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第2話 替え玉令嬢
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「お、お待ちください、旦那様!正気でございますか!?」
パンナが泡を食いながらそう申し立てるまで暫しの時間を要した。それほどブラベールの言葉は荒唐無稽に思われた。
「無論じゃ。パーティーさえ開催すれば小賢しいあのアクアットの鼻を明かしてやれるし、サンクリスト公への面目も立つ」
「そのサンクリスト家を含めた周辺諸侯へのお披露目なのですよ?替え玉を使ったなどとバレたら旦那様のお立場が……」
「バレはせん。アンセリーナの顔を知っておる者はこの屋敷の外にはおらん。パーティーが終われば暫く他の者と顔を合わすこともなかろう。ある程度時間がたてばどうとでも誤魔化せる。パンナ、お前の本来の役目を考えれば、諸侯を欺くことも可能であろう?」
伯爵の言葉にパンナは言葉に詰まる。本来の役目。そう、それを踏まえてこの男はパンナを雇い入れた。彼女の素性を知った上で、だ。ただの親バカでないことは分かっている。分かってはいるが、これはやはりただの親バカ行動のような気もする。
「ですが今回はそういう場合でありません。諸侯への挨拶周りが主な役割のはず。それに他の貴族の子息と踊ったりもしなければならないのでは?」
「そうじゃな。病気を理由に延期しておったから出来るだけ抑えたいとは思うが……一、二曲は踊らんとまずかろうな」
「私、ダンスは不得手でございます。アンセリーナ様の顔に泥を塗るようなことは出来ません」
「レッスンを受けよ。ダンスの講師もおったであろう?基本的なステップが踏めればそれでよい。病み上がりということで多少拙くとも誤魔化せよう」
随分と無茶を言う、とパンナはまた心の中でため息をついた。まあアンセリーナ自身も例の調子でダンスのレッスンもよくすっぽかしていたから、おそらく自分と大差ない腕前ではあろうが。
「まあアンセリーナ自身がパーティーに出ることを承諾してくれるのが一番なんじゃが、お前が務めることを前提に準備を進めよ。アクアットの子倅がパーティーを開く前に開催するからな。時間はないぞ」
パンナは頭を抱え、今日何度目かのため息をついた。どうやら伯爵はマジらしい。いくらなんでも無謀だと思うのだが、正直不可能かと問われるとそうとも言い切れない。元々パンナとアンセリーナは歳も近く、顔立ちも似ている。それゆえにブラベールは彼女を選んだのだから。
「本当によろしいのですか?後々になって旦那様やお嬢様にご迷惑がかかるのでは……」
「心配せずともよい。何かあってもお前に責を負わすような真似はせん」
その言葉でパンナは渋々ながら覚悟を決めた。とはいえやらなければならにことは山ほどある。まずはアンセリーナの説得だ。
「よいな。お披露目は二週間後にコットナーの別邸で開催するつもりじゃ」
「二週間後ですか!?いくら何でも時間が足りません」
「半月後にはアクアットの子倅が誕生日を迎えてしまう。これがギリギリなのだ」
「で、ですがそんなに急ではお招きする方々も準備が……」
「心配いらん。地方会議でアクアットが挑発してきた時、近日にお披露目をすると諸侯の前で言ってある。招待状ももう発送の指図を出してある」
事後承諾もいいところだ。パンナは眩暈がしそうになり、ガックリとうなだれた。しかしこうなっては落ち込んでいる時間すら勿体ない。
「これからお嬢様を説得に参ります。旦那様も強くおっしゃってください」
「うむ。じゃがあまり期待はせぬようにな」
他人事のように言うんじゃない。パンナは心の中でそう毒づき、食えない自分の主を下から睨みつけた。
結論から言うとアンセリーナの説得はある意味予想通りに終わった。最後まで断固拒否。パンナが替え玉になると言った時も積極的に賛成したくらいだった。そういうわけでパンナはそれ以来毎日ダンスの猛特訓を受ける羽目となった。
