37 / 149
小学生
感覚派
しおりを挟む
近くの空き地にて蓮様と僕、さよさんで渦中の新品の自転車を囲む。山の麓あたりなら人気が少なく、広い空き地が多く見つかる。
「自転車ですか……。最近はあまり乗りませんが、小さいころはよく乗ってましたよ。中学生の時は友達と自転車で海まで行ったりしてましたね。」
懐かしそうにそういって目の前の小さめの自転車を見つめた。
普通に流しそうになったが、さよさんの実家はこの地域にあり、なおかつこの地域から一番近い海岸までは軽く30キロはある。中学生の、いやさよさんのフットワークの軽さに驚きだ。
今は自転車の乗り方を教えてもらうために三人とも和服ではなく洋服だ。
「さよが洋服着てるの初めて見たな……。」
「あれ?そうでしたっけ?……でも普段は私服なんて見る機会ないですもんね。」
「ええ。いつも会うときは、僕らは休みですがさよさんは仕事中ですから。」
そう考えるとこうやって付き合ってもらうのが申し訳なくなってきた。時間外労働である。
「いつもの和服も素敵ですが、洋服もとてもお似合いですね。」
今のさよさんの服装はスニーカーに白いひざ丈のパンツ、コンフラワーブルーのトップスにミントクリームのカーディガンといった出で立ちである。割と動きやすく、ラフな格好だ。
「ふふふ、ありがとう。涼ちゃんは息をするようにお世辞を言いますよね。」
「お世辞じゃありません、本心ですよ?」
「……ナンパするのがデフォルトだもんな……。」
「そっかぁ……。」
「ナンパしてませんよ。……それからさよさんまで遠い目をしないでください!」
なぜか蓮様の言うことを鵜呑みにして生暖かい視線を送られる。
こうして軟派などという不名誉なうわさが流れるのか。全く事実無根も極まりない……あれ、事実無根だよね。
「まあそれは置いておいて、自転車ってどう乗るんですか?」
「うーん……、どうっていうのも難しいですね。……こう、ペダルに足掛けて、グッって、フワッで、スイーって感じ!」
「「…………。」」
頼みの綱はどうやら感覚派だったらしい。
「……おい、どうする涼。人選ミスだろ完全に。」
「いえ、普段から擬音が多いとは思ってましたが、ここまでとは……。」
さよさんからスッと目を逸らし、小声で蓮様と呟く。
僕らの呟きが聞こえたのか定かではないが焦りながら説明を重ねる。
「いえ、だからっ!グッって、ぐんってなって、スイーってするんです!」
「さっきと擬音変わってますよ……。」
「なんかもう、聞けば聞くほど分からなくなってきた……。」
「く、口で説明するのは難しいんですよ!」
本気で伝わっていないことに今更気づいたらしく、開き直り説明を放棄した。まあこれ以上オノマトペに塗れた説明をされても理解できる気がしないので打ち切ってもらっても構わないです、はい。
「とりあえず、涼ちゃん乗ってみてください。涼ちゃんの方が説明うまいんじゃないですか?」
「いや、僕も乗ったことないんですけど……。」
「っ……!」
なぜか仰け反り驚愕してみせるさよさんにため息を吐く。確かに基本的には何でもできるように振る舞っているが、本当にできるわけじゃない。そもそも一応まだ小学生なのだから経験不足っていうものがあるのだ。
「涼ちゃんにもできないことがあるんですね……!」
「……蓮様もですけど、僕が何かできないことがあるのがそんなに嬉しいですか?」
「いいえ、ただ多少子供らしいところもあるんだな、と……。」
「……子供ですから。」
「まあ乗ればわかりますって!」
さよさんに促されてとりあえず乗ってみる、が。
「ちょ、さよさん!足掛けるってこれ、足掛けたら倒れちゃいますって!!」
「そこは倒れないようにバランスとるんですよ!」
予想外に怖い。自転車嘗めてた。
両足とも地面から離したら倒れるじゃん。真横に倒れるじゃん。
「そして蓮様はなんでにやにやしてるんですか!?」
「え?いや、涼が何かに対して戸惑ってるのが楽し、……珍しいからつい。」
「楽しいって言いかけましたね!」
腹立つ。次は自分の番ってことを忘れてるんじゃなかろうか。
