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46時間TV 編
46時間TV 4~遥香の告白~
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かっきーからのLINEに返事をした後。
ベッドから跳び起きた私は、ばたばたと準備を始めていた。
(ど、どうしよう…とにかく、顔洗って歯磨いて…)
かっきーからのLINEの内容はこうだった。
遥香LINE
「さくちゃんおはよう。こんな朝早くにごめん。
あのね、
私、さくちゃんにどうしても直接伝えたいことがあって、今日、お仕事に行く前にちょっとだけ話せないかな…?
本当に、ちょっとだけでいいから。さくちゃんと、2人きりで話したい。
もしよかったらだけど、私、さくちゃんのマンションまで行くから。
生配信最終日の大事な日に、こんなこといきなりお願いしちゃってほんとごめん!」
私も、昨日かっきーが言いかけてたことが気になってたので、すぐにOKの返事をした。
それに、昨日は変な感じでお別れしちゃったから、かっきーに会えるのが嬉しい。
でも、返事をしてから色々と気付いて慌て始めた。
(ええと、すぐお仕事に行ける準備をしておかないと、あ、部屋もちょっと片付けておいたほうがいいよね、かっきーはこの辺に座ってもらって、私はこっちでいいか、そういえば、何か飲み物あったかな、、)
あれもこれもと準備をしているうちに、かっきーがマンションまで着いた。
[ぴんぽーん]
1階の玄関まで着いたらしい。
オートロックを解除して、私の部屋の階まで上がってきてもらう。
インターホン越しに聞いたかっきーの声は、ちょっと緊張しているみたいだった。
こっちも余計に緊張してくる。
(昨日、かっきーは何を言いかけてたんだろう…?いや、そもそも……どうして私にキスしてきたんだろう…?)
[ぴんぽーん]
今度は、私の部屋の前に着いたことを知らせるチャイム。
念のため覗き穴から確認すると、やっぱりちょっと緊張した様子のすっぴんのかっきーがいた。
[ガチャ…]
「さくちゃん…おはよ」
「かっきー、おはよう…」
「ごめんね…こんな早くに押しかけちゃって…」
「ううん、大丈夫だよ…えっと、中、どうぞ」
かっきーを玄関に招き入れて、ドアを閉める。
私の部屋に、かっきーがいる。
嬉しくて恥ずかしくて、変な感じだ。
靴を脱いで中に入るようすすめたけど、かっきーは立ったままだった。
「いや…ここで、いいよ」
「え…?部屋、上がっていかないの…?」
「うん…ここで、このままでいいから、聞いてほしい」
「…うん……わかった」
かっきーは、呼吸を整えるように少し間を置くと、ゆっくりと話し始めた。
「昨日のこと、なんだけどね…マネージャーさんが来たから、私たちいきなりバイバイしちゃって、それで、さくちゃんに何も言わないままで今日仕事で会うのは嫌だなって思ったから…だから、来ちゃったんだ…ほんと、こんな朝早くに、ごめんね…」
「ううん…私は、大丈夫だから。気にしないで…来てくれてうれしいよ。かっきーこそ、昨日はちゃんと眠れた?」
「うん、大丈夫。疲れてたからぐっすり寝れたよ。それで…昨日、"あの後"に言おうと思ってたことなんだけど…」
「うん……なぁに?」
かっきーは、うつむいたり、私の顔を見たりして、落ち着かない様子だった。
まだ早朝で外からは何の音も聴こえない中、かっきーがそわそわと動く音や不規則な息づかいだけが聴こえる。
(大丈夫だよ……かっきーが言葉にしてくれるまで、ちゃんと待ってるよ…)
いくら時間がかかってもいい、と思った。
かっきーのタイミングで、かっきーが選んだ言葉を、ちゃんと聴きたい。
しばらく迷っていたかっきーだったけど、ひとつ大きな深呼吸をすると、決意を固めたような顔をして私を見た。
遥香「………好き…って言おうと思ってたんだ…私、さくちゃんのこと、大好きだよ、って…」
ドクンッ、と聞こえた気がした。
かっきーの言葉で動かされた、私の心臓の音。
『好き』、というたった二文字の言葉なのに。
これまでの人生で、初めてじゃない言葉なのに。
友達から。
4期生の同期から。
先輩から。
後輩から。
そして、ファンの皆さんから。
何百回何千回、もしかしたら何万回と聞いたかもしれない。
そのうちの何回かは、これまでかっきーがくれた『好き』もあった。
それでも。
いま目の前にいるかっきーがくれた『好き』は、初めてもらった言葉みたいだった。
そしてその『好き』が、どんな意味を持つ『好き』なのか。
同じグループで活動する仲間に対する『好き』を超えた『好き』なんだろうなって、ハッキリ分かった。
だって…
昨日、あのキスがあったから。
さくら「…うん……」
それしか返せなかった。
かっきーはまだ話したいことがありそうな顔だったので、私は再びかっきーの言葉を待つ。
「昨日、ほんとはね…さくちゃんが目をつむってる隙に、ほっぺにキスしちゃおうって、最初は思ってたんだ…さくちゃんきっと驚いて、絶対かわいいだろうなって。でも、いざ目の前にさくちゃんの顔があって、私に何かされるなんて全然思ってないさくちゃんの顔を見てたら……なんか……ガマン、できなくなっちゃって……それで……」
かっきー本人から言われると、昨日のキスの記憶が、目の前にいるかっきーの唇の柔らかい感触が、鮮明に蘇ってくる。
急に顔が熱くなってきた。
「わたし、自分でも驚いた。あ、ほんとにキスしちゃった、って。でも、やっと素直になれたって思った。自分の気持ちに正直になれた、って。だから…」
「うん…」
「もう一度、ちゃんと言うね……私、さくちゃんが好き……メンバーだからとか、同じ4期生だからとか、そういうのとは違くて、、そういうのより、もっと特別で、、うまくいえないけど、、ただ、さくちゃんが大好き……これだけはどうしても言っておきたくて…」
「………うん…」
(ありがとう)
(うれしい)
今の私の気持ちを伝えるのに、どんな言葉がふさわしいか分からない。
どんな言葉でも足りないような気がする。
感情に、言葉が全く追いつかない。
(…わからない……なんて伝えればいいの…?私……私は……かっきーのこと……)
なにか伝えたい。伝えなきゃ。
そうやって焦るほど、言葉が出てこない。
私のそんな様子が、かっきーの目にはただ困っているように見えたらしい。
遥香「え…と……ご、ごめんね!……こんなのいきなり、困るよね……メンバーだし、女の子同士だし…おかしいよね……じゃあ、私、もう行くね…!いきなりこんな話、聞いてくれて、ありがとね…」
さくら「えっ…?」
かっきーが行っちゃう。
私、かっきーにまだ何も伝えられてないのに…!
かっきーが背中を向けて、玄関のドアノブに手をかけようとした時。
ぎゅっ…
やっぱり、言葉は出なかった。
その代わり、体が先に動いた。
私は裸足のまま玄関に降りて、かっきーを後ろから抱きしめていた。
「かっきー……私の気持ちは、聞いてくれないの…?」
~続く~
ベッドから跳び起きた私は、ばたばたと準備を始めていた。
(ど、どうしよう…とにかく、顔洗って歯磨いて…)
かっきーからのLINEの内容はこうだった。
遥香LINE
「さくちゃんおはよう。こんな朝早くにごめん。
あのね、
私、さくちゃんにどうしても直接伝えたいことがあって、今日、お仕事に行く前にちょっとだけ話せないかな…?
本当に、ちょっとだけでいいから。さくちゃんと、2人きりで話したい。
もしよかったらだけど、私、さくちゃんのマンションまで行くから。
生配信最終日の大事な日に、こんなこといきなりお願いしちゃってほんとごめん!」
私も、昨日かっきーが言いかけてたことが気になってたので、すぐにOKの返事をした。
それに、昨日は変な感じでお別れしちゃったから、かっきーに会えるのが嬉しい。
でも、返事をしてから色々と気付いて慌て始めた。
(ええと、すぐお仕事に行ける準備をしておかないと、あ、部屋もちょっと片付けておいたほうがいいよね、かっきーはこの辺に座ってもらって、私はこっちでいいか、そういえば、何か飲み物あったかな、、)
あれもこれもと準備をしているうちに、かっきーがマンションまで着いた。
[ぴんぽーん]
1階の玄関まで着いたらしい。
オートロックを解除して、私の部屋の階まで上がってきてもらう。
インターホン越しに聞いたかっきーの声は、ちょっと緊張しているみたいだった。
こっちも余計に緊張してくる。
(昨日、かっきーは何を言いかけてたんだろう…?いや、そもそも……どうして私にキスしてきたんだろう…?)
