが剣を構えた。
「ふむ、敵の敵は味方、という言葉もあるな。おい、お前たちは何者だ?何のため教団を敵視している?」
「訊いているのはこっちよ!」
「儂はグレーキンの領主、コスイナ・チャーチ・アクアットだ」
「アクアット卿!?まさか!」
「本当だ。ほれ」
コスイナは胸の徽章を見せつける。
「アクアット子爵が何故……」
「儂も教団の一員だったのだ。つい先日までな」
「何ですって!?」
「六芒星に取り入るつもりだったが失敗してな。逆に連中に殺されかけた。で逆に奴らを皆殺しにしてやろうと思ってな」
「そんなことが信じられるとでも?」
「どう思おうが勝手だがな。現にそこに倒れているアーノルド卿は六芒星の一人だ」
「彼には教団のことをしゃべってもらうつもりだったのよ。代わりにあなたにしゃべってもらうわ」
「残念だが儂は見習いのような立場でな。詳しいことは何も知らんのだ。アーノルド卿が六芒星であることを確信したのもついさっきだからな」
「言い逃れする気?」
「そうではない。儂に協力してくれるなら知ってることを教えることもやぶさかではない」
「協力?」
「お前たち単独で動いているわけではなかろう?後ろ盾は誰だ?」
「簡単に教えるとでも?」
「お互いギブアンドテイクで行こうと言っているのだ。そうだな、他の六芒星のメンバーを教えてやる。一人はロットン子爵だ」
「それは知っているわ」
「ならもう一人はどうだ?」
「本当に知っているの?」
「ああ。実際に会ったからな」
「いいでしょう。私たちはイグニアス公の命で動いているわ」
「何と!『四公』の命とは!」
「はあん、噂に聞く異能者狩りを狙ってる連中か。なるほど」
ロリエルが感心したように呟く。
「お前は本当にどこからそういう情報を得ているのだ?」
コスイナが呆れたように言う。
「よく御存じね。その通りよ」
「イグニアス公は『純血派』とかいう亜人だの半端者だのを嫌う宗派の筆頭だろ?それがあんたらのような者を雇うとはね。汚れ仕事を押し付けるにはぴったりってことか」
「さすが『金目』。噂通り頭が切れるのね」
「いやいや、僕たちのことまで知ってるとはそっちも感心だよ。で、確認だけど、教団は君らにとっても敵なんだよね?」
「ええ。不倶戴天の敵よ」
「それなら教団を潰すという目的において僕たちは協力できると思うんだけど」
「本気?」
「勿論。さっきの見たろ?あれは僕が創ったものだ。元々は教団が人工的に天使を創ろうとしてたものだけど、僕は独自に改良を加えた。今は活動時間に限界があるけど、研究を続ければ完全な兵器になる。帝国との戦争に有効な兵器にね。どうだい?イグニアス公に斡旋して研究の場と資金を提供してくれないかな。帝国を追い払う力を王国に与えてあげるよ」
「おいロリエル。帝国に売り込むんじゃなかったのか?」
マルノーが眉をひそめてロリエルの耳元で囁く。
「いいじゃないか。近場で研究が出来るならそれに越した事はない。僕は可愛い子供たちが暴れるところが見れれば満足だ。コスイナもそれでいいだろ?」
思うところはあったが、ロリエルの目配せでその意図を読み取ったコスイナはゆっくりと頷く。
「直接イグニアス公に繋ぎを付けるのは無理よ」
「代理でもいいさ。公爵の言質が取れればね」
「案内はするわ。それじゃもう一人のメンバーを教えて」
「実際にイグニアス公の代理人と会うまでは言えない。な、コスイナ」
「そうじゃな。儂らが研究できる場に実際に落ち着けたら教えよう」
「分かったわ。じゃ付いてきて」
ニケはそう言って敵意をむき出しにするフェルムをなだめ歩き出した。
「ぐはっ!」
狭い小屋の中にサナナの悲鳴が響く。小屋の中は見えないほどに細く、それでいて刃のように研ぎ澄まされた糸が無数に張り巡らされていた。
「ちっ、厄介だよな。てめえの『泳ぐ糸』はよお」