「だから、ぐっで、グンって、スイーって行くんです。」
「ぐっで、グンって、スイーですか……。」
擬音のオンパレードに辟易しながらも、頼れるものが今はそれしかないのでイメージでやってみる。
「倒れるって思うから前に進めないんですよ。もう倒れる前提でやってみてください!」
「それはまたなかなか勇気が要りますね!」
一応地面を確認しておく。背丈の低い雑草が生えている。まあそこまで固くもないだろう、コンクリートよりかはましだ。
ままよ!と思い切ってぐっとペダルに体重をかける。
「……おっ?」
最初こそふらついたもののその後はスイスイと漕いで行けた。
なんだこれ、すごい気持ち良い。
「……漕ぎ始めれば案外いけますね。」
適当なところで降り、蓮様とさよさんのところまで戻ってくる。
「さあ、次は蓮様の番ですよ。」
「……どうやって乗った?」
「だから、さよさんが言ったみたいに、ぐっで、グンって、スイーですよ。」
「さっきのを根に持ってるのか!?」
にやにやするなっ!と頬を抓られる。
「いえまさか、先ほどまで僕を笑っていた蓮様は瞬の間で乗りこなせるんだろうな、と思うと愉快、……楽しみで。」
「完全に根に持ってるだろ!」
さよさんがなんとか宥め、自転車に乗るように促す。
「……行くぞ?」
「頑張ってくださいー。」
「ぐっで、グンって、スイーですよ!」
「……。」
「……行かないんですか?」
蓮様の行くぞ宣言から約三分、当の本人は微動だにしない。
「こ、心の準備が!」
「じゃあなんで行くぞって言ったんですか!?」
別に言わなくてもいいんだから準備ができたところで行けばいいものを。
「よっ!」
「おおっ?」
バタン。
「…………。」
掛け声とともにペダルに足を掛けたが、一センチも進まずその場で真横に倒れた。
「……生きてますか?」
「生きてる……。」
真横に倒れた蓮様を呆然と見ていたが、我に返りさよさんと蓮様を起こしに向かう。
その後も続けるが全く前進しない。
「どうしたものですかね……。」
「どうすれば乗れるようになるんでしょうか……。涼ちゃんはさっきどうやって乗ったんですか?」
「いえ、さよさんが言ったみたいに感覚で……。」
自分が乗ってるときはそうでもないのだが、ほかの人がなかなか乗れないのを見ているとものすごくもどかしい。ただ感覚をつかめば早いと思うのだが、口ではそれは伝わらない。
「蓮様、頑張ってください!」
「うおぉぉ……。」
返事の代わりにうめき声が返される。
「あ、前にテレビで見たことあるんですけど、自転車に乗れない子供に自転車の練習をさせるときに後ろの荷台を大人が持ってあげてるのを見たことがあるんですけど、それをするのはいかがでしょうか?」
「ああっ!あれですか、いいですね!それをやってみましょうか!」
僕らの間で話がつき、蓮様にも大体のイメージを伝える。
イメージというのも、僕らも実際にやったことはないのでイメージでしかないのだ。
「じゃあ行きますよ。準備ができたら漕ぎ出してください。」
「あ、ああ。」
さよさんが荷台を持ち支え、蓮様が漕ぎ出す。
「お、おおっ!」
多少ふらついてはいるが、なんとか前へ進みだした。
「その調子ですよ!頑張ってください。」
少しずつふらつかないでスイスイ漕げるようになってきた。ただ僕が乗った時もこれやって欲しかった。
「は、離すなよ!」
「わかってますよー。」
「あ、」
わかってますよー、と言いながらというより、言った瞬間さよさんは荷台から手を離した。しかし蓮様はそれに気が付くことなくそのまま、離すなよ!と言いながら漕ぎ続けている。
そんな彼の後姿を眺めながら二人で手を打つ。
「おおー、ちゃんと乗れましたねー!」
「離しちゃってよかったんですか……?」
「え?だってもう離すなっていうのは離せっていう前フリにしか聞こえないじゃないですか。」
「……確かにパターンといえばパターンですけど……。」
だからって何の躊躇もなくしれっと手を離してしまうのはいかがなものだろうか。しかもまだ乗り始めて一分も経ってないのに……。ちょっと手を離すのが早すぎる気がする。
