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第39話 復讐者たち
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どうしてこうなったのか。コスイナ馬車に揺られながらぼんやりとそう考えた。あの時、暗殺者ギルドの元締めであるガルバリーの手によって、コスイナは殺される寸前だった。だがガルバリーのレイピアがコスイナの首に突き刺さる直前、意外な展開が待っていた。
「待ってくれよ。そいつを今殺されるのはちょっと困るんだ」
いきなり窓から聞こえたその声に、ガルバリーが反射的に剣を引く。見ると窓枠に一人の男が中腰で座っている。異様なのはその腕が常人よりはるかに長い事だった。
「いつの間に……それにその姿、まさか!」
ガルバリーが驚愕の色を浮かべる。
「マ、マルノー!」
コスイナも驚いた顔で手の長いその男を見る。
「暗殺者ギルドを敵に回す気はないんだけどさ~、こっちにも都合ってものがあってね」
ガルバリーを睨みながらマルノーと呼ばれた男が飄々とした口調で言う。
「まさかあなたが異郷人まで飼っておられたとは。ふ、いいでしょう。今日のところは退くとしましょう」
ガルバリーは剣を収め、部屋を出ていく。緊張から解き放たれたコスイナはへなへなとその場に崩れ落ちた。
「いや~、危なかったね。アクアット卿」
「お、お前どうしてここに……いや、どうやってここに……」
「はは~、あの程度の鍵、彼女には何の役にも立たないに決まってるじゃない。表をうろうろすると面倒くさいことになるからあえてあそこに閉じこもってただけさ」
「ま、まあ助かったことには礼を言おう。しかしお前がここに来たということは……」
「うん、一応の目途が付いたみたいだよ。ゲスナー君は残念だったけど、あれは君の息子として育てなきゃいけなかったから制約も多かったからね~」
「単純な覚醒ならすぐにでも促せると?」
「彼女はそう言ってるね」
「ならそれを見せてもらおう」
コスイナは立ち上がり、憎悪の籠った目でそう言うと、マルノーと共に部屋を後にした。廊下に出てすぐ右手の壁に手を当て、力を込めると、壁の一部が回転し、奥に暗くて細い通路が現れる。コスイナと先ほどガルバリーに殺された執事しか知らぬ秘密の通路だ。コスイナはマルノーを先に入らせ、その秘密の通路を進む。
「これで儂は教団もギルドも全て敵に回したことになるな」
通路の先には階段があり、そこを降りながらコスイナは独り言つ。
「なら全てを破壊してやる。奴らが代用品とバカにした儂の研究の成果をもってな」
暗い目でそう言うコスイナが階段を降り切ると目の前に鉄の扉が現れた。マルノーがノブを回すと、ギィッという錆びた音がしてドアが開く。
「本当に鍵を開けよったか。お前らを閉じ込めた気でいた儂が愚かよな」
「そういうことだね」
ドアを潜ると、驚くほど広い空間がそこにあった。あちこちにテーブルや円柱型のガラスの水槽のようなものが置かれ、その中は水に満たされており、異形の生物がじっと佇んでいる。
「やあコスイナ無事だったかい。物騒なお客が来ていたようだね」
その水槽の後ろに立つ少女がコスイナに声をかける。緑色の髪を腰まで伸ばしたその少女はまだローティーンにしか見えないが、白衣を着て薄ら笑いを浮かべる顔はその外見に似つかわしくないほどふてぶてしい。そして何より特徴的なのは金色に輝く猫のように縦に長いその瞳だった。
「相変わらずだなロリエル。どうやって外の状況を把握してるんだ、お前は」
「まあいいじゃないかそんなことは。それよりどうだい?可愛いだろ。遂に完成したよ」
ロリエルと呼ばれた少女が水槽の中の異形な生物たちに手を伸ばして誇らしげに言う。
「お前らの美的感覚とは相いれるものがないな。まあ戦力として使えればそれでいい。どれだけの数が動かせる?」
「とりあえずはまだ一体かな。もう少し精子をもらえるなら数日で数体は稼働できると思うけど」
「ならいくらでもやる」
コスイナはそう言っていきなり服を脱ぎだす。
「出来ればもう少し若くてイキのいい奴が欲しいんだけどね」
「他の奴らにここのことを知られるわけにはいかんだろうが」
