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お見通し
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※さくちゃんとかっきーが周りに内緒で付き合い始めてからのショートストーリーです。
※付き合い始めるまでの物語は『さくらと遥香』46時間TV編をお読み下さい。
~~~~~~~~~~~
スタッフ「それでは、今日の撮影は以上になります!お二人共、おつかれさまでした!」
都内某所の撮影スタジオ。
冠番組の収録を2本分終えて、最後に配信用のおまけ映像を撮り終えたところだった。
真佑「さっきの、ちゃんと撮れてたかな~?もっと練習しておけばよかった」
配信用の動画を一緒に撮ったまゆたんが、少し悔しそう。
さくら「大丈夫だよ。ちゃんとほっぺに当たってたし…」
真佑「ほんと?まぁ、さくがそう言うなら大丈夫か~」
さくら「それに、ああいうことは練習とかするものじゃないよ、多分」
真佑「そうかもね。矢久保に見られたら怒られちゃうし」
さくら「うん、まぁ、そうだね…」
真佑「あ、私このあとマネージャーさんに呼ばれてるんだった!じゃあさく、おつかれ!」
最後にもう一度スタッフさん達に笑顔で挨拶をすると、まゆたんはスタジオを後にした。
今日予定していた撮影をすべて終えて、私はもう帰るだけだったけど。
なんだか気持ちは晴れなかった。
理由は、はっきりと分かっている。
左頬に残った、温かくて柔らかい感触。
それは、同期のまゆたんの唇が残していったものだった。
おまけ映像はごく短いものなので、その内容はほぼ自由だった。
撮影前に、「私、さくのことMonopolyしていい?」って提案されて気軽にオッケーしちゃったけど。
まさか、そこからほっぺにキスされる流れになるなんて思っていなかった。
加入したばかりの頃だったら、それくらいのスキンシップはちょっと恥ずかしいくらいでそこまで気にならなかったけど。
今は、事情が変わっていた。
恋人であるかっきーに、どうしても後ろめたさを感じてしまう。
スタジオの隅にあった椅子に座って少し休ませてもらいながら、私はもやもやと考える。
(どうしよう…さっきの動画、なにも知らないかっきーが見ちゃったらどんな気持ちになるのかな…?)
嫌な気持ちに、させちゃうかな。
かっきーと付き合ってるのに、他のメンバーとあんなことしちゃって。
ひょっとして、幻滅されちゃうかな。
でも、だからってかっきーにどう伝えるのか。
「まゆたんからほっぺにキスされちゃった」なんて、聞かされても困っちゃうよね。
それに、私が余計なこと言っちゃったせいでかっきーとまゆたんが気まずくなっちゃったら申し訳ないし。
(あ~~~~~~……どうしよう、ほんとにどうしよう…)
まるで、自分の中の天使と悪魔に振り回されているみたいだ。
それは正直に言ったほうがいいよ、という天使。
そんなの黙っていれば大丈夫だよ、という悪魔。
そういえば昔、4期生の番組でそんなコントをやらせてもらったことがあったっけ。私と紗耶が天使で、あやちゃんと聖来が悪魔だったかな。あの衣装、みんなかわいかったなぁ。
(………って、思い出に浸ってる場合じゃない!!)
うん、やっぱり、言おう。
こうやってモヤモヤしてるのが、いちばんよくないんだ。
まゆたんとああいうことになっちゃったけど、そういう気持ちは全然ないって。
ちゃんと、かっきーに伝えよう。
(かっきー、まだ楽屋にいるかな…?)
意を決してかっきーを探しに行こうと、椅子から立ち上がろうとした、その時。
ガチャッ!
ついさっきまゆたんが出ていった扉が勢いよく開いた。
いま私も着ている小豆色の新制服が見えたから、まゆたんが戻ってきたのかと思ったら。
そこにいたのは、かっきーだった。
入り口からスタジオの中を見渡して私を見つけるまで、きっと0.5秒もかかってない。
そこから私の元へ歩き始めるまでの時間を足しても、1秒もかかってないだろう。
それくらい迷いなく、かっきーはまっすぐと私のほうへ向かってくる。
(えっ…えっ…?かっきー、どうしてここに…?)