「まあ乗れたならよかったじゃないですか、結果オーライです!」
「そうですけどね。やっぱ有名な練習の仕方なんですかね?」
「そうなんでしょうね。こんな風にすぐ乗れるようになるなん、て。」
いつの間にか蓮様の後姿は見えなくなっていた。
「……蓮様いなくないですか?」
「……いませんね。」
「「………………」」
ああそういえば、ブレーキの位置と使い方教えてなかったなぁ。
「「蓮様ぁーーー!?」」
どこか遠くから、離すなよ!という声が聞こえた。
日が暮れるころには問題なく乗りこなせるようになり、自転車を引きながら帰路についた。
三人の黒い影が長く伸びる。
「無事に乗れるようになってよかったですね。」
「ああ。でもまさかあんなにあっさりと手を離されるとは思ってなかった……。」
じと目でさよさんを見上げると、わかりやすく目を逸らされる。
「いいじゃないですか!乗れるようになったんですから!」
「そうですよ。さよさんがいなかったらきっともっと乗れるまで時間がかかったでしょうし。」
「むう……。」
未だむくれてはいるものの、事実なのでじと目で見上げるのをやめて前を向いた。
「まああとは、実際に一般道を少しずつ乗るようにして慣れるだけですね。絶対に事故を起こさないようにしてください。」
「あたりまえだ!」
「自転車は左側通行ですよ。」
「あと小学生ならまだヘルメットが必要ですね。」
「調子乗って手放し運転とかしちゃダメですよ?」
「高速道路を自転車で走ろうなんて考えないでくださいね?」
「信号機が赤の時はちゃんと止まるんですよ?」
「お前らは俺をなんだと思ってるんだ!?」
冗談とも本気とも取れるようなことを蓮様につらつらと語りながら歩く。
そしてふと思いつく。
「そういえば……。」
「ん?なんだ?」
「あの……、お二人は補助輪というものをご存じでしょうか?」
「「…………。」」
ワンステップ飛ばしてるよね。これ。
このときの僕たちは知らない。
小学生の計画倒れ率の高さを。
「自転車ですか……。最近はあまり乗りませんが、小さいころはよく乗ってましたよ。中学生の時は友達と自転車で海まで行ったりしてましたね。」
懐かしそうにそういって目の前の小さめの自転車を見つめた。
普通に流しそうになったが、さよさんの実家はこの地域にあり、なおかつこの地域から一番近い海岸までは軽く30キロはある。中学生の、いやさよさんのフットワークの軽さに驚きだ。
今は自転車の乗り方を教えてもらうために三人とも和服ではなく洋服だ。
「さよが洋服着てるの初めて見たな……。」
「あれ?そうでしたっけ?……でも普段は私服なんて見る機会ないですもんね。」
「ええ。いつも会うときは、僕らは休みですがさよさんは仕事中ですから。」
そう考えるとこうやって付き合ってもらうのが申し訳なくなってきた。時間外労働である。
「いつもの和服も素敵ですが、洋服もとてもお似合いですね。」
今のさよさんの服装はスニーカーに白いひざ丈のパンツ、コンフラワーブルーのトップスにミントクリームのカーディガンといった出で立ちである。割と動きやすく、ラフな格好だ。
「ふふふ、ありがとう。涼ちゃんは息をするようにお世辞を言いますよね。」
「お世辞じゃありません、本心ですよ?」
「……ナンパするのがデフォルトだもんな……。」
「そっかぁ……。」
「ナンパしてませんよ。……それからさよさんまで遠い目をしないでください!」
なぜか蓮様の言うことを鵜呑みにして生暖かい視線を送られる。
こうして軟派などという不名誉なうわさが流れるのか。全く事実無根も極まりない……あれ、事実無根だよね。
「まあそれは置いておいて、自転車ってどう乗るんですか?」
「うーん……、どうっていうのも難しいですね。……こう、ペダルに足掛けて、グッって、フワッで、スイーって感じ!」
「「…………。」」
頼みの綱はどうやら感覚派だったらしい。
「……おい、どうする涼。人選ミスだろ完全に。」
「いえ、普段から擬音が多いとは思ってましたが、ここまでとは……。」
さよさんからスッと目を逸らし、小声で蓮様と呟く。
