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第21話 夢と現実
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「亡くなった……殺されたのですか?ゲスナー様が?」
呆然とパンナが呟く。ブラベールは何も教えてくれなかった。お披露目に参加していたクリスから当然報告は受けていたはずだ。それなのに自分には何も……。メイドの耳に入れるまでもないと思ったのか。しかし……
「ボナー様、詳しいお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「構いませんが、愉快な話ではありませんよ?」
「構いませんわ」
ボナーが妹のリーシェから聞いた一連の顛末をパンナに話す。聞き終わり、パンナは身震いした。ゲスナーを殺したのは明らかに異能者だ。自分の時と同じく、ゲスナーのお披露目にも何者かが紛れていた。貴族しかいないはずの会場に。
「大丈夫ですか?お顔の色が優れませんが」
「大丈夫です。申し訳ありません。少し驚いてしまいまして」
「無理もありません。僕も妹から話を聞いたときは腰が抜けるほど驚きました」
「実は……私のお披露目の時も、不穏な雰囲気を感じました」
「え?」
「い、いえ。不穏な雰囲気を感じました、とメイドの一人が言っておりましたの。その子はその……そういうことに敏感なのです」
「そうですか。あなたのお披露目の時にもとなると、偶然ではなさそうですね」
「サンクリスト公にはご報告を?」
「勿論です。アクアット卿に詰問の使者を立てようとしたのですが、国境付近が不安定だからと父に止められまして。妹の見たところ、卿は何か知っているようなのですが」
無謀としか思えないお披露目とこの見合いの身代わり。明らかに常軌を逸していた自分のお披露目の時のゲスナー。そのゲスナーが自分のお披露目でさらに異常な姿を見せたうえで殺された。そして昨夜の異能者狩りの襲来と帝国の不穏な動き。これらは果たして偶然重なったのだろうか。パンナは何か大きな流れの中に巻き込まれているような気がして思わずゾッとした。
「どうされました?」
よほど難しい顔をしていたのだろう。ボナーが心配そうにパンナの顔を覗き込む。
「い、いえ。それにしてもゲスナー様が殺されたなんて恐ろしいことですわ」
「はい。よりによって諸侯が集まっているお披露目の場でですからね。見過ごすわけにはいきません。何とか父を説得してアクアット卿に事情を訊きたいところなんですが」
「参加された他の方々は何か言っておられませんの?」
「実はゲスナー殿の異様な姿を最も間近で見ていたのは、あなたの兄上なんですが」
「クリ……お兄様が?」
「はい。リーシェ、ああ、妹の名前です。リーシェが言うには変容する直前、ゲスナー殿はクリス殿に真剣の仕合を申し込んだそうなのです。その時点ですでに普通の状態ではなかったようですね」
「そうですか。アクアット卿はご子息のご様子に気付かれなかったのでしょうか?」
「リーシェの見たところ、アクアット卿自身も驚いていたようです。想定外の事態であったことは確かなのでしょう」
「何にせよお気の毒ですわね。晴れの舞台でご子息を亡くされるなんて」
「ええ。その点については同情します。父が詰問に消極的なのもそのせいもあるようです」
「参加者の身元は皆確かなのですね?」
「それはもう。招待状をリーシェと騎士団長のゼノーバという男がアクアット卿の許可を取って改めたそうですが、不審な人物は見当たりませんでした。楽団や使用人も疑いましたが、やはりアクアット卿の方でしっかり身元を確認した者ばかりだったようです」
「それなのに異能者が紛れていた……」
無意識にそう呟いてしまい、パンナはしまった、という顔をする。
「異能者をご存じでしたか」
「え、ええ。その……名前だけは」
「感心ですね。貴族の、特にご令嬢の中には異能者や亜人のことを全く知らない方も多いと聞きますが」
「た、たまたまですわ」
「それではその異能者や亜人が差別をうけていることもご存じですか?」