「はい、また右足のステップが抜けましたよ」
ダンスの講師はアンセリーナに指導している時とはまるで違って厳しくパンナに接した。相手がメイドなのだから当然ではあるが、どうも短期間で彼女を鍛えるために伯爵が特別報酬を出したらしい。パンナにとってはいい迷惑だ。
『口止め料も含まれてる、ってことか』
このダンスの講師を含め、アンセリーナの家庭教師たちは当然彼女の顔を知っている。だが彼らが貴族のパーティーに出ることはないので、お披露目パーティーでパンナがアンセリーナの替え玉をしていてもそれが露見する心配はない。だがいきなり令嬢付きのメイドに短期間でダンスを仕込めと言われれば、この講師だけは薄々事情を察するだろう。だから余計なことを言わないよう特別報酬を出して黙らせているのだ。
「はい、そこまで。一通りの動きはマスターしたようですね。本番まで反復練習を欠かさないでください」
講師はそう言うと、満足げな顔で帰っていった。パンナは筋肉痛の足をさすり、レッスンルームの椅子に腰を落とす。このまま横になりたいくらい疲れていたが、今日はこれからいかねばならないところがある。
「あの小憎たらしい顔をまた見なきゃいけないのかと思うとうんざりだわ」
パンナはそう呟き、外出の許可を取るためゆっくり立ち上がるとレッスンルームを後にした。
伯爵邸を出てパンナが向かったのはルーディアの町中にある商店街。そのメインストリートから一本裏に入った狭い路地にある洋服店だった。くたびれた平屋の店の入り口ドアには「closed」と書かれたこれまた古ぼけた木の看板が掛かっていたが、パンナは躊躇することなくドアを開け、店内に足を踏み入れる。
「よう、時間通りだな。注文の品はきっちり仕上がってるぜ」
閉店中の看板を下げているにも関わらず、パンナが入店すると同時に正面カウンターに座る女がそう声をかけた。歳は二十代後半といったところか。筋肉質な浅黒い肌。白いランニングシャツにカーゴパンツ。革手袋を着け、癖毛の頭に白いタオルを頭巾のように巻いて載せている姿は洋服屋の主人というよりも鍛冶職人を彷彿とさせた。
「さすが仕事が早いわねクリシュナ。試着しても?」
「勿論さ。裏の方で着てみてくれ」
パンナは勝手知ったるといった風にカウンターの奥に進み、壁に掛かったカーテンを開ける。その先はバックヤードになっており、少し薄暗い板張りの空間に姿見とハンガーラックがあった。そこに吊るされた白いドレスを目にし、パンナが思わずほう、っと息を漏らす。
「素敵ね。まさか自分がこんなものを着れるなんて思いもしなかったわ」
「まったくだ。お前から依頼が来たときは何の冗談かと思ったぜ。」
煙草を燻らせながらクリシュナがにやにやと笑う。こういう反応をされるのが分かっていたので、正直彼女に頼むのは気が引けたのだが、他の者に依頼するわけにもいかない。今回の替え玉作戦は当然のごとく極秘であり、伯爵家以外の者に知られるわけにはいかない。だが彼女、クリシュナは例外だ。伯爵自身も彼女のことを知っており、パンナがドレスの発注をすることを許可している。クリシュナが口外しないことを伯爵もパンナも分かっているのだ。
「最近国境付近が不穏だって情報もあったから、最初はお前が本来の役目を果たす時が来たのかとかとも思ったんだが、話を聞いて呆れたぜ。お披露目パーティーに本人が出ないなんて前代未聞だろうなあ。あの伯爵もいい性格してるぜ」
「言わないで。また頭が痛くなりそうだわ」
「けけ、そんなこと言って綺麗なおべべが着れるのが楽しいんじゃないのか?」
「否定はしないわ。あなただって一応女なんだから少しは気持ちがわかるでしょ?」
「一応とはご挨拶だな。こちとら商店街の男どもの誘いを断るのに毎日大忙しなんだぜ?」
「力仕事を頼まれるってだけしょ、どうせ」
「プロポーズが後を絶たねえんだよ!」
「冗談はその筋肉だけにして。……でも本当に素敵ね。その武骨なボディラインからどうしてこんな美しいドレスが生まれるのか。生命の神秘ってところかしら」
