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かっきー2回目のセンター 編
涙は似合わない
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真夏の全国ツアー2022の初日、大阪公演。
夕方から始まったライブも、終盤にさしかかっている。
ステージの上では今、30枚目シングルのアンダー楽曲が初披露されていた。
続けて表題曲を初披露する私たち選抜メンバーは、モニターからアンダーメンバーのパフォーマンスを見守ったり、振り付けの最終確認をしたり。
それぞれの過ごし方で、次の出番を待っている。
私は一人で新曲の振り付けとフォーメーションを思い出しながら、かっきーに目が届く範囲にいた。
自分のセンター曲が初披露される直前。どれだけ経験を積んだとしても、平常心でいるのは難しい時間のはず。
かっきーは、ステージへ上がる階段の下で一人静かに集中力を高めているようだった。
そこへ、2人の先輩メンバーがそれぞれ声をかけていく。
まずは、美月さん。
かっきーが加入前から憧れていた人で、新曲のフォーメーションではかっきーの隣に立っている先輩だ。
ここからでは会話の内容は聞こえないけど、笑顔で話しかけている美月さんの様子を見ると不安を和らげようとしているのが分かる。
次に、飛鳥さん。
美月さんとシンメで、かっきーの隣にいてくれるもう一人の先輩。
飛鳥さんは加入当初から私のことを気にかけてくれているし、いつからかかっきーにも同じように接してくれるようになった。
飛鳥さんはかっきーの手をぎゅっと握って、かっきーの目をまっすぐ見て何か話しかけている。
ファンからはクールな印象を持たれていそうな飛鳥さんだけど、後輩を気にかける時はかなり積極的に来てくれる。
来られた後輩のほうは、あのギャップに照れ笑いしてしまうのだ。私もたまにやられるので、よく分かる。
飛鳥さんだから出来る、後輩をリラックスさせる技。
少し言葉を交わすと、飛鳥さんもかっきーの元を離れた。
ステージ上のアンダー曲は、2番を過ぎたあたり。
出番はもうすぐだ。
あまり時間はないけど、私もかっきーに何か声をかけたい。
先輩たちのような頼もしさは私には無いかもしれないけど、それでも何か、少しでも力になりたい。
さくら「かっきー…」
遥香「さくちゃん…」
私が来ることが分かっていたように、かっきーは自然と迎えてくれた。
「頑張って」とか「大丈夫?」とか、そんな言葉は私たちの間にもう似合わないような気がする。
だから私は、何も言わずにかっきーを抱きしめた。
そして。
少し前から考えていた、私に出来ることを伝えてみる。
さくら「かっきー…新曲のあと、自由に動ける曲があるでしょ…?そのタイミングで私、かっきーのところに行くから……絶対にかっきーを見つけて、抱きしめにいくから…新曲の初披露が大成功しても、ちょっと失敗しちゃっても、何があっても、絶対に…」
今からほんの数分後には、新曲が世間に公開されているはずだ。
ファンの皆さんがどんな反応を見せてくれるか、それは誰にも分からない。
そんなすぐ先のことですらどうなっているか分からないくらい、未来はいつも不確かだ。
だから私は、せめて一つだけでも、かっきーに確実な未来を約束したかった。
ステージ上で私に出来る、精一杯の幸せな未来を。
遥香「うん…ありがとう……私も、さくちゃんのこと見つけるから……あの、さくちゃん、私ね…?」
さくら「うん…なぁに?」
遥香「昨日の夜も言ったけど、前にセンターに選ばれた時よりも、今は頑張れる気がするの……頑張りたいって思う…それでグループに貢献出来るなら、私、頑張りたい…」
さくら「うん…でも、グループのために、無理し過ぎないでね……かっきーが笑顔で活動してれば、私も、グループのみんなも、ファンの皆さんも、みんな幸せなんだから…」
本心だった。
かっきーの笑顔には、それだけの力があると本気で思う。
明るくて、あたたかくて、まぶしくて。
見た人みんなを幸せにする、かっきーの笑顔。
遥香「ありがとう、さくちゃん…大丈夫だよ…それに、私、このグループだから頑張りたいと思える理由があって……」
(…頑張りたい理由…?なんだろう……?メンバーのことが大好きってことだけじゃなくて…?)
