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幼少期
草葉の陰ではないけれど
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とある料亭の個室で向かい合い酒を飲むものが二人。料理は食べ終わり、肴も無しにひたすら杯を仰ぐ。ほろ酔いの男二人、花は置いていない。
「なあ聞いてくれよ嘉人ぉ……。」
「何を聞いてほしいかは何となく察するが聞いておこう。何をだ。」
「涼がぁぁあっ!」
「ええいっ鬱陶しい、身を乗り出すな唾を飛ばすな!」
「嘉人冷たい!」
「話したいことがあるならとっとと話せ。」
「あのさ、涼がさ、全然俺と話してくれない…。」
「……心あたりは?」
「……御側付を決めたときの立ち会い。」
「十中八九それだろうな、そしてそれは全面的お前が悪い。」
「そうだけど、そうだけどさ!御側付になってほしくなかったし!」
「だからって約束まで破るのは親としてっていうか人としてダメだろ。」
「分かってるけど!」
「あれじゃあ、親としての権威は地に落ちたな。」
「痛感してるさ!ついでに言えば権威と共に好感度もだよ!」
「そういえばさっき涼が全然話してくれない、と言っていたが、そもそも以前まで涼はどの位お前に話しかけてたんだ?」
「どの位ってそりゃあ一日に……あれ?」
「どうした?」
「お、俺ほとんど涼に話しかけられたこと無い……!?」
「……お前ら本当に親子か?」
「蓮君と全然会話できないお前に言われたくないっ!」
「俺だってやろうと思えば……!」
「じゃあ今月何回蓮君と話した?」
「……無いな。」
「ほら見ろ似たようなもんじゃないか!」
「うるさい。でも俺は少なくとも蓮に嫌われてるってことはない、お前と違って。」
「俺だって涼に嫌われたってわけじゃ……。」
「言い切れるか?」
「うおおぉぉ……。」
「まあ俺としては涼が蓮の嫁にでも来てくれれば嬉しいんだがな。」
「はぁ?何言ってんだお前。俺の可愛い可愛い涼はどこにも嫁にはやらん!」
「……お前将来絶対ウザがられるよ。なんて言ったって、涼が来るようになってから蓮は雲雀とも多少なりとも話すようになったし、涼の言葉を聞く限り蓮は以前とは比べものにならないくらい活き活きしてる。この前は使用人のさよとも写真を撮っていた。全く良いことづくしだ。本気で嫁に来てほしいところだ。」
「五歳児の娘にどこまでプレッシャーかける気だ……。」
「ふっ、まあお前にはもう一人可愛い可愛い息子がいるだろ。」
「翡翠か……。」
「なんだ?そっちも何か問題があるのか?」
「問題、というのは少し違う気がするが…。あの日から凄い勢いで剣道と空手、柔道とか武術の道場に通い詰めるようになったんだ。」
「あの日ってのは涼に負けた日のことか。……良いんじゃねぇか、お前だって涼じゃなく翡翠を御側付にさせたがってたんだからよ。あの子達が12歳になった時もう一度御側付を決める試合もあるんだし。まだ翡翠にもチャンスがあるじゃないか。」
「でもあれは異常だ。……それに恐らく翡翠はもう御側付のことなんか念頭にない。」
「翡翠が望んでいるのは御側付ではなく、涼に勝つこと、ってか?」
「ああ、しかも単に倒す、という訳じゃないらしい。手合わせのときもいつも確実に急所を狙う。しかも一切手を抜かずに、全力で。鬼気迫る表情でだ。」
「おいおい、物騒だな……。下手したら再起不能どころか殺されるな。手合わせの相手、師範は大丈夫なのか?」
「豪は翡翠に怪我を負わされるほど弱くない。」
「ふっ、なるほど、橘の奴が相手か。どうりで話がお前のところまで筒抜けな訳だ。」
「……多分翡翠は涼を恨んでいる。」
「……。」
「俺が翡翠と涼を平等に扱ってたなら、今も二人は仲の良いままでいられたのかな……?」
「……今更後悔しても遅い。忠告はしたはずだ。」
「ああ、本当に、何で俺はお前の言葉に気づかなかったんだろ。」
「萎れるな、調子が狂う。お前は光ひかりだろ。光が陰を背負ってどうする。」
「ん、悪い……。にしても、涼がお前のところに行くようになった途端、俺の家は雰囲気悪くなって、お前の方は改善するってのはなぁ……。」
「感謝している。」
「ウザい。どうしたら俺の方も良くなるだろうな……。」
「お前が笑ってたら良いんじゃないか?」
「……俺が、か?」
「ああ、どうせお前のことだ、気まずくなって涼とも翡翠とも距離おいてんだろ?涼は空気の読める子だ。お前が頑張って話しかけてるって分かったら、前みたいに話せるようになる。翡翠だって本質は明るい子だろ?大丈夫さ。」
