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優しく、時に嫉妬深い彼からの溢れる程の愛情

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「莉世には話そうと思ったんだけど、お前も最近忙しそうだったし、仕事以外の事で負担掛けたくなかったから⋯⋯話さなかった。次会えた時に全て話そうと思ったら、週刊誌の方が先に出ちまった⋯⋯本当に軽率だった、ごめん」

 私の悲しい気持ちを感じてくれたのか、雪蛍くんは自分の軽率な行動に悔しさを滲ませながらただひたすら謝ってくれる。

 隠そうとしていた訳じゃない。話そうとしてくれたし、話せなかったのは私の為を思っての事。

 それが分かっているから、いつまでも許さないでいるのは違う。

 だから、「――雪蛍くん、私⋯⋯」と言葉を紡いだその時、雪蛍くんのすぐ側にあった私のスマホから音が鳴り、反射的にスマホに目を向けた彼の表情がみるみる険しいものへと変わっていく。

 そんな雪蛍くんがスマホを手に取ると、私に手渡しながら、「――誰だよ、『遊』って」と着信画面に表示されていた遊の名前を見ながら問い掛けてきた。

「あ⋯⋯ゆ、遊は⋯⋯」

 隠すつもりは無い。やましい事も無い。だから、連絡先を交換した。

 だけど、今この状況下で遊が『元カレ』だと告げれば空気がどうなるか分かってしまったからなのか、何故か答えられなくなって言葉を詰まらせるけど、これはもっと逆効果だと気付いた私は、

「あのね、遊は――学生時代に付き合っていた⋯⋯元カレなの」

 包み隠さず、遊が元カレである事を告げた。

「⋯⋯元、カレ⋯⋯。つーか、何でそんな奴が電話掛けてくる訳?」

 予想通り、不機嫌さを露わにした雪蛍くんは遊が連絡してきた経緯を尋ねてくる。

「⋯⋯今日、偶然再会して、話たい事もあったから、連絡先を交換したの⋯⋯。だけど、本当にそれだけだよ? 元カレって言っても付き合ってたのもだいぶ前だし、お互い気持ちは無いから――」
「莉世にその気は無くても! 相手がどう思ってるかなんて、分からねぇじゃん」
「そ、それは⋯⋯」
「何? 俺への当てつけ? 俺が女と週刊誌に撮られて、隠されてムカついたから自分も良いかって思った?」
「違っ! そんな事は――」
「なら、今すぐコイツと話して、もう連絡は取れないって言えよ」
「なっ⋯⋯」
「元カレなんて、連絡取る必要ねぇだろ?」

 雪蛍くんの言い分は間違ってない。逆の立場なら、同じようにして欲しいと思うに決まってる。やっぱり元カレである遊と連絡を取るなんて間違ってるのは私の方。

「⋯⋯分かった。それで雪蛍くんの気が済むのなら、そうするよ」

 こんな事で雪蛍くんと険悪になりたく無かった私は彼の要求を呑む為、遊からの電話に出る事にした。

「――もしもし」
『莉世、なかなか出ないから心配したよ。大丈夫か?』
「あ、うん、ごめんね⋯⋯実はさっき訪ねて来たのは⋯⋯彼だったの」
『彼氏が? そう、なんだ。それじゃあ俺、邪魔しちまったか。悪いな』
「そんな事⋯⋯わざわざ心配してくれてありがとう⋯⋯」

 いざ電話に出ると、遊は先程のアポ無しの訪問者の事を気にしてくれて電話を掛けてきたと分かり、この話の流れで「もう連絡しないで」と告げるのは何だか気が引けてしまう。

 なかなか私が本題を切り出さない事に苛立っている様子の雪蛍くんを前に、焦る気持ちが増していく。

(言わなきゃ⋯⋯)

 一旦切りよく話が途切れたタイミングで私が本題に入ろうと口を開き掛けた次の瞬間、

『あのさ、莉世⋯⋯彼氏が来てるところでこんな事言うのも違うとは思うんだけど⋯⋯さっきの続き⋯⋯良い?』

 遊が何やら意味深な言葉を投げ掛けてきた。

「う、うん⋯⋯何?」

 そして、私が尋ね返すと――

『俺さ、本当はまだ、莉世の事⋯⋯吹っ切れてねぇんだよ⋯⋯彼氏いるって聞いても⋯⋯その気持ちはやっぱり変わらねぇ⋯⋯ウザいよな⋯⋯ごめん。けど俺⋯⋯伝えるなら今しか無いって感じたから、言わせてもらう。莉世、俺はお前が好きだ。別れた事もずっと後悔してた。無理だって分かってるけど、可能性がゼロじゃないなら、俺との事、もう一度考えて欲しい』

 遊は私への思いが断ち切れていない事、私に彼氏がいると知った上で、改めて告白してきたのだ。

 好きだと言われて、嬉しくない訳じゃない。

 当時、遊の事は本当に大好きだった。

 だけど今は、それ以上に雪蛍くんの事が好きだから。

「――ごめん、遊の気持ちは⋯⋯嬉しい。私も遊の事は、本当に好きだったから。でも、今は彼の事しか考えられないの。彼が大切だから⋯⋯、だから、ごめん。それと、もう、連絡も取れない。さよなら⋯⋯」

 私は遊への気持ちが無い事をハッキリと伝えると同時にもう連絡も取れない事を口にしてそのまま電話を切った。

 これでいい。やっぱり元カレと連絡先なんて交換するんじゃ無かったと反省しながら雪蛍に視線を移すと、

「雪蛍⋯⋯くん?」

 何故か雪蛍くんは悲しげな表情を浮かべながら私を見つめてきた。
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