僕らの呟きが聞こえたのか定かではないが焦りながら説明を重ねる。
「いえ、だからっ!グッって、ぐんってなって、スイーってするんです!」
「さっきと擬音変わってますよ……。」
「なんかもう、聞けば聞くほど分からなくなってきた……。」
「く、口で説明するのは難しいんですよ!」
本気で伝わっていないことに今更気づいたらしく、開き直り説明を放棄した。まあこれ以上オノマトペに塗れた説明をされても理解できる気がしないので打ち切ってもらっても構わないです、はい。
「とりあえず、涼ちゃん乗ってみてください。涼ちゃんの方が説明うまいんじゃないですか?」
「いや、僕も乗ったことないんですけど……。」
「っ……!」
なぜか仰け反り驚愕してみせるさよさんにため息を吐く。確かに基本的には何でもできるように振る舞っているが、本当にできるわけじゃない。そもそも一応まだ小学生なのだから経験不足っていうものがあるのだ。
「涼ちゃんにもできないことがあるんですね……!」
「……蓮様もですけど、僕が何かできないことがあるのがそんなに嬉しいですか?」
「いいえ、ただ多少子供らしいところもあるんだな、と……。」
「……子供ですから。」
「まあ乗ればわかりますって!」
さよさんに促されてとりあえず乗ってみる、が。
「ちょ、さよさん!足掛けるってこれ、足掛けたら倒れちゃいますって!!」
「そこは倒れないようにバランスとるんですよ!」
予想外に怖い。自転車嘗めてた。
両足とも地面から離したら倒れるじゃん。真横に倒れるじゃん。
「そして蓮様はなんでにやにやしてるんですか!?」
「え?いや、涼が何かに対して戸惑ってるのが楽し、……珍しいからつい。」
「楽しいって言いかけましたね!」
腹立つ。次は自分の番ってことを忘れてるんじゃなかろうか。
「だから、ぐっで、グンって、スイーって行くんです。」
「ぐっで、グンって、スイーですか……。」
擬音のオンパレードに辟易しながらも、頼れるものが今はそれしかないのでイメージでやってみる。
「倒れるって思うから前に進めないんですよ。もう倒れる前提でやってみてください!」
「それはまたなかなか勇気が要りますね!」
一応地面を確認しておく。背丈の低い雑草が生えている。まあそこまで固くもないだろう、コンクリートよりかはましだ。
ままよ!と思い切ってぐっとペダルに体重をかける。
「……おっ?」
最初こそふらついたもののその後はスイスイと漕いで行けた。
なんだこれ、すごい気持ち良い。
「……漕ぎ始めれば案外いけますね。」
適当なところで降り、蓮様とさよさんのところまで戻ってくる。
「さあ、次は蓮様の番ですよ。」
「……どうやって乗った?」
「だから、さよさんが言ったみたいに、ぐっで、グンって、スイーですよ。」
「さっきのを根に持ってるのか!?」
にやにやするなっ!と頬を抓られる。
「いえまさか、先ほどまで僕を笑っていた蓮様は瞬の間で乗りこなせるんだろうな、と思うと愉快、……楽しみで。」
「完全に根に持ってるだろ!」
さよさんがなんとか宥め、自転車に乗るように促す。
「……行くぞ?」
「頑張ってくださいー。」
「ぐっで、グンって、スイーですよ!」
「……。」
「……行かないんですか?」
蓮様の行くぞ宣言から約三分、当の本人は微動だにしない。
「こ、心の準備が!」
「じゃあなんで行くぞって言ったんですか!?」
別に言わなくてもいいんだから準備ができたところで行けばいいものを。
「よっ!」
「おおっ?」
バタン。
「…………。」
掛け声とともにペダルに足を掛けたが、一センチも進まずその場で真横に倒れた。
「……生きてますか?」
「生きてる……。」
真横に倒れた蓮様を呆然と見ていたが、我に返りさよさんと蓮様を起こしに向かう。
その後も続けるが全く前進しない。
「どうしたものですかね……。」
「どうすれば乗れるようになるんでしょうか……。涼ちゃんはさっきどうやって乗ったんですか?」
「いえ、さよさんが言ったみたいに感覚で……。」