ご存じどころの話ではない。パンナはまさにその差別と弾圧に晒されながら生きてきたのだ。しかし湧き上がる感情を堪え、努めて冷静に答える。
「はい、一応」
「貴族の間ではそれを当然と考え、商国……商国のこともご存じで?」
「はい。確か正式には東部商業連合、でしたかしら」
「素晴らしい。ますますあなたが好きになりました」
パンナはまたも失態を演じたことに気付き、落ち込んだ。どうもボナーの真っすぐな物言いに接していると、素の自分が出てしまう。
「商国との取引についても、とても対等なものとは言えないのが実情です。そのため亜人種の一部には王国や帝国に対して良くない感情を持つ者もいると聞きます」
「はい」
「僕はこの現状をなんとかしたいと考えています」
「と、おっしゃいますと?」
「完全に、今すぐ、とはいかないでしょうが、亜人種の扱いを対等にしてやりたいと思っているんですよ。一部の貴族には領民に対して不当な税を課しているものもいます。そういう領主に不満を抱いた民が同じく国に恨みを持つ亜人種と組んで暴動を起こす恐れがあるのではないかと僕は危惧しているのです」
「ご立派ですわ!そこまでお考えなんて。本当に素晴らしいと思います」
自分に、いや自分たちにとっても夢のような話だ。そもそも「まつろわぬ一族」は亜人種の血を引くが故、見た目は人間と変わらぬのに不当な差別を受けてきた「半端者」の中でも、国に反発し、その待遇改善を訴えて活動をしてきた者たちの総称だ。貴族たちは当然のようにそういう動きを弾圧し、拘束や時には処刑までも行った。パンナはそういう貴族たちの手から逃げ、さらに教団からも逃げて生きてきたのだ。
「あなたも賛同してくださいますか」
「勿論です。国のことを考え、民のことを考え、本当に素晴らしいですわ。ボナー様はもう立派な為政者であらせられますわね」
「買いかぶりですよ。でも賛同していただけで嬉しいです。実はあまり人に話したことがなかったので。貴族の中にはこういう考えに否定的な者が多いことも理解していますから」
「そう、でしょうね。残念ながら」
「残念と言っていただけますか」
パンナはまた頭を抱えた。また素の自分をだしてしまった。まさか「四公」の世継ぎがこんな素晴らしい考えの持ち主とは思わず、舞い上がってしまっていた。
「と、とにかくボナー様のお考えが実現するよう祈っておりますわ」
「ありがとうございます。出来ればあなたにその助けになっていただきたいのですが」
また話が戻った。しかも最悪のタイミングだ。ボナーはますます自分に好感を持ってしまっている。
「やはりすぐにお返事を、というのは虫が良すぎますね」
「い、いえ、その……」
パンナ個人としてはすぐにOKしてしまいたい。ボナーの考えを知ってさらに彼に好意を抱いてしまっている。だが口説かれているのはアンセリーナであって自分ではない。本物のアンセリーナならこんな考えに何の興味も示さないだろう。縁談が成就すればお互いにとって不幸になるのは目に見えている。
「勝手なことを言って申し訳ありません。しかし父はすぐにでも家督を譲りたいようで、僕としてもゆっくりしている時間がないのです」
「事情はご理解しています」
「僕ではご不満ですか?」
「とんでもありません!」
思わず立ち上がり、自分でも驚くくらいの大声でパンナは叫んでしまった。はっと我に返り、顔を真っ赤にしてのろのろと椅子に座り直す。
「お父上……エルモンド卿がご承知ではないのですか?」
それは確かにそうだ。だが「四公」からの申し出に反対しているとはっきり言うわけにはいかない。だからこそブラベールは自分をここに寄こしたのだから。
「そういうわけでは……]
「エルモンド卿があなたを溺愛しているという噂は聞き及んでいます」
「それは事実でございます。でも先ほどボナー様がおっしゃった通り貴族である以上、自由な結婚など許されません。まして女であれば。それはだ……父も承知しています」
「エルモンド卿に心配させるようなことは決して致しません」
それはそうだろう、とパンナは思う。この人は貴族としても男性としても、そしておそらく夫としても申し分がない方だろう、と。