「どうしても一発ぶん殴られてえみたいだな、パンナ」
顔を引きつらせて指をポキポキと鳴らすクリシュナを無視し、パンナはドレスをハンガーから外して体に当ててみる。パンナとアンセリーナは顔つきも背格好もよく似てはいるが、当然アンセリーナの服は全て完全オーダーメイドだ。アンセリーナは自分のドレスをパンナに貸すことを許可したが、微妙な違いは勿論あるし、ましてダンスをするとなればそのズレは問題になる。そして何より両者には無視できないほどの相違点が一つあった。
「……ちょっと余裕がありすぎるんじゃない?」
ドレスの胸の部分を触りながら、不本意そうにパンナが呟く。そう、パンナとアンセリーナは胸の大きさに大きな差があるのだ。アンセリーナは16歳にしてはかなり豊満なバストを誇っているが、パンナのそれは彼女に比べるとかなり慎ましやかというしかなかった。
「詰め物はするだろ?お嬢様に成り済ますならよ。今回はお前が主役なんだから必要ないとは思ったが、一応仕込みも出来るようになってるぜ」
「助かるわ。ありがとう、クリシュナ。あなたの腕は本当に素晴らしいわ」
「よせよ、今度はおだてか?それでさっきの失言を取り返せると思うなよ」
「ところで国境付近が不穏って本当なの?」
「無視かよ!……ああ、確かな証拠はねえが……俺の見たところ帝国のもんがけっこうこっちに入り込んでやがるな。兵士じゃねえ。恐らくは諜報員だな」
「内通している者がいるってこと?」
「可能性はあるだろう。まあそこらはあいつらが調べるさ。お前は上手く貴族連中を騙くらかして豪勢なパーティーを楽しみな」
「そうね。そうさせてもらうわ」
パンナはフフッと笑い、身に着けていたメイド服を脱ぐと、ドレスに袖を通した。華美に過ぎない装飾が施された上品なドレスの裾がふわっと広がる。
「馬子にも衣装とはよく言ったもんだな」
「意趣返しのつもり?悪いけどそんな安い挑発には乗らないわよ」
パンナはそう言って色々と体の角度を変え、自分のドレス姿を確認する。
「正直不安だらけだけど、このドレスが着れたことだけは旦那様に感謝ね」
貴族令嬢になりきった自分の姿に満足し、パンナは微笑みを浮かべて呟いた。
パンナが泡を食いながらそう申し立てるまで暫しの時間を要した。それほどブラベールの言葉は荒唐無稽に思われた。
「無論じゃ。パーティーさえ開催すれば小賢しいあのアクアットの鼻を明かしてやれるし、サンクリスト公への面目も立つ」
「そのサンクリスト家を含めた周辺諸侯へのお披露目なのですよ?替え玉を使ったなどとバレたら旦那様のお立場が……」
「バレはせん。アンセリーナの顔を知っておる者はこの屋敷の外にはおらん。パーティーが終われば暫く他の者と顔を合わすこともなかろう。ある程度時間がたてばどうとでも誤魔化せる。パンナ、お前の本来の役目を考えれば、諸侯を欺くことも可能であろう?」
伯爵の言葉にパンナは言葉に詰まる。本来の役目。そう、それを踏まえてこの男はパンナを雇い入れた。彼女の素性を知った上で、だ。ただの親バカでないことは分かっている。分かってはいるが、これはやはりただの親バカ行動のような気もする。
「ですが今回はそういう場合でありません。諸侯への挨拶周りが主な役割のはず。それに他の貴族の子息と踊ったりもしなければならないのでは?」
「そうじゃな。病気を理由に延期しておったから出来るだけ抑えたいとは思うが……一、二曲は踊らんとまずかろうな」
「私、ダンスは不得手でございます。アンセリーナ様の顔に泥を塗るようなことは出来ません」
「レッスンを受けよ。ダンスの講師もおったであろう?基本的なステップが踏めればそれでよい。病み上がりということで多少拙くとも誤魔化せよう」
随分と無茶を言う、とパンナはまた心の中でため息をついた。まあアンセリーナ自身も例の調子でダンスのレッスンもよくすっぽかしていたから、おそらく自分と大差ない腕前ではあろうが。
「まあアンセリーナ自身がパーティーに出ることを承諾してくれるのが一番なんじゃが、お前が務めることを前提に準備を進めよ。アクアットの子倅がパーティーを開く前に開催するからな。時間はないぞ」