[ぴんぽーん]
今度は、私の部屋の前に着いたことを知らせるチャイム。
念のため覗き穴から確認すると、やっぱりちょっと緊張した様子のすっぴんのかっきーがいた。
[ガチャ…]
「さくちゃん…おはよ」
「かっきー、おはよう…」
「ごめんね…こんな早くに押しかけちゃって…」
「ううん、大丈夫だよ…えっと、中、どうぞ」
かっきーを玄関に招き入れて、ドアを閉める。
私の部屋に、かっきーがいる。
嬉しくて恥ずかしくて、変な感じだ。
靴を脱いで中に入るようすすめたけど、かっきーは立ったままだった。
「いや…ここで、いいよ」
「え…?部屋、上がっていかないの…?」
「うん…ここで、このままでいいから、聞いてほしい」
「…うん……わかった」
かっきーは、呼吸を整えるように少し間を置くと、ゆっくりと話し始めた。
「昨日のこと、なんだけどね…マネージャーさんが来たから、私たちいきなりバイバイしちゃって、それで、さくちゃんに何も言わないままで今日仕事で会うのは嫌だなって思ったから…だから、来ちゃったんだ…ほんと、こんな朝早くに、ごめんね…」
「ううん…私は、大丈夫だから。気にしないで…来てくれてうれしいよ。かっきーこそ、昨日はちゃんと眠れた?」
「うん、大丈夫。疲れてたからぐっすり寝れたよ。それで…昨日、"あの後"に言おうと思ってたことなんだけど…」
「うん……なぁに?」
かっきーは、うつむいたり、私の顔を見たりして、落ち着かない様子だった。
まだ早朝で外からは何の音も聴こえない中、かっきーがそわそわと動く音や不規則な息づかいだけが聴こえる。
(大丈夫だよ……かっきーが言葉にしてくれるまで、ちゃんと待ってるよ…)
いくら時間がかかってもいい、と思った。
かっきーのタイミングで、かっきーが選んだ言葉を、ちゃんと聴きたい。
しばらく迷っていたかっきーだったけど、ひとつ大きな深呼吸をすると、決意を固めたような顔をして私を見た。
遥香「………好き…って言おうと思ってたんだ…私、さくちゃんのこと、大好きだよ、って…」
ドクンッ、と聞こえた気がした。
かっきーの言葉で動かされた、私の心臓の音。
『好き』、というたった二文字の言葉なのに。
これまでの人生で、初めてじゃない言葉なのに。
友達から。
4期生の同期から。
先輩から。
後輩から。
そして、ファンの皆さんから。
何百回何千回、もしかしたら何万回と聞いたかもしれない。
そのうちの何回かは、これまでかっきーがくれた『好き』もあった。
それでも。
いま目の前にいるかっきーがくれた『好き』は、初めてもらった言葉みたいだった。
そしてその『好き』が、どんな意味を持つ『好き』なのか。
同じグループで活動する仲間に対する『好き』を超えた『好き』なんだろうなって、ハッキリ分かった。
だって…
昨日、あのキスがあったから。
さくら「…うん……」
それしか返せなかった。
かっきーはまだ話したいことがありそうな顔だったので、私は再びかっきーの言葉を待つ。
「昨日、ほんとはね…さくちゃんが目をつむってる隙に、ほっぺにキスしちゃおうって、最初は思ってたんだ…さくちゃんきっと驚いて、絶対かわいいだろうなって。でも、いざ目の前にさくちゃんの顔があって、私に何かされるなんて全然思ってないさくちゃんの顔を見てたら……なんか……ガマン、できなくなっちゃって……それで……」
かっきー本人から言われると、昨日のキスの記憶が、目の前にいるかっきーの唇の柔らかい感触が、鮮明に蘇ってくる。
急に顔が熱くなってきた。
「わたし、自分でも驚いた。あ、ほんとにキスしちゃった、って。でも、やっと素直になれたって思った。自分の気持ちに正直になれた、って。だから…」
「うん…」
「もう一度、ちゃんと言うね……私、さくちゃんが好き……メンバーだからとか、同じ4期生だからとか、そういうのとは違くて、、そういうのより、もっと特別で、、うまくいえないけど、、ただ、さくちゃんが大好き……これだけはどうしても言っておきたくて…」
「………うん…」
(ありがとう)
(うれしい)
今の私の気持ちを伝えるのに、どんな言葉がふさわしいか分からない。
どんな言葉でも足りないような気がする。
感情に、言葉が全く追いつかない。
(…わからない……なんて伝えればいいの…?私……私は……かっきーのこと……)
なにか伝えたい。伝えなきゃ。
そうやって焦るほど、言葉が出てこない。
私のそんな様子が、かっきーの目にはただ困っているように見えたらしい。
遥香「え…と……ご、ごめんね!……こんなのいきなり、困るよね……メンバーだし、女の子同士だし…おかしいよね……じゃあ、私、もう行くね…!いきなりこんな話、聞いてくれて、ありがとね…」
さくら「えっ…?」
かっきーが行っちゃう。
私、かっきーにまだ何も伝えられてないのに…!
かっきーが背中を向けて、玄関のドアノブに手をかけようとした時。
ぎゅっ…
やっぱり、言葉は出なかった。
その代わり、体が先に動いた。
私は裸足のまま玄関に降りて、かっきーを後ろから抱きしめていた。
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~続く~
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