かっきーがスタスタと近づいてくると、私は授業中に先生から突然当てられた生徒みたい慌てて立ち上がってしまった。
(さっきのこと言おうって決めたけど、でも、まだ、心の準備が…)
いや、ここで言えないと、たぶんずっと言えなくなる。
もう、言うしかない。
「かっきーごめんっ!私、さっき…」
ふわっ…
今日も艷やかなかっきーの黒髪から良い香りがした、と思ったら。
私は、かっきーの両腕に優しく包みこまれていた。
こっちまで歩いてきた勢いが嘘みたいに、優しかった。
「さくちゃん、大丈夫。大丈夫だから」
「え…?」
その声色も、まるで迷子になった子供を安心させるように優しかった。
「まゆたんから聞いたよ?配信中の動画、撮ったんだよね」
「うん……それで、かっきー。その撮影で私、実は…」
「ううん、大丈夫だから。それも、まゆたんから聞いたの。『さくのほっぺにキスしちゃったぁ♪』って」
「え…じゃあ、かっきー……その……怒って……る?」
「そんな、怒るわけないじゃん。まゆたん、昔からそういうとこあるし」
たしかにまゆたんは、加入当初から"キス魔"として有名だった。同期なら、ほとんどの子がほっぺにチューされた経験があるはず。
(よかった…かっきー、怒ってるわけじゃないんだ)
とりあえず、安心した。
さっきまでこわばっていた身体から、するすると力が抜けていく。
「でも、どうしてここまで来てくれたの?」
「うん、なんていうか…もしかしたら、さくちゃんのこと悩ませちゃってるかな、って思って。ほら、私って付き合うと重いとこある、って自分では思ってるし」
そんな。
そんなことまで考えてくれたの?
まゆたんから、さっきの話を聞いただけで。
嬉しさで、私もかっきーをぎゅっと抱き締める。
「かっきー、私のことなんか何でもお見通しだね」
「ううん、全然、そんなことないよ。さくちゃんのこと毎日考えて、それでも分からないことだってたくさんある」
私だって、きっとそう。
長い付き合いでも、恋人同士として付き合い始めても。
心も身体も、もっと深いところで結ばれたって実感できても。
違う人間同士なんだから。
考えてることが全部分かっちゃうなんてあり得ない、と私は思う。
でも、だからこそ。
かっきーが私の元へこうやって来てくれたことが、私はすごく嬉しかった。
「ねぇ、かっきー…今日このあと、もしよかったら…」
「一緒に帰ろっか?」
「ふふふ、ほら、またお見通しだ」
「えっ?そんなことないよ。私がただ、さくちゃんと一緒に帰りたかっただけ」
あぁ。
好きだなぁ。
私の言いたいことを分かってくれようとしてくれるところ。
褒めても、控えめで簡単には受け入れてくれないところ。
私やっぱり、かっきーが大好き。
・・・・・・・・・・・・
かっきーと一緒に楽屋へ戻ると、マネージャーさんとの打ち合わせを終えたらしいまゆたんがまだ残っていた。
真佑「あ、いたいた」
私たちを探していたんだろうか。ご飯か何かに誘いたいのかもしれない。
まゆたんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
すると次の瞬間、私は強い力でかっきーの元へ引き寄せられた。
「さくもかっきーも、このあとさぁ……って、かっきーなにしてるの?」
「ん?なにが?」
「いや、なにがじゃなくて…さく、身動き取れなくなってるけど」
そう。
まゆたんが近づいてきた瞬間、かっきーは私にしがみついてきたのだった。
まるで、誰にも渡さないという意思表示をしているみたいに。
「えーと、なんだろう…つい、条件反射で」
「もう、そんなことしなくたって、さくのこと取ったりしないから」
まゆたんは困ったように笑うと、他の子を誘いに行ってしまった。
「ごめん…さっきさくちゃんに大丈夫なんて言っておいてなんたけど。私、あんまり大丈夫じゃなかったのかも…」
きっと、かっきーも自覚していなかったんだろう。
まゆたんが近づいてきたのを見て、本当に条件反射で私をがっちりとホールドしてしまったらしい。
私を解放すると、申し訳なさそうにその場に立ち尽くしている。
「かっきー、いいんだよ。大丈夫じゃなくても、大丈夫。そんなふうに、これからもかっきーのほんとの気持ち、教えてね?」
「うん、そうする。さくちゃん、ありがとう」