パンナは頭を抱え、今日何度目かのため息をついた。どうやら伯爵はマジらしい。いくらなんでも無謀だと思うのだが、正直不可能かと問われるとそうとも言い切れない。元々パンナとアンセリーナは歳も近く、顔立ちも似ている。それゆえにブラベールは彼女を選んだのだから。
「本当によろしいのですか?後々になって旦那様やお嬢様にご迷惑がかかるのでは……」
「心配せずともよい。何かあってもお前に責を負わすような真似はせん」
その言葉でパンナは渋々ながら覚悟を決めた。とはいえやらなければならにことは山ほどある。まずはアンセリーナの説得だ。
「よいな。お披露目は二週間後にコットナーの別邸で開催するつもりじゃ」
「二週間後ですか!?いくら何でも時間が足りません」
「半月後にはアクアットの子倅が誕生日を迎えてしまう。これがギリギリなのだ」
「で、ですがそんなに急ではお招きする方々も準備が……」
「心配いらん。地方会議でアクアットが挑発してきた時、近日にお披露目をすると諸侯の前で言ってある。招待状ももう発送の指図を出してある」
事後承諾もいいところだ。パンナは眩暈がしそうになり、ガックリとうなだれた。しかしこうなっては落ち込んでいる時間すら勿体ない。
「これからお嬢様を説得に参ります。旦那様も強くおっしゃってください」
「うむ。じゃがあまり期待はせぬようにな」
他人事のように言うんじゃない。パンナは心の中でそう毒づき、食えない自分の主を下から睨みつけた。
結論から言うとアンセリーナの説得はある意味予想通りに終わった。最後まで断固拒否。パンナが替え玉になると言った時も積極的に賛成したくらいだった。そういうわけでパンナはそれ以来毎日ダンスの猛特訓を受ける羽目となった。
「はい、また右足のステップが抜けましたよ」
ダンスの講師はアンセリーナに指導している時とはまるで違って厳しくパンナに接した。相手がメイドなのだから当然ではあるが、どうも短期間で彼女を鍛えるために伯爵が特別報酬を出したらしい。パンナにとってはいい迷惑だ。
『口止め料も含まれてる、ってことか』
このダンスの講師を含め、アンセリーナの家庭教師たちは当然彼女の顔を知っている。だが彼らが貴族のパーティーに出ることはないので、お披露目パーティーでパンナがアンセリーナの替え玉をしていてもそれが露見する心配はない。だがいきなり令嬢付きのメイドに短期間でダンスを仕込めと言われれば、この講師だけは薄々事情を察するだろう。だから余計なことを言わないよう特別報酬を出して黙らせているのだ。
「はい、そこまで。一通りの動きはマスターしたようですね。本番まで反復練習を欠かさないでください」
講師はそう言うと、満足げな顔で帰っていった。パンナは筋肉痛の足をさすり、レッスンルームの椅子に腰を落とす。このまま横になりたいくらい疲れていたが、今日はこれからいかねばならないところがある。
「あの小憎たらしい顔をまた見なきゃいけないのかと思うとうんざりだわ」
パンナはそう呟き、外出の許可を取るためゆっくり立ち上がるとレッスンルームを後にした。
伯爵邸を出てパンナが向かったのはルーディアの町中にある商店街。そのメインストリートから一本裏に入った狭い路地にある洋服店だった。くたびれた平屋の店の入り口ドアには「closed」と書かれたこれまた古ぼけた木の看板が掛かっていたが、パンナは躊躇することなくドアを開け、店内に足を踏み入れる。
「よう、時間通りだな。注文の品はきっちり仕上がってるぜ」
閉店中の看板を下げているにも関わらず、パンナが入店すると同時に正面カウンターに座る女がそう声をかけた。歳は二十代後半といったところか。筋肉質な浅黒い肌。白いランニングシャツにカーゴパンツ。革手袋を着け、癖毛の頭に白いタオルを頭巾のように巻いて載せている姿は洋服屋の主人というよりも鍛冶職人を彷彿とさせた。
「さすが仕事が早いわねクリシュナ。試着しても?」
「勿論さ。裏の方で着てみてくれ」