「私は……私自身は……ボナー様のお言葉……お申し出にこれ以上ないくらいの幸せを感じております」
蚊の鳴くような声でパンナは言った。その声が震える。知らず知らず涙が溢れてくる。
「そんな顔をなさらないでください。先ほども申しました通り無理強いをする気はないのです。何かご事情があるのなら……」
ある。ありまくりだ。もう自分ではボナーの求婚を断る理由が思いつかない。だが好意を持っているのに求婚を受けられないというのでは相手も納得しないだろう。
『もう、全て打ち明けてしまおうか』
パンナの頭にそういう考えが浮かぶ。この人はきっと立派な領主になる。道は険しいだろうが、自分のような境遇の者が今よりも幸せに暮らせる世を作ってくれるに違いない。この人は希望だ。だからこそこれ以上欺くのは耐えられない。土下座でもなんでもして謝り、何とかブラベールの行為を、エルモンド家への処罰を免除してもらえるよう頼もう。この首を差し出して、自分の命一つで何とか収めてもらおう。それで仲間たちが幸せになれるのなら安いものだ。
『この方の隣にいられる女性は幸せね。出来ればボナー様の理想に反対しない方であればよいのだけど』
ボナーへの愛しさが溢れ、涙がパンナの頬を伝う。自分がアンセリーナであったならどんなに幸せだったろう。我儘で引きこもりで、でも明るく自由奔放な貴族令嬢。彼女の世話をして苦労したことも山ほどあったが、不思議に不快な気持ではなかった。でもあの方がもう少し外交的であったなら、自分がこんな苦しい思いをしなくても済んだと思うと、初めて彼女が憎らしくなった。
「泣かないでください。ああ……どうすればいいのかな。すいません、女性の機微に疎いもので、こんな時何といってお慰めしていいか……情けない」
「ボナー様は……ボナー様は何も悪くございません。私が……私が……」
涙は止まらない。もうこれ以上嘘は付けない。この人のためなら命を懸けてもよい、とパンナは思った。
「ボナー様」
覚悟を決め、パンナはボナーを見つめる。その真剣な表情にボナーも只ならぬものを感じ、じっとパンナを見つめた。
「お話しなければならないことが……」
しかしその先の言葉は、突然響き渡った衝撃音でかき消されることとなった。
呆然とパンナが呟く。ブラベールは何も教えてくれなかった。お披露目に参加していたクリスから当然報告は受けていたはずだ。それなのに自分には何も……。メイドの耳に入れるまでもないと思ったのか。しかし……
「ボナー様、詳しいお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「構いませんが、愉快な話ではありませんよ?」
「構いませんわ」
ボナーが妹のリーシェから聞いた一連の顛末をパンナに話す。聞き終わり、パンナは身震いした。ゲスナーを殺したのは明らかに異能者だ。自分の時と同じく、ゲスナーのお披露目にも何者かが紛れていた。貴族しかいないはずの会場に。
「大丈夫ですか?お顔の色が優れませんが」
「大丈夫です。申し訳ありません。少し驚いてしまいまして」
「無理もありません。僕も妹から話を聞いたときは腰が抜けるほど驚きました」
「実は……私のお披露目の時も、不穏な雰囲気を感じました」
「え?」
「い、いえ。不穏な雰囲気を感じました、とメイドの一人が言っておりましたの。その子はその……そういうことに敏感なのです」
「そうですか。あなたのお披露目の時にもとなると、偶然ではなさそうですね」
「サンクリスト公にはご報告を?」
「勿論です。アクアット卿に詰問の使者を立てようとしたのですが、国境付近が不安定だからと父に止められまして。妹の見たところ、卿は何か知っているようなのですが」
無謀としか思えないお披露目とこの見合いの身代わり。明らかに常軌を逸していた自分のお披露目の時のゲスナー。そのゲスナーが自分のお披露目でさらに異常な姿を見せたうえで殺された。そして昨夜の異能者狩りの襲来と帝国の不穏な動き。これらは果たして偶然重なったのだろうか。パンナは何か大きな流れの中に巻き込まれているような気がして思わずゾッとした。
「どうされました?」
よほど難しい顔をしていたのだろう。ボナーが心配そうにパンナの顔を覗き込む。
