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友情よりも甘く
しおりを挟む2022年の夏。
全国ツアーを終えて、少し遅い夏休みをもらった時のお話。
前日の夜から私の部屋にかっきーが泊まってくれて、翌日も午前中からのんびりと穏やかな時間を過ごしていた。
「ねぇさくちゃん。そういえば、それってギターだよね?」
部屋の隅に置いてあったアコースティックギターに、かっきーが興味を示した。
私は、ギターを日常的に弾くほうではない。
弾き語りの曲をライブで披露することが決まると、集中的に練習するタイプだ。
でもこの日は、かっきーの「ちょっと弾いてほしい」というおねだりに負けて、久しぶりにギターを持ってみた。
・・・・・・・・・・・・
「なんか、さくちゃんみたいに優しい音色だね」
「そうかなぁ?私の弾き方じゃ全然うまく鳴らせてないよ」
とは言ったものの、久しぶりでも意外と弾けている感覚はあった。
コードを抑えるための、左手の形。
弦を弾くための、右手の力加減。
不思議と身体が覚えている。
グループの先輩の桃子さんとの弾き語り曲で覚えたコードをなんとなく弾いていると、かっきーが鼻歌を歌ってることに気付いた。
「かっきー、もしかしてこの曲歌えるの?」
「え?うん…ハモリじゃなければ、たぶん……結構聴いてるから」
「そっか。じゃあ、桃子さんのパートなら全部主旋律だから大丈夫かな。ハモりは私がやるよ。思い出せる範囲でだけど…」
「じゃあ、うん、歌ってみようかな」
こうして、ほぼ即興のデュオが始まった。
私が桃子さんと歌ったこの曲は、女の子同士の友情をテーマにしたものだ。
「恋人みたいに仲が良い私たち」
「前世は恋人かもしれない」
「あなたがいないと生きていけない」
「あなたと会えて本当によかった」
長年一緒にいる親友への想いを、ストレートに表現した歌詞。
私のギターに合わせて、かっきーがメインのメロディーを歌う。
かっきーの呼吸に合わせて、ところどころ私がハモる。
初めは緊張していた2人の声が、次第に寄り添い、溶け合っていくのが分かる。
思い付きで始めたデュオにしては、我ながらうまくいったほうかな。
遥香「これ、すごく良い歌詞だね…ちゃんと歌ってみてやっと分かった気がする」
さくら「うん…私も、こんなに素直な気持ちで歌えたのは初めてかも。それに、かっきーと歌えてすごく嬉しかった」
遥香「ふふふ、ありがと。私もだよ?……それと…」
かっきーの視線が私の左手に向けられている。
遥香「ギター弾いてるさくちゃんを見てて思ったけど」
ギターのネックに軽く添えていた私の指に、かっきーの指が触れてきた。
遥香「私やっぱり、さくちゃんの指、好きだなぁって。長くて、細くて、しなやかで…」
指を優しく撫でられて、ドキドキしてしまう。
さくら「そ、そうかな…?」
遥香「だからかなぁ…?さくちゃんの指で触れられると、私すぐドキドキしちゃうの」
(触られるとドキドキしちゃう……って、今の私がまさにそれなんですけど…?!)
私の指をうっとりと見つめていたかっきーが、手の甲にキスをしてきた。
唇の柔らかい感触を感じた時、私はついにこらえきれなくなって…
そこからの私たちは"友情"と呼ぶには少し甘過ぎる、とても濃密な時間を過ごした。
だって私とかっきーは前世じゃなくて、"いま"恋人同士だから。
声を溶け合わせるだけじゃ、我慢できないもん…
~おしまい~
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