「そうか……。ありがとう嘉人、お前と話せて良かったよ。」
「ははっ、どういたしまして。」
「なあ聞いてくれよ嘉人ぉ……。」
「何を聞いてほしいかは何となく察するが聞いておこう。何をだ。」
「涼がぁぁあっ!」
「ええいっ鬱陶しい、身を乗り出すな唾を飛ばすな!」
「嘉人冷たい!」
「話したいことがあるならとっとと話せ。」
「あのさ、涼がさ、全然俺と話してくれない…。」
「……心あたりは?」
「……御側付を決めたときの立ち会い。」
「十中八九それだろうな、そしてそれは全面的お前が悪い。」
「そうだけど、そうだけどさ!御側付になってほしくなかったし!」
「だからって約束まで破るのは親としてっていうか人としてダメだろ。」
「分かってるけど!」
「あれじゃあ、親としての権威は地に落ちたな。」
「痛感してるさ!ついでに言えば権威と共に好感度もだよ!」
「そういえばさっき涼が全然話してくれない、と言っていたが、そもそも以前まで涼はどの位お前に話しかけてたんだ?」
「どの位ってそりゃあ一日に……あれ?」
「どうした?」
「お、俺ほとんど涼に話しかけられたこと無い……!?」
「……お前ら本当に親子か?」
「蓮君と全然会話できないお前に言われたくないっ!」
「俺だってやろうと思えば……!」
「じゃあ今月何回蓮君と話した?」
「……無いな。」
「ほら見ろ似たようなもんじゃないか!」
「うるさい。でも俺は少なくとも蓮に嫌われてるってことはない、お前と違って。」
「俺だって涼に嫌われたってわけじゃ……。」
「言い切れるか?」
「うおおぉぉ……。」
「まあ俺としては涼が蓮の嫁にでも来てくれれば嬉しいんだがな。」
「はぁ?何言ってんだお前。俺の可愛い可愛い涼はどこにも嫁にはやらん!」
「……お前将来絶対ウザがられるよ。なんて言ったって、涼が来るようになってから蓮は雲雀とも多少なりとも話すようになったし、涼の言葉を聞く限り蓮は以前とは比べものにならないくらい活き活きしてる。この前は使用人のさよとも写真を撮っていた。全く良いことづくしだ。本気で嫁に来てほしいところだ。」
「五歳児の娘にどこまでプレッシャーかける気だ……。」
「ふっ、まあお前にはもう一人可愛い可愛い息子がいるだろ。」
「翡翠か……。」
「なんだ?そっちも何か問題があるのか?」
「問題、というのは少し違う気がするが…。あの日から凄い勢いで剣道と空手、柔道とか武術の道場に通い詰めるようになったんだ。」
「あの日ってのは涼に負けた日のことか。……良いんじゃねぇか、お前だって涼じゃなく翡翠を御側付にさせたがってたんだからよ。あの子達が12歳になった時もう一度御側付を決める試合もあるんだし。まだ翡翠にもチャンスがあるじゃないか。」
「でもあれは異常だ。……それに恐らく翡翠はもう御側付のことなんか念頭にない。」
「翡翠が望んでいるのは御側付ではなく、涼に勝つこと、ってか?」
「ああ、しかも単に倒す、という訳じゃないらしい。手合わせのときもいつも確実に急所を狙う。しかも一切手を抜かずに、全力で。鬼気迫る表情でだ。」
「おいおい、物騒だな……。下手したら再起不能どころか殺されるな。手合わせの相手、師範は大丈夫なのか?」
「豪は翡翠に怪我を負わされるほど弱くない。」
「ふっ、なるほど、橘の奴が相手か。どうりで話がお前のところまで筒抜けな訳だ。」
「……多分翡翠は涼を恨んでいる。」
「……。」
「俺が翡翠と涼を平等に扱ってたなら、今も二人は仲の良いままでいられたのかな……?」
「……今更後悔しても遅い。忠告はしたはずだ。」
「ああ、本当に、何で俺はお前の言葉に気づかなかったんだろ。」
「萎れるな、調子が狂う。お前は光ひかりだろ。光が陰を背負ってどうする。」
「ん、悪い……。にしても、涼がお前のところに行くようになった途端、俺の家は雰囲気悪くなって、お前の方は改善するってのはなぁ……。」
「感謝している。」
「ウザい。どうしたら俺の方も良くなるだろうな……。」
「お前が笑ってたら良いんじゃないか?」
「……俺が、か?」
「ああ、どうせお前のことだ、気まずくなって涼とも翡翠とも距離おいてんだろ?涼は空気の読める子だ。お前が頑張って話しかけてるって分かったら、前みたいに話せるようになる。翡翠だって本質は明るい子だろ?大丈夫さ。」
「そうか……。ありがとう嘉人、お前と話せて良かったよ。」
「ははっ、どういたしまして。」
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