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幼少期
『Ricordi di sei colori』
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「すいませんさよさん、少し手伝ってほしいのですが。」
「大丈夫、今丁度手が空いていますから。何をすればいいですか?」
自宅からデジカメを借りてきてそのまま母屋のさよさんのところへ向かった。さよさんはいつものように台所にいて、机を布巾で拭いているところだった。
「蓮様と写真を撮りたいんです。撮ってもらえませんか?」
手に持っているデジカメを見せると合点いった様子で頷いた。
「もちろん、私で良ければ。でも急にどうしたんですか?」
「なんとなく、春だな、と思いまして。あと僕が御側付になってだいたい半年位なので、記念みたいなもので。」
適当な理由を言ってさよさんに頼み込んだ。
「女の子は記念日が好きね。」
「僕は女の子か微妙なところですよ。扱いとしては男の子で構いません。」
「涼さんは女の子でしょ?」
「紳士的なイケメンを目指しています。」
そう言うと頭を撫でられたら。何故だ、解せぬ。
「でも写真撮るならちゃんと笑いましょうね!」
「……善処はします。」
はい、素敵な笑顔いただきました。
あれから時間を見つけてはさよさんに笑顔の練習を付き合ってもらっている。おかげで以前よりかはマシだと思う。以前自分の作り笑顔を鏡で見たところあまりの酷さに思わず膝をついてしまった。あの顔は最早表情筋の奇跡だ。
さよさんを連れて蓮様の待つ離れの一室へ急ぐ。
そして部屋の襖に手をかけようとしたとき、伸ばされた僕の手をぐっと掴んだ。
「さよさん……?」
「ちょっと、ちょっと待ってください!まだ心の準備が……!!」
「準備も何も今から会うのはただの子供ですよ?」
「で、でも私蓮様から嫌われてるみたいだし。」
さよさんはどうやら蓮様にシカトされていたことを気にしているらしい。
「そんなに気にすることありませんよ?」
「でも……、」
「蓮様は別にあなたのことが嫌い、という訳じゃないと思います。多分単に他人に興味がなかっただけですよ。」
興味がない、というのもどうかとは思うが事実だろう。彼は確実にさよさんのことを覚えていない。
「だから今からがさよさんの第一印象ですよ!」
「涼、どうした?」
襖の向こう側から蓮様の呼ぶ声が聞こえた。僕が誰かと部屋の前で話しているから不審に思ったのだろう。さよさんはビクリと肩を跳ねさせた。
「いえ、今入ります。」
さよさんに掴まれていない方の手で襖を開ける。
「…後ろのは誰だ?」
蓮様が僕の後ろを訝しげに見ていった。
チラリと後ろのさよさんに目配せする。
ほらやっぱり覚えてなかったでしょう、と良いのか悪いのか伝えてみる。
「は、初めまして、お手伝いの進藤しんどうさよと申します!」
どうやらさよさんは初対面ということにするらしい。
「ふぅーん。」
不躾にさよさんを眺める。さよさんは非常に居心地が悪そうだ。
「はぁ、蓮様、そんなに見ては相手に失礼ですよ。それにたとえ相手が自分のことを知ってても、自己紹介されたならこちらからも挨拶するべきです。」
軽く窘めておく。さよさんの必死の自己紹介に、ふぅーん、だけじゃ可哀想過ぎる。それに使用人だとしても自分より年上なのだから最低限の敬意は払うべきだ。
「初めまして、白樺蓮だ。……じろじろ見て悪かった。」
「いっいえそんなっ!構いません!」