「そんなこと言って、自分が僕を抱きたいだけなんだろ?この変態親父が」
ロリエルはそう言って嫌味な笑いを浮かべ、自分も白衣に手をかけそのまま裸になった。
王国の人間、特に王族や貴族はプライドが高い。王国民は選ばれし民だという意識を持っている。これは帝国の人間も同じなのだが、王家に権力が集中している王国の方がより顕著と言えた。両国の者は自分たちが世界の中心だと考えており、それゆえ自分たちがいる大陸にあえて名前を付けていない。実際この世界には海を隔てた先に別の大陸も存在しているのだが、彼らはその存在を事実上無視していた。航海技術が未発達であることも要因だったが、自分たち以外の人間を認めないという選民思想がその根底にあるのも事実だった。
しかし別の大陸が存在する以上、そこには別の生命体、さらにいえば別の人種が存在するのは自明の理であり、そこからは嵐などの災害に遭ったり、あるいは何らかの理由で追放されたりしてこの大陸にやって来るものもまれにあった。そういった別大陸から来た人間は外見的に王国や帝国の民とは外見的な差異を持つ者も多く、彼らは表面上は流れ着いた地の統治者によって保護される決まりとなっていたが、事実上は隔離され、軟禁生活を送るものがほとんどであった。「異郷人」と呼ばれた彼らの中にはそういった扱いを不満に思い、隔離された場所から逃げ出すものも多くいた。
異郷人はその外見的特徴がそのまま呼び名になることが大半で、マルノーの人種は「手長」、ロリエルの人種は「金眼」と呼ばれていた。手長は技術力に優れた人種で、独自の造船、操船技術を持っており、世界の海を航海している。金眼も知能が発達しており、またかなりの長寿であることも特徴だった。ロリエルもこの大陸の人間の基準で見れば十二、三歳にしか見えないが、実際はコスイナよりも年長であった。
「ふう、随分出したね。歳の割に頑張り過ぎじゃないかい?」
コスイナの出した精子をガラス瓶に集めながらロリエルが呆れたように言う。荒い息を吐くコスイナはまともに返事が出来ないほど疲れ切っていた。
「わ、儂より年上の女にい、言われる筋合いはない」
ようやくそれだけ言ってコスイナは大の字になった。
「まあおかげで可愛い子供たちを目覚めさせてあげられそうだけどね」
ロリエルはガラス瓶の中の精子を振りながら嬉しそうに笑う。
「なあコスイナ。教団と手切れになった以上俺たちをここで飼う必要もないだろう~?外に出ても構わんよな?」
マルノーがコスイナを見下ろしながら言う。
「こ、ここを出てどこに行くつもりだ?お前らが平穏に暮らせる場所など……」
「帝国と戦争が始まりそうなんでしょ?傭兵の需要はあるんじゃないか?」
「そうだねえ。この大陸の人間は亜人種や僕たち別人種を道具くらいにしか考えてないようだし、戦ってやると言ったら喜んで前線に送り込みそうだ」
ロリエルの言葉にコスイナは顔をしかめる。
「て、帝国はまだしも王国軍はどうかな?貴族は王家の剣となって戦うのを誇りとしているからな。お前らに手を借りるのを快く思わん奴も多かろう」
「なら帝国軍に売り込むよ」
「こ、国境を越えられるとでも思ってるのか」
「こいつらの力があれば可能だろう。なあ、ロリエル」
「そうだね。王国軍の守備隊を蹴散らして帝国に入ればいいデモンストレーションになりそうだ」
「な、なら今動かせる一体を儂のために使え。その後はお前らの自由にするがいい」
「気前がいいじゃないか。やけくそになったかい?」
「そうだな。教団からは見放され、ゲスナ―が死んだ以上、養子を取れなければアクアット家は断絶だ。もう守るものはない。最後に全ての者に復讐してやる」
「いいね。僕たちもこの国の連中には恨みがある。力を貸そうじゃないか。地下の幽閉生活とはいえ一宿一飯の義理もある」
ロリエルはそう言って笑い、水槽の中の異形の者を見つめた。
「アクアット卿!貴公、生きていたのか?」
リヒターが目を丸くしてコスイナを見つめる。すぐ近くではニケとファルムが怪物と攻防を繰り広げていた。
「ふ、ギルバートから死んだと聞かされていたか?」
「何故それを?貴様、我らのことを……」
「貴族らしくない物言いになってるぞアーノルド卿。所詮は教団に飼われた成り上がり者だな。まあ儂も人のことは言えんが」
「どうしたのだ貴様?まるで別人のようだ」
「吹っ切れたのさ全てがな。教団も王家もみな潰してやる。見ろ!お前たちが代用品と蔑んだ我が研究の成果を!」
怪物の攻撃をニケたちは避けているが、有効な手がなく、焦り始めていた。体が硬くまともに剣が通らない上、ニケの異能も通用しない。
「あれは何だ!?なぜ俺の異能が通用しない!?」
「さて、それは儂にも分からん。どう思うロリエル?」
コスイナの呼びかけにいつの間にかロリエルがその傍らに姿を現す。
「ふむ。はっきりは言えないが、素体に何らかの原因があるんだろうね。あれは確か教団の異能者狩りから廻してもらった半端者だったと思ったけど」
「ま、まさか俺たちと同じ『シーザーズ』の……」
「ほお、貴様『半端者』だったか。ということはロットン卿も『六芒星」ということか」
「ちっ!」
「いやあ、解放して好きにさせたら一直線にこっちに走ってきたからね。同類の匂いに惹かれてきたということか」
ロリエルが感心したように言う。
「貴様、あれに何をした?どうしたらあんな化け物に……」
「ふん、貴様らに言われる筋合いはないわ。人工的に天使を創るなど今になって思えばおこがましいにも程があるな」
「黙れ!あんな化け物と俺の成果を一緒にするな!」
「貴様の息子は覚醒もせず死んだのだろう?こっちの方が戦力になる分、まだましだ」
コスイナが嘲るように言い、リヒターが彼に向かって手を伸ばす。
「あの化け物には通じなくても貴様を殺すことは簡単だ!」
「ああ~、悪いけどそれは勘弁してもらうよ~」
いきなり声が聞こえた、と思った瞬間、リヒターは背中に鋭い痛みを感じた。何が起きたかを理解する前にリヒターの体はその場に崩れ落ちる。
が、はっ……」
口から吐血し、リヒターは地面に横たわる。その背中には一本のナイフが深々と突き刺さっていた。
「ご苦労、マルノー」
コスイナが淡々と言い、倒れたリヒターの後ろに立つマルノーを見つめる。
「俺の異能、『存在の耐えられない軽さ』も便利なもんだろ?」
「そうだな。制約はあるが、使いようによっては無敵の力になりうる。ふ、帝国軍なら高く買ってくれるかもしれんな」
「そう願いたいね~」
マルノーはそう言って笑い、息絶えたリヒターを冷たい目で見下ろした。
「待ってくれよ。そいつを今殺されるのはちょっと困るんだ」
いきなり窓から聞こえたその声に、ガルバリーが反射的に剣を引く。見ると窓枠に一人の男が中腰で座っている。異様なのはその腕が常人よりはるかに長い事だった。
「いつの間に……それにその姿、まさか!」
ガルバリーが驚愕の色を浮かべる。
「マ、マルノー!」
コスイナも驚いた顔で手の長いその男を見る。
「暗殺者ギルドを敵に回す気はないんだけどさ~、こっちにも都合ってものがあってね」
ガルバリーを睨みながらマルノーと呼ばれた男が飄々とした口調で言う。
「まさかあなたが異郷人まで飼っておられたとは。ふ、いいでしょう。今日のところは退くとしましょう」
ガルバリーは剣を収め、部屋を出ていく。緊張から解き放たれたコスイナはへなへなとその場に崩れ落ちた。
「いや~、危なかったね。アクアット卿」
「お、お前どうしてここに……いや、どうやってここに……」
「はは~、あの程度の鍵、彼女には何の役にも立たないに決まってるじゃない。表をうろうろすると面倒くさいことになるからあえてあそこに閉じこもってただけさ」
「ま、まあ助かったことには礼を言おう。しかしお前がここに来たということは……」
「うん、一応の目途が付いたみたいだよ。ゲスナー君は残念だったけど、あれは君の息子として育てなきゃいけなかったから制約も多かったからね~」
「単純な覚醒ならすぐにでも促せると?」
「彼女はそう言ってるね」
「ならそれを見せてもらおう」
コスイナは立ち上がり、憎悪の籠った目でそう言うと、マルノーと共に部屋を後にした。廊下に出てすぐ右手の壁に手を当て、力を込めると、壁の一部が回転し、奥に暗くて細い通路が現れる。コスイナと先ほどガルバリーに殺された執事しか知らぬ秘密の通路だ。コスイナはマルノーを先に入らせ、その秘密の通路を進む。
「これで儂は教団もギルドも全て敵に回したことになるな」
