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第2部 男装王女と転生王子による恋愛大戦争
森のプリンス事変
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やあやあ皆さまごきげんよう。グナエウス王国第二王子のシャングリア・グナエウスです。
先日中庭で拾った黒い革の日記帳。なんとそこにはこの国の未来が! その日記帳の持ち主は隣国ボンベイからの留学生、第三王子のニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイの物だった! なんと彼はこの国のご令嬢たちと恋愛して婚約したり、男装王女の私と結婚して果ては王配になるらしい! なんということでしょう! 処す? 処す?
そんなこと絶対させない! 私は愛しの護衛隊長とゴールインして幸せな未来を築くんだ! 爆弾第三王子にはおとなしくお家へ帰ってもらおう!
などと鼻息荒くあらゆるイベントを何とか躱している素敵で無敵な私でしたが、突然その爆弾王子とエンカウントして私の心臓は暴れまわっています。なぜ王国管理の保養地の森に隣国の第三王子ニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイなどがいるのだ。ガッデム。
川辺に横たわり健やかな寝息を立てているニコラシカを前に立ち尽くした。
なぜここにいる第三王子よ。聞いてないぞ。いや許可をおろすのは管理をしている国だし、留学生の隣国の王子も申請をすれば利用に特に問題もなければ、私にわざわざ伝える必要はない。ただ保養地の利用がブッキングしているならどうか事前に伝えてほしかった管理者さん。
いつものお供ABはどうしたのかと見回すが、それらしい姿は見えない。穏やかに小鳥がなき、心地よい風が吹いているだけだ。正真正銘、一人らしい。
そして私は踵を返した。
よし見なかったことにしよう! 今日私はこの保養地でのんびりしようと思ってわざわざ来たのだ。いつもならヒューイさん相手に追いかけまわして付きまとっているところだが、あいにく父上と外部へ出ていて不在。少なくとも今日中には戻らないと聞いている。そこでまあ、たまには勉強や訓練以外も気分転換にいいと思い保養所に来たのだ。どうしてこの歩くトラブルメーカーのことなど気にしてやらねばならんのか。私は私の休日を満喫させてもらうぞニコラシカー!
うっかり彼を起こしてしまわないよう、抜き足差し足で芝生を歩いて退避をする。
シャングリア は 逃げ出した!
いいえ、戦略的撤退です。
**********************************
2時間ほどあたりを散策したものの、なんとも言い難い不安感に付き纏われ私はまた川辺で寝転がる第三王子のところへと戻っていた。
そして戻ってくると第三王子が動物に群がられていた。
腹の上で眠る狸、顔の傍に寄り添う小鳥たち、隣で眠る斑点の残る小鹿、足元で丸くなる三匹の子猫。
「どこのプリンセスだ……」
顔良し、成績良し、不思議ちゃんに加え動物たちに好かれるとかキャラクターを盛りすぎではないだろうか。そして腹の上の狸はさすがに重いだろうに、その顔は安らかだ。
「…………むう」
このまま放っておいても良かった。むしろ私がこのまま帰ればこのニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイは私のことなど知らず、一人で保養地を借りて安らかに一日寝ていただけとなる。
彼を置いていったところでここは安全な国有地。グナエウス王国の持ち物であり警備も行われている。これといった危険ないだろう。
……と言いたいところだがあいにくとグナエウス王国には前科がある。それも複数。王宮の庭にあったヒロイン専用の侵入ルートから王国に侵入したボンベイ王国の不届き者たちの侵入経路まで。私がかなり塞いでいるとはいえいまいち信用ならないこの国の警備。
ここに何がいつ現れてもおかしくないのだ。しかも彼は一応主人公。主人公の周りには常にイベントとトラブルのフラグが乱立している。もとヒロインのヘレン・アドリア嬢が言うのだから間違いない。
深く深くため息をついて、私は彼の腹の上で寝息を立てていた狸を持ちあげた。
「ん、ううん……」
「おはようございます。よく眠れていたようですね」
「……っは!」
眠りから覚めた第三王子は私の声を聞くや否や飛びのこうとして眠る小鹿にぶつかった。迷惑そうに小鹿が目を開け、顔の傍にいた小鳥たちは慌ただしく飛び立つ。いまだ呆けた顔をしている彼の目の前で手を振ってみせた。
「驚かせて申し訳ありません」
「シャ、シャングリア殿下……、なぜここに」
「私もたまにこの保養地を利用してるんです。あなたが今日使われている、というのは聞いていなかったのでしたね。お一人だったので邪魔しないようにしていたのですが、もう間もなく日も暮れ始めるころです。お休みのところ申し訳ないですが、そろそろ冷えてきます」
「それは……、ありがとうございます」
湖畔というということもあり、足元からは徐々に冷えが広がっている。もっとも動物たちに群がられていたニコラシカはそう寒くもなかったかもしれないが。