蓮様がまともに喋った。
敬語がないとはいえ、いつかの自己紹介に比べれば凄まじい成長。しかも促してもないのに謝罪まで。我が主の成長に感涙咽ぶ思い。相変わらず警戒はしているようだがあからさまに邪険にするような様子は見られない。
「……庭で撮るのか?」
「ええ、そのつもりです。梅が綺麗に咲いてますし。」
縁側の突っかけを履き庭にでる。空には一つの雲もなく、遮るものは時たまに横切る鳥だけだった。
「それじゃあ梅の木が入る位置…あと左に二歩、あ、それくらいで良いですよ。撮りますね。」
さよさんの指示通りに動き梅の木のそばに蓮様と並んで立つ。
そしてさよさんがシャッターを押すのを待っているのだがなかなか押そうとしない。
「さよさん?」
「いえ、あのー少し笑ってもらえませんか?」
蓮様と顔を見合わせる。なるほど、無表情だ。
「……笑いましょうか。」
「……どうやって笑うんだっけ。」
「口の端を持ち上げる……?」
あ、ダメだ、と数秒で諦める。多分今二人して口角だけあげてる。目が笑ってない。幼子が二人口の端だけで笑う、シュールだ。というよりホラー映画のワンシーンでありそうな状況。
「さよさん、無理です。不気味にしかなりません。」
蓮様も無言で頷く。
よくよく考えれば蓮様は僕以上に笑顔を作る必要がない。多分笑顔を作るのは初めてだろう。普段笑うことはあってもわざわざ可笑しくもないのに笑う機会はまずない。
「ん~じゃあ出来るだけの笑顔に……いや、ごめんなさい。やっぱり無表情で構いません。すいません。」
全力の笑顔だったが全くダメだったらしい。でしょうね。
ということで、無表情のまま数枚撮った。
しばらく庭に出ていると、物珍しさからか普段から餌付けをしている小鳥たちが近寄ってきた。
そして一羽のエナガが飛んできて、
モフーン
「「「…………。」」」
蓮様の頭にそのまま着地した。
いつの間にやら蓮様はそのエナガに相当懐かれたらしく、蓮様の白い頭に座った。
蓮様のふわふわとしたくせっ毛に埋もれるふわふわで丸っこいエナガ。
超可愛い。
蓮様も頭に何か鳥らしきものが乗ったことに気づいたようでしきりに頭上を気にしているが、下手に動くと飛んで行ってしまうため無言でソワソワしている。
顔を赤くしながら嬉しそうにしている蓮様を見て勝手に癒される。
逃がしてしまうのも悪いので僕とさよさんも黙り込む。
ーーケキョ、ケキョ……
「あっ!」
姿の見えないどこかでウグイスが鳴いた。それで蓮様は思わず頭を動かしてしまった。驚いたエナガはパタパタと屋根の上に飛んで行ってしまった。
「あー……。」
残念そうに鳥のあとを目で追い、自分の頭を抑えた。
「いつの間にそんなに懐いたんですか?」
「さぁ?頭に留まったのは初めてだった。」
嬉しそうに頭を触る。
「また来ると良いですね。」
「ああ!」
自然と二人とも笑っていたことに気付く。無理に笑うよりやっぱりこっちの方がずっと良い。
「せっかくなのでさよさんも一緒に撮りませんか?」
「えっ私もですか?」
「はい、手伝ってもらったし、僕もさよさんと撮りたいです。確かそのカメラってタイマーありましたよね?」
「で、でも蓮様は……。」
さよさんはいまだに蓮様に嫌われてる云々を気にしていたらしくチラチラと蓮様を見ている。
「……俺は別に撮っても良い。」
エナガがいなくなってテンションが元に戻った蓮様が遠回しに誘う。
「そ、それじゃあ……、」
さよさんはタイマーをセットして急いで僕らの隣に並ぶ。左から蓮様、僕、さよさんで並ぶ。
ピピッカシャッ!