通路の先には階段があり、そこを降りながらコスイナは独り言つ。
「なら全てを破壊してやる。奴らが代用品とバカにした儂の研究の成果をもってな」
暗い目でそう言うコスイナが階段を降り切ると目の前に鉄の扉が現れた。マルノーがノブを回すと、ギィッという錆びた音がしてドアが開く。
「本当に鍵を開けよったか。お前らを閉じ込めた気でいた儂が愚かよな」
「そういうことだね」
ドアを潜ると、驚くほど広い空間がそこにあった。あちこちにテーブルや円柱型のガラスの水槽のようなものが置かれ、その中は水に満たされており、異形の生物がじっと佇んでいる。
「やあコスイナ無事だったかい。物騒なお客が来ていたようだね」
その水槽の後ろに立つ少女がコスイナに声をかける。緑色の髪を腰まで伸ばしたその少女はまだローティーンにしか見えないが、白衣を着て薄ら笑いを浮かべる顔はその外見に似つかわしくないほどふてぶてしい。そして何より特徴的なのは金色に輝く猫のように縦に長いその瞳だった。
「相変わらずだなロリエル。どうやって外の状況を把握してるんだ、お前は」
「まあいいじゃないかそんなことは。それよりどうだい?可愛いだろ。遂に完成したよ」
ロリエルと呼ばれた少女が水槽の中の異形な生物たちに手を伸ばして誇らしげに言う。
「お前らの美的感覚とは相いれるものがないな。まあ戦力として使えればそれでいい。どれだけの数が動かせる?」
「とりあえずはまだ一体かな。もう少し精子をもらえるなら数日で数体は稼働できると思うけど」
「ならいくらでもやる」
コスイナはそう言っていきなり服を脱ぎだす。
「出来ればもう少し若くてイキのいい奴が欲しいんだけどね」
「他の奴らにここのことを知られるわけにはいかんだろうが」
「そんなこと言って、自分が僕を抱きたいだけなんだろ?この変態親父が」
ロリエルはそう言って嫌味な笑いを浮かべ、自分も白衣に手をかけそのまま裸になった。
王国の人間、特に王族や貴族はプライドが高い。王国民は選ばれし民だという意識を持っている。これは帝国の人間も同じなのだが、王家に権力が集中している王国の方がより顕著と言えた。両国の者は自分たちが世界の中心だと考えており、それゆえ自分たちがいる大陸にあえて名前を付けていない。実際この世界には海を隔てた先に別の大陸も存在しているのだが、彼らはその存在を事実上無視していた。航海技術が未発達であることも要因だったが、自分たち以外の人間を認めないという選民思想がその根底にあるのも事実だった。
しかし別の大陸が存在する以上、そこには別の生命体、さらにいえば別の人種が存在するのは自明の理であり、そこからは嵐などの災害に遭ったり、あるいは何らかの理由で追放されたりしてこの大陸にやって来るものもまれにあった。そういった別大陸から来た人間は外見的に王国や帝国の民とは外見的な差異を持つ者も多く、彼らは表面上は流れ着いた地の統治者によって保護される決まりとなっていたが、事実上は隔離され、軟禁生活を送るものがほとんどであった。「異郷人」と呼ばれた彼らの中にはそういった扱いを不満に思い、隔離された場所から逃げ出すものも多くいた。
異郷人はその外見的特徴がそのまま呼び名になることが大半で、マルノーの人種は「手長」、ロリエルの人種は「金眼」と呼ばれていた。手長は技術力に優れた人種で、独自の造船、操船技術を持っており、世界の海を航海している。金眼も知能が発達しており、またかなりの長寿であることも特徴だった。ロリエルもこの大陸の人間の基準で見れば十二、三歳にしか見えないが、実際はコスイナよりも年長であった。
「ふう、随分出したね。歳の割に頑張り過ぎじゃないかい?」
コスイナの出した精子をガラス瓶に集めながらロリエルが呆れたように言う。荒い息を吐くコスイナはまともに返事が出来ないほど疲れ切っていた。
「わ、儂より年上の女にい、言われる筋合いはない」
ようやくそれだけ言ってコスイナは大の字になった。
「まあおかげで可愛い子供たちを目覚めさせてあげられそうだけどね」
ロリエルはガラス瓶の中の精子を振りながら嬉しそうに笑う。
「なあコスイナ。教団と手切れになった以上俺たちをここで飼う必要もないだろう~?外に出ても構わんよな?」
