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「――そうか、お前たちの気持ちは分かった。二人が決めた事なら俺は何も言わない」

 伊織の話を聞き、危険が伴う事を承知の上で自分も同じ世界を見ていきたいと決意した円香。

 忠臣や雷斗が事務所へ戻って来るとすぐに二人で決めた事を伝えたのだ。

「では改めて、雪城  円香さん。私はHUNTERのボスで伊織の義父でもある伏見  忠臣だ。よろしく頼むよ」
「あ、はい、こちらこそよろしくお願い致します」
「早速本題に入るが、俺たちは今、榊原  義己をターゲットとしているんだ」
「あの国会議員の……。あの方は悪人なんですか?」
「まあ、そうだな、一言では言えないくらいの事を裏でやっているんだ」
「そう、なんですね」
「円香さんのお父さんは、榊原と関わりがあるね?」
「はい、お父様と榊原さんはその昔一緒に働いていたと聞いた事があります。数年前の選挙でも、お父様やお父様の会社の方々は皆、榊原さんを応援していました。ただ、ここ最近はお話を聞かなくなったので、親交があるかは分かりませんけど……」
「調べによると、数年前からある事が理由で仲違いしているようでな、結論から言うと雪城家は今、榊原に目をつけられている」
「え?」
「そもそも江南家が雪城家に近付いたのも、榊原の指示だったんだ」
「そんな……」

 忠臣の話は円香にとって驚く事ばかりで戸惑ってしまう。

「しかし、頼りにしていた江南家は作戦に失敗、当然榊原は次の手を考えてくる。それに、伊織が江南家の人間とやり合った事を榊原は掴んで、恐らく俺たちHUNTERの事を探るだろう。そうなると今度は君に注目するはずだ。雪城家の一人娘かつ俺たちHUNTERとも関わりのある人間だからな、狙われる要素が揃いすぎている。そういう事情もあるから、君は暫く事務所ここで生活をしていて欲しい。ここに居れば自宅に居るより安全だろうし、伊織も仕事に支障をきたす事がないからな」
「忠臣さん、俺は別に……」
「何だ?  それじゃあ彼女を自宅に帰した方がいいのか?」
「いや、それとこれとは……」
「とにかく、円香さんは事務所ここに居る方が安全なんだ。分かってくれるな?」

 話を聞いた円香は自分が一番狙われやすい存在だと知って不安になるも、

「あの、お父様やお母様、それに家政婦さんたちはどうなるのでしょうか?」

 自分の事よりも家族の心配をしていた。


「雪城家は警察に警護を要請してあるから問題ない。それと、君の両親に詳しい話は出来ないが、君がある人物に狙われているから警察の方で保護すると伝えてあるよ」
「そうなんですね。それなら良かったです」

 忠臣から家族の無事が伝えられると安堵の表情を浮かべて喜び、そして、

「……あの、それじゃあ私も、暫くお世話になります。置いてもらう間は私に出来る事があれば何でも言ってください」

 忠臣の提案を受けて先の一件が片付くまで事務所で生活をさせてもらう事を決めた。

 事務所での生活は、円香にとって戸惑いの連続だった。

 ただでさえ異性に慣れていない彼女が三人の異性とひとつ屋根の下で過ごすのだから当然と言えば当然だ。

 しかし彼らもまた、これまで長い間男所帯だった事もあって女性が居る生活に日々戸惑いを感じていた。

 お互いが居る状況に未だ慣れない中、共同生活を初めてから二週間程が経ったある日の事、

「伊織、急で悪いが一件やって欲しい案件がある」

 忠臣が一枚の紙を伊織に差し出し、そう告げた。

 その紙に目を通した伊織はソファーから立ち上がると、

「……分かりました、それじゃあ今から行きます」
「悪いな」
「いえ」

 まるで近所へ使いにでも行くかのような軽いノリで行われた会話だが、これはHUNTERとしての依頼を受けるという事。

 円香が事務所で過ごすようになってから初めての案件とあって、こんなにもあっさり交わされた会話に驚きを隠せない。

「……い、伊織さん……あの……」
「ん?」
「……あの、気を付けて、くださいね」
「ああ、行ってくる」

 どんな内容なのか気になる円香だけど、それを聞く事は出来ず、本当は行って欲しくない気持ちでいっぱいだったけれど仕事の邪魔は出来ないと引き止めたい気持ちを抑えて『気を付けて』と口にするのが精一杯だった。

 そんな二人のやり取りを見ていた忠臣と雷斗も何だか複雑な気分になったのだが、こればかりはどうする事も出来ず、この件に触れる事はなかった。

 この時伊織が受けた依頼は江南家の当主と長男の抹殺だ。

 次男である颯を殺され自分たちも狙われるとすぐに雲隠れしたのだが、警察幹部が二人の居場所を突き止め、榊原に関わっていた人間は排除すると上層部が決定を下したので早急に手を打つ事に決めHUNTERに依頼してきた。

 忠臣は自分がやっても良かったのだが、前もって伊織から『江南家関連の依頼があれば全て自分が受けたい』と言われていたので迷うこと無く彼に託したのだ。

 しかし、そうとは知らない円香は複雑な思いと不安で落ち着かない時間を過ごしていた。
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