軽快な音を立ててシャッターがきられた。
後日さよさんが現像してくれた写真を手に離れを訪れた。
「蓮様ー写真の現像をしてもらいましたよ。」
「ああ、あれか。」
部屋の端に置かれた文机の上で写真を広げる。
「結構撮ったんだな。」
「ええ、そうみたいですね。そして無表情も多いです。」
「……可笑しくもないのに笑えるものなのか?」
「少なくとも蓮様と僕には無理みたいです。」
とても笑顔とは呼べない表情の写真が一枚あったのでそっと裏返した。
「そういえば、この時の蓮様すごい言葉少なでしたけど、どうしたんですか?」
「……初対面の人間といろいろ話せるほど俺はフレンドリーになれない。」
ああさよさん、安心してください。かつてあなたがシカトされていたのは恐らく嫌いな訳じゃなくて、単なる人見知りなだけでした。
蓮様の膨らませたほっぺを指でつついて空気を抜くとプシューと間抜けな音が出た。
「あっ。」
「なんですか?」
蓮様が小さく声を上げて手に取った写真を覗き込むと、頭にエナガを乗せた蓮様とそれを見ている僕が写っていた。
「これはちゃんと笑えてますね。」
無表情やぎこちない笑顔とは違う自然な笑顔。
「この時も撮ってたんだな……。」
「それじゃ、アルバムに貼りましょうか。」
一通り写真を見終わったので本棚の中から例のアルバムを取り出した。
「え、それに貼るのか……?」
やはりこのアルバムには苦手意識があるらしい。当然だ。でも
「はい、このアルバムには蓮様の写真が少ないので。これから増やしていきましょう。」
アルバムをめくっていき白いページを開いた。
「……そうだな。」
シートを剥がして、特に綺麗に撮れたものを貼っていく。
このアルバムに貼られる初めての蓮様の笑顔の写真を嬉しく思った。
「なあ涼……これも。」
そっぽを向いて渡された写真を見る。それは最後に撮った三人で写った写真。
「べ、別に三人で撮れたからとかじゃなくてウグイスが写ってたからだっ。」
「ふっ、まだ何も言ってませんよ。」
少しだけ笑ってる僕らと笑顔のさよさんの上に写る梅の木になるほどウグイスが留まっていた。さよさんとも撮れたことを喜んでいたということもさよさんに報告しておこう。
そして僕はその一枚もアルバムに貼った。
突然僕が写真を撮ろうと言った理由。
もちろん、あのアルバムに僕らの写真を貼りたかったからでもある。
しかしもう一つ。
思い出したんだ、この世界、友人のプレイしてたゲームの名前を。
『Ricordi di sei colori』
日本語で『六色の思い出』
六色は赤、白、青、黄色 緑、そしてヒロインの桃色のことだと思う。たしか隠しキャラで黒がいたはずだがそれはカウントしていないらしい。
タイトルの通り、ゲーム内では写真をキャラクターと撮るイベントが多発していた。何度もいろいろなスチルを見たから間違いない。
だから何となく便乗してみたのだが、して良かったと思った。
その写真はまるで僕の存在を確かなものにしているようだった。
一人一枚、アルバム用に一枚、計四枚撮られた写真の一枚を眺める。
そして僕はイレギュラー、メインキャラクター、モブキャラクターの三人で写った写真を自室の机の引き出しにそっとしまった。
「大丈夫、今丁度手が空いていますから。何をすればいいですか?」
自宅からデジカメを借りてきてそのまま母屋のさよさんのところへ向かった。さよさんはいつものように台所にいて、机を布巾で拭いているところだった。
「蓮様と写真を撮りたいんです。撮ってもらえませんか?」
手に持っているデジカメを見せると合点いった様子で頷いた。
「もちろん、私で良ければ。でも急にどうしたんですか?」
「なんとなく、春だな、と思いまして。あと僕が御側付になってだいたい半年位なので、記念みたいなもので。」
適当な理由を言ってさよさんに頼み込んだ。
「女の子は記念日が好きね。」
「僕は女の子か微妙なところですよ。扱いとしては男の子で構いません。」
「涼さんは女の子でしょ?」
「紳士的なイケメンを目指しています。」
そう言うと頭を撫でられたら。何故だ、解せぬ。
「でも写真撮るならちゃんと笑いましょうね!」
「……善処はします。」
はい、素敵な笑顔いただきました。
あれから時間を見つけてはさよさんに笑顔の練習を付き合ってもらっている。おかげで以前よりかはマシだと思う。以前自分の作り笑顔を鏡で見たところあまりの酷さに思わず膝をついてしまった。あの顔は最早表情筋の奇跡だ。
さよさんを連れて蓮様の待つ離れの一室へ急ぐ。
そして部屋の襖に手をかけようとしたとき、伸ばされた僕の手をぐっと掴んだ。
「さよさん……?」
「ちょっと、ちょっと待ってください!まだ心の準備が……!!」
「準備も何も今から会うのはただの子供ですよ?」
「で、でも私蓮様から嫌われてるみたいだし。」
さよさんはどうやら蓮様にシカトされていたことを気にしているらしい。
「そんなに気にすることありませんよ?」
「でも……、」