「……最近はお疲れですか?」
「ええ……、やはり別の土地ということもあり、少し。……いえっもちろん殿下たちのお心遣いは十分なのですが、いかんせん、私の問題で……」
珍しくしどろもどろになっているニコラシカを眺める。いつもゆるゆるふわふわしているが、寝起きのためか少し余裕がないように見える。それとも疲れすぎて取り繕うこともできないのか。私としてはぜひほどほどに弱って余計な外出などしないで屋敷にこもっていてほしい。
「突然見知らぬ土地へ来られては、疲労もあるのも当然です。どうか無理せずお休みください」
「お気遣いありがとうございます。……あの、殿下、少しお話を聞かせていただいても」
伺うような、自信のなさそうな緑の目を真正面から見つめる。
はい私でもわかります。フラグが立ちました。
▼話を聞く
▼帰るように促す
この二択ですね。わかります。
さらに言えば前者を選べばフラグ回収、王配イベントルートが開くのだろう。そして後者を選べば今回のフラグは折れる、はずだ。
幸か不幸か、今はニコラシカをアシストするお供ABは不在。私はつつがなく、心置きなくフラグをへし折れる。
「……ええ、構いませんよ。日が暮れる前までの間なら」
にっこり私は笑顔を浮かべた。
断ることでフラグが折れることはわかっていた。
だがそれ以上に私はこのニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイに探りを入れたかったのだ。
たとえこの場面でフラグを折ったとしても、それは根本的な解決にはならない可能性が高い。今後もきっとフラグは立つだろう。
今ここには私とニコラシカしかいない。余計な口出しもなにもここにはない。私は確実に王配ルートを回避する方法が欲しかった。私が女王になるためには絶対条件がある。現在王位にある父上が退位すること。そして第一王位継承権のある兄、シュトラウスに何かが起こるか、不適と判断されるかがある。私はそれを何よりも避けたいのだ。
アドリア嬢は、この第三王子は王配ルートについてはよく知らないのではないか、と言っていたが、なにか知っている可能性だってある。たとえ王配ルートを回避したとしても、父と兄に重大な何かが起こる可能性はある。それを排除したかった。
「殿下はお二人兄弟ですよね」
「ええ、私には兄、シュトラウスがいます。学年が違うので校内で会うこともあまりないかとは思いますが」
「……僕は、シュトラウス殿下についてはよく存じ上げません。会ったのも数えて足りるほどで、言葉を交わしたこともほとんど」
シュトラウスは多忙で授業以外で学内にいることがあまりない。学年が違えばいくら国賓の留学生といえど会う機会はほとんどないだろう。ニコラシカの相手は私にほとんど一任されている。
ざわざわと胸の底が波立った。
「シャングリア殿下、あなたは王になりたいと思ったことはありませんか?」
よもや、と気づかれないように唾を飲み込んだ。
先日中庭で拾った黒い革の日記帳。なんとそこにはこの国の未来が! その日記帳の持ち主は隣国ボンベイからの留学生、第三王子のニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイの物だった! なんと彼はこの国のご令嬢たちと恋愛して婚約したり、男装王女の私と結婚して果ては王配になるらしい! なんということでしょう! 処す? 処す?
そんなこと絶対させない! 私は愛しの護衛隊長とゴールインして幸せな未来を築くんだ! 爆弾第三王子にはおとなしくお家へ帰ってもらおう!
などと鼻息荒くあらゆるイベントを何とか躱している素敵で無敵な私でしたが、突然その爆弾王子とエンカウントして私の心臓は暴れまわっています。なぜ王国管理の保養地の森に隣国の第三王子ニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイなどがいるのだ。ガッデム。
川辺に横たわり健やかな寝息を立てているニコラシカを前に立ち尽くした。
なぜここにいる第三王子よ。聞いてないぞ。いや許可をおろすのは管理をしている国だし、留学生の隣国の王子も申請をすれば利用に特に問題もなければ、私にわざわざ伝える必要はない。ただ保養地の利用がブッキングしているならどうか事前に伝えてほしかった管理者さん。
いつものお供ABはどうしたのかと見回すが、それらしい姿は見えない。穏やかに小鳥がなき、心地よい風が吹いているだけだ。正真正銘、一人らしい。
そして私は踵を返した。
よし見なかったことにしよう! 今日私はこの保養地でのんびりしようと思ってわざわざ来たのだ。いつもならヒューイさん相手に追いかけまわして付きまとっているところだが、あいにく父上と外部へ出ていて不在。少なくとも今日中には戻らないと聞いている。そこでまあ、たまには勉強や訓練以外も気分転換にいいと思い保養所に来たのだ。どうしてこの歩くトラブルメーカーのことなど気にしてやらねばならんのか。私は私の休日を満喫させてもらうぞニコラシカー!
うっかり彼を起こしてしまわないよう、抜き足差し足で芝生を歩いて退避をする。
シャングリア は 逃げ出した!