自分が乗ってるときはそうでもないのだが、ほかの人がなかなか乗れないのを見ているとものすごくもどかしい。ただ感覚をつかめば早いと思うのだが、口ではそれは伝わらない。
「蓮様、頑張ってください!」
「うおぉぉ……。」
返事の代わりにうめき声が返される。
「あ、前にテレビで見たことあるんですけど、自転車に乗れない子供に自転車の練習をさせるときに後ろの荷台を大人が持ってあげてるのを見たことがあるんですけど、それをするのはいかがでしょうか?」
「ああっ!あれですか、いいですね!それをやってみましょうか!」
僕らの間で話がつき、蓮様にも大体のイメージを伝える。
イメージというのも、僕らも実際にやったことはないのでイメージでしかないのだ。
「じゃあ行きますよ。準備ができたら漕ぎ出してください。」
「あ、ああ。」
さよさんが荷台を持ち支え、蓮様が漕ぎ出す。
「お、おおっ!」
多少ふらついてはいるが、なんとか前へ進みだした。
「その調子ですよ!頑張ってください。」
少しずつふらつかないでスイスイ漕げるようになってきた。ただ僕が乗った時もこれやって欲しかった。
「は、離すなよ!」
「わかってますよー。」
「あ、」
わかってますよー、と言いながらというより、言った瞬間さよさんは荷台から手を離した。しかし蓮様はそれに気が付くことなくそのまま、離すなよ!と言いながら漕ぎ続けている。
そんな彼の後姿を眺めながら二人で手を打つ。
「おおー、ちゃんと乗れましたねー!」
「離しちゃってよかったんですか……?」
「え?だってもう離すなっていうのは離せっていう前フリにしか聞こえないじゃないですか。」
「……確かにパターンといえばパターンですけど……。」
だからって何の躊躇もなくしれっと手を離してしまうのはいかがなものだろうか。しかもまだ乗り始めて一分も経ってないのに……。ちょっと手を離すのが早すぎる気がする。
「まあ乗れたならよかったじゃないですか、結果オーライです!」
「そうですけどね。やっぱ有名な練習の仕方なんですかね?」
「そうなんでしょうね。こんな風にすぐ乗れるようになるなん、て。」
いつの間にか蓮様の後姿は見えなくなっていた。
「……蓮様いなくないですか?」
「……いませんね。」
「「………………」」
ああそういえば、ブレーキの位置と使い方教えてなかったなぁ。
「「蓮様ぁーーー!?」」
どこか遠くから、離すなよ!という声が聞こえた。
日が暮れるころには問題なく乗りこなせるようになり、自転車を引きながら帰路についた。
三人の黒い影が長く伸びる。
「無事に乗れるようになってよかったですね。」
「ああ。でもまさかあんなにあっさりと手を離されるとは思ってなかった……。」
じと目でさよさんを見上げると、わかりやすく目を逸らされる。
「いいじゃないですか!乗れるようになったんですから!」
「そうですよ。さよさんがいなかったらきっともっと乗れるまで時間がかかったでしょうし。」
「むう……。」
未だむくれてはいるものの、事実なのでじと目で見上げるのをやめて前を向いた。
「まああとは、実際に一般道を少しずつ乗るようにして慣れるだけですね。絶対に事故を起こさないようにしてください。」
「あたりまえだ!」
「自転車は左側通行ですよ。」
「あと小学生ならまだヘルメットが必要ですね。」
「調子乗って手放し運転とかしちゃダメですよ?」
「高速道路を自転車で走ろうなんて考えないでくださいね?」
「信号機が赤の時はちゃんと止まるんですよ?」
「お前らは俺をなんだと思ってるんだ!?」
冗談とも本気とも取れるようなことを蓮様につらつらと語りながら歩く。
そしてふと思いつく。
「そういえば……。」
「ん?なんだ?」
「あの……、お二人は補助輪というものをご存じでしょうか?」
「「…………。」」
ワンステップ飛ばしてるよね。これ。
このときの僕たちは知らない。
小学生の計画倒れ率の高さを。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
130
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる