胡蝶の夢

秋澤えで

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幼少期

修業

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「今から修行を始めるぞ!!」 
 「はい」「はいっ!」 
 「よし、いい返事だ!じゃあ今から走るぞ!」

 父様監督のもと、この言葉を聞いてからはや三時間。永遠走り続けている。修行なのか訓練なのか、ひたすらただ走るだけ。三歳児にこれは肉体的にも精神的にもハードな気がするのだが……。しかもいつ終わるか、ゴールはどこか、などと聞いていないので尚更。そのうち倒れるのでは……、などと思ってたけれど、どうも身体がおかしい気がする。ずっと走ってるのに息切れ一つしない。ある程度なら喜べるけどここまでとなると自分の体だけど気持ち悪い。

 隣の翡翠を見る。 


 「はぁっはぁっ…」 


 普通に辛そうに見えるけど普通の子供なら既に倒れてるはず。これが普通であるはずがない。
 父様は全く余裕。 

 前々から勝手に筋トレやらなんやらしていたがそのおかげとかそういうレベルでない。どう考えても異常だ。僕も翡翠ももはや人外じみている。
 父様はともかく、僕と翡翠は長時間運動なんてしたことないのに。 
まあ体力はあるに越したことは無いんだけど、釈然としない。 



 父様の言葉から五時間、ようやくランニングが終わった。 


 「疲れたぁ~」 


 翡翠が玄関に座り込む。翡翠は満身創痍だが僕は多少息が切れる程度。父様は 


「二人ともよく頑張ったな!でもこれからはもっとキツくなるからな!」 


 元気溌剌。 

 何なんだこの家系。化け物なのか。普通これだけ走って疲れたーでは済まない。我ながら気持ち悪い。


 「はぁっ、父様、これだけ走ったのにどうしてそんなに元気なんですか?」 
 「父さんは鍛えてるからな!」 


 鍛えるとかそういうレベルではない。口元が思わず引き攣る。 


 「で、でも僕や翡翠は鍛えていませんが、普通の子供もこんなに走れるものなんですか?」 


 僕達がハイスペックなのか、この世界がハイスペックなのか。 


 「普通の子供なら無理だ。お前達は赤霧の子だからな! 
この家系は白樺の盾になる者だ。最初の内は普通だったが代を重ねる度に強くなってるんだ。ただ物理的に身体を強くする事はできない。その分筋力の質がよく、治癒能力が高く、身体能力が良くなったんだ。」 
 「すごい……。」 


いや、本当にすげぇ。より強い盾になるために進化までする赤霧の血半端じゃない。どんだけ白樺家大好きなんだ……。

 父様が僕の耳元で「イヤなら止めて良いんだぞ?」とか囁いてきた。

 「別に嫌でもないですし辛くも無いので問題ありません。」 

と全力の笑顔で応えると悔しそうに歯噛みしていた。 



 翌日は剣道だった。

 今日は平日なので父様ではなく近くの道場の師範の方に教えてもらう。因みに僕も翡翠も保育園には行ってない。特に行く必要が無いからだ。 


 「はじめまして、赤霧涼と申します。よろしくお願いします。」 
 「はじめまして!赤霧翡翠です!」 


もう僕と翡翠の挨拶の違いについては諦めた。もう直らない。どうしようもないよ。


 「はい、はじめまして、東雲道場師範、橘豪たちばなごうといいます。」 


 豪さんはなんというか…年齢不詳だ。多分お兄さん、ではないと思う。でもおじさんっていうのもしっくりこない。ニコニコしっぱなし。父様のニコニコとは種類が違うけどニコニコ。 

とりあえずは防具を付けずに木刀の素振り。昨日と同じくひたすら振る。正直昨日よりも辛い。木刀が太すぎで上手く握れない上に、重いから手にも腕にも負荷がかかる。 

 素振りは三時間。あと10分、翡翠もさぞ辛いだろう。そう思い翡翠を見るが、 


 「…………」 


なんか心なしか僕の持つものより翡翠の木刀の方が小さいような?遠近感の問題かとも思ったが、そういうレベルじゃない。


「やめっ」 


 豪さんの声が福音に聞こえた。疲れた… 
翡翠も疲れていたようで木刀を落とす。 
からんからん… 
試しに僕の木刀も落としてみる。 
がらんがらん… 
 ……明らかに音が違うのですが。

非難を込めてバッと豪さんを見るとニコニコしながら冷や汗垂らしていた。 
 確信犯、だと…!?ていうか初対面でそんなことされるって……知らぬうちに豪さんになにかしていただろうか。 
 手にはいくつもマメができていた。 

マメの様子を見ていると翡翠が寄ってくる 


「涼これぐらいでマメできてるの?よわ~」 

イラァ… …
子供のいうことだとしても腹が立つ。……最近体に引きずられて精神まで後退してる気がする。
ニコニコしながら白い両手を僕に見せる。ふざけんなよ、お前もこの木刀でやってみろ。 


 「………」 


 敢えて無言を貫く。今言い返しても負け惜しみにしか聞こえない。畜生… 
絶対誰よりも強くなってやる…! 


その夜、僕が潰れたマメに薬を塗っていると父様が様子を見に来た。 


 「今日はどうだった?辛かっただろう。」 
 「まあ……昨日よりかはキツかったです。」 
 「……木刀はまだお前には重かっただろ?辛いなら止めて良いんだぞ?」 


……豪さんに木刀の件の指示を出していたのは父様だと確信した。 

 剣道は辛かった、というのを父様に言った翌日、走り込みより剣道や柔道や空手、武道系が増えたのは僕の気のせいではないだろう。 
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