苛ついた目でサナナはフルルを睨む。その肩や足には無数の切り傷が出来ていた。
「貴様こそこの狭い空間で俺の糸を受けて致命傷を負わないとは厄介だ」
そう言いながらフルルはサナナの隣に立つ鎧蜥蜴のザパパに視線をやる。名前の通り鎧のように硬い外皮を持つ鎧蜥蜴の彼はフルルの糸を受けてもかすり傷程度しか負っていない。
『このまま逃げられると厄介だな。だが糸が効かない以上有効な手がない』
フルルは内心焦りながら糸を再度操る。生き物のように糸が蠢き、サナナに襲いかかる。
「ちいっ!」
手にした剣で糸を払いのけるサナナだが全てを躱すことは出来ず、さらに多くの傷をその身に負う。ボタボタと大量の血が床に零れ落ちた。
「その傷ではまともに戦えまい。勝負あったな、サナナ」
フルルはそう言ってじりっとサナナに近づく。
「ふ、俺がお前の異能を知りながらこの狭い小屋に入ったのを不審に思わなかったのか?」
「何?」
フルルが眉根を顰め警戒した瞬間、床に零れたサナナの血がいきなり意志を持ったように動き出し、フルルに向かって飛び掛かってくる。
「これは!?」
とっさに手を体の前で交差させたフルルだったが、その腕や足にすさまじい激痛が走った。
「ぐあっ!」
「ふ、どうだ?強酸に焼かれる気分は」
サナナが口元を歪ませて言う。
「俺の血は体外に出ると強酸性に変わり、敵に襲い掛かる。俺の異能、『噴喰血酸』の味はどうだ?俺は最初から無傷で勝てるとは思ってないのさ」
傷ついた体を引きずりながらサナナがフルルに近づく。糸を操ろうにも糸にも血が付着していたため、あちこちで焼き切れてしまっていた。
「こんなざまでも貴様にとどめを刺すくらいは出来る。勝負あったとは俺の台詞だったな、フルル」
フルルは舌打ちし、裏手のドアへ向かって突進する。そのまま勢いよくドアにぶつかり外へと転がり出た。
「無駄なあがきを」
よろよろとした動きでサナナも外へ向かう。それにザパパも続いた。
「無様だなフルル。これで……」
ふらつきながらサナナが地面に横たわるフルルに向けて剣を振り上げる。と、その瞬間
ザンッ!
いきなり地面から何本もの植物の蔓のようなものが飛び出し、サナナとザパパの体に絡みつく。負傷していたサナナは勿論、いきなりのことで反応が遅れたザパパもあっという間に太い蔓に絡みつかれ身動きが出来なくなってしまった。
「あ~あ。ボロボロじゃないですか師匠。大丈夫ですか?」
場違いに呑気な声が聞こえ、一人の戦兎が姿を現す。見かけからしてまだ少年と言った年頃のようだ。
「いっちょ前の口を利くようになったな、モンテ」
痛みに耐えながらフルルが薄く笑う。
「くっ、伏兵とは」
サナナが何とか抜け出そうと体を動かすが、食い込んだ蔓はびくともしない。
「で、どうします師匠?見たところ同族の方のようですが」
「サナナ、体外に出た血が酸性化するということは体内にある血は吸っても無害ということだよな?モンテ、構わんから干物にしてやれ」
「了解で~す」
モンテが両手を動かすと、蔓から太い棘が無数に生え、サナナとザパパの体に突き刺さる。が、外皮の硬いザパパの体には中々入っていかない。
「師匠、こちらの人には中々棘が刺さらないです」
「か、構わん。しばらく拘束しておくことは出来るか?」
「ここでじっとしてていいのなら」
「うむ。こいつの処遇については他の者に知恵を借りるとしよう。悪いがそのまま捕まえておけ」
「は~い」
「ぐ、あああっ!」
フルルとモンテが会話をしている間にも棘はサナナの体から容赦なく血を吸い上げていく。次第にサナナはミイラのように干からびていった。
「さて、これからどうしたものかな」
痛む体をよろよろと起こし、フルルは命が尽きていく同胞を冷たい視線で見つめた。
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