微笑み合ったあと、私は不意打ちでかっきーの左頬へキスした。
「えっ…?さくちゃん、いま…」
「うーん、なんとなく。キスして欲しそうな顔だったから」
「えへへ、さくちゃんこそ私のことお見通しじゃん」
「ううん、そんなことないよ」
かっきーの考えてることなんて、そう簡単には分からない。今だってそう。
だってほんとは、私がかっきーにキスしたくなっただけだから。
~おしまい~
※付き合い始めるまでの物語は『さくらと遥香』46時間TV編をお読み下さい。
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スタッフ「それでは、今日の撮影は以上になります!お二人共、おつかれさまでした!」
都内某所の撮影スタジオ。
冠番組の収録を2本分終えて、最後に配信用のおまけ映像を撮り終えたところだった。
真佑「さっきの、ちゃんと撮れてたかな~?もっと練習しておけばよかった」
配信用の動画を一緒に撮ったまゆたんが、少し悔しそう。
さくら「大丈夫だよ。ちゃんとほっぺに当たってたし…」
真佑「ほんと?まぁ、さくがそう言うなら大丈夫か~」
さくら「それに、ああいうことは練習とかするものじゃないよ、多分」
真佑「そうかもね。矢久保に見られたら怒られちゃうし」
さくら「うん、まぁ、そうだね…」
真佑「あ、私このあとマネージャーさんに呼ばれてるんだった!じゃあさく、おつかれ!」
最後にもう一度スタッフさん達に笑顔で挨拶をすると、まゆたんはスタジオを後にした。
今日予定していた撮影をすべて終えて、私はもう帰るだけだったけど。
なんだか気持ちは晴れなかった。
理由は、はっきりと分かっている。
左頬に残った、温かくて柔らかい感触。
それは、同期のまゆたんの唇が残していったものだった。
おまけ映像はごく短いものなので、その内容はほぼ自由だった。
撮影前に、「私、さくのことMonopolyしていい?」って提案されて気軽にオッケーしちゃったけど。
まさか、そこからほっぺにキスされる流れになるなんて思っていなかった。
加入したばかりの頃だったら、それくらいのスキンシップはちょっと恥ずかしいくらいでそこまで気にならなかったけど。
今は、事情が変わっていた。
恋人であるかっきーに、どうしても後ろめたさを感じてしまう。
スタジオの隅にあった椅子に座って少し休ませてもらいながら、私はもやもやと考える。
(どうしよう…さっきの動画、なにも知らないかっきーが見ちゃったらどんな気持ちになるのかな…?)
嫌な気持ちに、させちゃうかな。
かっきーと付き合ってるのに、他のメンバーとあんなことしちゃって。
ひょっとして、幻滅されちゃうかな。
でも、だからってかっきーにどう伝えるのか。
「まゆたんからほっぺにキスされちゃった」なんて、聞かされても困っちゃうよね。
それに、私が余計なこと言っちゃったせいでかっきーとまゆたんが気まずくなっちゃったら申し訳ないし。
(あ~~~~~~……どうしよう、ほんとにどうしよう…)
まるで、自分の中の天使と悪魔に振り回されているみたいだ。
それは正直に言ったほうがいいよ、という天使。
そんなの黙っていれば大丈夫だよ、という悪魔。
そういえば昔、4期生の番組でそんなコントをやらせてもらったことがあったっけ。私と紗耶が天使で、あやちゃんと聖来が悪魔だったかな。あの衣装、みんなかわいかったなぁ。
(………って、思い出に浸ってる場合じゃない!!)
うん、やっぱり、言おう。
こうやってモヤモヤしてるのが、いちばんよくないんだ。
まゆたんとああいうことになっちゃったけど、そういう気持ちは全然ないって。
ちゃんと、かっきーに伝えよう。
(かっきー、まだ楽屋にいるかな…?)
意を決してかっきーを探しに行こうと、椅子から立ち上がろうとした、その時。
ガチャッ!
ついさっきまゆたんが出ていった扉が勢いよく開いた。
いま私も着ている小豆色の新制服が見えたから、まゆたんが戻ってきたのかと思ったら。
そこにいたのは、かっきーだった。
入り口からスタジオの中を見渡して私を見つけるまで、きっと0.5秒もかかってない。
そこから私の元へ歩き始めるまでの時間を足しても、1秒もかかってないだろう。
それくらい迷いなく、かっきーはまっすぐと私のほうへ向かってくる。
(えっ…えっ…?かっきー、どうしてここに…?)