「蓮様は別にあなたのことが嫌い、という訳じゃないと思います。多分単に他人に興味がなかっただけですよ。」
興味がない、というのもどうかとは思うが事実だろう。彼は確実にさよさんのことを覚えていない。
「だから今からがさよさんの第一印象ですよ!」
「涼、どうした?」
襖の向こう側から蓮様の呼ぶ声が聞こえた。僕が誰かと部屋の前で話しているから不審に思ったのだろう。さよさんはビクリと肩を跳ねさせた。
「いえ、今入ります。」
さよさんに掴まれていない方の手で襖を開ける。
「…後ろのは誰だ?」
蓮様が僕の後ろを訝しげに見ていった。
チラリと後ろのさよさんに目配せする。
ほらやっぱり覚えてなかったでしょう、と良いのか悪いのか伝えてみる。
「は、初めまして、お手伝いの進藤しんどうさよと申します!」
どうやらさよさんは初対面ということにするらしい。
「ふぅーん。」
不躾にさよさんを眺める。さよさんは非常に居心地が悪そうだ。
「はぁ、蓮様、そんなに見ては相手に失礼ですよ。それにたとえ相手が自分のことを知ってても、自己紹介されたならこちらからも挨拶するべきです。」
軽く窘めておく。さよさんの必死の自己紹介に、ふぅーん、だけじゃ可哀想過ぎる。それに使用人だとしても自分より年上なのだから最低限の敬意は払うべきだ。
「初めまして、白樺蓮だ。……じろじろ見て悪かった。」
「いっいえそんなっ!構いません!」
蓮様がまともに喋った。
敬語がないとはいえ、いつかの自己紹介に比べれば凄まじい成長。しかも促してもないのに謝罪まで。我が主の成長に感涙咽ぶ思い。相変わらず警戒はしているようだがあからさまに邪険にするような様子は見られない。
「……庭で撮るのか?」
「ええ、そのつもりです。梅が綺麗に咲いてますし。」
縁側の突っかけを履き庭にでる。空には一つの雲もなく、遮るものは時たまに横切る鳥だけだった。
「それじゃあ梅の木が入る位置…あと左に二歩、あ、それくらいで良いですよ。撮りますね。」
さよさんの指示通りに動き梅の木のそばに蓮様と並んで立つ。
そしてさよさんがシャッターを押すのを待っているのだがなかなか押そうとしない。
「さよさん?」
「いえ、あのー少し笑ってもらえませんか?」
蓮様と顔を見合わせる。なるほど、無表情だ。
「……笑いましょうか。」
「……どうやって笑うんだっけ。」
「口の端を持ち上げる……?」
あ、ダメだ、と数秒で諦める。多分今二人して口角だけあげてる。目が笑ってない。幼子が二人口の端だけで笑う、シュールだ。というよりホラー映画のワンシーンでありそうな状況。
「さよさん、無理です。不気味にしかなりません。」
蓮様も無言で頷く。
よくよく考えれば蓮様は僕以上に笑顔を作る必要がない。多分笑顔を作るのは初めてだろう。普段笑うことはあってもわざわざ可笑しくもないのに笑う機会はまずない。
「ん~じゃあ出来るだけの笑顔に……いや、ごめんなさい。やっぱり無表情で構いません。すいません。」
全力の笑顔だったが全くダメだったらしい。でしょうね。
ということで、無表情のまま数枚撮った。
しばらく庭に出ていると、物珍しさからか普段から餌付けをしている小鳥たちが近寄ってきた。
そして一羽のエナガが飛んできて、
モフーン
「「「…………。」」」
蓮様の頭にそのまま着地した。
いつの間にやら蓮様はそのエナガに相当懐かれたらしく、蓮様の白い頭に座った。
蓮様のふわふわとしたくせっ毛に埋もれるふわふわで丸っこいエナガ。
超可愛い。
蓮様も頭に何か鳥らしきものが乗ったことに気づいたようでしきりに頭上を気にしているが、下手に動くと飛んで行ってしまうため無言でソワソワしている。
顔を赤くしながら嬉しそうにしている蓮様を見て勝手に癒される。
逃がしてしまうのも悪いので僕とさよさんも黙り込む。
ーーケキョ、ケキョ……
「あっ!」
姿の見えないどこかでウグイスが鳴いた。それで蓮様は思わず頭を動かしてしまった。驚いたエナガはパタパタと屋根の上に飛んで行ってしまった。
「あー……。」
残念そうに鳥のあとを目で追い、自分の頭を抑えた。
「いつの間にそんなに懐いたんですか?」
「さぁ?頭に留まったのは初めてだった。」
嬉しそうに頭を触る。
「また来ると良いですね。」
「ああ!」
自然と二人とも笑っていたことに気付く。無理に笑うよりやっぱりこっちの方がずっと良い。
「せっかくなのでさよさんも一緒に撮りませんか?」
「えっ私もですか?」
「はい、手伝ってもらったし、僕もさよさんと撮りたいです。確かそのカメラってタイマーありましたよね?」
「で、でも蓮様は……。」
さよさんはいまだに蓮様に嫌われてる云々を気にしていたらしくチラチラと蓮様を見ている。
「……俺は別に撮っても良い。」
エナガがいなくなってテンションが元に戻った蓮様が遠回しに誘う。
「そ、それじゃあ……、」
さよさんはタイマーをセットして急いで僕らの隣に並ぶ。左から蓮様、僕、さよさんで並ぶ。
ピピッカシャッ!
