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もしも、違う出会い方をしていたら

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※さくちゃんとかっきーが付き合い始めてからのショートストーリーです。
※さくちゃんとかっきーは、メンバーにもマネージャーにも内緒で付き合っています。
※付き合い始めるまでの物語は『さくらと遥香』46時間TV編をお読み下さい。

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「さくちゃん、バーテンダーすごい似合ってるよ」
「そう?教えてもらったばっかりだから、まだぎこちない気がするよ」
「ううん、全然そんなことない。さくちゃんにカクテルとか出してもらえるなら、私毎晩でも通っちゃうよ」

今夜、私とかっきーは都内某所のバーにいた。

と言っても、インドア派で人見知りの激しい私達が二人で飲みに来たはずもなくて。
新しいユニット曲のMVを撮影している。

私とかっきーにとって初めての、二人だけのユニット曲。
これまで先輩たちがパフォーマンスしてきたペアのユニット曲からすると、私たちだけのユニット曲もこれが最初で最後だろう。

今回のシングルでは、とても貴重な機会をもらえたと思う。

個人的に、MVの世界観も気に入っている。
私の役は、オリジナルの歌を動画サイトで公開しながら、夜はバーテンダーをして生計を立てている女性。
一方かっきーは、イラストレーターとして絵を描きながら、映画館で働く女性を演じていた。

今は、機材の調整だとかで撮影が一時中断していたところだった。

バーテンダーとして自然にお酒を作れるよう、ついさきほどプロの方から受けた演技指導を思い出しながら練習する。
そんな私を、かっきーは嬉しそうに見てくれていた。

いや、正確には見ているだけではなかった。

「も~、また描いてるの?」
「うん。だってほら、これも役作りだから」

そう言いながら、小道具として用意された白い円形のコースターへ慣れた手付きで線を加えていく。

私の顔を描いているのだ。

たしかに、かっきーが演じているのは、ふらっと立ち寄ったバーで出会った女性を見て何かを感じ、創作意欲が湧いてくる絵描きの役だった。

役作り、というのもその通りだ。

それにしても。

絵がうまい人の感覚は、私には全く分からない。
どうしてあんなに、迷いなく線を描けるんだろう。
かっきーは絵を独学で身に付けたというけど、相当なセンスの持ち主としか思えない。

そういえば、以前かっきーが何かのインタビューで答えていた話を思い出した。

「もしもアイドルになっていなかったら、何をしていたと思いますか?」

雑誌やネット記事のインタビューでは、定番の質問の一つ。

そんな質問にかっきーは「本格的にイラストの道へ進むつもりだった」と答えていたはずだ。

だから、今回のMVでかっきーが演じているような女性になっていた可能性だってあった。

好きな絵を描きながら、映画館でバイトをして。
変わり映えのしない毎日に疑問を感じ始めた頃、ふらっと立ち寄ったバーで。
自分と同じように好きなことをして生きていこうともがく、同志のような相手と出会う。

そんな人生。

(もしもそうやって出会っていたら、どうなっていたのかな…)

コースターに描かれていた線が、次第に私の顔を形作る一部になっていく。
その様子をぼーっと眺めながら、「もしも」の未来を考えていると。

「さくちゃんはさぁ、アイドルになってなかったらどうなってたと思う?」
「えっ…?」

まるで私の心の中を読んでいるかのような質問に、言葉が詰まってしまう。

「ほら、アニメとかでよくあるけど、過去にタイムリープとかしちゃってさ。もしもオーディションを受けてなかったら、さくちゃんはどんな人生だったのかなって」

(あっ、アニメの話か…)

どうやら、偶然おなじようなことを考えていたらしい。

「う~ん、どうかな…私、得意な事とか別になかったから。あっ、でも本はずっと好きだったから、図書館で働きたいって考えたことはあったかも」

そういえば数年前に受けたファッション誌のインタビューでも、同じように答えた記憶がある。

「あ~、図書館は似合うね。本に囲まれてお仕事してるさくちゃん、いつか描いてみたいかも……でも今日は……よしっ、と。バーテンダーのさくちゃんを描いてみました」

コースターを手に持って、こちらへ向けてくれる。

「ふふっ、ありがと。でも、同じ顔ばっかり描いてて飽きないの?」
「そんな、飽きるわけないじゃん!今のさくちゃんはこの瞬間しか見れなくて、同じ顔なんてないし!」
「そうかなぁ」

そう言いながら撮影現場を見渡してみると、撮影再開まではもう少しかかるみたいだった。

私の顔を描き終えたかっきーが、指先でコースターをくるくるとひっくり返している。
何か言いたそうにしている雰囲気を感じ取ると、どこか恥ずかしそうにかっきーが口を開いた。

「私ね、もしもさくちゃんと今とは違う出会い方をしてたとしても、今みたいな気持ちになってたと思う」
「今みたいな気持ち、って…?」

自分で口に出してすぐ、聞くまでもないことだと分かった。
周りに撮影スタッフがいるから、それをはっきりと言葉にするのを避けているのだ。

「好き」の二文字を。

かっきーの瞳が、テーブル越しに私をまっすぐと見つめてくる。
優しく微笑むその表情と、「分かるでしょ?」と訴えてくるような視線に、ドキッとしてしまう。

(もう、こんなところで不意打ちなんてずるいよ…)

私の気持ちなどよそに、かっきーは言葉を続ける。

「もし図書館で出会っていても、バーで出会っていても。おんなじだったと思う。どうしてかはうまくいえないけど、どんな風にさくちゃんに出会っていても、そうなる気がするんだ」

嬉しかった。
そして、私もきっと、そうだったと思う。

かっきー以上に素敵な人に出会えるとは思えない。

「あっ、でもなぁ…行きつけのお店でバーテンダーさんを口説く勇気はないかも……出禁になったらショックだし…」
「出禁って……笑。かっきー、どんなふうに口説くつもりなの?」

いや~と言いながら、恥ずかしそうに鉛筆で頭をポリポリと頭を掻くかっきー。

(っていうか、女性アイドルグループの中で同期に告白するのもかなり思い切った行動だと思うんだけどな…)

今この現実のかっきーがあの日振り絞ってくれた勇気に、かっきー自身が気付いていない。
そんな天然のかっきーもかわいかった。

そういえば。
"告白"で思いついた。

タイムリープなんて妄想はしたことないけど、もしもあるんだとしたら…

「じゃあ、もしも私がバーテンダーで、かっきーがお客さんとしてお店に来てくれる世界があるなら、私…」
「ん?」

かっきーに小さく手招きをして、私はテーブルに上半身を乗り出す。

「その時は、✕✕✕✕✕✕✕するからね…」
「えっ…?」

私がかっきーに耳打ちすると、かっきーが驚いて顔をこちらへ向ける。
さっきの不意打ちの、ちょっとした仕返しだ。

ちょうどそのタイミングで、マネージャーさんに声をかけられる。

マネ「二人とも、そろそろ撮影再開するからね」

さくら「あ、はーい」

マネ「かっきーも、大丈夫?なんか、顔赤くない?」

遥香「えーっ…と…いや、照明のせいじゃないですかね…あはは……」

本当は赤い照明などお店のどこにもないのだが、咄嗟の言い訳が下手なのはピュアさの証。
そんなかっきーが、今夜も愛おしかった。

だから…私は心の中でもう一度つぶやいた。

(その時は、私からかっきーに告白するからね…)

~おしまい~

※かっきーからさくちゃんに告白するお話は、『46時間TV編4 遥香の告白』です。
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