パンナは勝手知ったるといった風にカウンターの奥に進み、壁に掛かったカーテンを開ける。その先はバックヤードになっており、少し薄暗い板張りの空間に姿見とハンガーラックがあった。そこに吊るされた白いドレスを目にし、パンナが思わずほう、っと息を漏らす。
「素敵ね。まさか自分がこんなものを着れるなんて思いもしなかったわ」
「まったくだ。お前から依頼が来たときは何の冗談かと思ったぜ。」
煙草を燻らせながらクリシュナがにやにやと笑う。こういう反応をされるのが分かっていたので、正直彼女に頼むのは気が引けたのだが、他の者に依頼するわけにもいかない。今回の替え玉作戦は当然のごとく極秘であり、伯爵家以外の者に知られるわけにはいかない。だが彼女、クリシュナは例外だ。伯爵自身も彼女のことを知っており、パンナがドレスの発注をすることを許可している。クリシュナが口外しないことを伯爵もパンナも分かっているのだ。
「最近国境付近が不穏だって情報もあったから、最初はお前が本来の役目を果たす時が来たのかとかとも思ったんだが、話を聞いて呆れたぜ。お披露目パーティーに本人が出ないなんて前代未聞だろうなあ。あの伯爵もいい性格してるぜ」
「言わないで。また頭が痛くなりそうだわ」
「けけ、そんなこと言って綺麗なおべべが着れるのが楽しいんじゃないのか?」
「否定はしないわ。あなただって一応女なんだから少しは気持ちがわかるでしょ?」
「一応とはご挨拶だな。こちとら商店街の男どもの誘いを断るのに毎日大忙しなんだぜ?」
「力仕事を頼まれるってだけしょ、どうせ」
「プロポーズが後を絶たねえんだよ!」
「冗談はその筋肉だけにして。……でも本当に素敵ね。その武骨なボディラインからどうしてこんな美しいドレスが生まれるのか。生命の神秘ってところかしら」
「どうしても一発ぶん殴られてえみたいだな、パンナ」
顔を引きつらせて指をポキポキと鳴らすクリシュナを無視し、パンナはドレスをハンガーから外して体に当ててみる。パンナとアンセリーナは顔つきも背格好もよく似てはいるが、当然アンセリーナの服は全て完全オーダーメイドだ。アンセリーナは自分のドレスをパンナに貸すことを許可したが、微妙な違いは勿論あるし、ましてダンスをするとなればそのズレは問題になる。そして何より両者には無視できないほどの相違点が一つあった。
「……ちょっと余裕がありすぎるんじゃない?」
ドレスの胸の部分を触りながら、不本意そうにパンナが呟く。そう、パンナとアンセリーナは胸の大きさに大きな差があるのだ。アンセリーナは16歳にしてはかなり豊満なバストを誇っているが、パンナのそれは彼女に比べるとかなり慎ましやかというしかなかった。
「詰め物はするだろ?お嬢様に成り済ますならよ。今回はお前が主役なんだから必要ないとは思ったが、一応仕込みも出来るようになってるぜ」
「助かるわ。ありがとう、クリシュナ。あなたの腕は本当に素晴らしいわ」
「よせよ、今度はおだてか?それでさっきの失言を取り返せると思うなよ」
「ところで国境付近が不穏って本当なの?」
「無視かよ!……ああ、確かな証拠はねえが……俺の見たところ帝国のもんがけっこうこっちに入り込んでやがるな。兵士じゃねえ。恐らくは諜報員だな」
「内通している者がいるってこと?」
「可能性はあるだろう。まあそこらはあいつらが調べるさ。お前は上手く貴族連中を騙くらかして豪勢なパーティーを楽しみな」
「そうね。そうさせてもらうわ」
パンナはフフッと笑い、身に着けていたメイド服を脱ぐと、ドレスに袖を通した。華美に過ぎない装飾が施された上品なドレスの裾がふわっと広がる。
「馬子にも衣装とはよく言ったもんだな」
「意趣返しのつもり?悪いけどそんな安い挑発には乗らないわよ」
パンナはそう言って色々と体の角度を変え、自分のドレス姿を確認する。
「正直不安だらけだけど、このドレスが着れたことだけは旦那様に感謝ね」
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