マルノーがコスイナを見下ろしながら言う。
「こ、ここを出てどこに行くつもりだ?お前らが平穏に暮らせる場所など……」
「帝国と戦争が始まりそうなんでしょ?傭兵の需要はあるんじゃないか?」
「そうだねえ。この大陸の人間は亜人種や僕たち別人種を道具くらいにしか考えてないようだし、戦ってやると言ったら喜んで前線に送り込みそうだ」
ロリエルの言葉にコスイナは顔をしかめる。
「て、帝国はまだしも王国軍はどうかな?貴族は王家の剣となって戦うのを誇りとしているからな。お前らに手を借りるのを快く思わん奴も多かろう」
「なら帝国軍に売り込むよ」
「こ、国境を越えられるとでも思ってるのか」
「こいつらの力があれば可能だろう。なあ、ロリエル」
「そうだね。王国軍の守備隊を蹴散らして帝国に入ればいいデモンストレーションになりそうだ」
「な、なら今動かせる一体を儂のために使え。その後はお前らの自由にするがいい」
「気前がいいじゃないか。やけくそになったかい?」
「そうだな。教団からは見放され、ゲスナ―が死んだ以上、養子を取れなければアクアット家は断絶だ。もう守るものはない。最後に全ての者に復讐してやる」
「いいね。僕たちもこの国の連中には恨みがある。力を貸そうじゃないか。地下の幽閉生活とはいえ一宿一飯の義理もある」
ロリエルはそう言って笑い、水槽の中の異形の者を見つめた。
「アクアット卿!貴公、生きていたのか?」
リヒターが目を丸くしてコスイナを見つめる。すぐ近くではニケとファルムが怪物と攻防を繰り広げていた。
「ふ、ギルバートから死んだと聞かされていたか?」
「何故それを?貴様、我らのことを……」
「貴族らしくない物言いになってるぞアーノルド卿。所詮は教団に飼われた成り上がり者だな。まあ儂も人のことは言えんが」
「どうしたのだ貴様?まるで別人のようだ」
「吹っ切れたのさ全てがな。教団も王家もみな潰してやる。見ろ!お前たちが代用品と蔑んだ我が研究の成果を!」
怪物の攻撃をニケたちは避けているが、有効な手がなく、焦り始めていた。体が硬くまともに剣が通らない上、ニケの異能も通用しない。
「あれは何だ!?なぜ俺の異能が通用しない!?」
「さて、それは儂にも分からん。どう思うロリエル?」
コスイナの呼びかけにいつの間にかロリエルがその傍らに姿を現す。
「ふむ。はっきりは言えないが、素体に何らかの原因があるんだろうね。あれは確か教団の異能者狩りから廻してもらった半端者だったと思ったけど」
「ま、まさか俺たちと同じ『シーザーズ』の……」
「ほお、貴様『半端者』だったか。ということはロットン卿も『六芒星」ということか」
「ちっ!」
「いやあ、解放して好きにさせたら一直線にこっちに走ってきたからね。同類の匂いに惹かれてきたということか」
ロリエルが感心したように言う。
「貴様、あれに何をした?どうしたらあんな化け物に……」
「ふん、貴様らに言われる筋合いはないわ。人工的に天使を創るなど今になって思えばおこがましいにも程があるな」
「黙れ!あんな化け物と俺の成果を一緒にするな!」
「貴様の息子は覚醒もせず死んだのだろう?こっちの方が戦力になる分、まだましだ」
コスイナが嘲るように言い、リヒターが彼に向かって手を伸ばす。
「あの化け物には通じなくても貴様を殺すことは簡単だ!」
「ああ~、悪いけどそれは勘弁してもらうよ~」
いきなり声が聞こえた、と思った瞬間、リヒターは背中に鋭い痛みを感じた。何が起きたかを理解する前にリヒターの体はその場に崩れ落ちる。
が、はっ……」
口から吐血し、リヒターは地面に横たわる。その背中には一本のナイフが深々と突き刺さっていた。
「ご苦労、マルノー」
コスイナが淡々と言い、倒れたリヒターの後ろに立つマルノーを見つめる。
「俺の異能、『存在の耐えられない軽さ』も便利なもんだろ?」
「そうだな。制約はあるが、使いようによっては無敵の力になりうる。ふ、帝国軍なら高く買ってくれるかもしれんな」
「そう願いたいね~」
マルノーはそう言って笑い、息絶えたリヒターを冷たい目で見下ろした。
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