「い、いえ。それにしてもゲスナー様が殺されたなんて恐ろしいことですわ」
「はい。よりによって諸侯が集まっているお披露目の場でですからね。見過ごすわけにはいきません。何とか父を説得してアクアット卿に事情を訊きたいところなんですが」
「参加された他の方々は何か言っておられませんの?」
「実はゲスナー殿の異様な姿を最も間近で見ていたのは、あなたの兄上なんですが」
「クリ……お兄様が?」
「はい。リーシェ、ああ、妹の名前です。リーシェが言うには変容する直前、ゲスナー殿はクリス殿に真剣の仕合を申し込んだそうなのです。その時点ですでに普通の状態ではなかったようですね」
「そうですか。アクアット卿はご子息のご様子に気付かれなかったのでしょうか?」
「リーシェの見たところ、アクアット卿自身も驚いていたようです。想定外の事態であったことは確かなのでしょう」
「何にせよお気の毒ですわね。晴れの舞台でご子息を亡くされるなんて」
「ええ。その点については同情します。父が詰問に消極的なのもそのせいもあるようです」
「参加者の身元は皆確かなのですね?」
「それはもう。招待状をリーシェと騎士団長のゼノーバという男がアクアット卿の許可を取って改めたそうですが、不審な人物は見当たりませんでした。楽団や使用人も疑いましたが、やはりアクアット卿の方でしっかり身元を確認した者ばかりだったようです」
「それなのに異能者が紛れていた……」
無意識にそう呟いてしまい、パンナはしまった、という顔をする。
「異能者をご存じでしたか」
「え、ええ。その……名前だけは」
「感心ですね。貴族の、特にご令嬢の中には異能者や亜人のことを全く知らない方も多いと聞きますが」
「た、たまたまですわ」
「それではその異能者や亜人が差別をうけていることもご存じですか?」
ご存じどころの話ではない。パンナはまさにその差別と弾圧に晒されながら生きてきたのだ。しかし湧き上がる感情を堪え、努めて冷静に答える。
「はい、一応」
「貴族の間ではそれを当然と考え、商国……商国のこともご存じで?」
「はい。確か正式には東部商業連合、でしたかしら」
「素晴らしい。ますますあなたが好きになりました」
パンナはまたも失態を演じたことに気付き、落ち込んだ。どうもボナーの真っすぐな物言いに接していると、素の自分が出てしまう。
「商国との取引についても、とても対等なものとは言えないのが実情です。そのため亜人種の一部には王国や帝国に対して良くない感情を持つ者もいると聞きます」
「はい」
「僕はこの現状をなんとかしたいと考えています」
「と、おっしゃいますと?」
「完全に、今すぐ、とはいかないでしょうが、亜人種の扱いを対等にしてやりたいと思っているんですよ。一部の貴族には領民に対して不当な税を課しているものもいます。そういう領主に不満を抱いた民が同じく国に恨みを持つ亜人種と組んで暴動を起こす恐れがあるのではないかと僕は危惧しているのです」
「ご立派ですわ!そこまでお考えなんて。本当に素晴らしいと思います」
自分に、いや自分たちにとっても夢のような話だ。そもそも「まつろわぬ一族」は亜人種の血を引くが故、見た目は人間と変わらぬのに不当な差別を受けてきた「半端者」の中でも、国に反発し、その待遇改善を訴えて活動をしてきた者たちの総称だ。貴族たちは当然のようにそういう動きを弾圧し、拘束や時には処刑までも行った。パンナはそういう貴族たちの手から逃げ、さらに教団からも逃げて生きてきたのだ。
「あなたも賛同してくださいますか」
「勿論です。国のことを考え、民のことを考え、本当に素晴らしいですわ。ボナー様はもう立派な為政者であらせられますわね」
「買いかぶりですよ。でも賛同していただけで嬉しいです。実はあまり人に話したことがなかったので。貴族の中にはこういう考えに否定的な者が多いことも理解していますから」
「そう、でしょうね。残念ながら」
「残念と言っていただけますか」
パンナはまた頭を抱えた。また素の自分をだしてしまった。まさか「四公」の世継ぎがこんな素晴らしい考えの持ち主とは思わず、舞い上がってしまっていた。
「と、とにかくボナー様のお考えが実現するよう祈っておりますわ」