かっきーが少し恥ずかしそうに、私の耳元に口を近付ける。
遥香「だって、このグループは、××××××××だから…」
さくら「えっ……」
耳元でささやかれた一言に胸を打たれた私は、かっきーの顔を見た。
私も何か言葉を返したかった、けど…
スタッフ「まもなく次の曲でーす!皆さんステージ下にスタンバイお願いしまーす!」
ついに時間が来てしまった。
選抜メンバーが続々と集まってくる。
いよいよ、フォーメーションに合わせて順番に並ばないといけない。
最後に私の手をぎゅっと握ってニコッと微笑んだかっきーは、スタンバイ位置へ歩いていった。
その笑顔と、さっき言われたばかりの一言のせいで、私は涙があふれそうだった。
(…ずるいよ……最後に、そんな嬉しいこと言うの…)
私にしか聞こえないくらいの小さな声だったけど、かっきーはたしかにこう言った。
『だって、このグループは、
私とさくちゃんを出逢わせてくれたグループだから…』
と。
大きい深呼吸を一つして、私はなんとか涙を引っ込めた。
だって…
私たちが今から披露するのは、かっきーがセンターの爽やかな夏曲。
そんな曲に、涙は似合わないから。
たとえそれが、嬉し涙でも…
~続く~
夕方から始まったライブも、終盤にさしかかっている。
ステージの上では今、30枚目シングルのアンダー楽曲が初披露されていた。
続けて表題曲を初披露する私たち選抜メンバーは、モニターからアンダーメンバーのパフォーマンスを見守ったり、振り付けの最終確認をしたり。
それぞれの過ごし方で、次の出番を待っている。
私は一人で新曲の振り付けとフォーメーションを思い出しながら、かっきーに目が届く範囲にいた。
自分のセンター曲が初披露される直前。どれだけ経験を積んだとしても、平常心でいるのは難しい時間のはず。
かっきーは、ステージへ上がる階段の下で一人静かに集中力を高めているようだった。
そこへ、2人の先輩メンバーがそれぞれ声をかけていく。
まずは、美月さん。
かっきーが加入前から憧れていた人で、新曲のフォーメーションではかっきーの隣に立っている先輩だ。
ここからでは会話の内容は聞こえないけど、笑顔で話しかけている美月さんの様子を見ると不安を和らげようとしているのが分かる。
次に、飛鳥さん。
美月さんとシンメで、かっきーの隣にいてくれるもう一人の先輩。
飛鳥さんは加入当初から私のことを気にかけてくれているし、いつからかかっきーにも同じように接してくれるようになった。
飛鳥さんはかっきーの手をぎゅっと握って、かっきーの目をまっすぐ見て何か話しかけている。
ファンからはクールな印象を持たれていそうな飛鳥さんだけど、後輩を気にかける時はかなり積極的に来てくれる。
来られた後輩のほうは、あのギャップに照れ笑いしてしまうのだ。私もたまにやられるので、よく分かる。
飛鳥さんだから出来る、後輩をリラックスさせる技。
少し言葉を交わすと、飛鳥さんもかっきーの元を離れた。
ステージ上のアンダー曲は、2番を過ぎたあたり。
出番はもうすぐだ。
あまり時間はないけど、私もかっきーに何か声をかけたい。
先輩たちのような頼もしさは私には無いかもしれないけど、それでも何か、少しでも力になりたい。
さくら「かっきー…」
遥香「さくちゃん…」
私が来ることが分かっていたように、かっきーは自然と迎えてくれた。
「頑張って」とか「大丈夫?」とか、そんな言葉は私たちの間にもう似合わないような気がする。
だから私は、何も言わずにかっきーを抱きしめた。
そして。
少し前から考えていた、私に出来ることを伝えてみる。
さくら「かっきー…新曲のあと、自由に動ける曲があるでしょ…?そのタイミングで私、かっきーのところに行くから……絶対にかっきーを見つけて、抱きしめにいくから…新曲の初披露が大成功しても、ちょっと失敗しちゃっても、何があっても、絶対に…」
今からほんの数分後には、新曲が世間に公開されているはずだ。
ファンの皆さんがどんな反応を見せてくれるか、それは誰にも分からない。
そんなすぐ先のことですらどうなっているか分からないくらい、未来はいつも不確かだ。
だから私は、せめて一つだけでも、かっきーに確実な未来を約束したかった。
ステージ上で私に出来る、精一杯の幸せな未来を。
遥香「うん…ありがとう……私も、さくちゃんのこと見つけるから……あの、さくちゃん、私ね…?」
さくら「うん…なぁに?」
遥香「昨日の夜も言ったけど、前にセンターに選ばれた時よりも、今は頑張れる気がするの……頑張りたいって思う…それでグループに貢献出来るなら、私、頑張りたい…」
さくら「うん…でも、グループのために、無理し過ぎないでね……かっきーが笑顔で活動してれば、私も、グループのみんなも、ファンの皆さんも、みんな幸せなんだから…」
本心だった。
かっきーの笑顔には、それだけの力があると本気で思う。
明るくて、あたたかくて、まぶしくて。
見た人みんなを幸せにする、かっきーの笑顔。
遥香「ありがとう、さくちゃん…大丈夫だよ…それに、私、このグループだから頑張りたいと思える理由があって……」
(…頑張りたい理由…?なんだろう……?メンバーのことが大好きってことだけじゃなくて…?)
かっきーが少し恥ずかしそうに、私の耳元に口を近付ける。
遥香「だって、このグループは、××××××××だから…」
さくら「えっ……」
耳元でささやかれた一言に胸を打たれた私は、かっきーの顔を見た。
私も何か言葉を返したかった、けど…
スタッフ「まもなく次の曲でーす!皆さんステージ下にスタンバイお願いしまーす!」
ついに時間が来てしまった。
選抜メンバーが続々と集まってくる。
いよいよ、フォーメーションに合わせて順番に並ばないといけない。
最後に私の手をぎゅっと握ってニコッと微笑んだかっきーは、スタンバイ位置へ歩いていった。
その笑顔と、さっき言われたばかりの一言のせいで、私は涙があふれそうだった。
(…ずるいよ……最後に、そんな嬉しいこと言うの…)
私にしか聞こえないくらいの小さな声だったけど、かっきーはたしかにこう言った。
『だって、このグループは、
私とさくちゃんを出逢わせてくれたグループだから…』
と。
大きい深呼吸を一つして、私はなんとか涙を引っ込めた。
だって…
私たちが今から披露するのは、かっきーがセンターの爽やかな夏曲。
そんな曲に、涙は似合わないから。
たとえそれが、嬉し涙でも…
~続く~
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