いいえ、戦略的撤退です。
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2時間ほどあたりを散策したものの、なんとも言い難い不安感に付き纏われ私はまた川辺で寝転がる第三王子のところへと戻っていた。
そして戻ってくると第三王子が動物に群がられていた。
腹の上で眠る狸、顔の傍に寄り添う小鳥たち、隣で眠る斑点の残る小鹿、足元で丸くなる三匹の子猫。
「どこのプリンセスだ……」
顔良し、成績良し、不思議ちゃんに加え動物たちに好かれるとかキャラクターを盛りすぎではないだろうか。そして腹の上の狸はさすがに重いだろうに、その顔は安らかだ。
「…………むう」
このまま放っておいても良かった。むしろ私がこのまま帰ればこのニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイは私のことなど知らず、一人で保養地を借りて安らかに一日寝ていただけとなる。
彼を置いていったところでここは安全な国有地。グナエウス王国の持ち物であり警備も行われている。これといった危険ないだろう。
……と言いたいところだがあいにくとグナエウス王国には前科がある。それも複数。王宮の庭にあったヒロイン専用の侵入ルートから王国に侵入したボンベイ王国の不届き者たちの侵入経路まで。私がかなり塞いでいるとはいえいまいち信用ならないこの国の警備。
ここに何がいつ現れてもおかしくないのだ。しかも彼は一応主人公。主人公の周りには常にイベントとトラブルのフラグが乱立している。もとヒロインのヘレン・アドリア嬢が言うのだから間違いない。
深く深くため息をついて、私は彼の腹の上で寝息を立てていた狸を持ちあげた。
「ん、ううん……」
「おはようございます。よく眠れていたようですね」
「……っは!」
眠りから覚めた第三王子は私の声を聞くや否や飛びのこうとして眠る小鹿にぶつかった。迷惑そうに小鹿が目を開け、顔の傍にいた小鳥たちは慌ただしく飛び立つ。いまだ呆けた顔をしている彼の目の前で手を振ってみせた。
「驚かせて申し訳ありません」
「シャ、シャングリア殿下……、なぜここに」
「私もたまにこの保養地を利用してるんです。あなたが今日使われている、というのは聞いていなかったのでしたね。お一人だったので邪魔しないようにしていたのですが、もう間もなく日も暮れ始めるころです。お休みのところ申し訳ないですが、そろそろ冷えてきます」
「それは……、ありがとうございます」
湖畔というということもあり、足元からは徐々に冷えが広がっている。もっとも動物たちに群がられていたニコラシカはそう寒くもなかったかもしれないが。
「……最近はお疲れですか?」
「ええ……、やはり別の土地ということもあり、少し。……いえっもちろん殿下たちのお心遣いは十分なのですが、いかんせん、私の問題で……」
珍しくしどろもどろになっているニコラシカを眺める。いつもゆるゆるふわふわしているが、寝起きのためか少し余裕がないように見える。それとも疲れすぎて取り繕うこともできないのか。私としてはぜひほどほどに弱って余計な外出などしないで屋敷にこもっていてほしい。
「突然見知らぬ土地へ来られては、疲労もあるのも当然です。どうか無理せずお休みください」
「お気遣いありがとうございます。……あの、殿下、少しお話を聞かせていただいても」
伺うような、自信のなさそうな緑の目を真正面から見つめる。
はい私でもわかります。フラグが立ちました。
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▼帰るように促す
この二択ですね。わかります。
さらに言えば前者を選べばフラグ回収、王配イベントルートが開くのだろう。そして後者を選べば今回のフラグは折れる、はずだ。
幸か不幸か、今はニコラシカをアシストするお供ABは不在。私はつつがなく、心置きなくフラグをへし折れる。
「……ええ、構いませんよ。日が暮れる前までの間なら」
にっこり私は笑顔を浮かべた。
断ることでフラグが折れることはわかっていた。
だがそれ以上に私はこのニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイに探りを入れたかったのだ。
たとえこの場面でフラグを折ったとしても、それは根本的な解決にはならない可能性が高い。今後もきっとフラグは立つだろう。
今ここには私とニコラシカしかいない。余計な口出しもなにもここにはない。私は確実に王配ルートを回避する方法が欲しかった。私が女王になるためには絶対条件がある。現在王位にある父上が退位すること。そして第一王位継承権のある兄、シュトラウスに何かが起こるか、不適と判断されるかがある。私はそれを何よりも避けたいのだ。
アドリア嬢は、この第三王子は王配ルートについてはよく知らないのではないか、と言っていたが、なにか知っている可能性だってある。たとえ王配ルートを回避したとしても、父と兄に重大な何かが起こる可能性はある。それを排除したかった。
「殿下はお二人兄弟ですよね」
「ええ、私には兄、シュトラウスがいます。学年が違うので校内で会うこともあまりないかとは思いますが」
「……僕は、シュトラウス殿下についてはよく存じ上げません。会ったのも数えて足りるほどで、言葉を交わしたこともほとんど」
シュトラウスは多忙で授業以外で学内にいることがあまりない。学年が違えばいくら国賓の留学生といえど会う機会はほとんどないだろう。ニコラシカの相手は私にほとんど一任されている。
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