「ありがとうございます。出来ればあなたにその助けになっていただきたいのですが」
また話が戻った。しかも最悪のタイミングだ。ボナーはますます自分に好感を持ってしまっている。
「やはりすぐにお返事を、というのは虫が良すぎますね」
「い、いえ、その……」
パンナ個人としてはすぐにOKしてしまいたい。ボナーの考えを知ってさらに彼に好意を抱いてしまっている。だが口説かれているのはアンセリーナであって自分ではない。本物のアンセリーナならこんな考えに何の興味も示さないだろう。縁談が成就すればお互いにとって不幸になるのは目に見えている。
「勝手なことを言って申し訳ありません。しかし父はすぐにでも家督を譲りたいようで、僕としてもゆっくりしている時間がないのです」
「事情はご理解しています」
「僕ではご不満ですか?」
「とんでもありません!」
思わず立ち上がり、自分でも驚くくらいの大声でパンナは叫んでしまった。はっと我に返り、顔を真っ赤にしてのろのろと椅子に座り直す。
「お父上……エルモンド卿がご承知ではないのですか?」
それは確かにそうだ。だが「四公」からの申し出に反対しているとはっきり言うわけにはいかない。だからこそブラベールは自分をここに寄こしたのだから。
「そういうわけでは……]
「エルモンド卿があなたを溺愛しているという噂は聞き及んでいます」
「それは事実でございます。でも先ほどボナー様がおっしゃった通り貴族である以上、自由な結婚など許されません。まして女であれば。それはだ……父も承知しています」
「エルモンド卿に心配させるようなことは決して致しません」
それはそうだろう、とパンナは思う。この人は貴族としても男性としても、そしておそらく夫としても申し分がない方だろう、と。
「私は……私自身は……ボナー様のお言葉……お申し出にこれ以上ないくらいの幸せを感じております」
蚊の鳴くような声でパンナは言った。その声が震える。知らず知らず涙が溢れてくる。
「そんな顔をなさらないでください。先ほども申しました通り無理強いをする気はないのです。何かご事情があるのなら……」
ある。ありまくりだ。もう自分ではボナーの求婚を断る理由が思いつかない。だが好意を持っているのに求婚を受けられないというのでは相手も納得しないだろう。
『もう、全て打ち明けてしまおうか』
パンナの頭にそういう考えが浮かぶ。この人はきっと立派な領主になる。道は険しいだろうが、自分のような境遇の者が今よりも幸せに暮らせる世を作ってくれるに違いない。この人は希望だ。だからこそこれ以上欺くのは耐えられない。土下座でもなんでもして謝り、何とかブラベールの行為を、エルモンド家への処罰を免除してもらえるよう頼もう。この首を差し出して、自分の命一つで何とか収めてもらおう。それで仲間たちが幸せになれるのなら安いものだ。
『この方の隣にいられる女性は幸せね。出来ればボナー様の理想に反対しない方であればよいのだけど』
ボナーへの愛しさが溢れ、涙がパンナの頬を伝う。自分がアンセリーナであったならどんなに幸せだったろう。我儘で引きこもりで、でも明るく自由奔放な貴族令嬢。彼女の世話をして苦労したことも山ほどあったが、不思議に不快な気持ではなかった。でもあの方がもう少し外交的であったなら、自分がこんな苦しい思いをしなくても済んだと思うと、初めて彼女が憎らしくなった。
「泣かないでください。ああ……どうすればいいのかな。すいません、女性の機微に疎いもので、こんな時何といってお慰めしていいか……情けない」
「ボナー様は……ボナー様は何も悪くございません。私が……私が……」
涙は止まらない。もうこれ以上嘘は付けない。この人のためなら命を懸けてもよい、とパンナは思った。
「ボナー様」
覚悟を決め、パンナはボナーを見つめる。その真剣な表情にボナーも只ならぬものを感じ、じっとパンナを見つめた。
「お話しなければならないことが……」
しかしその先の言葉は、突然響き渡った衝撃音でかき消されることとなった。
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