軽快な音を立ててシャッターがきられた。
後日さよさんが現像してくれた写真を手に離れを訪れた。
「蓮様ー写真の現像をしてもらいましたよ。」
「ああ、あれか。」
部屋の端に置かれた文机の上で写真を広げる。
「結構撮ったんだな。」
「ええ、そうみたいですね。そして無表情も多いです。」
「……可笑しくもないのに笑えるものなのか?」
「少なくとも蓮様と僕には無理みたいです。」
とても笑顔とは呼べない表情の写真が一枚あったのでそっと裏返した。
「そういえば、この時の蓮様すごい言葉少なでしたけど、どうしたんですか?」
「……初対面の人間といろいろ話せるほど俺はフレンドリーになれない。」
ああさよさん、安心してください。かつてあなたがシカトされていたのは恐らく嫌いな訳じゃなくて、単なる人見知りなだけでした。
蓮様の膨らませたほっぺを指でつついて空気を抜くとプシューと間抜けな音が出た。
「あっ。」
「なんですか?」
蓮様が小さく声を上げて手に取った写真を覗き込むと、頭にエナガを乗せた蓮様とそれを見ている僕が写っていた。
「これはちゃんと笑えてますね。」
無表情やぎこちない笑顔とは違う自然な笑顔。
「この時も撮ってたんだな……。」
「それじゃ、アルバムに貼りましょうか。」
一通り写真を見終わったので本棚の中から例のアルバムを取り出した。
「え、それに貼るのか……?」
やはりこのアルバムには苦手意識があるらしい。当然だ。でも
「はい、このアルバムには蓮様の写真が少ないので。これから増やしていきましょう。」
アルバムをめくっていき白いページを開いた。
「……そうだな。」
シートを剥がして、特に綺麗に撮れたものを貼っていく。
このアルバムに貼られる初めての蓮様の笑顔の写真を嬉しく思った。
「なあ涼……これも。」
そっぽを向いて渡された写真を見る。それは最後に撮った三人で写った写真。
「べ、別に三人で撮れたからとかじゃなくてウグイスが写ってたからだっ。」
「ふっ、まだ何も言ってませんよ。」
少しだけ笑ってる僕らと笑顔のさよさんの上に写る梅の木になるほどウグイスが留まっていた。さよさんとも撮れたことを喜んでいたということもさよさんに報告しておこう。
そして僕はその一枚もアルバムに貼った。
突然僕が写真を撮ろうと言った理由。
もちろん、あのアルバムに僕らの写真を貼りたかったからでもある。
しかしもう一つ。
思い出したんだ、この世界、友人のプレイしてたゲームの名前を。
『Ricordi di sei colori』
日本語で『六色の思い出』
六色は赤、白、青、黄色 緑、そしてヒロインの桃色のことだと思う。たしか隠しキャラで黒がいたはずだがそれはカウントしていないらしい。
タイトルの通り、ゲーム内では写真をキャラクターと撮るイベントが多発していた。何度もいろいろなスチルを見たから間違いない。
だから何となく便乗してみたのだが、して良かったと思った。
その写真はまるで僕の存在を確かなものにしているようだった。
一人一枚、アルバム用に一枚、計四枚撮られた写真の一枚を眺める。
そして僕はイレギュラー、メインキャラクター、モブキャラクターの三人で写った写真を自室の机の引き出しにそっとしまった。
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