かっきーがスタスタと近づいてくると、私は授業中に先生から突然当てられた生徒みたい慌てて立ち上がってしまった。
(さっきのこと言おうって決めたけど、でも、まだ、心の準備が…)
いや、ここで言えないと、たぶんずっと言えなくなる。
もう、言うしかない。
「かっきーごめんっ!私、さっき…」
ふわっ…
今日も艷やかなかっきーの黒髪から良い香りがした、と思ったら。
私は、かっきーの両腕に優しく包みこまれていた。
こっちまで歩いてきた勢いが嘘みたいに、優しかった。
「さくちゃん、大丈夫。大丈夫だから」
「え…?」
その声色も、まるで迷子になった子供を安心させるように優しかった。
「まゆたんから聞いたよ?配信中の動画、撮ったんだよね」
「うん……それで、かっきー。その撮影で私、実は…」
「ううん、大丈夫だから。それも、まゆたんから聞いたの。『さくのほっぺにキスしちゃったぁ♪』って」
「え…じゃあ、かっきー……その……怒って……る?」
「そんな、怒るわけないじゃん。まゆたん、昔からそういうとこあるし」
たしかにまゆたんは、加入当初から"キス魔"として有名だった。同期なら、ほとんどの子がほっぺにチューされた経験があるはず。
(よかった…かっきー、怒ってるわけじゃないんだ)
とりあえず、安心した。
さっきまでこわばっていた身体から、するすると力が抜けていく。
「でも、どうしてここまで来てくれたの?」
「うん、なんていうか…もしかしたら、さくちゃんのこと悩ませちゃってるかな、って思って。ほら、私って付き合うと重いとこある、って自分では思ってるし」
そんな。
そんなことまで考えてくれたの?
まゆたんから、さっきの話を聞いただけで。
嬉しさで、私もかっきーをぎゅっと抱き締める。
「かっきー、私のことなんか何でもお見通しだね」
「ううん、全然、そんなことないよ。さくちゃんのこと毎日考えて、それでも分からないことだってたくさんある」
私だって、きっとそう。
長い付き合いでも、恋人同士として付き合い始めても。
心も身体も、もっと深いところで結ばれたって実感できても。
違う人間同士なんだから。
考えてることが全部分かっちゃうなんてあり得ない、と私は思う。
でも、だからこそ。
かっきーが私の元へこうやって来てくれたことが、私はすごく嬉しかった。
「ねぇ、かっきー…今日このあと、もしよかったら…」
「一緒に帰ろっか?」
「ふふふ、ほら、またお見通しだ」
「えっ?そんなことないよ。私がただ、さくちゃんと一緒に帰りたかっただけ」
あぁ。
好きだなぁ。
私の言いたいことを分かってくれようとしてくれるところ。
褒めても、控えめで簡単には受け入れてくれないところ。
私やっぱり、かっきーが大好き。
・・・・・・・・・・・・
かっきーと一緒に楽屋へ戻ると、マネージャーさんとの打ち合わせを終えたらしいまゆたんがまだ残っていた。
真佑「あ、いたいた」
私たちを探していたんだろうか。ご飯か何かに誘いたいのかもしれない。
まゆたんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
すると次の瞬間、私は強い力でかっきーの元へ引き寄せられた。
「さくもかっきーも、このあとさぁ……って、かっきーなにしてるの?」
「ん?なにが?」
「いや、なにがじゃなくて…さく、身動き取れなくなってるけど」
そう。
まゆたんが近づいてきた瞬間、かっきーは私にしがみついてきたのだった。
まるで、誰にも渡さないという意思表示をしているみたいに。
「えーと、なんだろう…つい、条件反射で」
「もう、そんなことしなくたって、さくのこと取ったりしないから」
まゆたんは困ったように笑うと、他の子を誘いに行ってしまった。
「ごめん…さっきさくちゃんに大丈夫なんて言っておいてなんたけど。私、あんまり大丈夫じゃなかったのかも…」
きっと、かっきーも自覚していなかったんだろう。
まゆたんが近づいてきたのを見て、本当に条件反射で私をがっちりとホールドしてしまったらしい。
私を解放すると、申し訳なさそうにその場に立ち尽くしている。
「かっきー、いいんだよ。大丈夫じゃなくても、大丈夫。そんなふうに、これからもかっきーのほんとの気持ち、教えてね?」
「うん、そうする。さくちゃん、ありがとう」
微笑み合ったあと、私は不意打ちでかっきーの左頬へキスした。
「えっ…?さくちゃん、いま…」
「うーん、なんとなく。キスして欲しそうな顔だったから」
「えへへ、さくちゃんこそ私のことお見通しじゃん」
「ううん、そんなことないよ」
かっきーの考えてることなんて、そう簡単には分からない。今だってそう。
だってほんとは、私がかっきーにキスしたくなっただけだから。
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